SOREMA -それ、魔!- 12

SOREMA -それ、魔!- 12

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「戦う理由」

 

────


第101話 「導きの声」

 

────


《鴨川河川敷》


一善「(予備動作!よく見ろ!観察しろ!そうすればいつ攻撃が飛んでくるか分かる!)」

三太郎「(攻撃を避けたら、その隙に畳み掛ける!)」

贔薫「...!」

千巣「来るぞ!」

一善「(足を引いた!)」

三太郎「(攻撃の後、即反撃だ!)」

贔薫「どりゃァ!」バァン!  バァン!

一善「”走”!」

一善は、攻撃を避けた。

三太郎「”守護”!」

三太郎は、魔法陣で攻撃を受け流す。

千巣「(会得したばかりの”守護”を応用...筋がいいな)」

一善「つのキング!!」

つのキング「ウォーーーー!!!」

つのキングが突進した。

三太郎「俺も行くぜ!黄のエレメント!タイガードリフト!!」


ガァン!!!


贔薫「ぐはっ!」


一善は、手のひらにエレメントを貯める。

一善「緑のエレメント!!潮騒!!」

一善の一撃は、贔薫のみぞおちに炸裂!


贔薫「ぶはっ!」


三太郎「よし!この方法なら行けるぜ!」

贔薫「ほざけ!虚空百裂拳舞!」バンバンバンバンバ!

一善「!!!」ドァン!ドァン!

一善は、空中で数発攻撃を受け、飛ばされてしまう。

一善「(くそ...不規則に飛んでくる衝撃波...目で見えない上に、予備動作も早すぎる!)」

三太郎「”守護”」バァン! バァン


バリィイイィン!!!!


三太郎「うわぁぁ?!?!!?!」

千巣「(三太郎の守護が破られた...!)」

贔薫「甘いな若造共。剃空飛行蹴撃!」シュン!

千巣「赤のエレメント!唐紅!」ボワッ!

贔薫「極真肉塊拳舞ゥ!!」ガァン!!

千巣「...!!」


贔薫「大口を叩いた以上、容赦はせんぞ。虚空百裂拳撃!!!」バンバンバンバンバンバンバンバンバン!

一善「!!!(来る...!)」

三太郎「(”守護”では受けきれない。一旦距離を取るか?)」

千巣「(俺には技が”視える”が、こちらの攻撃を当てなければ...”アレ”を使える状況に持って行ければよいが、周囲に影響が出たらまずい...!)」

一善「(見極めろ...!見極めろ...!)」


???「右! 左! 右!」


一善「?!?!」ヒュン ヒュン ヒュン!

一善の体が、謎の声に従って、勝手に動いた。


贔薫「?!(攻撃を全て避けられた?!)」


???「行くぞ!そのまま!前へ!」


一善は、前へ高速で進む…!

千巣「(一善?!突っ込むだけでは相手の攻撃を受けるだけだ!)」


一善「?!」シューーーー!!

一善は、高速で、つのキングと共に贔薫に向かった!!


贔薫「ハァッ!ハァッ!ハァッ!!!」バンバンバン!

一善「?!」ヒュン ヒュン ヒュン!

三太郎「(な、何が起きてるんだよ!一善に攻撃が全く当たってねぇ...!)」

千巣「一善も攻撃が見えるのか?」


一善「?!(なんだ?声に導かれて体が動く...!)」

贔薫「馬鹿な!!」バンバンバンバンバンバン!


???「右!左!」


一善「!!!(これなら行ける!)」ヒュン ヒュン ヒュン!

贔薫「?!」

一善「(よし!かなり近づけた!今なら!)」

???「そこだ!」


一善「うぉぉぉぉ!緑のエレメント!”草枕”!!!」


贔薫「ぐわぁぁぁぁぁ!!!」


一善「(...なんだ?!この感覚は!!)」

 

────


第102話 「河川敷の死闘」

 

────


《鴨川河川敷》

贔薫「(小僧...!やりおる!)」

千巣「(今だ!)赤のエレメント!血照天!」

贔薫「ぐはぁ!」


一善「(さっき、誰かの声が聞こえた?千巣さんか?いや、多分違う。まるで、全ての攻撃が視えているみたいだった...!)」


三太郎「一善!畳み掛けるぞ!」

一善「!おう!」


三太郎「黄のエレメント!ジャスティス・THE・ハンド!!」

一善「緑のエレメント!巌窟王!行け!つのキング!」

つのキング「ウォーーーー!」


千巣「(この攻撃が通れば...!)」


一善と三太郎の攻撃が、贔薫に炸裂しようとした、その時だった。


贔薫「!!!!!」


バォォォォォォン!!!!


贔薫を中心とし、大きな衝撃波が辺りに放たれた。

贔薫「...!」

三太郎「うわぁぁぁぁぁぁ!!!!」バコーン!

一善「うわぁぁぁぁぁぁ!!!」バコーン!

千巣「...!(予備動作が一切ない!一瞬にして辺りが抉られた!)」


贔薫「仕留めたとでも思ったのか?恥を知れ」

千巣「(あの攻撃、体の全身から衝撃波を放つ大技...マヂカラの貯めもほぼない!)」

三太郎「(くそっ!あれを連発されちゃあ近づけない!)」


贔薫「ハァッ!ハァッ!ハァッ!!」バンバンバン!

三太郎「”走”!(とりあえず距離をとる!)」


千巣「...!」ヒュン ヒュン ヒュン!


???「左!右!左!」


一善「!!!」ヒュン ヒュン ヒュン!

一善には攻撃が当たらない。


贔薫「ならば!!!!」


???「来るぞ!」

一善「?!」

???「俺が君を守る!」

一善「!!」


バォォォォォォン!!!!


千巣「(来た!あの攻撃!)”守護”!」


つのキング「ウォーーーー!!!」

つのキングは、衝撃波を受止め、一善の盾になった。

一善「つのキング!」

???「今だ!!」

一善「!!」


贔薫「?!」

千巣「?!」


一善「緑のエレメント!!風流仏!!!」

 

心臓を貫く緑の光────!!

 

────


第103話 「1秒」

 

────


《鴨川河川敷》

贔薫「!!!!!!!」ドォォォォン!!!


贔薫は、その場に倒れ込んだ。

三太郎「(やったか...?)」

千巣「?!」

一善「...!」


???「逃げろ!」


バォォォォォォン!!!!


一善「うわぁぁぁ!!!」ドゴォォォォン!

一善は、倒れた贔薫から放出された衝撃波に吹き飛ばされた。


三太郎「一善!!!!」

一善「くっ...(声は聞こえた...でも体が動かない...!マヂカラの消耗が激しすぎる...いや、聞こえたから、さっきは動けた!よく聞け!聞けば必ず動く...!あいつを倒せる!!)」

 

 

”心がけるのは、よく聞こうとすること”

 

 

一善「聞け...聞け...聞く...んだ...」

 

???「〇げ※...に△ろ...!」

一善「あ、、、あ、、、」バタン!

一善は、急速なマヂカラの消費で、意識を失った。


まつり「!!!(一善はん!倒れはった!)」


贔薫「終いじゃな」


バォォォォォォン!!!!


三太郎「(あの衝撃波!)一善!!!逃げろ!!!!」

つのキング「ウォーーーー!!!」

まつり「!!!!」

 

シュパッ!!!!!

 

三太郎「!!!」

まつり「!!!」

贔薫「散ったか...?」


シュゥゥゥ...

千巣「千紫万紅流居合...月光狩り...!」


千巣は、一善に向かう衝撃波を全て一掃した。

贔薫「(一太刀で儂の攻撃を...)」

千巣「...全く、世話のやける後輩だなぁ、ジャスティン」ドン!


贔薫「.....」

三太郎「アニキ!!!!」


千巣「”走”!」

千巣は、一善をまつりの元へ避難させ、三太郎の元へ向かった。


ピュン!


千巣「三太郎、あいつの動きを1秒止めて欲しい。俺はこの眼で相手の攻撃が見える。あのノータイム衝撃波の前兆も何となく読めた。だから攻撃が来そうになったら俺が合図する。隙を狙ってあいつの動きを止めてくれ。一善は恐らく戦闘不能。だが、かなりの削りを入れてくれた。後は俺たちがやろう。頼れるのはお前しかいない」

三太郎「お、おい、そんなことより、その傷、大丈夫なのかよ?」

千巣は流血していた。

千巣「全然余裕だわ。出来るか?」

三太郎「な、なんか、アニキも一善も、やってることの次元が高すぎて何言ってるか分からねぇし、俺もやれるだけやってみるけどよぉ、出来るかわかんねぇよ...?」


千巣「お前は死なない。俺が死なせない。だからやってくれ、スーパーヒーロー...!」

三太郎「!...俺、単純だな」

千巣「...!」

三太郎「分かった。1秒でいいんだな?アニキ。俺に任せろ!」ドン!


千巣「(一善も三太郎も、十分実戦能力が上がっている…もうチュートリアルはおしまいだな。魔者を狩ることに専念しよう。最後に、三太郎の'仕'事が成功すれば、”アレ”を使ってこいつを退治する」

 

────


第104話 「弱くない」

 

────


《鴨川河川敷》


三太郎「(さっき、一善が1発食らわせたとき、あの魔者は倒れてた!1秒以上は倒れてたはず!魔者は攻撃を受けてダメージの蓄積も大きい!つまり、あの程度のダメージを与えれば、1秒は止められる!)」


千巣「(俺は三太郎に向かう攻撃を視覚しつつ、術の下準備の為に、マヂカラの消費を抑えよう)」


贔薫「あと2人...先に”弱き若造”から始末しようぞ」

三太郎「俺のことか?!俺は弱くねーー!!」

贔薫「虚空百裂拳撃!」バンバンバンバンバンバン!


千巣「三太郎!右!左!右!」

三太郎「(やべぇ!クソムズイ!)うわぁぁ!」

連撃の内一撃がヒットした。

千巣「三太郎!(無理もない、こんなんで攻撃を避けきれる方が異常だ...!)」


三太郎「くっそ!!!」

 

千巣”守れる命は複数あるが、賭けられる命は1つだ”

千巣”自分の命を大切にしろ、ということだ”

 

三太郎「(アニキ...!おれは死なねえよ...これからもこの先も、俺はスーパーヒーローなんだ!!だけど、死ななきゃいいんだよなぁ!)」

千巣「?!」

三太郎「うぉぉぉぉぉぉぉ!!」

三太郎は、拳に守護の魔法陣を展開し、攻撃を受けながら贔薫に迫った!

千巣「!!!」


三太郎「俺の拳は!砕けねぇ!!!」


贔薫「?!」バンバンバン!


三太郎の拳は、数発攻撃をくらい、贔薫にヒットする直前、魔法陣が割れた!


パリィイィン!


三太郎「!!!」

千巣「三太郎!!!」

贔薫「!!!(生身でここまで近づくなど、愚か!)」


三太郎「うぉぉぉぉ!!(くそ!マヂカラが足りねぇ!!)」

贔薫「極真肉塊拳舞!!」

三太郎「絞りだせ!!!ぬおおおお!!!」


ガチン!!!!


贔薫と三太郎の拳が、空中でぶつかりあった!


贔薫「愚か…!!!」バリバリィ…!

三太郎「!!!!くっそーーー!!!!」バリバリィ…!


ドォン!!


三太郎は押し負け、空中で遠くに飛ばされた。

贔薫「(くっ...魔導の導きが、弱まっていく)」シュルルッ…

贔薫は、そのまま地面に垂直に落下した。

ドーーーーン!!!


贔薫「.....」

贔薫は、地面に仰向けになって倒れた。

贔薫「(若造共はどこじゃ...)」

贔薫が立ち上がろうとしたその時だった。

 

 

バクン!!!!

 

 

寝転がる贔薫の両目に、紫に輝く怪しい2つの光が逆さに映った。


贔薫「...何じゃ?」

千巣「上出来だ。感謝する...三太郎」

贔薫「...?」

千巣「6秒。お前を葬るには十分過ぎる時間だ」

贔薫「?」


千巣「四十六眼!虚(うつろ)!!!!!」

 

────


第105話 「虚」

 

────


《鴨川河川敷》


贔薫「?!」

 

 

バクン!!!

 

 

《異空間》

贔薫「?!ここはどこじゃ?」

贔薫の目には、現実のものでは無い空間が無限に広がっている。赤黒い花が一面に咲き誇っている。

 

千巣「どこでもない。強いて言うなら、お前の墓場だ」

贔薫「愚かな!反吐が出るわ..若z...」


グシャ!!!!


贔薫の腕がもげる。勢いよく血が吹き出す。


贔薫「!!!!!!!」


千巣「痛いだろ?」


贔薫「!!!(魔者は痛みを人並みには感じないはず...!なのに、なぜ!!)」


千巣「お前に奪われた命の痛みはこんなもんじゃない」


グシャ!!!!グシャ!!!!グシャ!!!!


贔薫「ああああああああ!!!!!!」


贔薫は四肢を全てもがれ、宙に浮いている。


千巣「四十六眼、対象の視覚、聴覚、嗅覚、聴覚、味覚に干渉する能力を持つ特殊な眼。そして今お前がかかったのは、先代の四十六眼開眼者から受け継がれた伝統奥義、”虚”...!」


贔薫「...?!」


千巣「もちろん、お前の五感を1つずつ奪うことも可能だった...だが、無闇に術を繰り出すと、俺の視界の中のマヂカラの弱い他の人間にまで効果が波及することがあるんでな...二人きりになれて良かったよ」


贔薫「...!」


千巣「五感を同時に与奪するという事は、幻想の中に放り込むのと同義だ。そしてお前は今、俺の手のひらの上。こうやってな...!」


グシャ!!!!


贔薫「ぐはあぁぁぁ!!!!?!?!?(また腕をもがれた...!!!腕は既にもがれたはずじゃが??!)」


千巣「ここは存在しない視界。お前がみている光景全ては、俺が見せている虚像。お前が受けている痛みも、全て俺が与えている虚妄。故に俺が術を解くまで、この地獄は...」


贔薫「....?!!?!」


千巣「無限に続く」


贔薫「!!なんじゃt」


ブシャーーー!!!!


贔薫の口が避けた。


千巣「うるさい。口を開くな。よく聞け、この術を解く方法は2つ。俺が意図的に解くか、お前が廃人になるかだ。この術にかかった地点で、お前のマヂカラの強さは、俺を下回っている」


贔薫「!!!!!!」

千巣「つまり、ゲームセットってことだ。少しは楽しめたよ」

贔薫「…貴様!!(まさか、本気じゃなかったとでも言うのか…?!)」


千巣「ご愁傷さま」

 

────


《現実世界/鴨川河川敷》


グサッッッッ!!!!!!!!


千巣は、刀で寝転がる贔薫の心臓を貫いた。


千巣「...」

 

終戦────!

 

────


第106話 「討伐完了」

 

────


《鴨川河川敷》

三太郎「(動きが止まった...!?何が起きたんだ?!)」

まつり「!!!?!」


千巣「終わったぞ」


千巣が刀を抜くと、贔薫は消滅し、その場には魔導書が残った。千巣は魔導書を拾った。


三太郎「す、、す、、」

千巣「?」

三太郎「すげぇよ!!アニキ!!!」

千巣「はぁ?」


三太郎「さすがアニキ!」

千巣「なんだよ!気持ち悪いな」

三太郎「俺もいつかアニキみたいになりたい!!」

千巣「いや、お前はスーパーヒーローになるんだろ?」

三太郎「アニキはスーパーヒーローだよ!」

千巣「はぁ。何度も言ってるが、俺は弱い。今回も、全員で勝ったんだ。だから、ありがとな」

三太郎「ははっ、照れるぜ。そうだ、一善は?」

千巣「さっきは気を失ってた。ちょっと見てみるか」

三太郎「一善!大丈夫か!」

三太郎は、一善の元へ駆け寄る。


千巣「(...あの魔者...あんなクラスがゴロゴロいられたらヤバいぞ...?ここ数年魔裁組が確認した魔者の中でも一二を争う強さだった)」


三太郎らは、一善とまつりのもとへ近寄る。

まつり「あの、、」

千巣「一善は、まだ目を覚まさない?」

まつり「はい、、」

千巣「.....脈は普通にある。恐らく、マヂカラの制御が効かなくなって、オーバーフローしたんだろう」


一善「....!」ゴボッッ!

三太郎「あ!一善!!!」

一善が目を覚ました。


一善「...三太郎?....千巣さん...まつりちゃんも」

まつり「よかった!目え覚ました!」

千巣「一善、魔者倒したぞ」

一善「...ありがとうございます」

三太郎「お前凄かったぞ?!マジで」

一善「そう?って...2人とも...怪我が酷い」

三太郎「お前もだ」


まつり「皆はん。ありがとうな。あやかし祓ってくれはって」

一善「この子...まつりちゃん...魔者が見えるみたい」

千巣「君も魔法が?」

まつり「魔法?」

千巣「...まぁ、いっか」

まつり「皆はん。京都(こっち)のもんとちゃうやろ?宿はお決まりなん?もう遅いさかい、家泊まって行かへん?ぎょうさんご馳走しますえ!」

三太郎「え、いいの?」キラキラ

まつり「もちろん!」


満身創痍の一行は、まつりの家にお邪魔することになった。

 

────


第107話 「まつり」

 

────


《京都/まつりの家》

まつりの家は、古くからの日本家屋といった趣で、客が呼べるほどには広かった。

三太郎「なんか、京都って感じだね!」

まつり「せやろか」

千巣「いい家だ」

まつり「なんか照れるわ〜強い男に褒められると」

三太郎「!!(俺は?!)」

まつり「あ、皆はんやで?笑」

三太郎「ーーーー!!」


まつりの部屋には、いくつか写真が飾られていた。

一善「モノクロ写真か。オシャレだね」

まつり「せ、せやろか。なんか恥ずかしいさかい、よう見んといてや」

三太郎「ん?この人、まつりちゃんに似てる!」

一善「確かに、少し似てるかも」

まつり「ほ、ほんまかいな、、」

古びたモノクロの写真には、まつりに似た若い女性と、同じくらいの厳つい男性が映っていた。

一善「おばあちゃんとおじいちゃん、とか?」

まつり「ま、まぁそないな感じやろか、、」

三太郎「この兄ちゃんなんかワルそ〜ww」

まつり「...」

千巣「?」


その後、3人は、まつりに手料理を振る舞われ、簡単な手当を施してもらって就寝した。

 

(-_-)zzz

 

《一善の夢の中》


そこは、清らかな川にかかる橋の上。奥には竹林が見える。

一善「...?」

     「一善はん!」

一善「?」

振り返ると、そこにはまつりの姿があった。

一善「まつりちゃん?」

まつり「”最期”に伝えたいこと、あってな」

一善「最後?」


まつり「ありがとう」


そう言うと、まつりは、橋の向こうに走っていった。


一善「まつりちゃん!待って────!」

 

────

 

《まつりの家》


朝。


バッ!

一善は目を覚ました。

三太郎「おはよう!一善!」

一善「...おはよう」

千巣「起きたか。実はよお」

一善「はい────?」

 


────

 


四条大橋


時は遡り、午前2時、四条大橋。先刻まで命の削り合いが行われていたとは思えないほどの静寂が、川のせせらぎと共に流れていた。


まつりは、橋の上から、流れる川の流れに目を瞑る。髪を解き、クローバーの簪を握った。

 

まつり「...終わったで」

 

まつりは、髪を夜風になびかせながら、橋から飛び降りた。


川の流れは、静寂の中で、何も無かったように静かに流れている。

 

その夜、彼女を見たという者は誰も現れなかったという────

 

────

 

《まつりの家》


千巣「まつりちゃんが見当たらないんだよ」


一善「え、本当ですか?」

三太郎「ホント!朝起きて家の中探したけど、どこにもいないのな!」


千巣「隣の家の人にも聞いてきたけど、”そんな子知らない”って」


一善「え...?」

三太郎「写真とか色々なくなってるし、夜逃げでもしたのか?」


一善「...?!」


千巣「...ま、”そういうこと”かもな。魔法があるような世界だし」

三太郎「え、そういうことって?」

千巣「お前、風情が無いなぁ、ついでに想像力もないな。ま、なさそうだけど」

一善「...ですね」

三太郎「アニキ、もしかして俺のことバカにしてます?」

一善「ま、まぁまぁ。きっと夜逃げだよ、だから俺達も逃げないと、疑われちゃうよ」

千巣「とりあえず早く支度しろー観光する時間無くなるぞー」

三太郎「あ!そうだ!早くしろ一善!これから伏見稲荷いくんだぜ!」

一善「あ!行きたい!」

三太郎「早くしないと置いてくぞ!」

千巣「...元気だな、こいつら」


そして、3人は玄関先でお礼をし、まつりの家を後にした。

一善「(元気でね...まつりちゃん)」

 

まつり「ほんま、ありがとう。きぃつけてな...」

 

彼女の声が、3人に届くことはもうなかった。

 

────

 

第108話 「戦う理由」

 

────


清水寺


夕方。


一行は、京都観光を終え、帰路に着くところ。

三太郎「はぁー京都よかったなぁ。日本人の故郷だぜ!」

一善「また来れたらいいな」

千巣「でもまさか、京都で魔者を狩るとはな」

三太郎「たまには気分転換で地方に行くのもいいね!」

一善「遊びじゃないんだから」

千巣「それにもうねぇだろ。多分」

三太郎「がびーん」


一善「...千巣さん」

千巣「?」


すると一善が足を止め、深刻そうな顔で切り出した。

一善「俺、魔法使いとして、このまま居ていいのか不安です」

三太郎「?」

千巣「というと?」

一善「なんというか、実力もまだまだだし、何よりも、魔法使いとしての自覚が足りてません。紅白の前に幸二にも言われたんです。俺はあの時、”友達”を救えなかった。今でも、まだ中身は普通の人間のまま。自分が人として正しいことをしているのか自信がありません。でも、時間に流されるがまま今日までやってきてる気がして、このままでいいのかなって。思います」

三太郎「...」

一善「ジャスティンさんや、皆が、俺の力を買ってくれてるのはありがたいです。でも、この力を”使っていいよ”と、自分を納得させられないんです...」


千巣は一善の顔を真っ直ぐ見て答えた。


千巣「戦う理由がないからじゃないか?」


一善「それは…魔法をこの世界から無くすため…?」

千巣「それは魔裁組全体の目標だ。一善、お前だけが持つ戦う理由はないか?」

一善「…!」

千巣「例えば、”誰かを守りたい”、”誰かのようになりたい”、”目的を達成したい”。こういう明確な意思があれば、人間離れした力を行使するのも、少しは抵抗なく出来るんじゃないか?たしかに、自分が強大な力をもっていることに恐ろしさを感じることもあるが、明確な動機は時にそれを正当化する」

三太郎「俺はスーパーヒーローになるために魔法使いになった!」

千巣「うむ。単純明快でよろしい」

一善「なるほど」


千巣「守りたい人やものはないのか?」


一善「守りたい...もの」


千巣「...」

三太郎「...」


一善は考えた。

一つ、浮かんできたことがあった。


一善「一日一善...」


千巣「?」


一善「母がよく言っていたんです。毎日1つでいいから、善いことをしろと。もしも僕が魔法を駆使して、街の平和を守ることが善いことだと言えるなら、俺はこの言葉を…母との約束を守りたいです」


千巣「なるほどな。いいんじゃないか?家族との約束を守るために戦う。十分立派だと俺は思うがな」

三太郎「なんか、かっこいいな。一善!」ニカッ!


一善「千巣さん。三太郎...」


千巣「油木一善という魔法使いが今1人、生まれたな」

一善「はい…少し、前を向けた気がします」

三太郎「おう!!一緒に頑張ろうぜ!」

一善「...うん!」

千巣「...」ニコ


一善は、澄み渡る茜色の空を見上げた。

一善「(お母さん。俺、大丈夫そうだ。だから見ててね。やってみせるよ)」


一善の心にあった靄(もや)は、夕陽に照らされ消えた。


三太郎「あ、そう言えば、アニキはなんのために戦ってるの?」


千巣「は?俺は別にいいんだよ」

三太郎「はー?自分は言わねえのかよ!」

一善「ちょっとずるいですよ」

千巣「俺はいいの!別に!あっても言わねえ」

三太郎「教えてくれよーアニキィーー!!」

 


────

 


こうして、一行の京都魔者狩り遠征は幕を閉じた。

 

────


第109話 「一方通行」

 

────


《第1支部


一善らは、京都での任務を終え、第1支部にて休養を取っていた。


三太郎「それでそれでそれで?!他にはどんな能力があるの?!アニキ!!」

千巣「っもう、近寄るな。術かけるぞ」

三太郎「ぎゃーーーー!!やめてーー!!」

三太郎は、千巣の四十六眼について興味を示していた。


一善は、食堂で1人考える。

一善「(あの時...)」


”右! 左! 右!”


一善「(体が自然に動いた...助けてくれたのは多分、君、なんだよね?つのキング?)」

一善は、こちらを見て羽ばたくつのキングを見て言った。

一善「(...あれ以来、何も聞こえないな)」


そこへ、村松が通りかかった。

村松「...!」

一善「あ、村松さん!」

一善は、村松の元へ駆け寄る。

村松「疎通、なんか少しだけ出来たような気がする。まだ一方通行だけど。ありがとう」

村松「...うん」

村松は歩いていった。


一善「一日一善。もう少し練習だ」

 

────

 

ジャスティンサイド/とある森》


ジャスティンと第2支部のメンバー、幸二、はるか、そして交換留学中の伊藤蘭は、魔法協会の手配した車に連れられ、遠方の山奥へやって来ていた。


車は、森の入口のような所で止まった。

ジャ「よし、みんな着いたよ」

はるか「ねぇジャスティンー。ここどこ?」

ジャ「俺も知らない」

はるか「は?」

幸二「とりあえず降りよう」

伊藤「なんか、不気味...」


4人が車を降り、運転手が車で引き返していく。


サーーーーー....

ゾワァァァァァ.....


幸二「うっ!(何だ?降りた瞬間からマヂカラが半端なく充満してる)」

伊藤「分からないけど、なんか不気味...」

はるか「おい!なんだよここ!めちゃくちゃマヂカラの気配が強い!」

ジャ「ここは、マヂカラの宿る山」

幸二「山?」

ジャ「あぁ。マヂカラが古くから自然発生している危険な山だ。面白がって遊びに来るような輩が出ないように、場所も俺たち含めて公表されていない。知っているのは、魔法協会の限られた人間のみだ」


バサバサバサッッッ!!!


伊藤「キャア!!!」

はるか「な、何?!」

幸二「ただのコウモリだ...」

ジャ「...」

伊藤「なんか、ちょっとヤバいんじゃ...」

はるか「流石に私も、怖いかも...」

幸二「ジャスティンさん、ここで何を?」


ジャ「魔者を狩る…!」

 

 

新章スタート──────!

 

SOREMA -それ、魔!- 13へ続く。

 

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第101話 「導きの声」

第102話 「河川敷の死闘」

第103話 「1秒」

第104話 「弱くない」

第105話 「虚」

第106話 「討伐完了」

第107話 「まつり」

第108話 「戦う理由」

第109話 「一方通行」