SOREMA外伝 The Parallel ①

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SOREMA外伝 The Parallel 1

 

 

 

スカイツリー / 魔裁組第2支部

 


俺は天堂幸二。魔法使いをやっている。

 


外は生憎の雷雨。今日は休業だ。こんな荒れ模様なのにも関わらず、町は平和。変わったものだよな。

 


まぁでも、ロスト・フロンティアでの激闘の傷を癒すには都合がいい。

 


コーヒーを飲む。

 


支部には俺しか居ない。

皆、悪天候の日になるとこぞって買い物やらレジャーに出かけたがる。もうすぐ誰か帰ってくる頃だろうか。

 

 

 

ゴロゴロピッカーーーーーーーン!!!!!

 

 

 

その時、俺の鼓膜に大きな落雷の音が響いた。そして、支部の電気が全てストップしてしまった!

 


支部から見える景色はスカイツリーから見える景色と連動している。だが、魔法陣を介して繋がっているだけで、ここに落雷が落ちるのはおかしい。なにがあったのだろうか。

 


真っ暗闇で何も見えない。

 


幸二「おい、誰かいるかー!?!」

 


返事はない。こんな時に俺だけか。支部が停電するのは恐らく初めてだ。ブレーカーの位置だってわからない。誰かに電話して聞くか?

 


スマホを覗き込むと、左上には圏外の文字が。

 


幸二「ちっ…!マジかよ」

 


歩き回るにも、障害物1つ見えない故、1歩進むことすら困難だ。

 


幸二「…」

 


なんか…眠くなってきた…ような…

 


バタン

 


俺はその場で気を失ってしまった。

 


────

 


変な夢を見た。

 


それは、魔法が封印される夢。いや、魔法が無くなった世界の夢だ。

 


俺は仲間達と遊び、皆が笑って時を過ごしている。

 


俺たち魔裁組が目指す、魔法なき世界の夢だ。

 


だが何か違和感がある。何か大切なものを忘れてしまっているような…そんな夢だった。

 


────

 


目が覚めるとそこは、都心の公園だった。天気は快晴。休日のお昼時を過ごす人で溢れている。

 


幸二「…?!ここは?!」

 


俺はどうやら、ベンチの上で寝てしまっていたらしい。目の前を通り過ぎていくカップルや老人の目が痛い。

 


男性「あいつ…ベンチで寝るってやばくない?」

女性「もしかして、ホームレス?!w」

男性「高校生で?やばw」

 


ホームレスじゃねぇよ。しかも高校生でもねぇ。

ってか、ここはどこだ?なぜ俺はここに居る?

 


俺は体を起き上がらせ、辺りを見る。俺は確か、支部にいなかったか?しかも天気は落雷。時間も遅かったはず。公園の時計を見ると、時刻は13時過ぎ。俺はここで夜を明かしたのか?

 


立って自分の服装を見ると、昨日着ていたシャツではなくなっていた。どころか、”今着ている筈のない服装”を、俺は着ていた。

 


幸二「これって…高校の制服…?!」

 


ブレザーを脱ぎ、それを確認した。高級感のある紺地のブレザーに、金色の校章らしきボタンがついている。

 


幸二「これ、どこの高校の制服だ…?どういう事だ?」

 


この制服に見覚えはない。俺が高校生時代に着ていたものとも違う。どういうことだ、何が起きている?スマホで今日の日付を…

 


と、ズボンのポケットを探すも、スマートフォンは無くなっていた。

 


幸二「スマホがない?!」

 


するとそこへ、俺の名前を呼ぶ声がする。

 


???「おーい!幸二!!」

幸二「ん?誰だ?」

 


そこへ現れたのは、見覚えのない、長身で感じの良さそうな男だった。

 


???「はぁ…はぁ…幸二!どこ行ってたんだよ!授業終わってなかっただろ?」

幸二「いやごめんお前誰?」

???「え?何言ってんだよ幸二!寝すぎておかしくなっちゃったのか?」

幸二「は?マジで誰なんだよ!」

光「え…光だけど…もしかして、記憶喪失的な?」

 


そいつは山田光と名乗った。

 


幸二「ヒカル…?聞いたことない名前だが」

光「ははっ。冗談きついなぁ幸二は!ま、いつもの事か!お前のジョークは相変わらずぶっ飛んでんなぁ」

幸二「ジョーク?俺が?」

光「幸二…本当に、どうしたの?」

 


おいおいおい。意味わからねぇよ。こいつの純新無垢な顔を見ると、マジで俺がイカれちまったみたいに思えてくるじゃねえか。

 


幸二「俺はお前の事まっったく知らねぇし!ジョークも言わねぇ!ついでに、高校生でもねぇ!」

光「…?ジョーク…だよな?」

幸二「ちげぇ!俺は魔法協会直属部隊魔裁組第2支部実働班の天堂幸二!蒼魔導書赫魔導書第三十六巻操天の書の継承履術者及び、青のエレメントの使用者だ!歳は20歳!」

光「ぷぷっ…!はっはっはっ!それ、厨二病ってやつだよな!あっはっはっは!幸二は面白いよ本当に!こんな奴他にいないよ!」

幸二「はぁ?!全部本当だわ!!」

光「あっはっはっは」

 


光は笑うだけで何も聞いてくれなかった。マジで俺が変なこと言ってるみてぇじゃねぇか。それなら…、

 


幸二「お前が疑うなら見せてやる…!蒼き青のエレメントを…!天を司りし俺の魔法をなぁ…!」

光「おっ!見せてみろよ!」

幸二「蒼き青のエレメント…!豪砂蒼葬ォ…!!」

 

 

 

シーーーーーーン

 

 

 

は?何も起きねぇ。※対魔法勢力以外で魔法を使うのは御法度です★

 

 

 

光「おぉ!見える!見えるぞ!あっはっはっは!」

 


いや、俺には何も見えないんだが?

 


幸二「ちっ…!蒼龍鳴動ォ!!!!!」

 


シーーーーーン

 


光「流石プロ厨二病!技名も痛かっこいいなぁ」

 


幸二「お前、なにか見えてる?」

光「あぁ!龍だろ?なんかこう、でっっかい感じで?」

幸二「いや本当に見えるか聞いてんだよ」

光「え、あ、そういうノリ?もうお前さぁ!何聞いてんだよ〜」

 


どういうことだ。

 


俺、魔法が使えなくなってる。

 


幸二「おいお前、スマホあるか?」

光「ん?これか?」

幸二「貸せ!」

光「おぉ」

 


日付は…

 


ん?!変わってない?!

 


どういうことだ?

 


俺は確か昨日、支部で夜を明かして…何故かここに…?

 


幸二「おいヒカル!俺は何者だ!」

光「え、そりゃ、神とか?」

幸二「はぁ?!」

光「え、いや、いつも言ってるだろ?コージイズゴッドだっけ?」

幸二「はぁ〜〜?!」

光「ちがった?」

幸二「そうじゃねぇ!!俺は!!何をして!!どんな人間で!!お前とどういう関係だ!!」

 


光「いやそりゃ、俺と同じ翠春(すばる)高校1年A組の天堂幸二だろ?俺とお前はクラスメイトで、後は…」

幸二「……!!も、もういい!!」

 


俺の足は即座に外へ向いた。

体があの男から離れたがっていたのだ。

 


光「お、おい幸二!カラオケいかないのかよぉ!」

 


光の声がどんどん遠くなっていく。同時に、俺の意識も遠くなっていく様だ。

 


何もかも、意味がわからない。また変な夢でも見ているのだろうか?

 


とにかく、支部に戻ろう。

 


────

 


スカイツリー / 天望回廊》

 


幸二「…!!何…だと…?!」

 


支部に入るための魔法陣が、いつもある場所から消えている。

 


幸二「おいマジかよ。支部はどこだ…!魔法は!どうなっちまったんだぁ?!」

店員「お客様…大声はちょっと…」

幸二「あ…す、すみません」

 


全くどうなってやがる。1周してみたり、しばらく居座ってみたりしたが、魔法陣が開く気配すらない。というか、マヂカラの微かな匂いですら、消えてしまっている。

 


1度トイレへ向かい、その後もう一度、魔法陣があったはずの場所へ向かう。すると、

 


三太郎「…」

 


外の景色を眺める三太郎が立っていた。

 


幸二「おぉ…!三太郎!!」

三太郎「…!」

 


三太郎は、俺の呼びかけに振り向いた。しかし何故か、悲しそうな顔をしていた。泣いていたのか?

 


幸二「おいお前…どうした?目、腫れてるぞ?泣いてたのか?」

三太郎「え…」

幸二「ま、そうだよな。俺も困ってたんだ、ずっと魔法陣が出てこねぇからよ」

 


三太郎「あの、誰ですか?」

 


幸二「は?!」

三太郎「どうして僕の名前を?」

幸二「どうしてって…お前と俺は…」

 


友達…?なのか?戦友?相棒?いやいやそんな関係では無い。ライバル…?それも違うな

 


幸二「とにかく、早く魔法陣探すぞ!」

三太郎「魔法陣?何の話ですか?」

幸二「とぼけるな!早くしねぇと、支部の仲間が心配するぞ!」

三太郎「しぶ?」

幸二「そうだよ!一善とかジャスティンさん達が待ってるだろ!俺今スマホなくしたんだよ!」

三太郎「いちぜん?じゃすてぃん?ごめんなさい、誰でしょうか?」

幸二「はぁ?!おい三太郎!どうしちまったんだ?!」

 


三太郎の肩を強く揺さぶっても、三太郎の調子は変わらない。

 


何が起きている?

 


三太郎「うぅ…」

三太郎の顔色が悪くなる。

 


幸二「おい三太郎、大丈夫か?」

三太郎「もうやめてください!」

三太郎は俺の手を振り払った。

 


三太郎「分かりました、俺の名前、なんで知ってるか」

幸二「は?なんでってそりゃ」

三太郎「見てたんですよね?さっきのやり取り」

幸二「は?」

 


~~~

 


数分前

 


三太郎「せ…」

ひえり「?」

三太郎「千巣ひえりさん!!!」

ひえり「うわっ。急にどうしたの?」

三太郎「ぼ、僕と、付き合ってください!!!」

 


ひえり「…ごめんなさい。好きな人がいるの」

 


三太郎「…!!!」

ひえり「じゃあね。今日は楽しかった。また友達…いや、先輩として、よろしくお願いします」

 


~~~

 


三太郎「僕、好きだった後輩に振られてしまったんです」

幸二「…!」

三太郎「タメ語で話してくれてたのに…最後別れ際に敬語に戻ってて…これって完全に脈ナシですよね…!!そうですよね!!」

幸二「…!おいおい落ち着け!大の大人が泣きわめくんじゃねぇよ!」

三太郎「いや僕まだ、高校生なんですけど」

幸二「はぁ?お前も高校生か?!」

 


時空が歪んでいるのか?いや、これは夢だ、絶対そうだ。

 


幸二「ま、まぁ今日の所はその…美味いもんでも食って忘れな。きっとお前にはいい女性が現れるからよ」

三太郎「…!!」

 


ここにいても埒があかねぇ。他の手がかりを探すしか。俺は次の場所へ急いだ。

 


三太郎「あ、あの…!!」

幸二「あ?」

三太郎「名前…教えて貰っても…?」

 


幸二「俺は、通りすがりの魔法使いさ」

 


三太郎「…?」

 


────

 


《東京タワー》

 


どうせそうだろうとは思ったが、やはり第1支部の扉も閉ざされている。セキュリティも居ねぇ。魔裁組…いや、魔法は本当に無くなっちまったのか?

 


すると、見覚えのある顔が、その場に立っていた。

 


幸二「あ、あれは…?」

 


それは、魔裁組第1支部実働班の虎走葉月だ。

 


葉月「…」

 


幸二「お、おい!」

 


いや、待てよ?さっきの感じだと、また知らないと言われて追い払われるのがオチか?!

 


葉月「…!!」

 


虎走は振り向いた。

 


幸二「あ、あの…」

葉月「あ!!アンタは!!!」

幸二「…!!俺が分かるのか?!」

 


葉月「コーイチ君!!!」

幸二「コージだ!!!」

 


虎走葉月。こいつは第1支部お転婆娘。蒼魔導書三十四章 爆裂の書 の履術者である。

 


葉月「コージ君!アンタは、魔法使える?!」

幸二「お、お前、魔法の事が?!」

葉月「私、魔法使えなくなっちゃった!!」

幸二「!!実は俺もなんだ!!」

 


葉月「第1支部にも入れなくなってて…」

幸二「第2支部も無くなってた。しかも三太郎…第2支部の奴にも会ったんだ。だが様子が変だった」

葉月「変?」

幸二「あぁ。あいつ、魔法の事全く知らねぇような素振りだった。しかもなんかキャラも変だったし」

葉月「そんな…」

幸二「ここに来るまで、魔者は見たか?」

葉月「ううん。一匹も見てないし、マヂカラ反応もまるでない」

幸二「やっぱりおかしいな」

葉月「おかしいことは他にも…」

幸二「あぁ。お前、今何歳だ?」

葉月「私?20歳だけど」

幸二「だよな。どうりでその服…」

 


葉月は真っ白のセーラー服に身を包んでいた。

 


幸二「似合ってn」

 


ゲ      ン      コ      ツ     !

 


幸二「…魔法がなくても…その爆発力は…健在だな…」シュゥゥゥ…

葉月「次言ったらマジでぶっ飛ばすから」

幸二「シュミマシェン」

 


葉月「昨日大雨だったでしょ?私、支部にいたの」

幸二「あぁ、俺もだ」

葉月「そしたら停電が起きて、気づいたら真っ暗闇の中で寝ちゃって…」

幸二「あぁ、俺も俺も!」

葉月「それで目が覚めたら…ハナ?とかいう知らない子が私に話しかけてきて…」

幸二「あぁ!!俺も俺も!!!」

葉月「ムッ」

幸二「え?」

葉月「コージ君って、そういうノリの子じゃなかったよね?なんかキモい」

幸二「グサッ!!!」

葉月「不気味」

幸二「グサッグサッ!!!キモいよりグサッ!!」

 


葉月「どうやら、私たちの周りで何か変なことが起きてる見たいね。これって魔者の仕業?」

幸二「分からない。そうだ、お前の友達はどうなんだ?第1支部のメンバーは」

葉月「分からない。これから皆のいる所に行ってみようと思ってた所」

幸二「ん?心当たりがあるのか?」

葉月「なんとなくね!」

幸二「俺も同行していいか?」

葉月「ジー」

幸二「ん?なんだよ」

 


葉月「新手のナンパ?」

幸二「チゲェヨ!」

 


葉月「ま、いいや。アンタ、何も無いよりは役に立ちそうだし」

幸二「ボクケッコウツヨイノヨ…?」

葉月「魔法使えないんだから意味無いでしょうがァ!!」ポカッ!!

幸二「いってー!!!情緒不安定!!!」

葉月「ま、いいや、じゃ、よろしくね」

幸二「お、おう」

 


────

 


次の日。

 


俺は虎走と共に九頭龍坂小町の屋敷に向かった。

 


ピンポーン

 


葉月「小町ー?!いるの?!」

 


モニターフォンから男の声が聞こえる。

 


男性「どちらさまでしょうか?」

葉月「小町さんの友人なんですけど!」

男性「ただ今、お嬢様を玄関に向かわせますので、そちらでお待ちください」

葉月「あ、はい…」

 


幸二「豪邸だな。いつもこんな感じなのか?」

葉月「いや、いつもなら小町が呼び入れてくれるんだけど…」

幸二「何かがおかしいな」

 


ガチャ

 


すると、臙脂色の和服に身を包んだ九頭龍坂がやってきた。

 


小町「あら…えーっと」

葉月「小町…」

 


小町「ごめんなさい…どちら様でしょうか?」

 


葉月「…!(やっぱり忘れてる…!)」

幸二「俺たちは…」

葉月「小町!忘れちゃったの?私、葉月!虎走葉月!」

小町「こばせ…はづきさん…?」

葉月「小さい頃からの仲じゃん!?一緒にキスプリのコンサートとか行ったの、忘れちゃった?!」

小町「キスプリ…?」

葉月「Kiss & Prince!私たちの推しじゃん!忘れちゃったの?!」

小町「すみません。あまりテレビを見ないもので」

葉月「一緒に戦ったことも覚えてない?」

小町「戦う…?それは?」

葉月「…!」

 


小町「将棋で、でしょうか?」

 


葉月「しょ」

幸二「将棋?」

 


どうやらこの世界の九頭龍坂は女流棋士になっているらしい。

 


小町「すみません。どの話も身に覚えがなくて、私、将棋の練習で忙しいので、この辺で」

葉月「そんな…」

幸二「てか、今日ははんなりさんが、はんなりしてないんだな」

小町「はんなり…さん?」

葉月「小町です!小町の名前は小町です!」

小町「…!」

 


葉月「でも確かに、いつもは小町、京都弁だもんね」

小町「私のことでしょうか?確かに京都に住んでいたことはありますが、幼い時に少し住んでいただけですので、京都弁は話すことが出来ませんが…人違いではないでしょうか?」

葉月「いいやちがうね!私は小町のダチだもん!伸縮の魔法使い!色んなものをビョーンってして、魔者の戦う戦巫女!はんなりな嫌味で相手への精神攻撃も忘れない、私の相棒よ!」

幸二「褒めてんのか?それ」

小町「伸縮…?魔法…?」

 


その時、九頭龍坂の顔色が悪くなる。

 


ギィィン!!

 


小町「うわぁぁぁぁぁ!!!」

葉月「…?!小町?!小町!!大丈夫?!?!」

小町「こ、来ないで…!!!」

葉月「小町!!小町ってば!!」

 


九頭龍坂はその場に倒れ込む。

 


ガチャ!

 


男性「お嬢様!どうかされましたか?」

小町「ちょっと…体調が…」

男性「明日は大切な対局。今日はゆっくり休養をとりましょう。お嬢様」

小町「そ、その方がいいみたい」

男性「ご友人の皆さん、折角のところ申し訳ないのですが、本日はお引き取り願えますかな」

葉月「…!」

幸二「…」

 


男性「ではお嬢様。私はベッドメイキングして参ります。ゆっくりとお戻りください。くれぐれも無理なさらぬように」

小町「ありがとう」

 


ガチャ

 


男性は屋敷に戻った。

 


小町「ごめんなさい…葉月さん…人違いだったみたいだけれど、大丈夫かしら」

葉月「大丈夫もなにも、小町の体調が心配だよ」

小町「優しいのね。ありがとう」

葉月「当たり前でしょ?私の相棒なんだから」

小町「ううっ…!」

葉月「大丈夫?小町!!」

 


小町「見つかるといいわね…お友達が」

葉月「ううん。小町は小町だよ」

小町「そう。じゃあ今日はこれで」

 


九頭龍坂は屋敷に戻ろうとする。その前に聞きたいことがある。

 


幸二「千巣万之助」

小町「…?」

 


幸二「伊藤蘭村松静、鬼屋敷超絵。今言った名前に聞き覚えは?」

小町「ごめんなさい…全く聞き覚えが…」

 


ギィィン!!!

 


小町「うわぁぁぁぁぁ!!!」

葉月「小町!!!!」

 


ガチャ

 


男性「お嬢様!!」

小町「はぁ…はぁ…」

男性「私におつかまり下さい。皆様、本日はお引き取り願います。ごきげんよう

 


男性は九頭龍坂を連れて屋敷に消えた。

 


ガチャ

 


葉月「…」

幸二「収穫なしだな」

葉月「…そうかな」

幸二「ん?」

 


葉月「小町、苦しんでたよね。魔法について話すと」

幸二「確かに、そうとも取れるが」

葉月「きっと小町の中のどこかで、魔法についての記憶は残ってるんだと思う」

幸二「…」

葉月「だから、思い出してもらうまで、私は小町の所に…!」

幸二「あいつを苦しませても…か?」

葉月「…!」

 


幸二「俺もよくわからねぇが、恐らく、この現代には魔法なんてものは存在しないんだろう」

葉月「…」

幸二「だから各々、魔法に干渉されないそれぞれの人生を歩んでる。三太郎だってそうだった」

葉月「…」

幸二「ならそれでいいんじゃねぇか?」

葉月「…!」

 


幸二「魔法使いの使命は、魔法を無くすことだろ?魔法が無い世界が出来上がったなら、それ即ち平和ってことじゃねぇか?」

葉月「そ、それはそうだけど」

幸二「だから俺たちは、何もするべきじゃないのかもな」

葉月「でも、友達に忘れられても…いいの?」

 


幸二「…友達…か」

葉月「?」

 


幸二「平和が一番…だろ?」

葉月「…!」

 


幸二「ま、とりあえず今日の所はここまでにして、メシでも食いに行こーぜ。腹減った」

葉月「…!さりげなく美少女を連れ回さないで!」

幸二「…自分で言うかよ」

 


────

 


そんな俺たちを陰から見下ろすひとつの影。

 


ゆるふわパーマの男「うーん。なんか、ちょっとつまらないよねぇ」

 


────

 


幸二「おい、サイゼリヤでいいよな」

葉月「は?私をそんなファミレスに連れていくつもり?!せめてもう一グレード上乗せしなさいよ!」

幸二「いや、俺たち今は高校生だし、高校生のメシ食う場所つったらサイゼだろ。むしろサイゼってその為に存在する場所なんじゃねぇの?」

葉月「中身は20歳!いい女!だからサイゼは却下!!」

幸二「…!金ねぇんだよ!」

 


道端を歩いていると、一人の男がうつ伏せに倒れていた。

 


幸二「ん?人が倒れてるぞ!」

葉月「大変!」

 


駆け寄ると、男は意識をうっすらと保っていた。

 


???「…!ゼ…」

幸二「あ?何か言ってるぞ?」

???「ゼクシーザは……どこ……だ?」

葉月「ゼクシーザ?」

幸二「ゼクシーザ…?まさか?こいつ」

葉月「この顔どこかで!!」

幸二「お前は!!!」

 


幸二・葉月「榊天慈!!!!」

 


榊「…うぅ……君たち…どうして、私の名前を…!!」

 


榊天慈。ロスト・フロンティアで俺たち魔裁組に立ち塞がった天才科学者…いや、マッドサイエンティストだ。

榊はボロボロになった体を震えながら立て直す。

 


葉月「大丈夫?」

 


虎走が榊に肩を貸す。

幸二「おいそいつ、敵だぞ、大丈夫なのか?」

榊「敵…?お前たち、まさか…?人間に化けたゼクシーザなのか…?!」

幸二「は?」

葉月「何言ってんだこいつ」

 


ポイッ

 


ボテッ!

 


虎走は榊を捨てた。虎走は榊をポイッと捨てた。

流石に可哀想。一応SOREMA第1章ラスボスを務めあげた男でも、外伝ともなると、この扱いである。

 


榊「…いててて」

 


幸二「おい榊、俺たちはお前を知っている。だが、全てを知っている訳では無い。質問に答えてもらおう」

榊「……ゼクシーザの……言いなりには……ならないぞ…!」

幸二「ゼクシーザ?お前が作った兵器じゃないのか?俺達が壊したけど」

榊「兵器…?なんの事だ…?!」

すると虎走は近くの自販機で買った水を榊に飲ませてあげた。優しい。

 


葉月「とりあえず。この世界の榊は悪い人じゃないのかも。落ち着こ」

幸二「…」

 


────

 


榊「ぷはっー!!よみがえった!!」

幸二「…」

葉月「それでさ、ゼクシーザって何?」

榊「お前たち、ゼクシーザを知らないのか?それでよくこの世界で生きていられるな!」

幸二「いや俺たち、来たばっかりなんだが…」

榊「まぁ変わった子供たちもいるものだ。教えてあげよう。ゼクシーザとは、この地球に棲息する知的外来生物の総称。巨大なものだと100mを超える個体も存在する」

葉月「でっか」

榊「ゼクシーザはあらゆる街を破壊しては消え、また他の街を破壊しては消える。厄介な生物なのだ」

幸二「ほう」

榊「そして俺は…!そのゼクシーザからこの国を守る使命を請け負った男…!榊天慈!!」

 


葉月「ふーん(はなほじ)」

幸二「もう少し興味もてよ!」

 


榊「見たところこの辺りはあまりゼクシーザの進軍が見られないようだが、長らく気を失っていてここがどこだか分からない。この場所はどこだ?」

幸二「東京ですけど」

 


榊「と、」

葉月「と?」

 


榊「東京?!?!?!」

 


幸二「どうかしたか?おっさん」

榊「おっさんでは無い!榊天慈だ!」

葉月「で、東京がどうかした?」

 


榊「東京は前年、ゼクシーザ軍の大量破壊兵器投入によりその全土の8割を失ったはず…!」

 


幸二「は?」

葉月「どゆこと?」

榊「今日本では大阪を首都としており、関東圏では全土総合疎開が開始されている…はずだが…?」

 


幸二「そんなもんねぇよ」

榊「なんだってー?!?!?!?!」

 


葉月「おじさんは何者なの?」

榊「おじさんではない榊天慈だ!2回目!」

 


榊は咳払いをして話を続ける。

 


榊「私は、別星雲から現れた、虚空の戦士 ヌルと融合し、ヌルトラマンとなる使命を持った適合者の内の一人。今日も私は、荒廃した東京にて、ゼクシーザ軍の怪獣と戦を交えていた…はずだった」

幸二「なんだそれ…特撮の世界観じゃねえか…!」

葉月「それで?」

 


榊「だが怪獣との交戦中、突如謎の方面から降り注いだ落雷によって、視界を奪われてしまった。そしてそこから私は昏睡状態となったのだ」

 


俺たちと同じだ…!

 


榊「戦友、佐久間の呼ぶ声も虚しく、私は意識を失い、気がつくと、ここで倒れていたということだ…」

幸二「なるほどな…葉月…!」

葉月「これって…!って」

幸二「ん?」

葉月「さりげなく名前で呼ぶな!!」

幸二「いいだろうが!!セリフの中だと虎走だけど、お前のセリフの前には葉月って付けるから紛らわしいんだよ!」

葉月「メタ発言すな!」

榊「(何の話ですかね)」

 


幸二「とにかくこれは、俺たちが経験したものと同じだ…!」

葉月「サカキン。私達も同じように、別の場所から落雷によって飛ばされて来たの…!」

榊「…そうなのか!」

葉月「私達の歴史では、魔者っていう存在が街で暴れてて、私たちは魔法を使ってそれらを治めてたの」

 


榊「なにそれ!!ジャンプの世界観じゃん!やっば!!マジ?!ぶっ飛んでて草ー!」

葉月「おめぇの話もさほど変わらんわ」

 


榊「魔法か…それは大変だな」

幸二「ちなみにお前のせいでさらに大変になりました」

榊「マジ?なんかごめん」

幸二「もういい。とにかく」

 


榊「とにかく!何とか私を元の世界に戻してくれないか!!皆が私の…ヌルトラマンソラの事を待っているんだ!!」

幸二「…もしかして」

葉月「…?」

 


幸二「俺達、平行世界から飛ばされてきてる…?」

榊「平行世界?」

 


幸二「あぁ。榊がいたゼクシーザがいる世界。俺たちが居た魔法のある世界、そしてここ。少なくとも、並行する世界線が3つ存在する。そして俺たちはなんかの間違いでここに飛ばされた…違うか?」

榊「なるほど…ゼクシーザの仕業ならば、有り得ぬ話ではないな」

葉月「魔導師のせいかもしれないけど…」

幸二「もしかしたら、それらを超越した…更なる存在がいるのかもしれない…」

 


葉月「…!」

 


幸二「そしてこの仮説が正しければ…葉月。俺達の世界は別次元にまだ存在している」

葉月「ということは」

幸二「あぁ。多分そっちの世界では魔法は無くなったりしてないってことだ」

葉月「ってことは…」

幸二「恐らく…本当の仲間達が…俺達の帰りを待ってるかもしれない…」

葉月「…!」

榊「…!なら、早く帰らないと…!」

 


幸二「まて、どうやって帰るか、いや、それ以前に帰れるかどうかも分からないんだぞ…!どうすればいいんだ…?!」

葉月「確かに…」

榊「こんな時に…ヌルトラマンに変身出来れば…!」

 


するとそこに、謎の声が聞こえる。

 


ゆるふわパーマの男「そうそう、それでいい」

 


幸二「…?誰だ?」

葉月「今…声が」

榊「誰だ…?」

 


ゆるふわ「こんにちは。皆さん」

 


現れたのは見覚えのない、前髪をセンターで分けたゆるふわパーマの男だった。

 


幸二「榊、こいつに見覚えは?」

榊「ない。ゼクシーザ特有の雰囲気もない」

葉月「魔者でも無い…あなた、何者?」

 


モーニング「我が名はモーニング。君達を導く者だよ」

幸二「モーニング?ふざけた名前だな」

葉月「なんの用?」

 


モーニング「なんか、凄い刺があるね。まぁいい。焦るのは分かるよ。全く見ず知らずの世界に飛ばされて、混乱しているんだろう?」

 


幸二「…!何故それを…!」

榊「お前がなにか仕組んだのか?」

モーニング「ちっちっち。僕は君達を導く者だって言ったじゃん?味方かどうかは分からないけどね」

幸二「…!」

 


葉月「信用出来ない。なにか信じられる事、言ってよ」

榊「私たちがお前の言葉に耳を貸すに足りる情報を出せ」

 


モーニング「もしかして僕、嫌われてる?ぴえん」

幸二「なんなんだ、お前」

モーニング「ま、いいや、わかったよ。2つ教えてあげる」

葉月「…!」

 


モーニング「天堂幸二」

幸二「…!俺の名前…!」

モーニング「1つ。君の推論は正しい。ここは君達2人がいた魔法の世界とも、榊君が居た光の巨人の世界とも違う、別の世界。そして、どの世界にも君達は存在し得る」

葉月「…!」

 


モーニング「そしてもう1つ。君達は、元の世界に戻ることが出来る。君達が元の世界に戻るまで、元の世界の君は、今、君たちがいる”この”世界の君と入れ替わっている」

幸二「…!」

葉月「…!」

榊「…ということは!」

 


モーニング「そう。魔法が使えない天堂幸二や虎走葉月、光の巨人になれない榊天慈が、君達が元いた世界に現れている」

 


幸二「存在する世界線が入れ替わっている…?何故だ!」

モーニング「それは気が向いたら話すよ。じゃ、僕はこれで」

 


モーニングの周りに強風が渦巻く。

 


幸二「ま…まて!俺達はどうやったら戻れる…!!」

 


何だこの突風は…!俺たちまで飛ばされそうだ…!

 


モーニング「さぁ。自分で考えた方が面白いでしょう」

葉月「…!どういうこと?!」

榊「お前は何者なんだぁ!!」

 


モーニング「君達がここに来てからしたことを思い返してみるといい…期待しているよ」

 


ゴゴゴゴゴ…!

 


モーニングは姿を消した。

 


幸二「はぁ…はぁ…なんだったんだ…?あいつは」

葉月「でも、元の世界に戻れるって…!」

榊「なら早く元に戻る方法を探さないと…!」

幸二「でも今のままじゃ手がかりがほぼゼロだ…なんだ?俺達がここに来てからしたこと…?」

 


葉月「分かったかも」

幸二「?なんだ、言ってみろ!」

葉月「は?!教えてくださいませ女王様でしょ?」

幸二「は?こんなクソ生意気な女王様がいるかぁ?!」

葉月「女王様は生意気でなんぼじゃろうが!」

 


榊「お前ら、こんな状況で喧嘩出来るほど仲がいいんですね…」

 


幸二「で?なんなんだよ?何がわかったんだ?」

葉月「多分、この世界の皆と会うことだよ!」

幸二「…!」

 


葉月「さっき小町と会った時も、何か思い出そうとしてたような気がした!だから、色んな仲間に会って、記憶を呼び戻すの!多分、この世界の自分を通じて、並行する元の世界の自分とコミュニケーションが取れるんだわ!」

 


幸二「…合ってるかは分からないが、こっちに来てからしたことなんてそれくらいしかないからな…」

榊「残念ながら俺は、佐久間以外に元の世界の知り合いが殆どいないのだ…」

幸二「なら俺たちと来い。お前もなんやかんや顔割れてるからな。なんかヒントがあるかもだぞ」

榊「…!」

葉月「ま、求められてるかはわからないけどネン」

榊「…!どういう意味だ!私はただ、この国を守りたい一心で!」

幸二「まーまーわかったわかった。ま、とにかく、俺達は元の世界に戻らないといけねぇ。折角平和な世界で過ごせると思ったのに残念なこった」

葉月「私は早くみんなに会いたい…!」

榊「ならば力を合わせるしかないな!」

 


幸二・葉月・榊「元の世界に戻るために…!!!」

 

SOREMA外伝 The Parallel ② へ続く。

 

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