其魔外伝 追憶の華 破

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其魔外伝 追憶の華 破

 


ここまでのあらすじ

 


正体不明の人物・Mから、理子の元に届いた写真と手紙。写真によると、北海道で魔者の被害が出たという。

その真偽を調査するべく理子はルカと千巣を連れ、北の大地・北海道へと向かう。

迎えの来ない空港で立ち往生していた3人は、ひょんなことから出会った青年・廻桜志郎の案内で目的地である富良野へ向かう。

途中、魔者の襲撃に合うも、無事富良野に到着。調査を始めようとするやいなや、謎の魔導師が4人に接触してくる。すると廻は鎖のような魔法を操り、魔導師を捕縛した。唖然としている3人の元へ、東京から唯と粟生屋がやって来たのだった。

 


 

 

富良野 / 小屋》


理子、ルカ、千巣に加え、東京からやって来た唯と粟生屋は、廻が拠点にしているという小さな小屋に案内される。


廻は、部屋の灯油ランプをつけて、全員を座らせた。


唯「初めまして!私、東海林唯!唯ってよんでね!で、こっちはあおやん!」

粟生屋「あおやんです」

廻「ど、どうも。廻桜志郎です」

唯「めぐりんね!よろしく!」

廻「よろしく...」


千巣「てか、なんでお前ら来てんだよ」

粟生屋「白鶯が鬼屋敷さんに連れてかれたから、いいかなと」

唯「だって、楽しそーだったんだもん」

ルカ「別に遊びに来たわけじゃないけど」

理子「よくここが分かったね」

唯「理子さん魔裁組のスマホ持ってますよね?GPSですよ!」

理子「なるほどね」


粟生屋「てか君、廻君だっけ?誰?」

千巣「それ今全員が聞きたいこと」


廻「皆、騙しててごめん」


理子「...」

唯「え、え、えー?!突然なに!!ちょ、全然意味わからない〜」

ルカ「ちょっと!だまってて!」

唯「ぴえん」


理子「廻君はね、色々あって空港からここまで連れてきてくれたのよ」

ルカ「ここに来るまで、魔者も魔導師も見た」

唯「え、そうなの?」

粟生屋「表の木に縛り付けてる奴か」

 


4人を襲った魔導師・スキンは小屋の外の木に鎖で縛られている。

 


理子「騙してたってどういうこと?魔法が使えることを隠してたこと?」

唯「(魔法使えるんだ)」


廻「いや、全部だよ」

理子「?」

全員「?」


廻は、本棚から、写真を取り出した。


ルカ「この写真って!」

千巣「これ、俺らがMから貰ったやつじゃねえか」

唯「えむ?」

廻「僕、Mなんだ」


全員「!」

唯「...(突然のカミングアウト...!※この人は何も知らないのでMの意味を履き違えています)」


廻「ここに皆を誘き寄せたのは僕なんだ」


理子「なんで?」

廻「僕は魔法が使える。魔法のことは、ある程度調べたから分かる。知っての通り、北海道に魔法はない。でもここ最近、魔者や魔導師が悪さをしているみたいなんだ」

千巣「ほう」

廻「最近ローカル局のニュースで、変死体のニュースが多くて。ニュースから足取りを調べて、次に事件が起こりそうな場所を張ってたんだ。そしたら、案の定魔導師の仕業だった。変な髪型の奴が」


ルカ「それで、私たちに接触したわけね。てか、普通に連絡をよこせば良かったじゃない。何よ、Mって」

廻「ごめん。怖かったんだ。魔法協会や魔裁組のことは、”父親繋がり”で知ってはいたけど、どんな人達かはわからなくて、僕が魔法を使えるって知ったら、どんなことされるのかなって...」

理子「...なるほどね」

廻「空港で案内人の人と皆の接触を阻んだのも僕なんだ。案内人の人には少しの間身動きが取れない状態になってもらった」

千巣「...」

廻「コーヒーを零したのも、わざとなんだ。匂いとかで僕が魔法使いだって分かる人もいるって聞いたから。ギリギリまで魔法使いってことは明かしたくなかった」

唯「そうなんだ...」


廻は頭を下げる。


廻「ごめん。この通りだ」


全員「...」

唯「そんな...謝らないで」

理子「そうだよ。別に何もされてないし」

廻「...」


ルカ「てか、アンタさ、さっきからウジウジと言ってるけど、結局何が目的なの?」

唯「ちょっと...ルカルカ...!」

千巣「まぁでも、気になるな」

粟生屋「どうなんだい?M君」

廻「僕は...」


ルカ「...」

理子「...」


廻「真実を知りたいんだ」


ルカ「?」

粟生屋「?」

理子「真実?」


廻は話を続ける。


廻「僕の父親についての話をするね」

一同は黙って話を聞く。

 

 

 

 

廻「僕の父親は考古学者で、色々な学説や伝承を調べてた。父は忙しくて、日本中を飛び回ってたから、北海道の実家にはあまり帰ってこなかった。片親だった俺は、ずっと一人でいたんだ」

 


理子「...」

廻「僕は父が好きではなかった。父親は考古学者だったけど、何について調べているかは教えてくれなかった。父は厳格な人で、あまり構ってもくれなかった」

唯「寂しいね...」


廻「そんな父でも、1ヶ月に1日は必ず、家に帰ってきた」

粟生屋「1ヶ月に1日て」

ルカ「少な」


廻「毎月15日、父は必ず家に顔を出してたんだ。2年前までは」

唯「2年前まで?」

廻「うん。2年前の6月15日を最後に、父とは会ってない」

粟生屋「なんで?」

廻「分からないんだ。7月15日になっても父は帰ってこなかった。その後もずっと。ずっと」

千巣「...」

廻「でも、その7月15日に、父が来なかった代わりに、枕元に見覚えのない一冊の本があったんだ。その本は今、胸(ここ)に眠ってる。蒼魔導書第十章 鎖の書」

理子「!」

ルカ「!」


廻「読んで本が消えた時はびっくりしたよ。だって魔法のことなんて何も知らなかったから。でも、マヂカラが流れたおかげで、特殊なマヂカラで隠された家の隠し扉(魔法陣)を見つけることが出来たんだ。僕は初めてそこに入った」

理子「...」


廻「そこで魔法のことを色々と知ったんだ。最初は受け入れられなかったけどね。マヂカラのこと、魔裁組のこと、魔者のこと。恐らく父は魔法の研究をずっとしていたんだと思う。東京にもよく行ってたみたいだし」

理子「なるほど」

廻「2年前の15日。父は僕にこの本を託したんだと思う。でも、いなくなるタイミングで何で渡したんだろうって」

理子「...」


廻「父の残した研究ノートによると、魔法は北海道にはなかった。だから東京に行ったりしてたんだと思うけど、最近は違う。何故か北海道に魔法や魔導師がいる。そしたら父も帰ってくる筈だろう?でも帰って来ない。どんなに忙しくても同じ日に帰って来ていたような几帳面な父がだよ。それって、変だなと思って」

理子「...」

廻「父に何かあったのかもしれない。だから魔導師を倒して、真実を聞きたい。何か知ってることがないか。父について」


粟生屋「敵側が父について知ってるとは限らなくない?」

廻「でも色々と知りたい。それに...」

理子「?」

 

 

廻「いや、なんでもない」

 

 

理子「...そう」


廻「でも、もういいよ、こんなに迷惑かけたし、魔裁組が悪い人たちじゃないって事もわかった。後は一人でやるから」


ルカ「は?あんた何言ってんの?」

廻「ごめん。だから、もうここからはまた一人で」

唯「なんで?」

廻「魔導師は何をしてくるか分からないから、もう巻き込めないよ」

廻は震える手を握りしめる。


ルカ「巻き込むだぁ?」

粟生屋「手、震えてるよ、本当は一人じゃ怖いんでしょ」

廻「...うん、でも」


千巣「となったら、まずは外で寝てるハゲ起こすか。聞き込み調査開始だな」

粟生屋「確かに、丁度いいのがいたわ」

廻「でも...」


すると、唯が廻の小さくなった肩に思いっきり手を置く。


バンッ!!


廻「...!」ビクッ!


唯「巻き込み上等!!!!一度乗りたかった船よ!!」

千巣「”乗りかかった”な」

廻「...!」


理子「廻君の気持ち。よく分かった。私達がサポートします」

廻「でも...」

理子「それに、安心してくれていいわ。こう見えて私達、」

廻「?」

 

 

理子「最強だから」

 

 

廻「皆...」

唯「ホントだよ!私達結構やる時はやるのよ!」

粟生屋「東京の平和は僕たちが守ってると言っても過言ではないからね」

ルカ「田舎の魔導師なんて小指でピン!よピン!」

千巣「ま、そういうこった。後は任せな」


廻「本当に...ありがとう...!でも、僕も一緒に戦うよ...!いや、最前線で戦わせてくれ!」

理子「確かに、さっきのツルテカ倒した時の動きも凄かったからね」

唯「めぐりん強いんだ!」

廻「皆より強いかは、分からないけど...」

千巣「後はハートだな。気持ちで負けてたら、可能なことも不可能になっちまうからな」

廻「...うん!」


粟生屋「とりあえず、シバキに行きますか〜外の人」

千巣「そだな」

 

6人が話している頃、外のスキンは寝静まっていた。

しかし、ズボンのポケット付近に、怪しい”耳”の様な物が、異様な光を放っている。

 

────

 

《謎の場所》


イムカは謎の洞窟で、岩に腰かけている。


イムカ「...鎖の書...父親を探す少年...考古学者...魔法使い...最強...なるほどねぇ...」


イムカは、スキンについていた謎の耳を伝って、会話を全て聞いていた。


イムカ「面白くなって来たんじゃない...?!」ゴゴゴ...!

 


 

 

富良野/廻の小屋》


理子らは、スキンへの尋問を進めていた、


スキン「知らねぇよ!これ以上はマジで!なんも知らねぇ!」

粟生屋「嘘は良くないねぇ」

スキン「俺が知っちゃってることは全部話しただろう?!」


理子「まとめると、あなたは、”イムカ”という名前の魔導師に、お友達になろうと誘われ、体をタッチされた途端、能力が使えるようになったと?」

スキン「そうだ!音がバンバンでるやつな!ついでに才能あるって褒められちゃったぞ!」

ルカ「聞いてねーーわ!!」ドーン!

スキン「チーン!!」


理子「なんで私たちの所へ来れたの?」

スキン「イムカから連絡が来てな、アンタらの車を追わされたんだよ。イムカからは一方的に連絡が来ちゃう!こっちからは連絡出来ねぇ!」

唯「そのイムカってやつは、何を企んでるの?」

スキン「わからねぇよ!ただ、友達を増やしちゃってるだけだ!半分くらいはオモチャになっちゃうけどな!」

理子「なるほど」

 

 

スキンは、魔法協会の警備員に身柄を引き渡された。

 

 

その日の深夜。

 

全員が寝静まった後、廻は1人で小屋の屋根に寝そべり星を見上げていた。


廻「...」


理子「やあ」

音もせず隣に理子が、同じように寝そべっていた。


廻「!!びっくりした」

理子「ふふ。ずっと居たよ?」

廻「...そうなんだ」


2人は横並びで空を見ながら話す。


理子「星、綺麗だね」

廻「うん」

理子「東京じゃこんなに星が見えること、ないから」

廻「...そうだね」

 


...

 


理子「廻君」

廻「何?」

理子「私はね、廻君を信頼してるよ」

廻「...ありがとう」

理子「だから、私の事、私達のこと、信頼してよ」

廻「...信頼してるよ?もちろん」

すると、理子が廻に覆い被さるように、廻に迫る。


廻「...!!」ドキッ

理子「嘘。まだ廻君、私に隠し事してる」

廻「...!」

理子は数秒、廻の目を見つめる。

廻「...!」


理子は元の位置に戻って、空を見上げる。


理子「隠し事には2種類ある。隠しておいた方が良いことと、話した方がいいこと」

廻「...」

理子「廻君の隠し事は、どっち?」

廻「...」


理子「まぁどっちでもいいよ。でも私は、どうしても言わせたい」

廻「...!」

理子「言って」

廻「...強引過ぎないかな」


理子「でも言って?」

廻「...実は」

理子「...(言うんだ)」


廻「父が、魔者になってるんじゃないかって」


理子「...!」

廻「人間って、魔導書に触れると魔者になったり、死の間際に魔者になったりするって、父のノートに書いてあったから...」

理子「...」

廻「それで僕、初めてピエロの魔導師...イムカを見た時に、イムカが父の癖と同じ、首を捻る仕草をしててさ」

理子「...!」


廻「だから、父は帰って来なくなったのかなって、思ってて」

理子「...」

廻「父を止めたい。けど、父だって分かったら、多分僕は父を殺すことが出来ない。だから、魔裁組に手紙を出したんだ」

理子「...なるほど」


廻「でも僕がやらないとだよね...僕が...父を止めないと」

理子は廻の横顔見つめる。


理子「廻君。空を見て」

廻「?」


廻は、星を見た。


理子「今、廻君が見てるのは、最初に目に付いた大きな星。廻君は、その星が自分のゴールだと信じて進んでるの。今」

廻「...」

理子「大きな星は眩しい。だから人は、自分の目指すものはそこなんだって、目を奪われやすい。でも本当は、視界の端っこで、小さく輝いている目立たない星こそ、自分にとっての本当のゴールだったりするの」

廻「...!」


理子「どんな人だってそう。私だって、自分一人で完璧になるっていうゴールだけを信じて、今まで生きてきたの。”一人で完璧な私”こそが、空に浮かんでる沢山の私の未来像の中で、一番強く光って見えたから。それが正しい道筋だって思ってた」

廻「...」

理子「でも違った。光って見えたその星は、本当はとても遠かった。私にとって本当に行くべきだったのは、隅っこの小さな星。”皆で完璧になる”って言う事だった」

廻「...」


理子「眩しい星は、他の星の輝きを奪ってしまう。そうやって周りが見えなくなって、気づいたら自分が辛くなってる。だから、自分の目で、しっかりと色々な星を見つめて考えないといけない。一等星じゃなくても、好きな星を見ていれば、私達はそれでいいんだよ」

廻「理子さん...」


理子「理子でいいよ。タメでしょ?私達」

廻「...うん」


理子「要するに、必ずしも、一番正しく見えるものが、本当に正しいとは限らないってこと。もっとたくさんの可能性を見てみなよ。お父さんが魔者になったって、決めつけるにはまだ早いと思う。色々な可能性があるからね」

廻「...」

理子「それにさ、暗い妄想で頭いっぱいにしてたら勿体ないじゃん?ね?」

廻「...そうだね」


理子「廻君は、本当にお父さんに会いたいんだね」


廻「...そうじゃない。知りたいだけだよ。お父さんとの思い出なんて殆どないし。好きじゃないし」

理子「...」

廻「それにお父さんは、僕より研究の方が大事だったんだから」

理子「...」


廻「1ヶ月に一度の帰宅だって、義務的に僕が何してるか見に来てただけだし、来ても殆ど話したりしなかったから。それにお父さんの秘密の研究室にも、僕の写真なんて1つもなかった」

理子「...」

廻「でも一応家族だ。家族が殺人鬼になってたり、知らない所で死んでるなら、知りたいだろ?それだけなんだよ」

理子「...」

廻「僕は真実が知りたい。知れればそれで十分」


理子「そっか。ごめん。暗い話させちゃったね。私達も出来ることをするから、廻君も一緒に頑張ろ!」

廻「...うん!」

 

────

 

次の日、6人は、3手に別れて富良野近辺を捜索する。

 

《粟生屋・理子ペア》


粟生屋「そんなに運良く出てきますかねぇ」

理子「分からないけど、根気よく探すしかないわね」


《千巣・唯ペア》


唯「あ!アイスクリームだ!ちょっと食べていいかな!」

千巣「旅行やん」


《ルカ・廻ペア》


ルカ「...」

廻「...」

ルカ「...あーもう!なんでそんな辛気臭い顔してんのよ!」

廻「!ごめん...」

ルカ「ごめんじゃっ!パンッ!ないのよ!」

廻の背中を思いっきり叩く!

廻「...!(内臓が出る...!)」

ルカ「肝心のアンタがそんなじゃ、勝てるやつにも勝てないでしょうが!アンタ強いんでしょ?ちょっとは胸張りなさいよ!」


廻は昨日の理子との会話を思い出す。


廻「(そうだった...暗い顔ばっかしてちゃダメだ!)」

ルカ「ちょっとトイレ、そこら辺で待ってて」

廻「うん」


ルカはトイレに向かう。


廻「...」


その時だった。


イムカ「久しぶりだね。桜志郎」

廻「...!!お前は!!」

 

 

 

 

廻は、イムカと遭遇した。

廻「(間違いない...!イムカだ!ルカちゃんと皆に連絡しないと...!)」

廻がスマホを出そうとするが、イムカはスマホを破壊する。


廻「...!(速い!)」

イムカ「野暮なこと辞めなよ。桜志郎。僕は2人で話したいんだよ」

廻「...!お前、なんで俺の名前を知ってるんだよ...!」

イムカ「まぁ、立ち話もなんだから、少し森へ入ろうか」


ガッ!!


廻はイムカに連れ去られた。


そこへルカが戻ってくる。


ルカ「あれ、あいつ居ないじゃない」

そして、ルカは廻の破壊されたスマホを見つける。

ルカ「これってもしかして?」

ルカはヒビの入ったスマホの待ち受けを見る。

 

ルカ「...!」

 

ルカはスマホをポケットにしまう。

ルカ「(間違いない!あいつのだ!)」


ルカは全員に連絡する。

 

ルカ「廻が消えた!小屋の近くの森付近よ!位置情報送ったから早く来て!」

 

《千巣・唯ペア》

唯「めぐりんがいなくなったって...!」

千巣「何が起きてんだ...!とりあえず行くぞ!」


《粟生屋・ルカペア》

粟生屋「嫌な予感がするな」

理子「...!」

 

《森の中》

イムカ「桜志郎。僕は今日、お話に来ただけなんだ。その鎖を解いておくれ」

イムカは、廻の手に巻きついた鎖を見ながら言った。

廻「お前は...なんなんだ!」

イムカ「先程、何故僕が桜志郎の名前を知っているか、尋ねたね?」

廻「...」


イムカ「それは簡単。僕は君の父親だからだよ」


廻「...!!!」


イムカ「残念ながら、完全な人間だった時の記憶は殆どない。もう魔者化が進んでいるからね。朧な記憶の中で君の顔を見て思い出したんだ。君は僕の息子だということを」


ゴキッ


イムカは、首を鳴らした。


廻「...!(父さんと同じ癖だ...!)」

イムカ「だから桜志郎。今日から友達...いや、また、親子としてやり直そう」

イムカは廻に手を差し伸べる。

廻「本当に...お父さんなのか...?」

イムカ「そうだった。というのが正しい。だからまた、親子に戻ろう。新しい形で」

廻「断る...!お前が本当にお父さんなら、なんで街の人を傷つけるんだ!そんなお父さんと、親子になんて戻りたくない!」


すると、イムカは廻に寄り添う。

廻「...!」

イムカ「悪かったな。桜志郎。本当は僕にとって大事な人を探していただけなんだ。薄れていく記憶の中、僕の友達に、僕にとって大事なものを探させた。友達はやり方が不器用だから、人を傷つけてしまったかもしれない。でも、僕は見つけた。僕にとっての宝は、桜志郎、君だったんだよ。これからはもう誰も傷つけないと誓おう。だから、僕と共に来てくれないか」

廻「...」

廻は、恐怖と混乱でその場に座り込んでしまう。


イムカ「また、僕と家族になろう」


廻「...!」


すると、遠くから、ルカの声が聞こえる。


ルカ「おーーーい!!廻!!!いたら返事しなさい!!!」


それに気がついたイムカは、怯える廻に、お金を渡す。

イムカ「ケータイ。悪かったね。これで新しいものを買うといい。今は分が悪いから、僕は帰るね」

廻「...!」

イムカ「今日の夜9時、いつものお花畑で待ってる。そこで改めて、家族になろう」

イムカは、廻の手を握る。そして、その場から去った。


廻「ハァ...ハァ...ハァ...!!」


ルカ「廻!!!ねぇ!!!廻!!!」


廻は気が動転し、その場気を失った。

 

 

 

バタッ

 

────

 

《謎の洞窟》


イムカ「...少し周りくどかったかしら」

イムカは、廻との会話を思い出す。


イムカ「まぁいいわ。苦労して手に入れた方が楽しいものね。家族も、”力”も、何もかも...!」


ポチャン。


水滴が落ちる。


イムカ「家族愛に飢えた子ってのはね、いざとなるとコントロールが効かなくなるものよ。彼はきっと来る。そして...また...力を手に入れられる...!」


イムカの高笑いが、洞窟に響く。


イムカ「さてと。念の為友達集めておこうかな。彼が来なかった時に、力づくで奪わないと行けないからネ!」

 

────

 

《廻の小屋》


気を失っていた廻が、ベットで目を覚ます。


理子「あ、廻くん!」

唯「めぐりん!!」


廻「...!」


廻が目を開けると、唯と理子が顔を覗き込んでいた。


廻「理子ちゃん...唯ちゃん...」

唯「起きたぁ...良かったぁ」

理子「とりあえず一安心ね」

廻「ごめん。また迷惑かけちゃったみたいだね」

理子「そんな事ないよ」

唯「軽い目眩だったみたいだから、じきに良くなっていくと思うよ」


廻「...ありがとう。みんなは?」

廻は体を起こす。

唯「無理しないでね...めぐりん」

理子「3人はまだ探索中」

廻「皆を集めてくれないかな」

理子「?」


廻「話したいことがある...!」

 


 

 

《花畑》

 

それから時間は少し進んで、夜21時。

 

体力が回復した廻は、一人で、花畑にいる。


そこには、イムカが出迎えて待っていた。

 

イムカ「やっぱり来てくれた。嬉しいよ。桜志郎」

廻「...」

イムカ「では儀式を始めようか。家族になる儀式を」


廻「...僕は」

廻は、イムカに向かって歩き出す。

イムカ「?」


そして廻は、イムカに攻撃を仕掛ける!

廻「お前の息子じゃない!!!」

 

 

 

ドガーーーーーーーーーン!!!!!

 

 

 

辺りに煙が立ち上る!!!

廻は、イムカと共にいる謎のエラが張った男に攻撃を跳ね返され、花畑を挟んで遠くへ吹き飛ばされた!!


エラバリ「気安く触るな」

イムカ「やりすぎだ。これから僕の息子になるんだから。感動の再会だったのに」

廻は、花畑の向こう側で立ち上がる。

イムカは花畑を”横切って”、廻の元へ向かう。


廻「!!」


イムカは手を差し伸べながら、話しかける。

イムカ「悪かったね。怪我はないかい?さっきのことは忘れてやるから、家族になろうか」

廻「...!!違う!!」

廻は、空中に飛び、空から鎖を伸ばしてイムカに攻撃を仕掛ける!


イムカはそれを受止め、鎖ごと廻を地面に叩きつけた!!


イムカ「言うことが聞けないなら、少し躾が必要みたいね。桜志郎」

廻は、地面に手をついたまま叫ぶ。

廻「僕の名前を呼ぶな...!!お前は僕の父親なんかじゃない!!!」

イムカ「?」


廻「僕の父は、花を踏みつけにしたりしない!僕の本能が、お前を否定してるんだよ!!!」

イムカ「...そうか」


イムカは指を鳴らす。すると、バラを挿した謎の女剣士が1人、双子の女子2人、カエルのような少年が1人、現れた。


イムカ「せっかく孤独なお前を家族にしてやろうと思ったのに。残念だ」

廻「...!」

エラバリ「貧弱な子供だな」

カエル「ゲロゲロ。かわいそ」

ローズ「切り刻んじゃおうかしら」

ライ子「やっちゃお」

レフ子「うん。やっちゃお」

イムカ「お前はお友達にもしないよ。力だけ奪って、一人で寂しく死ぬがいいさ」

イムカが廻を見下ろす。


廻「...一人じゃない...!」

イムカ「...」


ゾォォォォォ...!


カエル「ん?」

エラバリ「何だ?」


イムカを囲うようにして現れたのは、待機していた理子達だった...!


ヒュン!ヒュン!


全員は、廻の元に集まる。


廻「僕は一人じゃない」


イムカ「お仲間達も来てたんだね」


理子「あなたがイムカね。あなた達の目的は何?」

イムカ「目的?そんなものはないの。ただ楽しくお友達を増やしたいだけさ」

理子「”蒼魔導書第二十五章 模写の書”。あなたの能力はきっとそれよね」


第二十五章、模写の書。

履術した者は、他の履術者に接触することで、接触した履術者の能力をストック出来る。

自分で使うことは出来ず、他人や物に付与する形で使うことが出来る。

履術者が変わってもストックされた能力が消えることは無い。つまり、古の時代から能力は雪だるま式に受け継がれていく。

また、能力を渡した対象者が一定のダメージを負うと、能力は履術者に変換され、使い回すことが出来る。


イムカ「そうかもしれないし、違うかもしれないねぇ。たまたま拾った本にそんなことが書いてあったような、無かったような」

理子「あなたの能力で生まれた魔者や魔導師が、たくさんの人を傷つけてる。許す訳にはいかない」

イムカ「...手厳しいねぇ」

理子「覚悟しなさい」


イムカ「まぁ、私達だってガキンチョにタダでやられる程ヤワじゃない。やってやろうじゃないの」

理子「...」

イムカ「(あの子たち...美味しそうな匂いがプンプンする...新しい力がっぽり稼いじゃおう...!)」


廻「お前は俺が倒す...!イムカ!」

 

追憶の華 急に続く