其魔外伝 追憶の華 急

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其魔外伝 追憶の華 急

 

前回のあらすじ


謎の人物・Mから、理子の元に届いた写真と手紙。写真によると、北海道で魔者の被害が出たという。

真偽を調査するべく理子はルカと千巣を連れ、北の大地・北海道へと向かう。

空港で出会った青年・廻桜志郎に富良野まで案内されるも、魔導師からの襲撃を受ける。

そしてMの正体は廻であったことを知る。廻は父親の真実を知る為に魔裁組と共にイムカ率いる魔導師軍団を倒そうとしていたのだ。そして姿を表したイムカとその仲間。廻・シャックスvsイムカ軍団の戦いが幕を開ける!

 


 

 

《夜 / 花畑》

イムカは仲間に話しかける。

イムカ「殺しちゃダメよ。皆生け捕りにして。彼ら、能力が使えるみたいだから、僕のストックにするわ」

エラバリ「承知」

カエル「げろげろ」


理子「皆、準備できてる?」

粟生屋「いつでもどうぞ」

ルカ「もちろん」

唯「なんか緊張するぅ」

千巣「...」

廻「よし...!」


イムカ「では」


ヒュン!!!


イムカが廻に迫る...!!

イムカ「勝負だ。桜志郎」

廻は、鎖で応戦する!!


廻「こいつは僕がやるから!」

千巣「...いいんだな」

理子「大丈夫。私たちの相手はあいつらよ」


遠くのエラバリ達を見る。


理子「脇役は脇役らしく、とっとと終わらせましょう」

ルカ「ふん」

 


ヒュン!!!

 

────


《粟生屋 vs エラバリ》


エラバリ「...まさか、我々以外にも異能な人間がいるとはな」

粟生屋「東京にはもっといるよ。まぁでも僕達は、その中でも...」ゴゴゴゴ...!!

エラバリ「?」


轟音が辺りに響き渡る...!


粟生屋「上澄み中の上澄み、だけどね」


エラバリの頭上に巨大な隕石が降り注ぐ...!!!


エラバリ「...!は?!」

 

 

ドォォォォォンン!!!!

 

 

────

 

《ルカ・唯 vs ライ子・レフ子》


ライ子「氷つけ!!!」


キィィィン!!!


ライ子は、氷の塊をルカに放つ。

唯「氷...!ルカルカ!」

ルカは攻撃を手の甲で軽く払い除ける。


ライ子「...?不発?」

ルカ「不発じゃないわ。上手上手。ほら、もう1回やってみなさい」

レフ子「じゃあ私も!さっきイムカ様から貰った力を試す!!」

 

ボワッ!!!


レフ子は手に火の玉を作った。

レフ子「焦げろ!!!」

 


ドッカーーーーン!!!

 


ライ子「すごい威力...!レフ子!やったね!」

レフ子「うん!これでライ子に追いつける!」


ルカ達は煙に包まれている。

ライ子「あの人達、死んだかな?」

レフ子「多分ね」


煙が消えると、そこにルカが1人で立っていた。


ライ子「あれ...生きてる...?」

レフ子「そんな...でも、もう一人は?」

ライ子「な、なるほど、一人は死んだんだ!じゃあ次はアンタだけね!そうなのね!」

レフ子「ならもう一回...!」

 

 

ルカ「ぬるい」

 

 

バサァァッ...

ライ子「!」

レフ子「!」


その瞬間、羽を生やした唯がライ子とレフ子の裏側に回り込んでいた。


ライ子「...!」

レフ子「何が起きたの...?」

 

唯は、ライ子とレフ子の後頭部に手を添える。

唯「せっかく可愛いんだから、ついていく人、間違えたらダメだよ」

 

ドカッ

 

────

 

《千巣 vs カエル》


カエル「げろげろ。びよーーーん」

カエルは、体の一部を伸ばして、千巣と戦う。

千巣は、カエルの攻撃を避け続ける。

カエル「逃げてばっかじゃん!げろげろ」ビヨーン!

千巣「ちっ!舌伸ばすな!キモイから」

カエル「げろげろ!」ビヨーン!


千巣は、カエルから遠ざかりながら、攻撃を避け続ける。


カエル「なぁんだ。たいしたことねえな」ビヨーン!

千巣「...(こいつを倒して廻の所に行かねぇと...イムカだったか?あいつはオーラがちげえ。強そうだ...でも...)」

 

カエル「びよーーーん」

 

千巣「(子供を倒すのは何か心が痛む...!)」

 

────

 

《理子 vs ローズ》


ローズ「お手並み拝見といきましょうか」

理子「こちらこそ」


ローズは細い剣を振り回しながら、理子に斬り掛かる!!

理子は、それをスピーディーに躱す!

ローズ「中々やるわね!」

理子は剣を出し、ローズの背中を斬りつける!

理子「隙あり!」


キィィン!!!

 

理子が斬ったはずのローズの背中は、出血ひとつしなかった!

理子「...(硬い)」

ローズ「あなたこそ、隙あり!!」

ローズは理子の顔目掛けて突きを繰り出す!

理子は後ろに仰け反って避ける!

そのまま理子はしゃがみ、ローズの足首に剣を振る!


キィィン!

ローズの足首は斬れていない!


ローズ「ふふっ」

ドォン!

ローズは、理子を蹴り飛ばす!


理子は、受身を取る。


理子「...なるほど」

ローズ「イムカ様から授かった力で私はこの鋼鉄のボディを手に入れた。傷一つつけられやしないわ...!」

理子「...(硬化系の能力か...それならこちらが受ける攻撃に注意すれば問題ない...!)」

理子は笑みを浮かべる。


ローズ「?何かおかしいかしら?」

理子「いや、なんでも?」

ローズ「感じ悪。まぁいいわ。切り刻んであげる。この鋼の剣でね」

理子「かかってきなさいよ」

 

 

 

 

 

 

 


 


《廻 vs イムカ》


イムカは鎌をぶん回し、廻は鎖で繋がれたヌンチャク型の魔具で戦う。


2人は、素早く攻撃を仕掛け合う!


カァン!キィン!カァン!ドン!シュッ!キィン!


イムカ「面白い武器ね」

廻「面白がってる場合じゃないぞ」


ガァン!


廻が、ヌンチャクでイムカの顎をアッパーカットした!

その瞬間廻は、鎖でイムカを縛り付ける!


廻「蜷局縛・裁(とぐろしばり・さい)!!」

廻は、鎖を両方向に思い切り引き、摩擦でイムカを切り裂く!!


イムカ「...!!!」ブシャァ!!!

廻「うぉぉぉぉ!」

ドォン!!

廻は、イムカの腹部にドロップキックを食らわせる!!


イムカは吹き飛んだ!


廻「ハァ...ハァ...」

廻は肩で息をする。


すると、”音”の衝撃波が、廻を襲う!

廻「...!」

廻は、ヌンチャクで攻撃を弾いた。

廻が前方を確認すると、イムカと共に、魔者が一体立っていた。


イムカ「新しいオモチャ。どう?」

イムカは、一本の木に、かつてスキンが持っていた”鳴動の書”の能力を与え、魔者化したのだ。


イムカ「壊れるまで戦っておいで」

魔者「ボクボク...」

廻「...そうやって人々を襲わせて、一体何がしたいんだ!!」

イムカ「襲わせた?人聞きが悪いね。僕はただオモチャで遊んでただけさ。後のことはオモチャが”勝手に”したことだよ」

廻「...!」

イムカ「僕は寂しいんだよ。だから友達が欲しい。オモチャが欲しい。それだけ」

廻「貴様...!」


イムカ「馬鹿や弱者がそれによってどうなろうが、どうだっていい」

廻「...!」

イムカ「僕には、僕をわかってくれる人が居れば他に何も要らない。僕を理解しない存在はゴミ同然さ」

廻「許せない...!お前はここにいちゃいけない。僕が必ずここで倒す」

イムカ「やってみなよ。やれるもんならね」


ピクッ


その時、イムカの動きが一瞬止まる。

イムカ「...!」

 

────

 

《唯・ルカ vs ライ子・レフ子》


ライ子とレフ子は、頭にげんこつを作って気絶している。


唯「この子達も、普通に生きていたら、違う生き方が出来てたのかな。そう考えると、少し可哀想」

ルカ「人の命をなんとも思ってない連中にホイホイついて行く馬鹿女じゃない。ほっときな」

唯「でも...この子達の過去にどんなことがあったかとか、分からないじゃん。酷い目にあってたりしたら、責められないよ」


すると、ルカは諭すように唯に言う。


ルカ「私は、被害にあった周りの人の事を考えたら、そんなことは思えない」


唯「...!」

ルカ「どんな理由があっても、無関係の人の命を奪っていいはずがない。ま、やられた分にはやり返すのは私はいいと思うけど」

唯「ルカルカ...そうだね。ルカの言う通りだよ」

唯は肩を落とす。


ルカは唯の肩に手を置き目を見て話す。

ルカ「でも唯のその優しさは、唯のいい所。誰も味方をしない人の味方になってあげられる。そんな人、ほっとんどいないから」

唯「ルカルカ...」

ルカ「この子達はしばらく目を覚まさないだろうし、ほっといてとりあえず廻の所へいきましょ」

唯「...そうだね!」

 

────

 

《廻 vs イムカ》


イムカ「ライ子とレフ子がやられたか」

廻「...?」

イムカの身体に、ライ子とレフ子に与えていた能力が再ストックされる。


イムカ「厄介なことになる前に...ここはアレを使って...!」

廻「...?!」


するとイムカは、人差し指と中指を立てて、大きな声で唱える。

イムカ「”閉”!!!」

廻「...?」


ゴゴゴゴ...!!!


次の瞬間、イムカと廻の周りをドーム状の結界が包囲した!


廻「...?!これは?!」

イムカ「邪魔されないようにね。厄介な奴らが来る前に」

廻「結界術か...!」

イムカ「さぁ、2人きりで楽しみましょう!今度はもっと沢山のオモチャを使って...!」

ポンッ!ポンッ!


イムカは、炎と氷の魔者を繰り出した!

廻「...!(まずい...外からの侵入が出来なければ、僕一人でこいつらをまとめて相手しなければ..!)」

 

 

 


《千巣 vs カエル》


カエル「痛てぇ!痛てぇよぉ!げろげろ!」

千巣は、カエルを紐で縛りつけ、穴に埋めた。


千巣は、穴に落ちたカエルを見下ろしながら言う。

千巣「死にやしねえから勘弁しろ」

カエル「げろげろ!イムカ様!イムカさまぁ〜!」

千巣「ガキは大人しく家帰ってスマブラでもしてやがれ」


千巣は、廻の元へ急ぐ。


《粟生屋 vs エラバリ》


エラバリは、粟生屋の攻撃を受けて尚、白目を向いて戦っている。


エラバリ「フラ...フラ...!」ボォン!

粟生屋「こいつ...いつまで戦う気だよ!」

粟生屋はエラバリの攻撃を避ける。


エラバリは、手を龍の頭に変化させ、光線を放つ!


粟生屋は、攻撃を重力で逸らす!

粟生屋「その能力、やっぱ気に食わないねぇ!」

ドカッ!

粟生屋は、エラバリに蹴りを食らわす!何発も食らわせるが、エラバリは意識を失って尚立ち上がる!


粟生屋「ハァ...しつこい」

エラバリ「フラ...フラ...」

粟生屋「まぁいいよ。その根性は認めよう。だから少しだけ...」

エラバリ「...」

粟生屋「暴れさせて貰おうか...!」

エラバリは我を失って粟生屋に突進する...!


粟生屋は、右手首を左手で抑え、右手をエラバリに向けて捻る!


粟生屋「”狂渦(くるうず)”...!!!」


すると、エラバリが空間ごと反時計回りに捻れた!!!


エラバリ「...!!!」バキバキィ...!!!

粟生屋「残念ながら僕とお前とじゃあ」

エラバリ「!!!」バキバキバキィ...!!!

 


粟生屋「文字通り、格が違うんだよ」

 


エラバリ、KO。

 

────

 

《理子 vs ローズ》


ローズはひたすら攻める。理子は、ローズの攻撃を全て体をくねらせて受け流す!

ローズ「...(全然当たらない...!)」

理子「ふふっ」ヒュン!ヒュン!

ローズ「...あーもう!なんで当たらないのよ!」

ローズはやけくそになり、剣をがむしゃらにぶん回す!

理子はバク宙でローズの攻撃を躱す。


ローズ「ハァ...ハァ...ただのクソガキが...この私を舐めるなよ?私はイムカ様に力を認められた人間なんだ!私は、イムカ様の”友達”に選ばれた、類まれなる逸材なんだよ!」

理子「友達は選ばれてなるものじゃないよ」


ローズ「は?説教?さっきから避けてばっかりで、結局私の力に及ばないんでしょ?攻撃は私の鋼鉄のボディで弾かれるものね?」

理子「...」

ローズ「結局あんたは袋の鼠。いつまでも避けきれると思ったら大間違いよ。私の攻撃がヒットしたらゲームオーバー。あんたはもう詰んでる」

理子「...」

ローズ「とっとと逃げたら?イムカ様に謝るなら命くらいは見逃してやるわ」


理子「...はいはい」


ローズ「は?」

理子「あなた、こんな言葉があるの知ってる?」

ローズ「...?」

 

 


バ              シ             ュ            !

 

 


目にも見えない早さで、理子はローズを一刀両断した!!!

 


理子「”柔よく剛を制す”ってね」

 


ローズ、KO

 

────


《イムカの結界外》

 


ルカ、唯、千巣は、イムカが張った結界の外に集まっていた。

 


ルカ「...どうせこん中に廻達がいるんでしょ!ガンッ!とっととこじ開けて攻め込みましょ!ガンッ!」

ルカは、結界に攻撃を放つ。

唯と千巣も同時に攻撃を放つ。

 


千巣「息を合わせよう。せーのでこじ開けるぞ!」

唯「おっけー!」

ルカ「わかったわ」

千巣「せーの!」

 


ガァン!!!!

 


すると、結界が壊れた!

中ではイムカと廻が戦っていた。

 


廻「皆!」

唯「めぐりん!」

ルカ「行くわよ!」

イムカ「...ニヤッ」

ルカ達がイムカらに近づこうとした瞬間、イムカが召喚した魔者が数体、千巣らに襲いかかる!

そして、再び結界が降りてしまう。

 


千巣「魔者...!」

唯「めぐりーーん!!」

ルカ「ちっ!雑魚共は引っ込んでろ!!」

魔者「「「ギリヤァァォァ!!!」」」

 


千巣らと魔者らの戦闘が始まる!

 

 

 

 


《結界内》

 


廻「皆...!」

イムカ「よそ見はいけないね!」

ドォン!

廻はイムカに蹴り飛ばされ、魔者達が廻に追撃を食らわせる!

 


ドォォォン!

廻「...!!」グハッ!

 


廻は膝をつく。

 


イムカ「皆で僕の家族になってくれるなら、許してあげるけど。どうする?」

廻「...なるものか、お前のような奴の仲間になど!」

イムカ「何度でも言おう。私はお前の父親だ。お前を蔑ろにし、冷たく当たり、何の関心も寄せなかった、父だ」

廻「...!!」

イムカ「お前など興味もなかった。だが、ただの木偶の坊のお前を、私は今家族として迎えに来てやっているのだぞ?嬉しいだろう?嬉しいよね?」

廻「!!」

イムカ「独り身同士仲良くしよう。さぁ、桜志郎。君の力を貸してくれ」

 


廻「...お前は、父じゃない」

イムカ「...」

廻「お前のような外道が、僕の父親を語るな」

イムカ「...」

廻「僕の父は、少なくともお前が語るような人間では無い。いかなる理由があろうと、僕はお前を親だとは認めない...!」

イムカ「...!」


廻「僕が信じたいものは、僕が決める!!」

 

 

廻の四方から大量の鎖が廻を包囲する様に集まり、それらは大きな束になり、塊となった。その姿はまるで鉄人のように大きく、逞しい。

 


イムカ「これは...!なんという力...!やはりお前は僕の家族になるべきだ...!」

廻「お前に家族なんて居ない。一人で寂しく死んでいけ」

 


鎖の塊は、イムカに鉄槌を下す!

 


廻「うぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 


鎖の塊が、イムカを飲み込む!!!

廻「いっけぇぇぇぇ!!!!」

イムカ「...!!!」ドボッ!グハッ!ブシャッ!

 


ドォォォォォォォォォォォン!!!!!

 

〜〜〜

 

 

大きな地鳴りと共に、結界があがった。


廻「...」

廻は俯きながら立ち竦む。

 

 

 

 

廻が辺りを見渡すと、理子達5人が揃っていた。


廻は目の前に落ちている青い魔導書を拾い上げた。


理子「やったんだね」

廻「...うん」

唯「凄い!凄いよめぐりん!強そうなあいつを一人で!」

廻「...」


粟生屋「...(魔導書...あいつは魔導師ではなく、魔者だったということか?魔導師ならば、魔導書はどこか別の場所に現れる筈だからね)」


ルカ「...(人間の履術者が死んだ時、その場に死体が遺る場合と、魔者の様に消えてしまう場合がある。でも、どちらの場合でも、人間の履術者の魔導書は、思い入れが深い場所や人の元に消えていく。だからあのピンク髪は魔者であった可能性が高い」


千巣「...(もっとも、あのピンク髪がこの場所や、彼に思い入れがないことが大前提だが。ま、そうは思いたくないがな)」


廻「...皆、ありがとう」


理子「私達は、何も」

唯「うん!無事でよかった!」

廻「...じゃあ、皆で家に帰ろうか。夜も遅いし」

千巣「いいのか?最悪迎え呼べば東京にも帰れるし」

ルカ「もう用は済んだんだから、その魔導書だけ貰って帰るわよ」

唯「えー!せっかくめぐりんがいいって言ってくれてるんだよ?泊まろうよー!」

粟生屋「僕は何でも」

理子「まぁそうね。明日もあるけど、廻君さえ良ければ、泊めてもらおうかな」

廻「うん。大歓迎だよ」

 

6人は、花畑を通り、廻の小屋へ向かう。


すると、ラベンダー畑の横で、廻が立ち止まる。


廻「...お父さん」


廻は、夜の風に揺られた一面のラベンダーを見て呟く。


唯「...」

粟生屋「...」

千巣は、理子に耳打ちする。


千巣「...(万に一つ、あの魔者が、本当に父親だった可能性も)」

すると理子は千巣を遮って言う。

理子「言わなくていい」

千巣「...」

理子「言わなくていい。これが正しい選択かは分からないけど、言わなくていい」

理子の目は真っ直ぐ、夜を映していた。

千巣「...分かりました」


廻は、しゃがんで、ラベンダーの花に手を近づける。


すると、ルカが思い出したかのようにお尻側のポケットを探る。そして、廻の元へ。

ルカ「あ、そーいえばあんたこれ」

廻「!」


ルカは立ったまま、ヒビの入ったスマートフォンを廻に渡した。廻はそれを見つめる。

廻「あ、ありがとう」

ルカ「...大事にしなさいよ」

廻「...」

ルカ「...ふん」


ルカは廻に背を向けた。

 

廻は、スマートフォンの画面を見る。

 

 

すると、廻はしゃがんだまま泣き出した。


唯「めぐりん...」

千巣「...」

理子「...」


廻の嗚咽が響き渡る。


理子はその様子を見て、廻の肩に手を添える。

廻「...」

理子「大丈夫。大丈夫だから」

他のメンバーも、囲うようにして廻の元へ集まる。

廻は、腕で涙を拭った。


廻「...恥ずかしいね。何で泣いてるか、分からないだろうし、怖いよね。ごめんごめん。つい昔のことを、思い出しちゃって」グスン


理子らは、じっと廻の言葉に耳を傾ける。


廻「ごめん。そろそろ、行こっか」

廻は立ち上がり、理子らと共に歩き出す。


その時。


ラベンダー畑が強い光を放ち、廻らを包み込む!


廻「...!!!!」

 

 

回想─────

 


廻の父、廻笠十郎(めぐりりゅうじゅうろう)。


彼は、妻・峰(みね)と共に、東京で暮らしていた。


笠十郎は明るく、優しい男だった。峰は穏やかで献身的な女性だった。

とある年の7月15日。峰は、第一子を授かり、二人は名を桜志郎と名づける。


しかし、その翌年、峰は魔者の被害に遭い、桜志郎の記憶も残らない内に無くなってしまう。

その時に笠十郎を助けた、”高校生程の金色のカブトムシを操る魔法使い”の進言によって、笠十郎は幼い桜志郎を連れ、魔者の被害のない北海道へ転居。


しかし、峰の喪失は笠十郎に大きな影を落とし、笠十郎は冷酷な男になってしまった。


笠十郎は独自で、妻を奪った魔法についての調査を始め、桜志郎に構うことは殆どなかった。


笠十郎は、魔法について知り尽くしたかったのだろう。それは、好奇心か、はたまた妻を奪った魔法への復讐心からかは、本人にしか分からない。


ある日、笠十郎は東京で”鎖の書”を発見する。そして、鎖の書の履術者になる。


笠十郎は魔法使いとなったが、年齢柄、戦いの場に身を置くことは殆どなく、宿ったマヂカラを利用しての研究を始めた。


途中、北海道で出会った”睡蓮(すいれん)”という考古学者と共に共同での研究を進めるが、ある日東京にて、睡蓮が”模写の書”の魔者になってしまう。


睡蓮は魔者となって、どこかへ身をくらました。


笠十郎は責任を感じ、睡蓮を捕獲する旅に出ることにするが、毎月15日だけは、北海道の家へ戻っていた。


そして、ある年の、7月14日。笠十郎が帰って来なくなる1日前。


笠十郎は北海道までやってきていた。


ラベンダー畑の横を通り、我が子の眠る小屋まで帰ろうとしていたその時。

 

魔者化した睡蓮が現れたのだ。

きっと魔者になっても、帰属本能で命からがら帰ってきたのだろう。

 

笠十郎は不慣れながらも、睡蓮を抑え、満身創痍になりながら睡蓮を倒した。


しかし、笠十郎は足が潰れ、内蔵も潰され、もう長くは生きられないと、死を覚悟した。我が子の待つ小屋のすぐ側で。

 

睡蓮に対する償い、峰に対する愛。


彼は死の間際に何度も頭の中で呟いた。


そして、最後に浮かんだのは、愛する息子への後悔だった。群れる花の中に倒れ込んだ父は、最後の言葉を残した。

 

 

 


そして今、廻の目の前には、その時の光景が鮮明に蘇っている。


廻「父さん...?!父さん...!!」

 

 

 

 

光輝く夜のラベンダー畑。

血塗れで倒れる父と、その傍に座り込む子。


父は、星空を見て、最後の力を振り絞る様に、言葉を繋ぐ。

 

笠十郎「ハァ...寝てる...か......桜志郎」

桜志郎「!」

笠十郎「ハァ......悪いな...もう...お前の誕生日には...間に合いそうにない」

桜志郎「...!」

笠十郎「お前には...何一つ...何もしてやれなかった。父として...先を歩く人間として...何も...何も...」

桜志郎「...お父さん?」

笠十郎「いつかは...こうなると思った。でも...上手く...お前を守ってやれなかった...一人にしてしまう...すまない」

桜志郎「...」

 


笠十郎「一つだけ...最後に望みがあるとすれば...桜志郎...お前に会いたい」

 


桜志郎「...!!」

笠十郎「ただ抱きしめてやりたい...お前にしてやれなかったことが...したかったことが...今になって幾つも浮かぶ」

桜志郎「...お父さん!」

笠十郎「当たり前のことが...出来なかった。父親失格だ」

桜志郎「お父さん...お父さん...!」

笠十郎「俺のことは...全て忘れろ。どうせ大した事、してやれなかったんだ。思い出して悲しむ事もないだろう...」

桜志郎の目から涙がこぼれ落ちる。

笠十郎「幸せになってくれ...桜志郎...」

笠十郎の体は消え始める。


桜志郎「待って...お父さん!お父さん...!!」


笠十郎「ごめんな...桜志郎。誕生日...おめでとう」

 

 

サッ...

 


笠十郎は消えた。

桜志郎は、肩を揺らして泣く。


理子らはその様子をただじっと見つめる。

 

 

しばらく、桜志郎は泣いていた。

 


ヒビの入ったスマートフォンの画面の中で笑っている、桜志郎と笠十郎を握りしめながら。

 

 

 

──────

 

 

 

 


《千歳空港》


翌日。


唯「ここまでありがとう!めぐりん」

廻「こちらこそ。本当に本当にありがとう」

千巣「ま、色々とよかったな」

理子「こんど、東京にも遊びに来てね。案内するから」

廻「うん。ありがとう」

唯「うぇーん!やっぱり寂しいよー!めぐりんも一緒に行こうよー!」

ルカ「唯!いいのよこんなヨワミソ!北海道の田舎がお似合いよ!」

唯「ひどい!」

廻「あは。あはは」


粟生屋「じゃあね。北海道の魔法使い君」

千巣「達者でな」

唯「バイバイ!めぐりん!」

廻「うん。またいつか!」


理子達は背中を向け、搭乗ゲートへ向かう。


廻「あ!理子ちゃん!」

理子らは振り返る。


廻「僕、探ってみるよ。色々な可能性を。そしていつか見つけてみせる。自分が目指したい星をね」

理子「...うん!」


千巣ら4人はポカンとする。


千巣「星?」

唯「めぐりん、宇宙飛行士になりたいの?」

ルカ「そしたらANA入りなさいよ」

粟生屋「NASAな」


そして理子は、笑顔で頷く。

 


理子「じゃあ、またいつか!」

 

 

 

 

 

 

廻「...バイバイ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

其魔外伝 追憶の華

 

 

 

 

 

 

〜完〜

 

 

 


《飛行機の中》


唯「えーでも、やっぱりめぐりんも魔裁組に来て欲しかったよー」

理子「誘ったけど、彼はまだ北海道で色々とやりたいんだって。それに、魔導書返還の時には来てくれるって約束してくれたし、それでいいよ」

千巣「戦力も大事だが、履術者には魔者に魔導書を奪われるリスクもある。魔導書を守るって意味では、東京から離れた安全地帯に潜伏してくれることは何よりのメリットになるからな」

唯「でもーめぐりん強いし、ちょっと頑張れば私達みたいに特級になれたよ絶対!」

ルカ「でも、本人が望んでないなら仕方ないじゃない」

唯「そうだけどぉ」

粟生屋「zzz...」

 

理子は、飛行機の窓から外を見る。

 

 

 

理子「...またどこかで、会えたらいいな」

 

 

 

────