SOREMA -それ、魔!- 51

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SOREMA -それ、魔!- 51

 

「パレット」

 

────


第422話 「そして、成る」

 

────


《廃工場》


白鶯「お前に俺は殺せない...!」

皆藤「...」


皆藤は、天叢雲を取り出す。


白鶯「成程な...本気で殺すつもりだな?」

皆藤「考え直して。魔導書を返すと、それだけ...」

白鶯「...」

皆藤「言ってよ」


白鶯「...」


皆藤「YESかNO。NOと言うのなら、君をここで殺さないといけない」


白鶯「...」


皆藤「お願い...白鶯君...」


白鶯「...ふっ」ニヤッ


皆藤「...!」

 

 

白鶯「”NO”だ」

 


皆藤「...」


白鶯「今後如何なる状況になろうとも、この返答が覆ることはな、」

 


グ          サ          ッ          !!!!!!!!!

 


白鶯「...!」グハッ!

皆藤「...」グスン...!


皆藤の剣は、白鶯の心臓を貫いた!

皆藤の頬には返り血が飛び散った。


白鶯「...!」

皆藤「ごめんね...守ってあげられなくて...ごめんね...!」


ブシャッ!!


皆藤は、白鶯の心臓に突き刺さった剣を勢いよく引き抜いた。


白鶯「......」

白鶯の口からは血が垂れる。

皆藤「...グスン...グスン...」


白鶯「ふふっ...」

皆藤「...?」


白鶯「フハハハハハハハハハハハ!!!!!!」

皆藤「?!」

急所を貫かれた筈の白鶯は、不敵に高笑いした。


白鶯「はぁ...面白い!これで満足か?」

白鶯は、穴の空いた胸部に手を当て、治癒しながら話を続ける。

皆藤「...?!(致命傷よね?急所は外さなかった...!何で...?!)」

白鶯「いい表情だな。なぜ俺が生きていられるか、不思議なんだろう?教えてやろうか」

皆藤「...!あなた...!まさか...?!」

 


白鶯「あぁ...そうさ。お前には説明する必要も無さそうだなぁ...!」

皆藤「そんな...まさか...!」

 


白鶯は、天を仰ぎ、叫ぶ。

 

 

白鶯「フハハハ!!不死の力は、俺のものになった!!!!」

 

 

皆藤「!!!!」

白鶯「これで俺は正真正銘最強の男となったのだ...!!!!フハハハハハハ!!!!」

皆藤「そんな...!!2つ以上の魔導書の履術なんて...聞いた事、」

白鶯「ないよなぁ。これで俺は歴史をひとつ塗り替えた。くっくっくっ。珍しいだろう?研究させてやろうか?ほら」

皆藤「...そんな...しかも不死の書なんて...!」

白鶯「我ながら奇跡だと思っているよ。2つの魔導書の力を手にしてなお、四肢も自我も保てているこの状況をな...!」

皆藤「そんな...」


白鶯「もうお前は...いや、”誰も”俺を殺せない...!!」


白鶯の高笑いが、廃工場の中で響く。

 

────


第423話 「昏き過去」

 

────


《廃工場》

 

白鶯「ありえない。お前は今そう思っているな?」

皆藤「...」

白鶯「それこそお前が、他を見下してる何よりの証拠さ」

皆藤「...!」


白鶯「まぁいい。ここに呼んだのは、お前と最後の勝負をする為だ」

皆藤「...」

白鶯「だがお前がもし、俺の思想に賛同し、俺の為に全てを尽くすというのなら、命は助けてやってもいい」

皆藤「...」

白鶯「もしも首を横に降るのなら...お前を迎えるのは死だ」

皆藤「...」

白鶯「お前がもう俺を殺せない時点で勝負はついている。無駄な抵抗はやめておけ。まぁ、そんなこと、お前なら理解しているだろうが」

皆藤「...」


白鶯「さてどうする?俺につくか?」


皆藤「...」

白鶯「...?」

 


皆藤「つかない」

 


白鶯「ほう...」

皆藤「私はもうどんな理由があっても、力に溺れる道を選ばない」

白鶯「成程...つまらんな。ならば死ね」


ゴゴゴゴゴ...!


白鶯は、手を龍化させる。

皆藤は覚悟を決め、真っ直ぐ白鶯の方を見る。


シュウゥゥゥ...


しかし白鶯は、攻撃しようとしていた手を休ませる。

皆藤「?」

白鶯「いや、殺してしまう前に、ひとつ聞こう」

皆藤「...」


白鶯「お前はなぜ、弱者に構う?」

皆藤「...」

白鶯「お前は幾度となく俺に勝ってきた。それは偏に、お前という人間が持つ才能の賜物だろう」

皆藤「...」

白鶯「お前が本気で最強を目指していれば、俺に負けることは一生なかったかもしれない」

皆藤「...」

白鶯「では今、なぜ負けるか。それは、お前が弱者に...仲間というくだらん存在に構うからだ」

皆藤「...!」


白鶯「俺が1人で最強を目指す間に、お前は何の目的か、チームの能力の底上げを図った。その時間を己の鍛錬に回し、己が最強になる為研鑽していれば、いずれ今の俺をも脅かす脅威となったはずだ」

皆藤「...」


白鶯「理解に苦しむ。何の為にお前は、周りの弱者に構う?」

皆藤「...」


皆藤は、少し黙ってから、静かに口を開く。

 


皆藤「それじゃダメだった」

白鶯「は?」

皆藤「ダメだったんだよ...それじゃ...」

 


〜〜〜

 


それは、皆藤が、魔法協会直属の特殊部隊に所属していた時の話である。

 

────


魔法協会直属特殊部隊”SMWAT(サムワット)”。Special Magical Weapons And Tactics。それは、一般的な事故、事件等に魔法を使用しての作業が許された部隊。魔裁組の様な対魔法犯罪組織とは一線を画す、対災害・一般犯罪組織として、活動する。魔裁組では通常禁止されている、一般人への魔法的介入も、SMWATでは規制が緩められている。特に、災害等大きな被害を被る可能性のある事象については、積極的に魔法を使用した作戦が取られる。

その為、隊員にはそれに伴う実力と、モラルが求められている。


皆藤理子は、13歳と若くしてSMWATの小隊の長を任せられていた。


皆藤は、魔具を使用して活動する他の隊員とは異なり、自らマヂカラを使用して戦える履術者だった為に、その実力は他の隊員とは比べ物にならなかった。幼かった皆藤は、その状況に不満を持ち、他のメンバーの必要性について懐疑的だった。”一人で十分”。当時の皆藤は、そう考えていた。


赴任して最初の頃は、自分よりも年上で屈強な小隊のメンバーを任務に引き連れていたが、皆藤の思うように動けないメンバーが多く、皆藤は日に日に不満を募らせ、失望していた。


他のメンバーは、皆藤についていけず辞めていく者、他の小隊に異動を嘆願する者、皆藤にジェラシーを抱き嫌悪する者、関わらないように避ける者など、さまざまだった。皆藤の実力を認め、付いていく決心をした者も多くいたが、皆藤は相手にしなかった。それは、ここに挙げた如何なる者も、13歳の少女を唸らせる実力がなかったからに他ならない。


ある日から、皆藤は単独で任務を遂行していくこととなる。

 

────


第424話 「とある遭難事故」

 

────


皆藤がまだサムワットに所属していた時代。

皆藤は、雪山での遭難報告を受け、現場に向かった。


《サムワット基地 / 屋上ヘリポート


皆藤「...」

皆藤は、救助用ヘリに乗り込む。


男隊員「待ってください!!皆藤隊長...!」

女隊員「隊長!!」


2人の隊員が皆藤を追ってきた。2人は真面目で実直な隊員で、皆藤の直属の部下だった。歳は皆藤よりも一回り上である。


男隊員「また、1人で行くんですか?」

皆藤「そのつもりですけど」

女隊員「私達も行きます!」

皆藤「どうして?」

女隊員「え、どうしてって...」

男隊員「1人じゃ危険で、」

皆藤「では聞きますが、貴方達、来て何か役に立てますか?」


男・女「...!」


皆藤「今回の任務は命に関わりますよ。来た所で無駄死に。死にたくなければ、ここで待ってた方が身のためです」


男隊員「でも...」

女隊員「1人よりも...今回は捜索規模も広いですし」

皆藤「私は1人でも十分。1人でもこれまで多くの任務をこなしてきました。貴方達が無能だと言いたい訳ではないけれど、はっきりいって足でまといです」


男隊員「そ、そんな...」

女隊員「確かに...隊長に比べたら...でも!」

皆藤「では。行ってきます。武運を祈っておいてください」


皆藤はヘリに乗り込んだ。


男隊員「はぁ...」

女隊員「隊長...」


そこへ、どこからともなく他の隊員の声が聞こえる。


隊員A「ほっとけほっとけ!何が隊長だ。小学生に毛が生えた程度のガキのくせして」

隊員B「ちょっと魔法が使えただけで偉そーに」

隊員A「社会知らずのガキはいつか痛い目みるって、相場で決まってんだろ」

隊員B「お前らもさ、あいつにかまってねぇで、隊移れよ、な?」

男隊員「...」

女隊員「...」

 

────

 

《雪山》


皆藤は、雪山で遭難中の少女を発見。

無線で基地に連絡をする。


皆藤「こちら皆藤。衰弱した少女を1人発見。ランデブーポイントに至急向かいます」


ピッ


少女の唇は青白く、小刻みに震えていた。

皆藤「...(この子、血流の流れが悪化してる。早くヘリと合流しないと)」

少女「ブルブル...お姉ちゃん...お母さんは...?」

皆藤「大丈夫。君以外皆助けた!あとは私達だけよ!」

少女「ブルブル...お母さん...会いたいな...」

皆藤「うん!じゃあ、少し頑張ろっか!」

皆藤は、少女をおぶってヘリとの合流地点へ向かう。


皆藤「...(他の遭難者の捜索でマヂカラを多く使ってしまった...でも、この子だけは助ける...!大丈夫!)」

皆藤は、少女をおぶって歩く。


その時、急に猛烈な吹雪が皆藤らを襲う!!

 

ビュゥゥゥゥゥウウウウウ!!!

皆藤「...!(まずい!!)」

少女「......?!」


すると、皆藤の後ろから雪崩が起こった!!!


皆藤「!!(雪崩まで!!!)」

少女「......」グッタリ


雪崩は、皆藤らを飲み込まんと、斜面を猛スピードで滑る!!


皆藤「ちゃんと掴まっててね...!」

少女「......?」

 

皆藤「降魔百景 高波!!!!!」

皆藤は、雪崩を塞き止めた!!


ズズズズズ!!!!

皆藤「...!(まずい...!雪崩の規模が大きくなってる!!!)」


ズズズズズ!!!!

雪崩は、皆藤の術を破る程の勢いで、さらに大きさを増していく!!!!

 

 

ズダァァァァァァァ!!!!!!!!!

 


雪崩は2人を飲み込んだ!!!!

 

皆藤「!!!!!!!!!!」ズダァァァァァァァ!

少女「...............」ズダァァァァァァァ!!

 

 

 

シュウウウウゥゥゥゥ...

 

 

2人は、気を失った。

 

────

 

『無線:おい、k...藤?!ズザザザ...皆...?!今どこd......?!皆藤!!!!返事しt......れ!!!!』


皆藤「.........!」


皆藤は、無線からの、途切れ途切れの音声で目を覚ます。額から流血して、視界はぼやけている。

辺りには粉雪が降り頻る。


皆藤「...!(そうだ...!あの子...!!!)」


皆藤は、雪の斜面に這いつくばりながら、おぶっていた少女を探す。

 


皆藤「!!!!!」

 


皆藤は、少し先で血を流して倒れている少女を発見した。

 

────


第425話 「暗剣殺

 

────


《雪山》


皆藤「!!!!!」

皆藤は、その少女に駆け寄る!


皆藤「ハァ...ハァ...そんな...そんな...!」

皆藤は、少女を抱きかかえ、脈を測る。


皆藤「ハァ...(まだ脈はある...でも、もって数十分...!そうだ...ヘリ!)」

皆藤は、無線機を取り、応答を待つ。

 

しかし、返事は帰ってこない。


皆藤「誰か...誰か...出て...」ズザザザ...

少女「.........」


皆藤「...(雪のせいで電波が悪すぎて聞こえてない...!しかも、雨雪の中の訓練をしているとはいえやっぱり悪天候の中だとマヂカラの消費が早い...!このままじゃ...この子が...!!)」


雪の勢いは、残酷にも増していく。

赤く染った雪溜りの中心で、皆藤は小さな声を振り絞る!


皆藤「誰か...!誰かいませんか...!!!!」

 

ゴォォォォォォ...

 

皆藤「ハァ...(視界が見えない...音も聞こえない...)」

 

 

皆藤は、少女を抱きしめる。

 


皆藤「...(せめて...私の体温だけでも、この子に......)」

 

 

数時間後、決死の探索によって、皆藤と共にいた少女は、サムワットによって発見された。

 


回想終──────

 

────

 

《廃工場》


皆藤「1人じゃ...何も出来ない...出来なかった」

白鶯「...」

皆藤「だから...私は、私1人じゃなくて、チームで最強になりたいって思ったの。じゃないと、救えない命があるから」

白鶯「...」


皆藤「なんで君をチームに招こうと思ったか、分かる?」

白鶯「さぁ」

皆藤「私に似てたからよ」

白鶯「俺が、お前に?」

皆藤「1人で十分だって、周りを突っぱねて、自分1人で何でも出来るみたいに思い上がって。独りきりで強くなろうとする君が」

白鶯「...」

皆藤「だから、君にも、失うものが出来る前に知って欲しかった。1人でいることの無力さを。皆で戦える事の強さを、幸せを」

白鶯「...」


皆藤「人は、何かを失った後悔を一人では抱えきれないから」


白鶯「...」


皆藤「...」

白鶯「なるほどなるほど...よくわかったよ」

皆藤「...?」

白鶯「人は簡単に変われないということがな」

皆藤「...え?」

白鶯「分かってないようだな。ならまず教えてやろう。お前は今からここで死ぬ。それは何故であるか...」

皆藤「...」


白鶯「それはお前が今、1人だからだ。結局お前は、1人でしか生きられない!!」

皆藤「......!!」

白鶯「見ろ。お前は今日も、俺を1人で止めに来ている。誰にも伝えず、たった1人で。誰かを連れてここへ来ようとしなかった。今まで散々組織の和に拘ってきたのが嘘のようだな。結局お前は、自分しか頼れない」

皆藤「...違う!これは、私の責任だから、私1人で...!」

白鶯「責任?なら、お前1人には重すぎたな」

皆藤「...!」

白鶯「死んで責任を取るとでも言うのか?笑わせる。それがここまで続いた友情ごっこの結末という訳か。なるほど。付き合わされた奴らが不憫だな」ズボッ!

白鶯は、自らの胸に突き刺さった天叢雲を引き抜く。

皆藤「違う......違う......」


白鶯「実にくだらん無駄話だった。それがお前の描いた物語の末尾だ」

白鶯は高笑いした。


皆藤「.........」ポロッ...ポロッ...


皆藤は立ち尽くし、俯いた。自らの両の手のひらを霞んだ視界で眺めた。


皆藤「...(皆......ごめんね......何も出来なかった......私、人とのコミュニケーションとか苦手で...これでも頑張って勉強したんだけど......上手くいかなかった......皆には辛い思いをさせて......沢山のことに巻き込んで......ごめんね......私がいなくなって、皆の時間が戻るなら...返してあげたい......ごめんね......ごめんね......)」

 

 

 

グ          サ          ッ          !!!!!!!!

 

 

 

皆藤「...!!」ゴブボビュッ!!!

白鶯は、皆藤の心臓を天叢雲で貫いた!!

白鶯「...ふははっ...!くだらん夢を見たせいだ。お前の敗けだ。無様だな」

皆藤「............」

 

皆藤は膝から崩れ落ち、地面に倒れた。


白鶯は、意識を失った皆藤の頭に足をのせる。


白鶯「数年かかった...お前という人間を超えるのに」ズリズリ...

白鶯は、皆藤の頭を踏みにじる。

 


白鶯「もう俺に敵はいない。俺こそが、真の最強だ!!!!!フハハハハハハハ!!!!!!」

 

 

 

皆藤理子 死亡。

 

 

 

その知らせは、魔裁組及び魔法協会を駆け巡り、大きな混乱と悲しみを招いた。


白鶯蓮源は、この事件を機に魔法界指名手配犯として、魔裁組及び魔法協会に追われる身となる。

 

────


第426話 「パレット」

 

────


年月は経ち──────


皆藤の一周忌を迎える月、千巣と京金は墓参りにやって来ていた。

墓地には、生けられた仄明るい花々が、広々と穏やかに咲いていた。

 


爽やかな風が吹く。

 


《皆藤理子の墓》


京金「理子さんが亡くなってもう1年が経つのね」

千巣「あっという間だな」

京金「白鶯は指名手配されたけど、まだ見つかってないし」

千巣「東海林も正式に退部が決まった。しばらく療養して一般社会に復帰するそうだ」

京金「唯、大丈夫かな」

千巣「本人次第だろうな」

2人は参拝をすませる。

千巣「そちらでもお元気で、理子さん」

京金「また来ますね」

 


2人は緩やかに墓地を歩く。

 


京金「ねぇ」

千巣「ん?」

京金「いつまで魔法使いやるの?」

千巣「俺?魔法が無くなるまで」

京金「そっか」

千巣「そっかって?」

京金「そんなに続ける理由って、何?」

千巣「それはさ。守るため?」

京金「守るって、何を?」

千巣「いやいろいろあるだろ。命とか、街とか」

京金「...そっか」

千巣「またそっかかい。何だよ。言いたいことがあるなら言えって」

 


京金が立ち止まる。

 


京金「私、もう魔法使い辞めようかなって」

千巣「...え?」

京金「私にはもう無理かな。理子さんにも申し訳ないけど」

千巣「ちょっと待ってくれよ、それじゃあ、」

京金「もう新しい子だって沢山育ってるし、大丈夫よ」

千巣「でも...」


京金「私、普通の人生を生きたい」


千巣「...!」

千巣は言葉に詰まる。

京金「大丈夫、アンタが何を言っても留まる気ないから、気にしないで」

千巣「...!」

 


京金「もうお終いにしましょ」

 


千巣「......!」


京金は、千巣に背を向けて、先を歩き出す。


千巣「ちょっ、」

京金「何も言わないで。私の為を思うなら」

千巣「...」


そして、京金は振り返る。

 

京金「あくえりちゃんによろしくね」

 


ヒュウゥゥゥー

 


爽やかな、風が吹く。

 

────

 

そして、時は更に過ぎ──────

 

 

《第2支部 / 研究室ルーム》


ジャ「なぎちん!」

五百旗頭「神野くん。どうしたの?」

ジャ「聞きたいことがあるんだけど、理子姉さんが生きてた時って、どうだった?やっぱり優秀だったの?」

五百旗頭「皆藤さんね。懐かしいわ。今も向こうで元気かしら」

ジャ「ねーねー。感傷に浸ってないで教えてよー!」

五百旗頭「彼女は本当に優秀だった。私には無い視点を与えてくれたわ」

ジャ「やっぱ優秀だったんだね!」

五百旗頭「エレメント注射を5色展開にしようって言ったのも、彼女よ」

ジャ「へー!!そうなんだ!!」

五百旗頭「うん」


〜〜〜


皆藤 ”赤は千巣君。彼の強烈な一撃を更にパワーアップすることが出来る出力高めのエレメントね!

”青は粟生屋君。ダジャレじゃないですよ?彼の能力の範囲の広さを生かせるような柔軟な感じで!”

”黄は白鶯君。彼のスタイルは肉弾戦だから、密着力が強い方がいいかもです!でも黄色は嫌かな?”

”緑はルカ。どんな戦闘方法でもしっくりくるように癖は抑え目で、でも基礎はしっかり!”

”紫は唯ね。彼女の想像力を活かせるような、エキセントリックで面白いエレメントがいいですね!”


〜〜〜


五百旗頭「本当、今思えば完全に私情よね」ボソッ

ジャ「ん?え?何?なんか言った?」

五百旗頭「いえ。あと神野くん」

ジャ「?」


五百旗頭「その呼び方、何」

ジャ「時差!!!!!」

 

────


そして、時は現代。

ジャスティンは一善と三太郎を連れ、雪山を歩いていた。

 

《とある雪山》


三太郎「へぇー!そんな人がいたのか!!会ってみたかったな!!」

一善「そうだね(...この力も、その理子さんって人の思いが込められてるのか...)」

ジャ「そうなのよ。俺も、また会いたくなってきちゃったゾ」シクシク

三太郎「あー!ジャスさん泣くなー!!」

一善「ジャスティンさん!あ、ハンカチ、ハンカチ」

ジャ「グスン...ありがと」

三太郎「情緒不安定かよ...」

一善「まぁまぁ...」


そして、一同の前には小さな小屋が現れる。

ジャ「さ!着いたよ!アレが恐らく、粟生屋さんが住んでる家だよーーん!!!」

一善「情緒不安定!!!!」


三太郎「お!やっとついたな!どれどれ...どれだけ強ぇ奴がいるのか、俺が確かめて来てやるぜ!!!」

三太郎は、小屋に向かってダッシュした!!

一善「おい!!!三太郎ってば!!!」

ジャ「やれやれ...!」

 


三太郎「行くぜ行くぜ行くぜ!!!」

 

────


第427話 「スカウト①」

 

────


《神戸》


幸二、麗美、莉茉の3人は、”とある人物”を尋ねるべく、神戸に来ていた。


幸二「莉茉さんって、'あ'の'人と絡みあるんですか?」

莉茉「私はね、ないの。時期は被ってたけど、支部が違ったから。ただ噂は聞いてたわ」

幸二「なるほど」

莉茉「2人はよく知ってるのよね?”京金さん”のこと」


3人は、京金ルカを魔裁組に呼び戻すべく、彼女が住むという神戸へ来ていた。


幸二「自分達は、実家繋がりでよく顔見せあってたんで。魔裁組以外でも」

麗美「.........」ムカムカ

幸二「それにしても、神戸に越したなんて初耳でした。話によると1人で住んでるとか」

莉茉「やっぱり魔具屋さんの娘って大変なのかな」

幸二「そうかもですね」

麗美「.........」ムカムカ


莉茉「麗美。どうしたの?何かムカムカしてるように見えるけど、可愛い顔が台無しよ」

麗美「.........」ムカムカ

莉茉「麗美?」

幸二「...」

 


麗美「アイツ、嫌い!!!!!」

 

 

────

 

《老人ホーム》


善能寺は、はるかと美波を連れて、とある老人ホームに来ていた。


ある”1人の女性”が、車椅子の老人に優しく声を掛ける。


東海林「はい、村田さん。お食事の時間ですよ〜」

村田「あれま、もうそんな時間かしら?」

東海林「はい。今日は村田さんが大好きな南瓜の煮物ですよ〜」

村田「あら!嬉しいわ〜!」


その様子を見て、美波とはるかがヒソヒソ話す。


はるか「なぁ、あの人が東海林さん?めっちゃ強いっていう」

美波「多分そう。凄い優しそうだね」

はるか「強そうには見えねぇけどな!可愛い女の人って感じだわ!」

美波「でも凄かったらしい。私も色々教えて欲しいな」

善能寺「...」

 


東海林に善能寺が声を掛ける。

 


善能寺「久しぶりね。東海林さん」

東海林「...!善能寺さん...?」

村田「あら、ゆいちゃん?お知り合いの方〜?」

東海林「あ、はい!ちょ、村田さん、まず向こうでご飯食べましょうね〜?」

東海林は、車椅子を押して、他の老人の元へ村田を送る。

 

────


東海林「お待たせしました...今日は...どうして?」

善能寺「ちょっと、大事な話があって。少しいいかしら」

東海林「えぇ...まぁ...」

善能寺「ありがとう。元気そうでよかったわ」

東海林「お陰様で。善能寺さんも相変わらずお若いですね。それで、その子達は?」

善能寺「彼女達は、現役の魔法使いの子達よ」

はるか「押忍!武智はるかです!」

美波「み、南野美波です!」


東海林「そうなんですね〜。私、東海林唯。よろしくねっ!」

 

────

 

《雪山》


三太郎が、小屋のドアをノックする。


コンコン!!!


三太郎「頼もう!めっちゃ強ぇ人!!!!」

一善「めっちゃ強い人て...」

ジャ「笑」


三太郎「ダメだ、何回ノックしても出てこねぇ。中でブルってんじゃねぇの?」

一善「そんなことないでしょ笑」

ジャ「まさか。粟生屋さんに限ってそれはないと思うけど、確かに、中にいるような気配はないね。すり抜けてみよっかな」

三太郎「お!ジャスさんお得意の抵触スレスレ魔法陣!!」

ジャ「やめろぅ!!その言い方!!」


一善「じゃあ、お願いします」

ジャ「とりあえず見てみるか」


ジャスティンは、小屋の中を魔法陣から覗き見た。


ジャ「誰もいないね。暗かったけど」

三太郎「じゃさ、この扉、開けちゃわね?」

一善「え、それは」

 

バコーーーーーーン!!!!!

三太郎が扉をこじ開けた!


一善・ジャ「馬鹿野郎ー!!!!!!!!」


三太郎「ふぅ...」パッ パッ

一善「ふぅパッパじゃないわ!これ、粟生屋さんの小屋じゃなかったらどうするんだよ!ばか!」

ジャ「いや粟生屋さんのだった方がやばいわ!殺されるぅ!!」

三太郎「ま、そんときは逃げるしかb」

一善・ジャ「だめだ、こいつ」

 

3人は、小屋の電気を付け、見渡す。


ジャ「なんだ?この像は」

三太郎「沢山あるな」


そこには、誰かが作ったであろう木彫りの小さな像が沢山置いてあった。


一善「不思議な場所だな...」

 

その時だった!!!!

 

 

ズズズズズズ!!!!!!

 

 

小屋が、小屋ごと宙に浮かび上がったのだった!!!


三太郎「おをおああああ!!なんだこれ!!宇宙?!宇宙?!」

一善「体が、浮いてる?!?!無重力か?!?!」


ジャ「来たな...!!あの人が...!!!」

 

────


第428話 「スカウト②」

 

────


《神戸 / 三宮のとある公園》


時間は夜。幸二らは、京金との待ち合わせ場所に指定された公園に来ていた。

夜の公園には、ストリートバスケをする学生や、スケボーの練習をする若者達がたむろし、独特な活気が流れていた。若者の間で人気なヒップホップチューンが至る所から聴こえてくる。


ガヤガヤガヤ...


莉茉「夜なのに結構人いるね」

幸二「ここであってる筈なんだが...」

麗美「こんな所に呼び出すなんて、相変わらず趣味が悪いわね」

莉茉「まぁまぁ笑。でもいいじゃない!広くて、この雰囲気、私は好きよ」


カツ カツ...


そこへ、1人の女性がやってくる。

一同「...!」

京金「こんな所まで、何の用かしら」

幸二「ルカさん...!」

莉茉「...!」

麗美「...!」


そこへ、後ろで集まっていた、色とりどりな集団が京金に声をかける。


若者A「だれー?ルカ?知り合い?」

若者B「やめとけ、取り込み中だろ」

若者C「昔の男的な?」

若者D「マジ?あーいうの好きなんだ」

若者A「でも女の子もいるぜ」

若者B「ちょっとナンパしちゃおっかなー」


京金「お前ら黙れ!」


若者「...!」ビクッ


京金は若者らに向かって言う。

京金「ちょっと行ってくるわ。すぐ帰る」

若者A「りょ...」

若者B「こっわ笑」

京金は、幸二らと少し離れた場所へ移動する。


幸二「相変わらずですね。ルカさん」

京金「で、何の用?」

京金は、タバコに火をつけて答える。

莉茉「...(魔裁組を抜けて結構経つのに、やっぱり伝説の6人の1人...圧が凄い!)」

麗美「...」

幸二「ご実家、いいんですか?」

京金「あぁ...いいんじゃない?別に」

幸二「ご両親はなんて?」

京金「物凄い剣幕だった。めんどくさかったわ」

幸二「それ、全く良くないですよね」

京金「私はこっちでなんとかやっていけてるし、そもそも、魔法使いを辞めたんだから、魔具屋なんて継ぐ必要ないでしょ」

幸二「...まぁ、本題はそこじゃないんで、この話はもういいですけど、ご両親も心配してますよ、とだけ言っておきます」

京金「...」


京金は、目を逸らす。


京金「で、本題ってのは?」

幸二「京金さん。戻って来てくれませんか?魔裁組に」


京金「...は?」

 

────

 

《老人ホーム》


善能寺「東海林さん。単刀直入に言うわ。貴方の力が必要なの」

東海林「私の...力?」

善能寺「もう一度、私達に力を貸してくれないかしら」

東海林「...それって」

善能寺「魔裁組に戻ってきて欲しい。魔法使いとして」

東海林「...!」


はるか「わ、私!聞きました!唯さん、めっちゃすげぇ魔法使いだったって!」

美波「私も!教えて欲しいことが沢山あるんです!」

東海林「...私、もう、ずっと戦ってないし...皆みたいには戦えないよ...それに」

一同「...」

東海林「私、そんな強い魔法使いじゃなかったから...」

はるか「...そ、そんなこと、ないと思いますけど?」

美波「私達の中では伝説っていうか...」

東海林「ううん。私、皆の中で落ちこぼれだったから...」

はるか「...」

美波「...」

 

SOREMA -それ、魔!- 52へ続く。