SOREMA -それ、魔!- 64

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SOREMA -それ、魔!- 64

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 


第514話 「モヨ」

 


回想──────

 


《温の街 / とある公園》

 


温は、寂れた公園で、木の枝をもって素振りをしていた。

 


そこへ、ボロ着に身を包んだおばあちゃんが話しかける。名前をモヨ(茂世)と言った。

 


モヨ「元気だねぇ...」

温「!」

 


モヨ「剣道の稽古かい?」

温「あ、ええ。まぁ」

モヨ「こんな時間だけど、学校には行かないのかい?」

温「学校には行ってないです。今もアルバイトの休憩時間なんで」

モヨ「そうなの。こんなに若いのに、偉いねぇ。学校では学べないものも、あるからねぇ」

温「はい...」

モヨ「そんな堅苦しくなくていいのよ?おばあちゃん、お話したいだけだから」

温「...うん」

 


モヨ「剣道、すきなの?」

温「中学の時部活でやってたんだ。道着とか顧問が全部貸してくれたんだ」

モヨ「そうなのぉ。凄い上手だと思うわぁ。おばあちゃん剣道あんまり分からないけど」

温「ありがとう。昔、大会で優勝したこともあるんだ。剣道には少し自信がある」

モヨ「あら、そうなの。すごいわねぇ」

温「いつか、大事な人に何かあった時、守れるようにと思って」

温は木の枝を握って見つめる。

モヨ「まぁ...素敵だわぁ」

 


温「そろそろ時間だ、行かないと」

モヨ「あぁちょっとまって、君、お名前は?」

温「ゆたかです」

モヨ「ゆたかちゃん。覚えておくわ。また会いましょう」

 


この日以来、2人はよく公園で顔を合わせることになる。

 


温「おばあちゃんは、いつも何してるの?」

モヨ「私もお金がないからねぇ...その日暮らしよ」

温「そうなんだ」

モヨ「ゆたかちゃんは、毎日毎日働いて、お金持ちなのかな?」

温「...」

モヨ「あら、ちょっといけないこときいちゃったかしら?」

温「ううん。貯金してるんだ」

モヨ「貯金?」

温「うち、貧乏でさ。お姉ちゃんもいて。いつか2人で、幸せに暮らしたいんだ」

モヨ「そうなの。お姉さんのために、偉いねぇ」

温「ありがとう。お姉ちゃんのためなら頑張れる。明日もその先もずっとバイトだけど、お姉ちゃんの為を思えば、楽勝だよ」

モヨ「ゆたかちゃんは、心が綺麗なんだねぇ」

温「もちろん、俺のためでもある。2人の為に、俺は頑張るんだ!」

モヨ「素敵な子だねぇ。旦那さんにもらいたいくらいだわぁ...!」

温「や、やめてくれよ。照れる」

 


モヨ「ゆたかちゃん、たまには贅沢したいとか、思ったりしない?」

温「...いつかはね。でも、まだ先だよ」

モヨ「言う贅沢はタダよ?棚ぼたで叶っちゃうこともあるしねぇ」

 


温は少し考えた。

 


温「...蟹」

モヨ「かに?」

温「スーパーに、誰が買うか分からないくらい高い蟹があるだろ?あれをたらふく食いたい。姉ちゃんとこの街を出る時、あの蟹を自慢げに買って、新しい家で姉ちゃんと蟹鍋するんだ。二人で鍋をつつきながら、お互いの夢を語り合いたい...なんてね」

温が横を見ると、モヨは涙をハンカチで拭きながら話を聞いていた。

温「おばあちゃん?何泣いてんだよ」

モヨ「いやね、歳をとると、ゆたかちゃんもこうなるのよ?」

温「...あははは」

 

 

 

 

 

 

 


第515話 「もういいの」

 


《温の家》

 


温は、朝日が昇る頃、体に痣をつくって家路に着く。

奥の部屋からは大人二人の寝息が聞こえる。

 


温は家の鍵を明け、自室に戻る。

優子「温...?」

 


優子の部屋から声が聞こえたので、温は襖を開ける。

 


優子「温...こんな時間まで、大丈夫?」

部屋には青みがかった朝日の光が差す。

温「お姉ちゃんも...まだ寝てていい時間でしょ?」

温は、声を殺しながら、優しく答える。

優子「その傷...なにしてたの?」

温「俺、新しい夜勤のバイト始めたんだよ...!ちょっと体力勝負だけど、自信あるから大丈夫!給料も良いし!これなら15万に届くから、安心してね」

優子「...」

温「お姉ちゃん...?」

優子「温...ありがとうね」

温「?」

優子「もういいよ?」

温「...え?」

 


優子「もういいの...温」

 

 

 

翌日──────

 


温は、茶封筒を持って家路につく。

今晩、キキと戸倉は外出中。

温は15万から零れた端金でコンビニのシュークリームを2つ購入して帰る。

 


温「ただいまー」

 


温は荷物を置き、手を動かしながら、優子の部屋の襖に向かって話しかける。

 


温「今日給料もらったんだ。15万。全部合わせてしっかり稼げた!ちょっと余ったからシュークリーム買ってきたよ!お姉ちゃんも好きなやつ。ほら二人で食べよ!」

 


温が、シュークリームが2つ入ったレジ袋を持って、襖を開ける。

温「開けるよ!姉ちゃん!」

 

 

 

 

 

 

温は、襖を開けた途端、手に持っていたビニール袋を落とした。

 


優子は首を吊って死んでいた。

 

 

 

温「...!!!!」

 


温は、すぐにロープを切り落とし、優子を抱きかかえた。地面には、椅子などが横に倒されて散乱している。

 


温「お姉ちゃん...!!!お姉ちゃん!!!!返事してくれ!!!お姉ちゃん!!!!」

 


温は、携帯電話も持たされていないため、119番を呼ぶすべもなく、団地のドアをいくつかノックしたが、返答はどこもなかった。

 


温は焦って姉の部屋に戻り、そこで姉の書いたメモを見つける。

 


”温へ 幸せになってね”

 

 

 

温は冷たくなった姉の頬に涙を零す。

 


温「なんで...なんでだよ!!守るって...俺が姉ちゃんを守るって言ったじゃないか...!!どうして守らせてくれないんだよ...!!!」

優子からの返答はない。

 


温「...ごめん...お姉ちゃんも、辛かったよね...痛かったよね...俺の事心配だったのかな...?でも俺のこの傷なんて...お姉ちゃんの痛みに比べれば、何ともなかったんだよ!!!俺は...ただ、お姉ちゃんと幸せになりたくて...」

 


優子の顔は微動だにせず、温の悲痛な叫びだけが、狭い部屋に響く。

 


温「なんで...お姉ちゃんは...死ぬべき人じゃない...!!」

 


その時、外から救急車のサイレン音がした。

 


温「...!救急車!」

 


温は、優子を寝かせて、部屋を飛び出し、音の鳴る方へ駆けた!

 

 

 

 

 

 

 


第516話 「もういい」

 


《温の街 / スーパー前》

 


スーパーの前には救急車とパトカーが数台止まっていた。そして人だかりが出来ていた。

 


ザワザワ...

 


温「すみません!!うちに来てください!!人が!!大変なんです!!!」

 


温は救急隊員達のいる所へ近づこうとするが、上手く近づけない。

 


温は、人だかりを掻き分け、黄色いテープをくぐり抜けて何とか救急隊員の元へと辿り着く。

 


温「すみません!姉ちゃんが!大変なんです!!」

隊員「こら君、勝手に入った来たら危ないじゃないか!下がって!」

温「き、きいてください!家で人が...!」

隊員「ちょっと担架通るから、危ないよ!」

 


温の目の前を複数の隊員と共に、担架が通った。

その時、温は驚きの光景を目の当たりにする。

 


担架で運ばれていたのは、モヨだったのだ。

 


温「...!おばあちゃん?!」

 


モヨは顔面に大きな痣をつくっていた。モヨは、担架に運ばれ、救急車の閉じた扉の向こう側に行ってしまった。

 


温は動転し、何をすればいいか分からなくなり、ただ呆然とした。

 


通行人A「あのおばちゃん、どうしたの?」

通行人B「ほらこのスーパーって元締めがヤバいって言うじゃん?

A「あー、漢州会の奴らか」

B「あーそうそう。そいつらと揉めたんだと」

A「揉めた?なんで」

B「いわゆる”万引き”よ。話に聞く限り、蟹を万引きしようとしてたらしい」

A「蟹?!」

 


温「!!!」

 


B「あぁ。それがバレて、泣きついた結果、あぁなっちまったんだと」

A「なるほどな。万引きは悪いが、なにもあそこまでするこたぁないだろ」

B「まぁでも、敵に回したのは自業自得だろ。おばちゃんもアホよな〜」

A「残念だが、この街ではよくある事だな。運が悪かったとしか言えん」

 


温「...おばあちゃん...?まさか...?!」

 

 

 

 

 

 

後日、モヨは死んだ。

 


モヨは、蟹をスーパーから盗もうとした結果、店員にバレ、元締めのヤクザ数名に暴行を加えられ、病院に搬送後数日で息を引き取った。

ヤクザらは暴行罪で現行犯逮捕。後日殺人罪に罪名変更となった。

 


目撃者によると、モヨは犯行直後、泣いて詫びた様だったが、暴力はエスカレートしていったらしい。

モヨには万引き含む犯罪の前科は全くなかった。

 

 

 

温は、自暴自棄になり、虚ろな表情でアーケード街を歩く。

 


温「俺は...なんの為に...」

 


バコォン

 


温の肩が男とぶつかる。

 


温「...」

男「おいゴラァ。当たってんだけど」

温「...」

温は無視して前を歩く。

 


男「おいコラ!コラ!!」

 


男の声は遠ざかっていく。

 


男「大丈夫か?あいつ。けっ」

 


温「...」

 


温はフラフラと歩く。

 


温「なんで...優しい人が死なないといけない...?誰かの為に生きれる人が死なないといけない...?!」

 

 

 

その時、温の目にある文字が飛び込んでくる。ビルの2階のガラス窓に書かれた文字を見上げる。

 


”漢州会事務所”

 


温「...」

 


温は足を止める。

 


温「...もういいや」

 


ダダダダダッ...!!!

 


温は、雑居ビルの狭い階段を駆け上がる...!

 

 

 

 

 

 

 


第517話 「ダザイ」

 


《漢州会事務所》

 


事務所は暗くなっている。

中では寝泊まりしているのか、下っ端と思われるヤクザが寝転がっていた。

 


バリィン!!!

 


温はドアを破壊し、中へ入る。

 


レザーのソファの後ろの壁にかかった1本の日本刀を奪う!

 


その時、部屋の明かりがつき、下っ端らが起き上がった!

 


ヤクザ「なんだ?!こんな時間に!!」

ヤクザ「おい、このガキだれじゃ」

ヤクザ「とっととぶっ殺せ!!」

温「...」

 


温は剣を構える。

 


ヤクザ「ガキがポン刀持った所で怖くないわァ!」

ヤクザらは、スーツの内側から和包丁の様な物を取り出した!

 


ヤクザ「いけぇ!」

温「...!!!」

 


ズバッ!!!

 


ヤクザの1人が、温に斬られた。

 


ヤクザ「...!」

ヤクザ「日和るな!ぶっ殺せ!」

 


ヤクザらが温に迫る!!

 


ズバッ!グサッ!ブシャッ!スパッ!グシャッ!ザバッ!バサッ!

 


温は、その場にいたヤクザを全員斬り殺した。

 


すると、後から数人のヤクザが事務所にやって来て、入口付近で発砲し出した!

温は椅子を盾に身を防ぎ、その後は片手で死んだヤクザの1人を持ち上げそいつを盾に突き進んだ。

 


ヤクザ「構うな!撃ち殺すぞ!」

ヤクザらは、盾となったヤクザ諸共温を打ち殺そうとしたが、弾は盾ヤクザを貫通することはなく、温は、盾ヤクザを、銃を持つヤクザら目掛けて蹴り飛ばし、重なった所を日本刀で串刺しにした。

 


階段を上がってこようとしたヤクザも全員蹴り飛ばし、奪った拳銃で全員射殺した。

 


温は刀を持ったまま逃走し、2人がよく通っていたピンクのネオンが妖しく光るホテルの前で、キキと戸倉を惨殺した。

 


温「...」

 


温は途方に暮れ、遠くの街へと足を進めた。

 


人目を避けて歩いていると、目の前に本が落ちてくる。

 


バサッ...

 


温「...」

 


温が上を見上げると、電灯の上に白鶯が座っていた。

 


温「...?」

白鶯「お前に話がある」

 


白鶯は電灯から降り、温に接触する。

 


白鶯「お前、その血みどろな格好でどうするつもりだ、警察にでも出頭する気か?」

温「誰だ?」

白鶯「私はシェイクスピア。お前に用があって来た」

温「...邪魔するなら殺すぞ」

白鶯「殺したいか。いいだろう。ならばまずはこの心臓を刺してみるといい」

温「...」

すると、白鶯は、温の日本刀を持つ手を握り、自らの左胸に突き刺した。

温「...!!」

白鶯「構うな...よく見ておくがよい」グリグリィ...

温「...!!!」

 


白鶯「俺は死なない」

温「...!(心臓を一突き...でも死なない...なんで?)」

白鶯「これは魔法だ」

温「...魔法?」

 


白鶯は日本刀を引き抜き言う。

 


白鶯「俺は魔法の力で不死身の人間となった。そこに落ちている本と同じようなものによってな。お前にも魔法を与えよう」

温「...?」

白鶯「その魔法の力を手にし、俺に協力しろ。そうすれば、いずれお前にも俺と同じ不死の力を与えてやる」

温「...協力?」

白鶯「あぁ。俺はこの魔法の力で、この世界の秩序を破壊する。魔法全盛の未来を作るのさ」

温「...なんだそれ」

白鶯「この世界は実にくだらない。ゴミみたいな世界だとは思わんか」

温「...」

 


白鶯「破壊したいと思わないか?この腐った世界を...!」

温「...!」

白鶯「その本を手にとれ。お前にも新たなる力を与えてくれる筈だ。その力があれば、何も怖くない。お前を縛るものは何一つ無くなる」

温「...!!」

白鶯「もう何も失わずに済む」

温「!!!!!」

 


白鶯「ダザイ。今日からお前をそう呼ぼう。ようこそ。ノベルへ...!」

 

 

 

回想終

 

 

 

《魔導結界・蝕》

 


ダザイ「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 


ダザイは剣を振りながら、一善に斬り掛かる!!

 


一善「!!!」

 

 

 

 

 

 

 


第518話 「剣」

 


《魔導結界・蝕》

 


キィン!カァン!キィン!カァン!

ブシャッ!グサッ!

 


一善とダザイは高速で剣をぶつけ合う!

 


一善は押され、ダザイに傷一つ付けられない!!

 


一善「...(くそ...!全部攻撃が読まれてる...!)」

ダザイは一心不乱に剣を振り続ける!

ダザイ「”朱雀の構え”...!!!」

 


ブゥウォン!!

 


ダザイが大きく剣を振ると同時に、一善は後ろへ飛ぶ!

 


ダザイ「...読めてる!」

 


ダザイは後ろへ飛んだ一善に斬り掛かる!

 


ダザイ「終わりだぁ!」

ヒメ「させない...!」

 


ヒメは、小さな拳銃型の魔具を取りだし、ダザイに放った!

 


スコーーーーン!!!

 


弾はダザイの脳を貫通し、ダザイはバランスを崩し地面に倒れた!

一善「今だ...!」

一善はゲッターを着けた手をダザイに伸ばす!

ダザイ「...!」

ダザイは剣を一善に投げつけ、その隙に体勢を整えた!

ヒメ「...(頭の傷が治ってる...人間かと思ってたけど...彼も魔者なのね)」

 


ダザイは投げた剣を拾い、一善らに再び襲いかかる!

一善とダザイは高速で斬り合うも、一善にだけ傷が増えていく。

 


キィン!シュッ!ズバッ!!シャキッ!カァン!バサッ!

 


ヒメ「...(間合いに入れない...それに誤射する可能性もあるから安易に弾を打てない...お願い...早く来て...!)」

 


一善は血塗れになり、エレメントの剣を地につく。

ダザイも肩で息をし、魔法の使用で消耗が激しい。

 


一善「ハァ...(エレメントも枯渇しそうだ...でもこのままやってたら勝てない...!考えろ...考えるんだ...!)」

ダザイ「相手が悪かったな。魔法使いよ」

一善「...」

ダザイ「俺は全てを破壊する。この世界など、どうだっていいから」

一善「...お前は間違ってる」

ダザイ「?」

 


一善「一番強い剣って、なんだかわかるか?」

ダザイ「...?」

一善「大切なものに傷一つつけさせない剣。それが一番強い剣だよ」

ダザイ「...」

一善「そしてそれは、日本刀でも、魔法の剣でもない...!」

ダザイ「...?」

一善「守りたいっていう意思だよ」

ダザイ「!!」

 


一善「一番強い剣は、誰かに振り回すものでは無い。ずっと心の中の鞘にしまっておく物なんだ。悪意に塗れて、刃こぼれしないように...!」

ダザイ「!!!」

一善「全てどうでもいい?破壊することしか眼中にないお前は、いつか必ず思い知ることになる。己の弱さを。そして本当の強さの前に足が竦むだろう」

ダザイ「.........」

 


ドクン!

 


ダザイの脳裏に、過去の記憶がフラッシュバックする。

 


一善はヒメの前に立ち、ダザイに再び語りかける。

 


一善「俺はこの身がどうなろうとも、家族を守る。お前に勝てなくても、傷一つつけられなくても、妹は守る」

ダザイ「...!」

一善「俺は信じてる。明るい未来を。俺がここで負けても、お前達に明日はない」

ダザイ「...」

ヒメ「でも、これ以上戦ったら!」

一善「ハァ...俺は絶対に負けない。ヒメに手を出させたら、俺の負けだ」

ヒメ「...?」

一善「俺が死んでも、俺は負けない」

ヒメ「一善!」

 


一善「とはいえ、勝つのを諦めたわけじゃない...!」

一善は体のマヂカラを全て振り絞る!

ヒメ「もうやめてよ!」

ダザイ「...」

一善「...(ルカさんにはいざと言う時までとっておけと言われたけど...もう”アレ”を使うしかない...!)」

一善「行くぞ、剣を構えろ...!」

ダザイ「!!」

 


一善「うぉぉぉぉ!!!”運”!!!!」

ダザイ「!!!」

 


その時!

 


???「ふーん。かっこいいねぇ」

 


一善「?!」

ダザイ「?!」

 


ヒメ「!!」

 

 

 

粟生屋「結界、開きっぱだったけど、大丈夫そ?」

 


ヒメ「...!(来た!)」

 

 

 

 

 

 

 


第519話 「斜陽」

 


《魔導結界・蝕》

 


一善「あ...粟生屋...さん...」

 


バタッ

 


一善は気を失った。一善が倒れそうになった所を、粟生屋が腕で受け止めた。

一善は気を失った。

 


粟生屋「妹ちゃん。軽く状況説明と彼の治療」

ヒメ「あ...はい!」

ヒメは粟生屋の裏で一善に治療を施しながら続ける。

 


粟生屋「なるほど...予知の書かな?だとしたら僕のより数字が大きいことになるねぇ」

ヒメ「は、はぁ...」

粟生屋「まぁ、だいたいわかったよ。ありがとう」

ヒメ「はい...!」

粟生屋「少し派手にやっちゃうから、離れてて...!」

ヒメ「!」

ヒメは一善をかかえて少し離れる!

 


ダザイ「...何者だ」

粟生屋「ん?走馬灯の中で思い出そうとでも?」

ダザイ「...!」イラッ

粟生屋「ふっ。冗談冗談」

 


粟生屋は手のひらを重ね合わせる。

 


粟生屋「僕も”旧友”に会いにいかなくちゃだからねぇ。手短にやっちゃうよ」

ダザイ「...!」

 


ヒメ「粟生屋さん気をつけて!相手は何をしてくる全部読んできます!」

ダザイ「...」

粟生屋「ふっ...読んだところで...」

 


ダザイ「!!!!!」

 


ゴゴゴゴゴゴゴ...!!!!

 

 

 

粟生屋「何ができるってんだよ」

 

 

 

ズズズズズズ...!!!

 


ダザイ「!!!」

ダザイは、強い重力波により、その場から動けない!!!

ダザイ「...!(何だ...!上から押しつぶされる様な...!!まずい...!!)」ズズズズズズ!!

 


粟生屋は人差し指にマヂカラを貯める!

 


ダザイ「...!!(あれを受けたら!!)」

 


粟生屋「虚重弾!!!!」

 


ズドォォォォォォォンン!!!!!!

 


粟生屋の放った虚重弾は、結界内の敷地を大きく抉りとった!

 


粟生屋「あれ、これ外とリンクしてないよね?駅舎壊しちゃったけど...ま、いっか」

 


ダザイ「...(読めてはいるが...対処法が分からん!!なら肉弾勝負で決めるしか...!)」

 


ダザイは粟生屋の裏に瞬間移動し、刀を粟生屋の首に振り落とす!!!

 


ダザイ「終わりだァ!!!!”極技 麒麟”!!」

粟生屋「ふっ」

 

 

 

グニャッ...!!

 


ダザイの剣はぐにゃぐにゃになった。

ダザイ「!!!」

粟生屋「怠ったな」

 


粟生屋はダザイを重力波によって吹き飛ばした!!

ダザイはビルを何棟も突き破って吹き飛ばされる!!

 


粟生屋「おいおい。時間が無いって言ってるでしょ。そんな遠くいかないでよ。って、僕が飛ばしたんだっけか」

ダザイは瓦礫の下で疼いている。

粟生屋「ま、呼ぶからいいけど」

 


粟生屋が虚空を足で蹴ると、空間に切れ目が生まれた!すると数百メートル先からダザイが吸い込まれるように粟生屋の元へやってくる!!

 


粟生屋「Air-G...!」

ダザイ「...!!吸い込まれる!!」

ダザイが粟生屋の数センチまで迫る!!

ダザイ「!!!!」

粟生屋「はい。ベクトルチェンジ」

粟生屋が指を下に向けると、ダザイは顔面から地面に激突した!!!!

 


ドゴッッッッッッッ!!!!

 


粟生屋「ふぅ...大したことないね」

そこで、粟生屋が何かに気がつく。

粟生屋「お。じゃあ後はよろしく〜」

 


それは、一善の気配だった。一善はヒメの治療で回復し、背中から地面に倒れたダザイに攻撃を仕掛ける!

 


一善「緑のエレメント...!!斜陽...!!」

 


ドボッ...!!

 


一善は、魔導書ゲッターを背中に突っ込み、魔導書を取り出す!

 


バサッ...!!!

 

 

 

 

 

 

 


第520話 「握手」

 


《東京駅・丸の内駅前広場》

 

 

 

戦闘後。

 

 

 

一善ら3人は、魔導書を囲み座っている。

 


粟生屋「僕はそろそろ行かないといけない。お友達が待ってるからね」

一善「ハァ...お友達...?」

粟生屋「白鶯さ。あいつが現れたらしい...」

一善「...!じゃあ僕も...行かないと...」

粟生屋「後でこい。今の君が来ても戦力外だ。少し傷を癒してからにしろ」

一善「...」

粟生屋「ま、君が来る前にもう僕たちが倒しちゃってるかもねぇ」

一善「...」

 


ヒメ「白鶯が...皆は無事なのかな」

粟生屋「白鶯が現れてからか、無線の通りがおかしい。千巣の妹らがちゃんと機能できてるかどうかも分からない」

ヒメ「携帯も繋がらないし...どうしよう」

粟生屋「向こうを見たまえ」

粟生屋は、皇居方面を指さす。

粟生屋「あれは恐らく、僕たちの誰かが使った※七色玉だろう。あれを目安にすれば問題ない」

※煙玉のようなもの。21巻等参照。

ヒメ「でも、白鶯以外の結界は?」

粟生屋「もうここで最後だ。後は白鶯だけ倒せば、ゲームセット」

一善「それなら...もう少しで...!」

粟生屋「だが、こちらの犠牲も少なからずある。中には連絡が取れずじまいの人もいるし」

ヒメ「それって...」

 


粟生屋「まず、越前莉茉が死んだ」

 


ヒメ「...!」

一善「...!」

ヒメ「莉茉さん...そんな...」

 


粟生屋「僕はギリギリまで結界の外にいたから、無線が途切れる直前の情報まで分かってる。でも、確定している犠牲は彼女だけだ」

ヒメ「...」

一善「莉茉さん...」

 


粟生屋「死者を弔うのは後だ。まずは己の治癒を先決に。街の魔者の被害も今はないから、ひとまずここで落ち着くんだ。体勢が整い次第、煙を追って白鶯に会いに来い。いいね」

一善「...分かりました」

粟生屋「じゃあ、僕は行くよ」

 


一善「...粟生屋さん」

粟生屋「...ん?」

一善「少し待ってください」

粟生屋「何?」

 


一善「僕は、自分の正しいと思ったこと...善いと思った事を信じて行動しています」

粟生屋「うん」

一善「でも、あくまでそれは、僕が信じる善いことです。本当に正しいかどうかは分からない」

粟生屋「...」

一善「僕の正しさが、誰かを傷つけるかもしれない」

粟生屋「...何が言いたいの?僕もほら、急がないと」

 


一善「...これから、人を殺しに行きます」

粟生屋「白鶯?」

一善「はい」

粟生屋「...それで?」

 


一善「僕が善人の道を外れた時は、粟生屋さんが僕を止めてください」

 


粟生屋「...なんで僕に頼むのかな」

一善「多分僕の仲間達は、僕に同情してくれます。多分、僕を止められない」

粟生屋「...」

一善「僕もきっと、逆の立場ならそうなってしまう」

粟生屋「...」

一善「だから、一番冷静に物を考えられる人に頼みたいんです」

粟生屋「...ふーん」

 


一善「僕は白鶯を殺す。復讐、約束...そこにはそんな簡単な言葉じゃ片付けられない程の意味があるから」

粟生屋「...」

一善「後から追いかけます。だから改めて、手を貸してください」

 


粟生屋「限りなく自己中心的だね、君は」

一善「...」

粟生屋「でも、いいよ。その末路を僕は見たくなった。手を貸そう。せいぜい、ハッピーエンドになることを願ってるよ」

一善「...はい」

 


ヒュンッ!!!!

 

 

 

粟生屋は、遠くへ消えていった。

 


ヒメ「...」

一善「...」

 


ヒメと一善は、治療を続ける。

 


ヒメは、ダザイから奪った魔導書を手に取った。

 


ヒメ「あの人...なんでノベルに入ったんだろう」

一善「?」

ヒメ「百目鬼君だって、元々はノベルに入ってたじゃない?なんか、彼も事情があったんじゃないかって」

一善「...」

ヒメ「私には手を出さなかったし...なによりも、魔導師なのにどこか悲しい眼をしてた」

一善「...」

ヒメは一善の胸に手を当てながら、魔導書を伝って、ダザイの記憶の断片を読む。

 


〜〜〜

 


ヒメ「...」

一善「...」

 


ヒメ「そんなことが...」

一善「...」

 


すると、一善からつのキングが飛び出でる!

 


ボワンッ!

 


一善「つのキング?!」

ヒメ「...?!」

つのキング「ウォーーーーーー!!!」

つのキングは、背中に乗れと言わんばかりに羽を羽ばたかせた。

 


ヒメ「一善、大丈夫なの?」

一善「う、うん。もう割と回復したけど...」

つのキング「ウォーーーーーー!!!」

つのキングはいつにもまして燃えている。

 


一善「そうか...君も倒したいんだね」

つのキング「ウォーーーーーー!!!」

 


カァァァァァ!!!!

 


一善はイメージの世界に引き込まれる!!!

 


そこには、和義の姿になったつのキングがいた。

 


和義「一善」

一善「...!つのキング!」

和義「これが、最後の戦いになる。準備はいいか」

一善「...うん」

和義「行こう。油木一善...!」

 


2人は握手を交わした。

 


そして、一善とヒメはつのキングに跨り、白鶯の元へ向かう!

 

 

 

 

 

 

次回、最終決戦、遂に幕を開ける...!!!!