SOREMA -それ、魔!- 57

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SOREMA -それ、魔!- 57

 

 

 

 

 

 

「引導」

 

 

────


第464話 「一善、前へ」

 

────


《東京駅・丸の内駅前広場》

 


一善「...」

 


一善は、大きくなった結界の前に立ち塞がる。

 


魔者「ギェェェエ...!!!」

2体の魔者が一善に飛び掛る!

一善「つのキング」

 


グシャッ!!!

 


魔者2体はつのキングによって切り裂かれる!

つのキング「ウォーーーーーー!」

一善「...」

一善はつのキングの頭を撫でる。

そして、再び、結界を見つめる。

 


一善「...(今、同じような結界が、他にも現れてる。皆は無事だろうか。街の被害はどうなってる?)」

 


一善は、イヤホンから通信する。

 


一善「一善です。結界を見つけました。東京駅です」

 


ザザザザ...

 


返答はない。

 


一善「...(回線がパンクしてるのか...皆に届いてるか?)」

 


一善はマイクを切る。

 


一善「行こう。つのキング」

つのキング「ウォーーーーーー!!!」

一善が足を踏み入れようとしたその時...!

 


『ザザザ...一善!!』

 


一善「...!」

 


『ヒメ : 一善...!!』

一善「ヒメ!」

『ヒメ : 無事でよかった!』

一善「...うん!」

『ヒメ : ザザザ...ファイト!』

一善「...!ヒメも!」

 


ブチッ

 


通信が切れた。

 


一善「...(いつもの結界と同じなら、この後外の世界とは連絡が取れなくなる...)」

つのキング「...」

一善「必ず帰ります...!」

 


ゾゾゾッ...

 


一善は結界に入る!

 


《上空基地》

 


ひえり「...!」

五百旗頭「どうかした?ひえりさん」

ひえり「今...一善さんの声が...うっすら」

五百旗頭「...」

 


ひえりは東京駅の方向へ目をやる。

 


ひえり「!一善さんは、東京駅の結界の中かと!!マヂカラの痕跡が残ってます!」

五百旗頭「今現在の皆からの連絡を整理するとこうなるわね」

 

 

 

【ノベルウォー現在の動向】

・渋谷(結界・炎)

ジャスティン vs サド

 


・池袋(結界・煙)

莉茉 vs クリスティ

はるか、結界外

 


・上野(結界・霧)

東海林・百目鬼 vs ユゴー

美波移動中

 


・新宿(結界前)

麗美・京金

 


・品川(結界前)

幸二・三太郎

 


・東京(結界前)

一善

 


・表参道

虎走 vs アール・カルマ & 魔者数体

 


・上空基地

五百旗頭・ひえり

ヒメ、外へ

 

 

 

 

 

 

────


第465話 「朱里」

 

────


《上空基地》

五百旗頭「他のメンバーの居場所は?」

ひえり「はい。九頭龍坂さんと岩田さんが九段下付近で、魔者の相手をしています!」

五百旗頭「粟生屋君は?」

ひえり「粟生屋さんは...えーっと...」

ひえりは粟生屋さんを探す。

五百旗頭「通信してみるわ。粟生屋君に」

 


五百旗頭が、粟生屋に通信しようとしたその時。

 


ウィーーン

 


善能寺「仕掛けてきたわね...」

五百旗頭「...!善能寺さん!」

ひえり「...!」

 


善能寺「ごきげんよう。そんな呑気に挨拶している場合ではないけれど」

五百旗頭「はい。東京が混乱しています。前代未聞の大事件」

善能寺「私が魔法協会のトップに就任してから、今日が一番の一大事よ」

善能寺は、所々煙の上がる東京の街を眺めた。

そして、目を瞑り手を合わせる。

 


善能寺「今回のことで、もう犠牲者が出ています。皆も頑張ってくれているけれど、それぞれに出来ることは限界がある...」

五百旗頭「...」

ひえり「...」

善能寺「白鶯君...貴方が望む世界は、どんなものなの...?」

五百旗頭「...」

 


善能寺はそう呟き、一呼吸おいて続ける。

 


善能寺「これまでに魔法の犠牲になってしまった人の数は数しれない。今日まで悲しみの連鎖は繰り返されてきた。でも、今日、私はそれを終わりにしたい」

ひえり「...!」

五百旗頭「...!」

善能寺「私は、こうやって安全な所で皆に託す事しか出来ない...剣を振ったり、魔法を使うことが出来ない...」

 


善能寺は、視線を少し上へ向けた。

 


善能寺「だから...どうか皆さん...!魔者を...魔法を...今日で終わらせて欲しい...!」

五百旗頭「...皆同じ思いです」

ひえり「...」

ひえりは、何かを思い出して小さく涙を流す。

 

 

 

 

 

 

渋谷

 

 

 

 

 

 

《魔導結界・炎》

ジャスティン vs サド

 


ジャ「...」

ジャスティンはサドを前に、策を練る。

 


ジャ「...」

サド「...攻撃して来ないのか?」

ジャ「フッ。余裕だな。ならお言葉に甘えて...!」

 


ビュンッ!!

 


サド「...!」

ジャスティンは、一瞬でサドの背後に回る!

 


ガンッッッッ!!!

 


ジャスティンは、サドの脊柱に強烈な前蹴りを食らわせる!!

 


サド「ぐはっ...!!」

ジャ「まだまだぁ!」

ジャスティンは何度もサドを蹴りつける...!!

サド「...!!」

ジャ「うぉぉぉあ!!」

 


ドッカーーーーーン!!!

 


サドは、燃えるコンクリートの壁に突っ込んだ!!

 


パラッパラッ...!!

サド「ハァ...成程...」

ジャ「人なら死んでるぜ、もう」

サド「魔者で良かったよ」

ジャ「こちらこそ」

サド「は?」

ジャ「しぶとい方が嬲り殺し甲斐が有る...!」

サド「...!」

 


ジャ「お前は覚えてるか...?7年前のクリスマス...!」

サド「はて」

ジャ「お前ら魔者にとっては大したことの無い年月だろうが...俺にとって今日までは長い日々だった...!」

サド「何の話をしている?仇がどうのと言っていたが?」

ジャ「覚えてないか?お前が7年前に殺した、赤茶の髪の少女を...!」

サド「...?」

 


ジャ「”朱里”。お前が殺した少女の...俺が愛した”親友”の名だ!!!!」

サド「...?!」

 

 

 

 

 

 

 


第466話 「引導」

 


《魔導結界・炎》

 


ジャスティンは、サドに高速で接近し胸ぐらを掴む!!

サド「...!」

ジャスティンは、胸につけていたペンダントを出し、卵形になっている飾りを開く。中には赤茶の髪の少女の写真が入っている。

ジャ「見ろ!お前が殺した!まだ18歳だったんだぞ!!!」

サド「?」

ジャ「何故殺した?!何故だ!!何故なんだよ!!!朱里は誰にでも好かれるような、健気で優しい女の子だった!!なんで殺されないといけなかったんだよ!!!」

サド「...煩い」

ジャ「!!」

 


サドはジャスティンの手を振り払い、ジャスティンを蹴り飛ばす!!

 


ドカッ!!!!

 


ジャ「...!!!」

 


蹴り飛ばされたジャスティンは壁に当たり、地面に尻をつく。

ジャスティンは胸のペンダントをしまおうとするが、そのペンダントが既に自分の首元から離れていることに気がつく。

 


ジャ「...?ない...!」

ジャスティンが辺りを手探りで探していると、目前にサドが現れ、顔面を蹴りつける!!

ジャ「ぐはっ...!!」

 


サド「気が動転して正気で居られなくなったか?魔法使い。目の前に俺が居るというのに」

ジャ「...!」

ジャスティンは口から血を流し、サドを睨み上げる。

 


サド「お前が探しているものはこれか?」ジャラ...

ジャ「...!!」

サドは、ジャスティンのペンダントを引きちぎっていたのだ。サドはペンダントを手からぶら下げ、ジャスティンに見せる。

 


ジャ「...(俺としたことが...くそっ...!)返せ!!」

サド「...」

サドは、ペンダントを怪訝な目で見る。

 


サド「...古いな」

 


ポロッ...

 


サドは地面にペンダントを落とす。

ジャ「...!」

サド「...」

 


グ    シ    ャ    ッ   !!!!!!

 


ジャ「!!!」

サドはペンダントを踏み潰し、ペンダントは粉々になってしまった。

 


キラキラ...

 


サド「お前のような年頃の男が着けるにはちと古臭くないか?もっといいものを与えてやろうか?」

ジャ「.........」

サド「色合いや形状、全て似合っていなかった。良かったな」

ジャ「お前......」

サド「?」

 


ジャスティンから白いオーラが勢いよく発出する!!!!

 


ボワァァァァァァ!!!

 


サド「!!!」

 


サドは、辺りの瓦礫と共に吹き飛ばされる!!

 


ジャ「...」

体全体に白い閃光を纏ったジャスティンは、サドへ近づいていく。

 


サド「...(先程に比べてマヂカラ量が増している...?)」

ジャ「例えこの身滅びようと、神がお前を赦そうと...」

サド「...?」

ジャ「お前が死のうと、俺はお前を許さない」

サド「...ほぅ」

 


ジャ「...(少しばかり早いが、今日はまだ”切り札”がある。出し惜しみなく”覚醒させてやる”(おこしてやる))」

サド「...」

ジャ「死んでも覚えておけ、俺は、白のファンタジスタ。究極のエレメントの使い手」

サド「?」

 

 

 

ジャ「お前に引導を渡すのは、俺だ!!!」

 

 

 

サド「...!!!!」

 

 

 

 

 

 

────


第467話 「眩い光」

 

────


回想──────

 


18の歳のクリスマス。俺(ジャスティン)は、親友であり、想い人の朱里とデートに出かけていた。

 


《東京某所のイルミネーション》

 


ジャスティンと朱里はイルミネーションの中を並んで歩く。

 


朱里「護ってさぁ、彼女とかいないの?」

ジャ「え、いや、いないけど?」

朱里「だよねぇ〜。だって、いたらこんな日に私なんかと遊ばないもんね〜」

ジャ「あっ。うん」

朱里「...」

ジャ「...」

朱里「そういえばさ、もう”理子さんの施設”で働いて1年以上経つでしょ?どう?最近は」

 


理子さんの施設。魔裁組のことだ。朱里には魔法の事は話してない。姉さん(理子)との関係は話したが、魔裁組の事は、姉さんも働く教育施設として話を通している。そもそも、俺がこの時に魔裁組でしていたことは、研究班の雑用みたいなもので、実戦の訓練はしていなかったから、実質本当のことを言っているようなものだった。

 


ジャ「あっ。うん!いい感じよ〜」

朱里「何よ。いい感じって笑」

ジャ「いや。楽しいなぁみたいな?」

朱里「ひょっとして、好きな人でもいる?その施設に」

ジャ「あっ、いや!」

 


朱里と俺は、中学で出会った。

カナダで生まれた俺は、友達と呼べる友達もおらず、日本の文化にもさほど馴染めずにいた。

姉さんは時々気にかけてくれていたが、俺は基本的に孤独だった。

そんな時、唯一と言っていい友達が朱里だった。

朱里は、1人でいる俺に話しかけてくれた。他にも話しかけてくれる人はいたけど、不慣れな対応から、去ってしまう人が多かった。

でも朱里は、何度も何度も俺に話し掛けてくれた。

 


朱里は友達が沢山いた。休み時間も放課後も、周りには男女問わず友達が沢山いて、先生達からも愛されるような人だった。

 


そんな朱里が自分に話しかけてくれて、俺は素直に嬉しかった。そしてどんなときも、朱里は優しかった。

 


朱里「護はさ、幸せになるべき人だよ」

ジャ「え?」

朱里「私ね、護と一緒にいると楽しいの。落ち着くの」

ジャ「...」ドキドキ...

朱里「幸せには限りがあるのかな?だから、誰もが幸せになれるわけじゃない、不平等な現実がある」

朱里は左胸に手を当てて話す。

ジャ「...どうしたの?」

朱里「いや、なんでもないよ。このイルミネーションの一つ一つの光みたいに、たくさんの命が今も光ってるんだなって思って...ね」

ジャ「...なんか、ロマンチックだね」

 


突飛推しもない言葉に、俺はまともに答えることが出来なかった。

 


朱里は少し間を置いて再び切り出す。

朱里「護も恋とかするんだねぇ〜。中学の時、あんなに静かだったのに、マセちゃってさ〜!」

朱里はジャスティンを肘でどつく。

ジャ「いや、いないって!」

朱里「え、いないの?」

ジャ「うん。そういう感じで見てないし、皆のこと」

朱里「え、じゃあ、こんな歳になっても、恋愛とかしたことないの??」

ジャ「(マセてるとか言ってた癖にどっちだよ)」

朱里「ねぇ!どうなの!!」

 


朱里は、ジャスティンの顔をじーっと覗き込む。

 


ジャ「...(ここで言わないと...!)」

朱里「じっー」

ジャ「お、俺は...!」

 


その時だった!!!

 

 

 

 

 

 

────


第468話 「No title」

 

────


回想──────

 


《東京某所のイルミネーション》

 


朱里「ねぇ、どうなの!」

 


朱里は、ジャスティンの顔をじーっと覗き込む。

 


ジャ「...(ここで言わないと...!)」

朱里「じっー」

ジャ「お、俺は...!」

 


その時だった!!!

 


キャーーーーーー!!!

 


遠くから悲鳴が聴こえる!!

 


朱里「ん?なにか聞こえた?」

ジャ「あっ...え?」

 


俺は、この時、自分の心拍音しか聴こえない程に高ぶっていた。咄嗟に俺は辺りを見回す。

 


一般人「誰か来て!!!人が!!」

ジャ「...!」

朱里「...!」

ジャ「ちょっと見てくる!!」

ジャスティンは、声のする方へ人をかき分けて走った。

朱里「ちょ、ちょっとって!護!?」

 


ジャスティンが駆けつけると、そこでは人が血を流して倒れていた。

 


ジャ「...(事故か?まさか、魔者の仕業じゃないだろうな...?)」

 


ジャスティンは、マヂカラが見える半透明のシートを目元にかざし、遺体を見る。

ジャスティンはまだ魔法使いではないので、マヂカラが見えない。

 


ジャ「...!」

ジャスティンは遺体の一部にマヂカラ痕らしきものを発見する!

ジャ「...!(これは、魔法でやられてる...!)」

 


一般人「とりあえず、警察と救急車を...!」

ジャ「いえ!皆さん早く逃げてください!!ここは危険です!!!」

一般人「?!」

ジャ「早く!!」

一般人「ひょっとして、やっぱり殺人とか...?」

ジャ「とにかくここは危険です!逃げてください!!」

一般人は我先にと逃げ出した!ジャスティンは、シートをかざしながら辺りを見回す。

ジャ「(スマホどこだ...?実働班の人に連絡しないと...)」

ジャスティンはシートを持つもう片方の手で、ポケットからスマホ取り出す。

追いかけてきた朱里は少し離れてその様子を見る。

朱里「ハァ...ハァ...護?!」

 

 

 

俺は、シートを通して、魔者を探した。マヂカラ痕に残ったマヂカラの強さから判断して、瞬間移動していなければ、魔者が近くにいてもおかしくないと思ったからだ。

 


朱里「ちょっと護?!何してんの??」

朱里はジャスティンの近くへ駆け寄る。

ジャ「朱里...!!」

ジャスティンは横目に朱里を確認する。

朱里「どうしたの?護?!何かあった?!」

ジャ「朱里!ここは危険だ、今すぐ逃げ...」

 

 

 

俺はシートを通して朱里を見た。

その時にはもう遅かった。

 

 

 

朱里の背後に、ガスマスクの魔者が立っていた。

 

 

 

 


────────────

 

 

 

 

 

 

────


第469話 「悪夢から醒めた悪夢」

 

────


数日後

 


《第2支部

 


ジャスティンは、暗い部屋に1人籠る。

 


ジャ「...」

 


俺は朱里を失い、途方に暮れていた。

そして、何も守れない自分の無力さに腹が立ち、力を欲しがっていた。

 


コンコン

ノックする音がする。

 


ジャ「!」

 


ガチャッ

 


皆藤「...護」

ジャ「...姉さん」

 


皆藤は、沈むジャスティンに声をかけにやってきた。

 


皆藤「...聞いた」

ジャ「...」

 


皆藤「私達が、もっと早く駆けつけられたら...」

ジャ「...」

皆藤「...ごめんなさい」

ジャ「...」

 


ジャスティンは、唇を噛み締める。

 


ジャ「姉さん。俺、悔しいよ...」

皆藤「...」

ジャ「俺が...俺が戦えていたら...」

皆藤「...」

ジャ「俺が強ければ...!」

皆藤「護...」

 


ジャ「俺、何も護れなかった...!!!」

ジャスティンは、大粒の涙を流し、潰れた声を絞り出した。

 


皆藤「...(私が、護に戦いを教えていたら、結果は違ったのかもしれない...護に力を与えていたら、もしかしたら...目の前にあるものは、残酷な現実だけ。起こってしまったことはもう変えられない...現実を塗り替えることは、これから行動を重ねていくことでしか出来ない...なら、せめて私ができることは...)」

 


ジャ「姉さん...」

皆藤「...?」

ジャ「俺に...魔法使いを教えてくれ...!」

皆藤「...!」

ジャ「もう、この手から救える命を零したくないから...!」

皆藤「...(護は強い。心が強い。護のしなやかで真っ直ぐな心なら、この魔裁組の光になってくれるかもしれない...!)」

 

 

 

《黒の孤島》

 


皆藤とジャスティンは特訓を重ねる。

 


ジャ「とぅ!はぁ!!!」

 


ゴーグルをつけたジャスティンは、動く木々の中を颯爽と駆け抜ける。

 


皆藤「...」

皆藤はその様子を見ている。

 


ジャスティンは、地面に尻をつく。

ジャ「ハァ...どう?姉さん?」

皆藤「...」

ジャ「姉さん?」

皆藤「...あ、うん...よかったよ!その調子」

ジャ「俺もこんなゴーグル付けなくてもさ、姉さんみたいに魔法が使えるようになりたいよ〜」

皆藤「...」

ジャ「俺、姉さんを超える最強の魔法使いをめざしてるんだ!」

皆藤「...そう」

 


思えばこの時、姉さんは元気がなかったような気がする。

チームの解散、東海林さんの入院、粟生屋さんの退部、朱里の事。全て抱え込んで、それでも明るく振舞ってくれてたんだと思う。

エレメントの研究も、俺や仲間のために、誰よりも時間を削って没頭していたと、後からなぎちんから聞いた。

 


皆藤「今、五百旗頭さんとエレメントの研究をしてるわ。完成したら、護にもその力を使って欲しい」

ジャ「うん!もちろん!」

 


皆藤は、しゃがんでジャスティンに優しく語り掛ける。

皆藤「今はそのための基礎固め。体術が出来ないのと出来るのでは大きく差がつく。魔法って、すぐに強くなれるような夢のような力じゃないからね」

皆藤は、儚く笑った。

ジャ「はい!」

皆藤は、両手の人差し指を、ジャスティンのこめかみにそっとおいた。

 


皆藤「大事なのは、イメージ。どんな時も、イメージすることが、前に進む原動力になる。これは忘れないでね」

 


ジャ「はい...!頑張ります!姉さん!」

 


ジャスティンは、胸にぶら下げた卵形のペンダントを握りしめて言った。

 

 

 

 


そして、二度目の悪夢が、俺に降り掛かってきた。

 

 

 

 

 

 

────


第470話 「水」

 

────


《第2支部

 


不死の書が盗まれた日。俺は魔裁組の一員として、辺りの捜索にあたっていた。

 


そして俺は、姉さんの訃報を聞いた。

 


五百旗頭「皆藤さんは...」

ジャ「え...?」

 


ーーーーーー

 


俺は泣いた。身体中の水分が枯れ果ててしまう程に泣いた。この世に神様がいるなら、どうしてここまで酷いことが出来るのか。

 


俺は怒った。

 


そして自分に言い聞かせた。

怒れ、怒りに支配される程に怒れ。この怒りを止めてはならない。どんな絶望に立たされても、前へ進むために。

 


その矛先は白鶯という男へ、そして、魔法というものが牙を剥くこの世界そのものへ向いた。

俺は決意した。この世から魔法を無くそうと。

魔法の無い、平和な世界を作ろうと。

 


ーーーーーー

 


ジャ「五百旗頭さん!!!」

五百旗頭「神野くん?」

ジャ「僕に力をください...エレメント、もう完成していますよね?俺に、俺にその力をください...!」

五百旗頭「...?」

ジャ「今の僕じゃ、まだまだなんです。俺はもっともっと強くなって、この魔裁組を強くして、平和な世界を作りたい。その為には、どんな力だって欲しい。だから!エレメントの力を俺にください...!」

 


俺は無我夢中でいた。土下座までした。

 


五百旗頭「...顔を上げて。神野くん」

ジャ「...」

ジャスティンは顔をあげずに耳だけ傾けた。

 


五百旗頭「エレメントはまだ未完成よ。だからあの力はまだ貴方に預けられない」

ジャ「...!」

五百旗頭「だから、もう少しだけ...」

ジャ「嫌です」

五百旗頭「...?」

 


ジャ「もう少しだけ待って欲しい。そう言うつもりでしたよね。でもごめんなさい。僕もう嫌なんです。待ってるだけだなんて...!」

五百旗頭「...!」

 


ジャ「いつ完成するんですか?まだまだなら、僕も手伝います...!僕にできることならなんだってする...!僕は今すぐに...力が欲しい...!だから...だから...!」

ジャスティンは、血走った目で五百旗頭に問いかけた。

五百旗頭「...(ここまで言うか...)」

 


ジャ「...」

五百旗頭「後悔しない?」

ジャ「!」

五百旗頭「しないんだったら、ついてきて。見せたいものがあるの」

 


俺はなぎちんに連れられて、研究室の奥へと向かった。

 


そこには、注射器のようなサンプルがいくつか並んでいた。

 


ジャ「これは...?」

五百旗頭「これが、エレメントの元となる、エレメント注射よ」

ジャ「注射...?」

五百旗頭「ええ。エレメントは、この注射を打つことで、誰でも使えるようになるの。1本を作るのにかなり時間を要するけど、将来的には、どんな人でも魔法使いと同じ力を手にすることが出来るものになるはずよ」

ジャ「凄い...」

五百旗頭「でもこれは未完成。まだ治験の段階なの」

ジャ「というと...」

五百旗頭「人体実験をして、これの効果を確かめたい」

ジャ「...!」

 


俺は唾を飲んだ。この注射1つで、俺の運命が変わるかもしれない。勢いでここまできたものの、ここで改めて現実と向き合う。だが、迷ってはいられない。

手を伸ばすべきだ。俺の心の声がした。

 


ジャ「その治験...僕が受けてもいいですか?」

五百旗頭「...!」

ジャ「その注射、もし成功したら、俺は魔法使いになれるんですよね?」

五百旗頭「そうね。体にはマヂカラが流れ、成功したら技や魔法のようなものを使えるようになるでしょうね。魔具や体術を強化する効果がある」

ジャ「僕にやらせてください...!もう、後悔したくありません...!俺はこの力で、姉さんのような強い魔法使いになりたい...!」

五百旗頭「後悔しない?失敗したらどうなるか分からないわ。それでも?」

ジャ「はい。五百旗頭さんや姉さんが作ったものを俺は信じます」

五百旗頭「...わかったわ」