SOREMA外伝 The Parallel ②

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SOREMA 外伝 The Parallel 2

 


俺は天堂幸二。魔法使いをやっている。

 


ひょんなことから平和な平行世界に飛び込んでしまった。

 


俺は同じ立場の虎走葉月、また別の世界からやってきた榊天慈と、元の世界に戻るため、この世界の住人達と関わることにしたのだが…

 


────

 


《謎の場所》

 


モーニング「もどりやしたー」

 


そこに、長身の女性が話しかける。

ドリーム「もう、モーニングったら。色々と話しすぎよ!これで矛盾が生じたらどうしてくれるの?」

モーニング「いーじゃんいーじゃん、おもろいし」

 


更に容姿端麗な男が剣幕で詰め寄る。

エコー「おいコラ。てめぇ。誰の味方なんだ?!マジでなんかあったらどう落とし前つけてくれんだよ…!」

モーニング「何も無いっしょ。フラワーもそう思うでしょ?」

 


モーニングは、小柄な少女に話しかける。

フラワー「わ、私は…その…えーっと」

エコー「おいフラワー、お前の監視対象、どうなってるんだよ」

フラワー「あ、はい!ちょっと、見失ってしまって…」

エコー「なんだと?」

 


そこへ山田光と同じ顔をした男が現れる。名をライトと言った。

 


ライト「安心しろ。全員の居場所はこのコンパスに示される」

エコー「ちっ。ならいいんだが」

ライト「モーニング。これ以上余計な真似はやめろ」

モーニング「はーい」

ドリーム「私達は、何か対策を打つべきでしょうか…?」

ライト「不要な干渉は彼らの帰還意識を強めるだけだ。今は彼らが自主的に、元の世界への帰還を諦めるのを待つしかない」

フラワー「承知致しました…」

ライト「僕とフラワー、そして”彼女”は、引き続き監視対象を見張りつつ、余計な行動に走らせないよう、道筋を矯正していこう」

フラワー「了解です」

 


エコー「てか、アイツはどこにいる?」

ドリーム「彼女なら、監視対象の所にいるのでは?ライト」

ライト「そのようだ。まぁ彼女なら問題はないだろう」

エコー「そうか」

 


ライト「平行世界の至近距離接触の時期になると、このような特異点が必ず現れる。平行世界を故意的に再び接触させる行為は、いずれの世界をも歪ませる極めて危険な行為だ。次の至近距離接触は100年後。それまで世界間の干渉は、私達パラドックスエージェントが許さない。彼らには申し訳ないが、それが全ての世界の為なのだ」

 


────

 


《ペットショップ・クワイエット》

 


幸二「おいおい。ペットショップて。わんこもふりに来たわけじゃないんだぞ?」

葉月「そうじゃない。絶対にいるんだよ、ここに」

幸二「誰が?」

葉月「静ちゃんが!」

 


村松静。本来の世界では、第1支部の魔法使い。ラキラキという名の魔獣を連れている。

 


榊「静という子は、どんな子なんだ?」

葉月「物静かで、もふもふが好きな子って感じかな。でもちょっとよく分からないとこもあるっていうか?」

榊「ほう」

幸二「あ、あれ」

 


俺の視線の先には、女子が数人、犬と戯れて遊んでいた。

 


???「あ、らっしゃっせー」

 


その中心にいる女子、ピアスがバチボコに空いたファンキーなショートヘアの女子が、挨拶する。

 


そう。この女子こそ、この世界の村松静だ。

 


葉月「静ちゃん!!」

静「ん?」

 


葉月は静とその集団に駆け寄る。

 


葉月「あの、あ、初めまして…って言うべきなのかな?私、虎走葉月!」

静「お、おう…お客さん?」

葉月「違う!私達、静ちゃんに用があって!」

静「あーし?」

女子A「え、ガチ?」

女子B「しーちゃんマジモテじゃん!」

女子C「この間も女の子から告白されてたよね!」

静「んね!マジうけんべ!悪ぃけどあーし、恋愛対象男なんだよねぇ」

葉月「あ、いや、そういうわけでは…(恐ろしい程にキャラ違ぇな。流石平行世界)」

女子D「でもしーちゃん、男にもモテるじゃん?」

A「そうそう!この間ここに来た小学生もメロメロだったしね!」

B「マジでしーちゃん、周りの人間ダメにし過ぎっしょ!」

 


あっはっはっは!!!

 


なるほどね。これが数十年後、街角の井戸端会議に発展するわけね。話題も肉屋のコロッケの値段がどーのこーのになるわけね。なるほど。理解。

 


榊「村松静。君はこの少女の事を覚えてないのかい?」

静「うーん。可愛い子だけど、どっかであったっけ?」

葉月「いや、会ったっていうか…」

静「わりぃ。おもいだせねぇわ!ってかそういえばさぁ!こないだもさぁ!」

 


村松らはまたワキャワキャと騒ぎ出した。ペットそっちのけで草。

 


葉月「魔裁組!」

 


静「は?」

葉月「魔裁組!この言葉に聞き覚えは?」

静「魔剤?Monsterのこと?まぁよく飲むけど」

葉月「はぁ。じゃあ、小町!九頭龍坂小町!」

静「九頭龍坂?いかちー名前だな?人間?」

葉月「覚えてないんだね。静ちゃんは魔法使いだったんだよ?魔者と戦う…」

 


静「魔者……?」

 


ズキッ

 


静「う、うーん。まぁ、人違いだし?てか待って魔法?ウケるwww」

 


葉月「…」

榊「打つ手なし…なのか?」

葉月「いや」

榊「?」

 


幸二「ワオーーーーーーン」

 


静「え?」

A「今、ワンチャン鳴いた?」

C「いや、ウチの子じゃない」

D「私も違う」

 


幸二「ワオーーーーーーン!!!」

 


B「え待ってウケるw兄さんが鳴いてるwww」

D「ガチ?ワロタwww」

 


あっはっはっは!!!

 


幸二「ワオーーーーーーン!!!」

 


これで思い出すなら…あとは葉月…お前があの”名前”を…!

 


葉月「ギャッハッハッハッハッ!!!!!」

 


お前が一番笑うな!!!

 


静「あは、あははは(何だこの遠吠え…どっかで聞いたことが…?)」

葉月「静ちゃん」

静「ん?なに?」

 


葉月「ラキラキって、知ってる?」

 


静「ラキラキ…?」

 


ワオーーーーーーン!

 


ワオーーーーーーン!

 


ワオーーーーーーン!

 


静「あぁ……あぁ……!!!!」

 


葉月「静ちゃん!!思い出した?!」

 


幸二「…!」

榊「大丈夫か…?少女!」

A「ちょっと!しーちゃん?!大丈夫?!」

C「水持ってくるね!」

 


静「あぁ…!!!パ…パ……」

葉月「パ?」

静「パラドックス………エー……」

 


バタン

 


村松は気を失ってしまった。

 


────

 


数時間後、村松は目を覚ました。

 


静「うぅ…」

 


葉月「!!静ちゃん!!」

静「…!君は確か、葉月ちゃん」

葉月「そうそう!!葉月!!」

幸二「おい村松!思い出したか?!魔法のこと!」

榊「ついでに、私のことも思い出したりしてないか?!」

 


静「…ごめん。何も分からないや」

葉月「…そっか」

幸二「ラキラキのことも?覚えてないのか!!お前、あんなに可愛がってたろ!ずっと一緒にいたろ!!!」

静「ごめんな。マジで思い出せないんだ。ずっと一緒にいたのはこの豆柴のパブロ・ディエゴ・ホセ・フランシスコ・デ・パウラ・ホアン・ネポムセーノ・マリーア・デ・ロス・レメディオス・クリスピン・クリスピアーノ・デ・ラ・サンディシマ・トリニダード・ルイス・イ・ピカソだけだし、その他の事も、何も覚えてないんだ…」

葉月「…そっか」

榊「それならば仕方ないな」

 


うーん僕はその犬の名前が気になって仕方ないんだが?!

 


静「でも一つだけ…」

葉月「!」

 


静「さっき…脳裏に響いた声…」

幸二「!」

 


静「パラドックス…何とかって…」

榊「パラドックス?なんの事だ」

幸二「葉月、メモっとけ!」

葉月「指図しないで!」カキカキ

 


幸二「もしかしたら、パズルのピースみたいに、一つ一つの単語を合わせれば、元に戻る方法が分かるのかも知れない…!」

葉月「…!なるほど!」

幸二「他にも魔裁組の人間は沢山いる!とっとと回って、元の世界に帰るぞ!」

葉月「…うん!」

榊「私のことは思い出せないか?」

静「おっさんのことも、全くしらないや」

 


榊「おっさん!!!」グサッ

 


────

 


《渋谷》

 


幸二「よし、他に居場所に心当たりがある奴はいるか?」

葉月「うーん…鬼屋敷さんとか…どこにいるんだろ…」

幸二「あの人、生きてるか怪しいよな」

 


ゲンコツ!

 


幸二「まぁとりあえず、人が集まりそうな場所に来たが…っておい!!あれ見ろ!」

葉月「ん?」

榊「あれは?」

 


俺は思わず電光掲示板に目を奪われた。そこには、いろは坂46というアイドルグループの広告が流れており、そこにはあの伊藤蘭とその姉、伊藤凛の姿があった。

 


蘭「伊藤蘭です!」

凛「伊藤凛です!」

蘭・凛「私たち、会いに行けないアイドル、いろは坂46の、伊藤シスターズでぇぇす!」

蘭「私達に会いたいかー?!」

凛「会いたい皆は〜コンサートに集合!」

 


伊藤蘭。魔裁組第1支部の新人で魔具使い。

 


そして、その姉・凛は…

 


葉月「凛さん……」

 


そう、俺達の世界では、凛は既に死んでいる。

 


蘭の話によると、魔導師に殺されたという。凛もまた、第1支部の魔法使いだった。

 


葉月「蘭ちゃん…凛さん…」

 


葉月は涙を流した。その涙が再会を祝う嬉し涙なのか、はたまた悲しい涙なのか…俺にはわからなかった。

 


葉月「魔法使いもいいけど、あの2人、アイドルもよく似合ってるわ」

幸二「…そうだな」

 


葉月「魔法のない世界では、色んな人の運命が変わってるのかもね…」

 


…!

 


ということはまさか…?

 


俺の……”兄”も……?

 


幸二「おい葉月、榊、ちょっと用事思い出した!」

葉月「あ!ちょっと?!コージ君?!」

榊「どこへ行く!おい!」

 


俺が走り出そうとしたその時だった。

 


ドカッ。

 


人だかりにぶつかった。

 


???「きゃぁぁぁ!」

 


バタッ

 


俺とぶつかった女は地面に倒れてしまった。

 


幸二「あぁ…悪い…大丈夫か?」

???「いえ…こちらこそ…すみません…」

 


幸二「それならよかっt…って…お前は!!!」

 


葉月「あ!」

榊「ん?」

 


その女は、見慣れた顔の女だった。派手な金髪、大きな瞳。間違いない。

 


幸二「お前!空見麗美じゃねぇか!!!」

 


麗美「え…!」

 


葉月「あ!発見!」

榊「この少女も仲間なのか?」

葉月「んーちょっと違うけど、まぁそんな感じ」

榊「はぁ。なら私のことも…!」

 


麗美「あの…どうして…私の名前を…?」

幸二「もちろん知ってるさ…勝気なその表情、他を圧倒する圧…お前は音の魔法使い!空見麗美なんだァ!!!!」

麗美「あ、あの…あなた…誰?」

幸二「げげ。ま、そう、だよね」

葉月「って、あの子。腕…」

 


よく見ると、麗美は先程の転倒で肘を擦りむいてしまっていた。

 


幸二「あ、悪い…!大丈夫か?」

麗美「い、いえ、私がドジなだけなので…」

 


こいつも中々キャラ変わってんなぁ…

 


???「おい。てめぇ」

 


ゾクッ。

 


背中から聞こえたその声は、聞き覚えがあるような。だが聞き馴染みのないような、だが確かに、かなりの圧を感じる声だ。

 


???「てめぇ。てめぇだよ。そこの青臭いガキ…」

 


恐る恐る振り返る。

 


幸二「は……はい……」

 


するとそこにいたのは、これまた見覚えのある、サングラスをした金髪ロングヘアーの男だった。

 


千巣「てめぇ。俺様のハニーに何してくれてんだ?ゴルァ」

 


幸二「せ、千巣先輩…!!!」

 


千巣万之助。魔裁組第1支部所属の現役最強の魔法使い。赤のエレメントと魔導書四十六章 知覚の書による四十六眼、そして妖刀・夜叉による千紫万紅流の剣技を駆使し魔者を狩る、俺の憧れの魔法使いである。

 


葉月「せ…」

千巣「?」

葉月「せんぱーい!!!」

 


ハグッ!!

 


葉月「あいたかっだよぉぉ〜せんぱぃ〜!!」

幸二「あ!おい!」

麗美「きゃっ!まぁ!」

 


千巣「て…めぇ…!」

葉月「…!」

千巣「触んじゃねぇ!!!阿婆擦れが!!!」

 


バシィン!!!

 


千巣先輩(?)はなんと抱きついた葉月を振り払った。

 


葉月「先輩…この世界の先輩は優しくない…」

千巣「ブスが触んじゃねぇ。俺様の隣はハニーだけで十分なんだよ。な?麗美

麗美「う…うん…」

葉月「ブ、ブス…私が…?うぇぇぇぇぇん!」

 


な、なんと!麗美ちゃん!長年の片思いを世界越しに実現させたのね!それは良かった!ずーっと君の恋路を気まずさ片手に見守ってきた僕からすると本当に嬉しい気持ちでいっぱいだよ!感動をありがとう!

あと葉月ちゃん、君はブスじゃないから、元気だしなね。

 


榊「女の子にブスとは、不躾だな」

千巣「あ?てめぇ誰だクソジジィ」

榊「じ、ジジィだと?!」

千巣「ジジィだろどう見ても」

榊「くっ…こんなガキの為に佐久間は戦っているのか…!」

千巣「佐久間?だれそれー」

榊「まぁいいさ、彼は名声なんざどうだっていい男だ。だが忘れるな。お前のその幸せは、誰かによって守られているということをな!!」

千巣「は?なーに言ってんだこのおっさん?ヒーロー気取りか?だっさ」

 


麗美「ちょっと。万君。いいすぎ」

千巣「ごめんごめん。てか麗美。その傷、見せてごらん?」

麗美「大丈夫だって、軽く擦っただけだし」

千巣「ハニーに傷は似合わないよ。ほら、跡になったり、バイ菌がはいったらいけない。マキロンで消毒するんだ」

麗美「…ひぃ!染みる!」

 


千巣「で、これやったのはどこのドイツだおいコルァ!」

葉月「こいつです」ピシッ!

幸二「おい仲間を売るな!」

 


千巣「ま、そんな気がしてたわ。お前さっき俺様の名前を呼んだな。もう一度呼んでみろ」

 


先輩は指の骨をポキポキ鳴らしながら言った。

 


幸二「千巣万之助。最強の魔法使いだ」

千巣「くっくっくっ。そうだよな。まさかこの街で俺様の名前を知らねぇ奴ァいねぇ。いや、いちゃいけねぇ。俺様は帝京卍會の初代総長!斬りのバイキーこと、千巣万之助様だァ!!」

 


俺達は知らぬ間に、謎のバイクの集団に囲まれてしまっていた!……すげえ既視感!!

 


バイキー!バイキー!バイキー!バイキー!

 


千巣「はっはっ。魔法使いってのは意味不明だが、最強ってのは本当さ。この街じゃ俺に勝てるやつなんざいねぇ。タイマンでは83戦83勝。俺達帝卍に逆らったチームは全て俺達の傘下に下った。今はかけがえのない仲間さ」

 


バイキー!バイキー!バイキー!バイキー!

 


千巣「まぁ俺様も鬼じゃねぇ。今日は気分がいいんだ。ハニーに土下座して謝るというのなら、今日のところは見逃してやる」

幸二「…!」

千巣「最強の俺様を前にしちゃ、どんな奴でも足が竦む。俺様はそれをよーく見てきた…」

幸二「…」

 


千巣「俺様が目の前に居るってのに…ひよってない奴いる?!」

 


バイキー!バイキー!バイキー!バイキー!

 


千巣「いねぇよなぁ!!!!!!!」

 


うぉぉぉぉぉぉぉ!!!!

 


野郎共の歓声が上がる。

 


幸二「ちっ…!」

葉月「バイキー!やっちゃえ!!!」

幸二「お前は俺の味方でいろよ!」

 


榊「ちょっと待て」

 


千巣「あ?」

 


榊「千巣万之助と言ったな。お前と話がしたい」

千巣「なんだジジィ。てめぇの出る幕はもう終わったぜ」

榊「君はこれだけの人間を従えて、さぞかし喧嘩が強いのだろう」

千巣「あぁ。最強だ」

榊「君は他の世界では、最強の魔法使いらしいな」

千巣「よく分からんが、そうなんだろうな。俺様のことだ」

 


榊「だが、今の君は最強なんかじゃない!」

 


千巣「…!なんだと!!」

 


榊「強さとは…力とは…自分の為に使うものでは無い。世の為、人の為に存在するものなのだ」

千巣「は?ジジィの説教かよ」

榊「君の拳は、何のためにある」

千巣「もちろん。ハニーを守るためだぜ?この街を締めて、ハニーには誰一人として手出しさせない。それが最強だ」

榊「そうかな」

千巣「は?」

榊「ならそのハニーの顔を見てみろ。どんな顔してる」

千巣「そんなの、俺に惚れてる顔に決まって…」

 


麗美「…」

 


麗美の顔は、雲っていた。

 


千巣「そ、そりゃ、ハニーは怪我してるんだ。暗くて当z…」

榊「違う!」

千巣「…!」

榊「お前の思う”独りよがりの強さ”を、彼女は望んでない!」

千巣「なん…だと?!」

 


榊「お前の強さは彼女の為のものじゃない。彼女を守ったつもりになって、強き自分を守る為の偽物の強さに過ぎない!」

千巣「俺の強さが…偽物の強さ…だと…?!」

 


榊「本当の強さは…愛する人の笑顔を守る為にある!!!」

 


ギィィン!!!

 


千巣「う…頭が……!!!」

 


榊「今の君は、歪んだ正義感と力に溺れてしまっている。思い出せ!大事なものはもっと近くにあるはずだ!!!」

 


ギィィン!!!

 


千巣「うわぁぁぁぁ!!!」

 


麗美「…!」

幸二「先輩…!」

葉月「…!」

 


榊「納得がいかないというのなら受けて立とう。私の拳は、真の強さを理解している」

千巣「て、てめぇ…!」

 


榊「今の君には、負けないよ」

 


千巣「ちっ…舐めやがってぇ…!!!!」

 


先輩が榊に殴りかかろうとしたその時!!

 


ペシン!!!

 


甲高い音が、虚空に響く。

 


幸二「!」

葉月「!」

榊「…!」

 


千巣「うっ…!」バタン

 


麗美「…」ハァ…ハァ…

 


麗美の掌が、先輩の頬を打った。

 


先輩はその場に倒れ、意識を失った。

 


ギィィン!

 


麗美「ううっ…」

 


バタン!

 


麗美もその場に、先輩に重なるように倒れ込んでしまった。

 


ザワザワザワザワ…

 


────

 


人混み外れた裏路地にて、麗美は目を覚ます。少し遅れて、先輩が目を覚ました。

 


幸二「…」

葉月「先輩…!」

 


榊「…」

 


千巣「…麗美

麗美「…」

 


榊「目覚めたか」

 


千巣「あぁ…いてて…」

麗美「あ…大丈夫?ほっぺた」

 


麗美は保冷剤で先輩の頬を冷やす。

 


千巣「悪いな」

麗美「ううん。叩いたの、私だし」

千巣「やっぱそっか。悪い夢でも見てたのかなって思ったわ」

麗美「ごめんなさい」

千巣「…」

麗美「万くん…元の万君に戻ってよ」

千巣「…?」

 


麗美「昔はこんなんじゃなかったよね」

千巣「…」

 


麗美「昔からケンカばっかりしてたけど、その拳には理由があった。変な人に絡まれた私を守ってくれたり、誰かの喧嘩を仲裁したり、いじめられてる人をいじめっ子から守ったり」

千巣「そうだっけか」

麗美「うん。無駄な喧嘩はしない。でも、やる時はやる。自分より力の弱い人を守る為に戦う。万くんは私のヒーローだった」

千巣「…!」

 


そう。その通りだ。

俺達が知る千巣万之助は、正しくそういう男だった。

弱きを助け強きをくじく。見返りなど求めない。常に謙虚で逞しい。それが最強の魔法使い。千巣万之助なのだ。

 


千巣「麗美…」

麗美「私が好きなのは、そんな万くんだよ。ただ暴力を振るうだけの万くんなんて…万くんなんて…」

 


麗美は泣き出した。

 


千巣「…ごめん麗美。俺思い出したよ。昔のこと。足震わせながら、いじめっ子に立ち向かった時の事」

麗美「…!」

千巣「あの時、傷だらけになった麗美を見て、もう二度と傷つけたくない…そう思って、俺は…」

麗美「…!」

千巣「なのに、こんな風になってしまった」

麗美「万くん」

 


千巣「傷つけたくなかったのに…俺のせいで…心が傷だらけになっちゃったな…ごめん…本当にごめん」

 


先輩は麗美を抱きしめた。

 


葉月「わーお」

幸二「…!」

 


千巣「俺、決めた。帝京卍會は、今日で解散だ」

麗美「…!」

千巣「俺には余る力だった。俺ごと飲み込まれてしまうような気がしたから」

麗美「万くん…」

千巣「俺は、大切な人を守る為に、この力を使いたい…!」

麗美「…!!」

 


麗美の顔に笑顔が戻った。2人の傷跡は夕陽に照らされて、傷が薄く見えた、そんな気がした。

 


チュッ

 


葉月「…!!」

榊「なっ!」

 


あぱー。麗美ちゃん、大胆!

 


麗美「約束だよ?万くん」

千巣「あぁ」

 


榊「強くなったな。最強の魔法使い」

千巣「いや、魔法はもう解けた、それに」

榊「?」

 


先輩は、微笑んでこう続けた。

 


千巣「俺は、弱い」

 


葉月「…!」

幸二「…!」

麗美「うっ…!」

 


千巣「麗美…?!」

麗美「うっ…頭…が…!」

千巣「どうした麗美…!麗美!!!」

 


麗美「…言葉が…聞こえる…!」

 


幸二「…!!!何だ!なんて言ってる!!」

葉月「…!!」

榊「…!」

 


麗美「何だろう……多分……”もってる”って…!」

幸二「持ってる…?何をだ…?」

麗美「分からないけど…聞こえるのは……これだけ……」

千巣「そういえば俺もさっき、言葉が聞こえた!」

幸二「なんて言ってましたか!」

 


千巣「エージェント」

 


葉月「エージェント?」カキカキ

 


榊「今のところ、パラドックス、エージェント、そして、持ってる…か」

 


幸二「なんの事だか…まださっぱりだ…!」

葉月「でも着々と、元の世界に近づいてることは間違いない…!」

幸二「だといいんだが…」

榊「…」

 


千巣「てか、お、おじさん」

榊「一応聞くが私のことかな?」

千巣「お、おう」

榊「私はおじさんではなーーーい!!」

千巣「あ、すみません。それはいいんですけど…一つ…」

榊「何だ!」

 


千巣「どこかでお会いしたこと…ありますか?」

 


榊「…!君、私のことを覚えているのかね!!」

 


千巣「いや、覚えてるとかではないんですけど、気のせいかもしれない…」

榊「…そうか」

 


幸二「俺達の世界では結構バトってたもんな」

葉月「そうだったような。ぎゃはぎゃは」

榊「…!そろそろ私が君たちの世界でどんな人間だったか教えてくれないかなぁ?!」

幸二「やなこったー」

葉月「思い出したくもない!」

榊「悲しいーー!!!!!」

 


────

 


次の日の朝。

 


俺は葉月と、とある場所へ向かった。

 


そう、それは、この世界の俺が通っているという学校”翠春高校”である。

 


時を遡ること半日前。

 


幸二「なぁ。お前ら、このままずっと野宿で過ごすつもりか?」

葉月「私家あるし」

幸二「お前、どのタイミングで家に帰ってたんだ?」

葉月「昨日の夜とか?」

幸二「お前まじかいいな俺なんてずっと銭湯と公園のベンチが友達だよとほほ」

葉月「うち泊まる?♡」

幸二「魅力的だが却下。妙に寒気がする」

榊「私は元々サバイバルには慣れている故問題ない」

 


葉月「てかそろそろスマホ持ちなさいよ。不便なのよ毎回公衆電話で集合するなんて」

幸二「だとしてもよ。どうすりゃいいんだ?」

葉月「家に帰ってみればいいじゃん」

幸二「さっき帰ろうとしたら先輩達にぶつかったんだよ」

葉月「あー用事ってそういう」

幸二「だから今夜は帰ろうと思ったんだが…」

葉月「だが?」

 


幸二「いざ帰るとなると…勇気が…」

葉月「勇気?」

幸二「まぁその、元々あまり家に帰らない少年だったのと…高校生の俺を見てどう言うか…」

葉月「なるほどねなら私たちも一緒に行ってあげよっか」

幸二「…!」

葉月「うまーく見守ってあげる」

幸二「余計なことする予感しかねぇ」

榊「私も行こう。たまには室内で夜を明かしたい」

幸二「サバイバルに慣れている とは」

 


そんなこんなで、俺は2人を連れ天堂邸へとやってきた。

 


玄関にて。

葉月「おっきいいお家!小町の家といい勝負!」

榊「寝心地も良さそうだ」

幸二「電気、消えてるな」

葉月「もう0時過ぎだもんね」

欠伸を交えながら葉月は言う。

 


幸二「俺の親…特に親父は勉強熱心で、夜の3時くらいまでは書斎の電気をつけているはずなんだが…」

葉月「書斎ってどの部屋?」

幸二「右奥の部屋だ」

葉月「消えてる…おつかれなんじゃない?」

幸二「かもな。ま、行くか」

 


家の中に入る。

 


葉月「凄い!顔認証でロックが開くんだ!」

幸二「まぁな」

 


家の中は真っ暗だ。

 


幸二「人気ねぇな」

榊「寝ているのではないか?」

幸二「どうだかな」

葉月「コージ君って、何人家族なの?」

幸二「両親と兄がいるが…」

葉月「あ、コージ君のお兄さんって…」

榊「?」

幸二「あぁ…少し前に、死んだ」

葉月「…でも、この世界だったら」

幸二「どうだろうな。どこまで呼応してるのか分からん」

葉月「たしかに」

 


幸二「両親の部屋を見たんだが、どっちもいない」

榊「留守ということか」

葉月「なんでだろう」

幸二「さぁ。出張かなんかか?」

 


そしてリビングへと向かう。

 


葉月「わーひろーい!電気つけていい?」

幸二「構わない」

 


パチッ

 


葉月「おぉ!もっと広い!」

榊「素晴らしい洋式の部屋だな。実にエレガント」

幸二「まぁ、一流の建築家にやってもらったからな」

葉月「これが家族の写真?」

幸二「あ、あぁ」

 


撮った覚えのない4人での家族写真が飾られていた。まぁ、記憶が無いのは当然なのだが。

 


榊「?これはなんだ、幸二」

幸二「ん?手紙?」

 


榊がテーブルの上で見つけたそれは、置き手紙だった。

 


幸二「…!これは」

 


”幸二へ

 


2日連続外泊なんて、お前も遊び人になったものだな。

 


スマホくらい持っていけっての。

 


もし明日連絡がなかったら警察に捜索願出すからな。

 


俺は部活の合宿で泊まりこみだから、明日には帰る。

 


よろしく

 


恵太”

 

 

 

これは間違いない…兄貴からの手紙…!

 


幸二「兄貴…生きてるんだな」

葉月「…」

榊「…」

 


葉月「スマホ、忘れてるって」

幸二「あぁ、さっき俺の部屋を覗いた時に見つけた、こいつだな」

 


俺は手に入れたスマホから、兄のラインを開き、無事を知らせるラインを送る。

 


そして、見覚えのない人間だらけのラインの通知から、少し見覚えのある名前を見つける。

 


”山田 光

 


お前、学校サボりすぎ

 


おーい

 


生きてるか?

 


明日は学校来いよ”

 


葉月「誰これ」

幸二「最初に友達面して近づいてきた奴だよ。ま、こっちの世界の俺の友達なんじゃねぇか?」

葉月「私で言うハナちゃんね」

幸二「こっちの世界の俺は”翠春高校”ってとこに通ってるらしいな」

葉月「家族写真見たけど、お兄さんも翠春高校に通ってるみたいね。制服同じだし」

幸二「ちょっくらいってみるか…どれだけ話の辻褄合わせ出来るかゲームしてみてぇし」

葉月「ゲーム感覚で草」

幸二「てか翠春高校ってどこやねん」

葉月「ggrks」

幸二「すみません」

葉月「それか、私が連れて行ってあげよっか?」

幸二「は?」

 


葉月「実は私も、翠春高校の生徒なのです!!」

 


幸二「え、そうなの、それ早く言って?」

葉月「まぁ私もさっき知ったから許してペロ」

幸二「あざとい」

葉月「しかもね、翠春高校の場所を調べた結果、少〜し気になる事が浮かんできてね」

榊「気になることってのは?」

 


葉月「なんとその場所…!」

 


────

 


そして辿り着いた翠春高校。

 


※榊は留守番。

 


幸二「なるほどな…」

葉月「そう、ここは」

 


幸二「魔法協会の跡地…!!!」

 


春高校。俺達の世界では、ここにあるのは魔法協会本部。善能寺柳子理事長によって統治される魔法専門機関。

 


だが、魔法のないこの世界では、ここはただの学校になっていた。

 


幸二「よし、行くか」

葉月「そうだね」

 


???「おーーい!幸二ー!!!!」

???「葉月ちゃーーーーん!」

 


そこに現れたのは。

 


光「幸二!今までどこいってたんだよ!」

花「久しぶり!葉月ちゃん!」

 


幸二「お、おぅ…ヒカルぅ」

葉月「や、やぁ…ハナ…ちゃん」

 


圧倒的ぎこちなさ!!

 


光「早く行かないと、授業遅れるぞ…!」

幸二「お、おう!」

花「ほら葉月ちゃんも行こ行こ!D組の教室遠いんだから!」

葉月「あ、うん!」

 


────

 


俺達は、いや少なくとも俺は、学校の授業をそつなくこなした。

俺を友達だと言う奴らは何人かいたが、皆俺のサイキックギャグ(?)に期待しているようだった。俺が冷めた態度をいつも通りに取っていると、少しがっかりしていたので、少し笑いを取りに行こうとすると、それが面白くないのか更にがっかりされた。このくそ。

 


光「なぁ幸二、少し時間あるか?」

幸二「時間?少しだけ…なら」

光「そしたらさ、いつものとこで、ワイン飲もうぜ!」

幸二「は?ワインって俺たちまだ高校」

光「ちがうちがう!いつも言ってるだろ?ウェルチだよ!自販で買って、それをワインって言いながら、大人の嗜みがどーたらこーたら言って飲んでるの、お前じゃないか」

幸二「…そうだったっけな」

 


ダサすぎるぅ。

 


そして屋上にそのワインとやらを持って登った。

 


光「いやー、美味い」

幸二「そうだな」

 


大人になると分かる。ソフトドリンクの完成度の高さを。

 


光「一つ聞いていいか?」

幸二「あ?」

光「お前、なんか変わったよな」

幸二「は?俺が?」

光「あぁ。なんかここ数日、変だろ。まるで誰かに成り代わっちまったみたいで」

幸二「…」

光「俺、お前の友達だろ?」

幸二「…!」

光「何かあったのか?お兄さんと喧嘩でもしたか?バイトが上手くいかないとか?」

幸二「…違う。そんなんじゃない」

 


光「じゃあなんだ?俺に言えない事なのか?」

幸二「まぁ(言ったって無駄だしな)」

光「言ったって無駄だ。そんな風に思ってるのか?お前は」

幸二「…!」

 


光「別に無理に聞こうとは思わないけど、そういう諦めが理由で秘密にしてるなら、傷つくな」

幸二「…」

 


光「俺達さ、最初お互いに友達がいなくて、周りがどんどん仲良くなっていくなかで、余り物同士で、体育のペア組んだのが始まりだったよな」

幸二「…」

ヒカル「お前が体操着忘れて、鬼教師に借りに行くのが怖いって言って、一緒に借りに行って、俺まで怒られて…」

幸二「(そんなことがあったのか)…わるかったな」

光「そんなこと、俺にはどうだっていいくらい、友達が出来たことが嬉しかったんだよ」

幸二「…」

 


光「お前はちゃらんぽらんに見えるけど、貰った恩は忘れない奴だ。だから俺が大事な母親の形見を川に落とした時、日が暮れるまで探してくれた」

幸二「…!」

 


光「言えないことがあってもいい。でも、俺の事を少しでも…頼って欲しいんだよ!」

幸二「…」

 


こいつには言ってもいいのだろうか。

 


そうだよな。俺がこうしてる間にも、元の世界には別の俺がいて、そいつはいつかここに戻る。その時に、俺がしでかしたことがきっかけで、もう1人の俺が存在しにくくなったらそれは、俺の責任だ。

絶対に交わることの無い俺だとしても、そいつを俺は、おざなりにはできない。

 


幸二「おい…ひ、ヒカル」

光「ん?」

 


幸二「…話していいか?」

光「あぁ」

 


幸二「単刀直入に言う。俺はこの世界の人間ではない」

光「…!」

幸二「俺は平行世界の住人で、恐らくお前らが今まで見てきた天堂幸二とは別人だ。俺は魔法というものが存在する平行世界での天堂幸二だ。だからお前らの事は何も知らない。ここに来たのも初めてなんだ」

光「…」

幸二「お前らの天堂幸二は必ず返す。俺が元の世界に戻ることで、幸二は必ず帰ってくる。だから、俺が自分の世界に帰れるように手伝って欲しい」

光「…そ、そうなのか」

 


幸二「て言っても、信じないよな。こっちの俺はそんなぶっ飛んだジョークばっかり言っていたのだろう?」

 


光「信じるよ」

幸二「…!」

 


光「俺は、何をすればいい」

幸二「それに関しては、正直できることは無い」

光「…」

 


幸二「しばらくここには来ないかも知れないが、見守っていてくれ。そしてここに戻ってくる天堂幸二を助けてやってくれ」

光「…」

 


すると、二人きりの屋上に、とある男が現れる。

 


???「お!幸二!あっは!お前ここにいたのか!」

幸二「…!兄さん!」

 


そこに現れたのはサッカーのユニフォームに身を包んだ俺の兄貴。天堂恵太だった。

恵太は俺と共に魔裁組の一員だったが、俺が引き起こしたとある出来事を機に離隊。後に再会するも、俺を庇って、命を落とした。

 


光「俺はお邪魔なようだからここで失礼するね」

幸二「お、ちょ、ヒカル!」

光は兄貴に一礼して、去っていった。

 


恵太「友達か?見ない顔だな」

幸二「…」

 


兄貴は柵によりかかって立っている。

 


恵太「何だよ。ジュース買ってきたのに、もう持ってんのかよ。ま、家帰って飲めばいっか」

幸二「…」

恵太「おい何黙ってんだ?もしかして、久々にあって怒られるとか思ってたか?」

幸二「…」

恵太「大丈夫、お父さんとお母さんには言わないから」

幸二「…」

 


恵太「って!なんでそんなに話さないんだ?!なんか喋れよ!おい弟!」

幸二「…」

 


何故だろう。言葉は詰まってしまうのに、代わりに溢れんばかりの涙が頬を濡らした。

 


恵太「…!おいお前、泣いてんのか?」

幸二「兄さん…」

恵太「は?」

幸二「兄さん…!!!」

 


不思議と俺は、兄の胸に飛び込んでいた。

 


恵太「おいよせ幸二!泥がつくぞ!」

幸二「兄さん…!兄さん!」

恵太「なんかあったのか?帰らない間に」

 


声にならない嗚咽が、屋上に響く。

 


恵太「とりあえず、一旦落ち着けって。お前がただ事では無いことは理解した。大丈夫、何とかなるから、話してみろ」

幸二「…」

 


首を横に振った。

 


恵太「?」

幸二「俺は…兄さんに、謝らないといけないことがあるんだ」

恵太「俺に?なにを?」

幸二「…」

恵太「あ!お前もしかして、昨日届いたナナミンのフィギュア壊したのか?!」

幸二「…ちがう」

恵太「じゃなんだよ!」

 


幸二「兄さんの…大事な思い出を…壊した…」

 


恵太「思い出…?」

 


幸二「俺は兄さんの知ってる俺じゃない」

 


恵太「は?またトンチンカンなことを」

 


幸二「俺は、平行世界の天堂幸二なんだ」

恵太「平行世界?」

幸二「俺のいる世界では、魔法ってものがあって、俺はそこで魔法使いとして、魔導書を集めて、魔者を倒してる」

恵太「なんだ?ゲームの話か?」

幸二「信じてくれなくていい。でも本当なんだ。俺は数日前、この世界にやってきた、別の世界の天堂幸二。歳は20歳で、職業は魔法使い」

恵太「…!」

 


幸二「天堂家は代々魔法使いの家系で、俺も兄さんも魔法使いだった」

恵太「だった?」

幸二「俺の世界の兄さんは…」

恵太「?」

幸二「俺が小さい時にやった罪を被って、勘当されるんだ。そして一人でその人生の殆どを過ごすことになる」

恵太「…!」

幸二「大人になって再会した時には、兄さんは…俺を…魔者から守って…」

恵太「…」

 


幸二「俺は…兄さんの思い出も大切な場所も…人生も…全部奪ってしまったんだ…!」

恵太「…そうなのか」

幸二「そして死に際、俺はそれを伝えることが出来なかった」

恵太「…」

 


幸二「ずっと後悔してた。死のうとも思った!全て奪った俺が、どうして生きているんだって!でも、死ぬことは出来なかった」

恵太「…」

幸二「俺は今も魔法使いとして、戦っている。兄さんが残してくれた力を使って」

恵太「…」

 


幸二「正直、今の兄さんに言っても、何の意味もないよね」

恵太「…」

 


ギィィン!!!

 


恵太「うわぁぁぁぁ!!!!」

幸二「…!兄さん…!」

恵太「幸二…!!!幸二…!!」

幸二「兄さん!!!」

 


兄貴は少し頭を抑えたあと、落ち着きを取り戻した。

 


恵太「…」

幸二「兄さん…大丈夫?」

恵太「…あぁ」

 


兄貴は、俺を抱きしめた。

 


幸二「…!」

恵太「いいんだ。お前が生きていてくれれば、それで」

幸二「…!兄さん!」

恵太「お前を守って死んだ、俺はどんな顔してた?」

 


笑っていた。兄貴は笑顔で、晴れやかに…旅立っていった。

 


恵太「お前が生きてる。それが何よりの望みなんだ。自分の人生に後悔なんて、俺はしてない」

 


幸二「…!兄さん!兄さん!!!」

恵太「大丈夫、俺はずっと、お前を見守ってるから」

幸二「兄さん…?記憶が…?!」

 


兄は優しく微笑んだ。

正直、帰るためのキーワードを聞き出すことすら忘れてしまうくらい、俺の感情は決壊していた。

 


幸二「信じてくれるのか…?俺の言うことを」

恵太「信じるも何も、弟の言うことを信じられない兄なんて、どこにいるんだ」

幸二「…兄さん」

恵太「うん」

 


幸二「俺…頑張るから」

恵太「うん」

幸二「俺、頑張る。誰よりも強い魔法使いになって、必ず魔法を封印する。そして、誰も魔法によって苦しめられることの無い世界を実現する!俺には強い仲間が沢山いるから!一人じゃないから!だから大丈夫だよ!お兄さんが出来なかった分まで、絶対に俺が引き継ぐ!だからどうか兄さんも…その…」

恵太「長生きするさ。こっちの世界ではな」

幸二「…!うん!」

 


葉月「…コージくん」

花「…」

葉月「盗み聞きがバレる前に帰ろっか、もうすぐ門閉まるし」

花「う、うん…」

 


────

 


恵太「帰るか」

幸二「…あぁ」

 


俺たちは、2人で家に帰った。

 

 

 

ガチャ

 


恵太「ふぅ。疲れた疲れたーっと」

 

 

 

榊「あ、お邪魔してマース」

 


恵太「誰やねん!!!!!!」

 


────

 


次の日の朝

 


恵太「着替えたんだな」

幸二「あぁ。制服はもう、無理があると思ってな」

恵太「見た目は高校生だけどな」

幸二「中身はもう兄さんより年上だぜ」

恵太「あっはっは。そうだな」

幸二「それじゃあ。もう1人の天堂幸二をよろしく」

恵太「あぁ」

 


────

 


俺は、ここには帰らないことにした。

 


ここにいると俺は兄に…家族に甘えてしまう。俺が背負った業は、重い。

 


甘えていてはダメなんだ。

 


榊「本当に良いのだな」

幸二「あぁ」

榊「もう一度聞く。本当に、良いのだな」

幸二「あ、あぁ」

 


兄貴の方は振り向かない。俺は前だけ向いて、家を後にする。

 


恵太「幸二!」

幸二「…!」

 


振り返ってはダメだ。

 


恵太「長生きしてくれよ」

 


幸二「…!」

 


俺は溢れる涙を堪えながら、振り返らず、足を進めた。

 


兄さん、ありがとう。

 


元の世界に戻っても、頑張れる気がするよ。

 


だから見ていてくれ。

 


榊「本当に本当に本当に良いのだな!」

幸二「お前寝心地良かっただけだろ!!!」

榊「低反発枕神すぎたぁ!!!!」

 

SOREMA外伝 The Parallel ③へ続く。