SOREMA -それ、魔!- 32

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SOREMA -それ、魔!- 32

 

「契(ちぎり)」

 

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第273話 「ワーカホリック

 

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《原宿 / スターバックス

 

百目鬼「油木君。ひとついいかな」

一善「?」

百目鬼「どうしてショートにしたのかな?普通ベンティでしょ」

一善「え、早く飲み終わるかなって」

百目鬼「いやさ!16時過ぎのスタバなんて長居確定コースじゃん?ベンティとかグランデをちびちび飲みながら語らうやつじゃん?」

一善「女子か」


百目鬼「ま、別にいいけどさ」

一善「...」チュー チュー


百目鬼「君は、どうして魔法使いになったんだい?」

百目鬼は、微笑みながら問いかける。

一善「成り行き。親が魔導師に殺されて」

百目鬼「それは気の毒だったね。魔導書は?どこで?」

一善「それは子供の頃から」

百目鬼「ってことは、君のマヂカラが、魔導師を呼んだのかもね...!」

一善「いや、正確には俺自身じゃなくて、親が拾った別の魔導書だと思う。四十九章、予知の書」

百目鬼「...なるほど」


一善「白鶯蓮源。この名前に聞き覚えは?」

百目鬼「ない。誰?それ」

一善「魔導師。昔魔裁組にいた」

百目鬼「履術者?」

一善「そう。さっきノベルは、13の魔導書の在処を知ってるって言ったから」

百目鬼「まぁ、もしかしたらいるかもねぇ。さっき言ったけど、本名はお互いに知らないんだ」

一善「まぁいいけど...全員魔裁組が倒すから」

百目鬼「...」


百目鬼「それで?油木君は、なんで今も魔法使いを続けてるの?」

一善「なんでって、”仕事だから”」

百目鬼「それだけ?」

一善「後は、魔法を無くしたいから」

百目鬼「そんなマクロな話じゃなくてさ、もっとミクロの話...君自身のことだ、油木一善クン」

一善「...そんなに興味ある?」

百目鬼「俺は皆にこの話をする。その人間の度量を見極めるためにね」

一善「...」

百目鬼「人の行動には理由があるだろう?人のために命をかける仕事なんて尚更だ。感謝されるため、英雄になるため、承認欲求を満たすため...じゃあ君は?何かあるだろう?」

一善「...」


百目鬼「で?答えは...?」

一善は、考えた。そして口を開いた。

 

 

一善「忘れた」

 

 

百目鬼「...!」

 

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第274話 「追手」

 

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《原宿 / スターバックス

 

百目鬼「はははっ。君はバーサーカーか何かかな?そんなに戦いが好きなのか...?」

一善「戦いは嫌いだよ。誰かを傷つけたり、傷ついたりしたくない」

百目鬼「じゃあ何故」


一善「やるしかないんだから、やるしかないだろ」

一善の目は、真っ直ぐ乾いていた。

百目鬼「...?」

一善「魔法使いって、誰にでもできることじゃないだろ。だから、俺がやる。それだけ」

百目鬼「...なるほどなぁ」


一善「(違う...自分で言っていて違和感がある...何か、もっと違う何かがあったはずなんだ...でも、この仕事が当たり前になった今...俺がやることは、魔者を倒して、人を守ること...)」

 

百目鬼「君は目の前のことに夢中になって、向き合うタイプなんだね」

一善「これで満足?」

百目鬼「いやもっと...湿った回答を期待してたんだけどなぁ...ま、いいや、そういうことなら...」

一善「?」

百目鬼「次の質問はぁ...」

 

 

ゾ    ク     ッ   !!!!

 

 

一善「!!」

百目鬼「!!」


カフカ「へー。僕がみえるんだぁ。2人とも...!」

2人のすぐ横に、1人の魔者が現れた!


一善「...!!!」

百目鬼「魔者...!」

カフカ「な〜んてね。ずっと探してたんだよ。君を」

カフカは一善を凝視して言った。

一善「...俺を?」

カフカ「あぁそうさ。僕の遊びを邪魔したよねぇ?覚えてない?」

一善「...?」

百目鬼「(この独特な雰囲気...まさか?!)」

カフカ「ほら、君が退治した魔者...本当に覚えてない?あれ、僕が作ったんだよ...!」

カフカは、テーブルに蝶々紙を置く。


百目鬼「(こいつ...!やはり!!)」

一善「(百目鬼が持っているのと同じ...こいつもノベル!魔導書の魔者...!!)」


カフカ「隣の君も、魔法使いなのかな?魔裁組の子...?」

百目鬼「さ、さぁな...」

一善「(こいつら...お互いに仲間だと知らないのか)」

カフカ「ま、いいや、魔法使いならどっちにしろ消さないといけないし...2人まとめて殺しちゃおうかな...!」

一善「やめろ!ここでは周りの人が...!!」


カフカ「安心して。君達2人にしか用はない...魔導結界展開...!」


ゴォォォォォォォ...!!!!


一善「!!!(眩しい...!!)」

百目鬼「(魔導結界が使えるのか...!つまりこいつは大幹部級...!!!)」


2人が目を開けると、そこは青白いクリスタルが輝く洞窟の中だった!


カフカ「魔導結界...”洞窟”...!!」

一善「(何だこれは...?!)」

百目鬼「...!!」

 

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第275話 「カフカ

 

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《魔導結界・洞窟》

一善「これは...お前の術か?」

カフカ「そうだが、少し違う。これは我らがボスに与えてもらったもの...」

一善「お前たち、何を企んでいる...?」

カフカ「そんなこと、君に言う必要は無いよ」

百目鬼「お前の名前は何だ」

カフカカフカ。でもこれは、仮の名前さ。本当の名前は忘れたよ」

百目鬼「(カフカ...それがこいつのコードネームか。聞いたこと無いな)」


一善「なんでもいいけど、俺は君に負けないよ?」

カフカ「そうか。でも、僕はね、今まで邪魔して来た人間達はみんなちゃんと殺して来たんだ...だから君もきっちり殺してあげる...!」

一善「知らないけど、俺にとって魔者って殺すものだから、君は死ぬよ」

カフカ「あぁ...なんかすごいイライラするなぁ...!早く殺してやりたい...!」ボリボリ...!


百目鬼「...どうする油木クン?策でも練っちゃう?」

一善「おい、まだ君を信頼した訳じゃない。君が妙な気を起こしたら、容赦なく攻撃する」

百目鬼「じゃあ、ここで俺への信頼を確固たるものにして貰おうか...!」


カフカ「ごちゃごちゃうるさいな!」

一善「つのキング」ボワンッ!

つのキング「ウォーーーーー!!」


つのキングは、カフカに突進した!


カフカ「ははっ...!」


ドカッ!!


カフカは、つのキングを蹴飛ばした!

カフカ「しょうもない」

その瞬間、一善はカフカに迫る!


一善「緑のエレメント...!地獄の花!」

カフカ「(速いな...!)」


ヒュン!!!


カフカは、一善の攻撃をかわした!

一善「(かわされた)」

カフカ「次は僕の番だな...!」ゴォォォォ...!

一善「!!!」

カフカ「ぶっ飛びな!!」

カフカが、一善に殴りかかろうとしたその時...!

 

パッ!!

 

カフカ「???(消えた...?)」

一善「???(場所が...入れ替わった...?)」


百目鬼「...」

 

────


第276話 「翻弄の洞窟」

 

────


《魔導結界・洞窟》


カフカ「(なんだ...?どちらかの能力か...?)」

一善「...?」


少し動揺した2人に、百目鬼が口を開く。

百目鬼「おい魔者。この結界は、お前を殺さないと消えない。そうだな」

一善「...?」

カフカ「そうだよ。でも殺せるかな?僕、結構強いけど...?」

百目鬼「何とかなるよ...きっとね」

一善「...」


カフカ「まぁ出来るものなら、挑戦だけでもしてみなよ」


その時だった。

一善「...」


グサッ!!!!!


カフカの胴に強烈な痛みが走る...!


百目鬼「...!」

カフカ「なんだ...これ?」グハッ...!


つのキングの真ん中の角が、カフカの胴体を貫いた...!


百目鬼「...!(魔獣が後ろから奴を...!)」

一善「散れ」

つのキング「ウォーーーーー!!!」グルグルグルグル...!!

カフカ「...!」


つのキングは、カフカに角を突き刺したまま、高速で回転した!!

カフカの胴体は、肉片となって飛び散る...!!


カフカ「くそ...!」ドリリリィィィィ...!!!

百目鬼「(奴の体が攻撃を受けて飛び散っていく...!!)」


バッシャーーーーーーン!!!


カフカの体は、砕け散った!!!


百目鬼「(終わった...のか?!)」

一善「...!!」

つのキング「ウォーーーーー!」


ビチャッ。


肉片は、カフカが立っていた場所を中心に散らかっている。

一善「死んだか?」

百目鬼「だが...結界は壊れないな...」


その時、どこからともなく声が聞こえた...!


カフカ「なるほどねぇ...ますます殺したくなっちゃったよ...!」

一善「!!!」

百目鬼「!!!」

 

────


第277話 「はじめまして」

 

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《魔導結界・洞窟》

ニュルニュルニュル...

グチャッ!グチャッ!

すると、肉片がスライムのようにくっつき出し、固まりだした。そして、カフカは元通りの姿になった。


カフカ「...」ニヤッ

一善「凄まじい再生力の魔者だな」

百目鬼「何かの能力か?お前の能力は何、」


シュバッ!!!


百目鬼「!!!」ビュンッ!

カフカは、手を刀状にして、百目鬼の耳元を掠らせた!

一善「手が剣に?」

百目鬼「ちっ...話してる途中だろうが...!」

カフカ「君達、何と戯れてると思ってる?」

百目鬼「...!」

一善「...!」


スタッ


カフカ「魔者だよ?僕は」

百目鬼「ははっ。そうだった...な!!」


パッ!


百目鬼カフカの背後に移動した!

カフカ「!!(後ろ?!)」

百目鬼「”運”!!妖鋏(あやかしはさみ)!加具土命!!!」ズバッ!!!!

百目鬼は大型の鋏型の魔具で、カフカの胴を真っ二つに切り裂いた!


しかし、カフカの胴は伸びきって、断ち切れない!


カフカ「いひぃ!」ビヨーーーーーン!

百目鬼「!(切れてない...?)」

一善「...!(体がゼリーのように伸びた...?!)」

カフカ「わかった。君から殺してあげるよ!」グチャグチャ...!


カフカは、片手の5本指を遠心力で伸ばし、硬化させた。そしてそのまま、百目鬼を切り裂く...!


一善「百目鬼!」

カフカ「ひぇい!」

百目鬼「...!!」


パッ!


カフカと一善は位置が入れ替わった。


バシューーーーーーン!!

カフカの攻撃で、洞窟の一部が破壊された。

カフカ「あぁ、うざったいなぁ...!」


一善「...?!」

百目鬼「ハァ...油木よく聞け...これは蒼魔導書第二十三章 置換の書の能力...物や人の場所を入れ替えられる。走と組み合わせることで、さらに遠い場所に移動することも出来る」

一善「なるほど」


カフカ「君はさ...なんなんだよ。さっきから邪魔ばっかしてさ。何もしなかったら、命だけは助けてあげても良かったのに。本命は虫の子だったんだからさ」

百目鬼「もう助けてくれないってか」

カフカ「そうだね。死んでよ」

百目鬼「ははっ。死ぬのはお前だ」

一善「...」

カフカ「...?!」


百目鬼「”アラン”これが俺のコードネームだよ...!」

一善「...!」

カフカ「...は?」

 

────


第278話 「五月蝿(さばえ)」

 

────


《魔導結界・洞窟》


一善「(正体をばらした...大丈夫なのか?)」

百目鬼「ハァ...この結界の中の出来事は、外の世界に干渉しない。つまり、ここの中で起きた出来事は、結界が閉じている限り外の人間には知られない。そして、ここを出るためにはお前を倒さないといけない。なら、関係ないだろう?」


カフカ「アラン...?そうか、新人の子かぁ...魔裁組のスパイだったの?」

百目鬼「いいや。俺はただの魔法使いさ。そして...お前らノベルを壊滅させる引き金さ...!」

カフカ「君さ...これは裏切りだよね?わかってる?君、もうおしまいだよ?」

百目鬼「...」


カフカシェイクスピア様に殺されるよ?」

百目鬼シェイクスピアもいずれ消すさ...お前を消してからゆっくりとなァ!!!」


カフカ「ははっ。決めた。君は半殺しにして、シェイクスピア様に突き出してあげよう。どんな惨い死に方をするのかなぁ...!楽しみだよ!!!」

百目鬼「それはあの世で妄想しときな」


カフカ「(あの虫の魔法使いは後だ。まずこの男を...!)」シュバッ!!!

カフカが攻撃を仕掛ける...!

百目鬼「!」

パッ!

カフカ「...!(虫の男と位置が入れ替わった!)」

そして、百目鬼は一善に攻撃を仕掛ける!

百目鬼「くらえ!!!」

一善「!!!!(こいつまさか俺に...?!)」


百目鬼「朝霧...!!!」

ズ         バ         ッ         !         !

カフカ「ぐはぁ...!!」バシューーーン!

一善「(攻撃の直前で位置が入れ替わった...!)」ホッ

カフカ「...!」

百目鬼「ふっ。今度は効いてるな」


カフカ「ちっ」

百目鬼「ふっ」  ヒラッ

百目鬼は、蝶々紙を目の前に一枚放った。そして、鋏を大きく開いた。

パッ!

蝶々紙とカフカの位置が入れ替わる。そして、百目鬼は鋏を閉じる!

百目鬼「弓張月...!」


バ     チ     ッ     !


カフカ「ぎゃあぁぁぁぁ!!!」バッスン!!!


百目鬼「お前の能力、体を硬くしたり柔らかくしたりする能力だな?だが、それはお前が意図的に変化させるもの。反応出来なければ、デフォルトの体に攻撃がヒットする。そうだな?」

カフカ「...さぁ?」

百目鬼「おいおい...胴体真っ二つにしてんだから...とっととくたばれよ」

カフカ「ゴフッ...魔者にとってはこんなの擦り傷だよ」ポタッ


ビヨーーーーーーーン!


グチャッ!

カフカは、胴と胴の断面を液体状に伸ばしてくっつけた。


カフカ「くくくっ。お前たちじゃ俺は倒せない...ハンデとして、さっきの答え合わせでもしようか?俺の能力は蒼魔d...」


ド    カ     ッ!!!!


百目鬼「!?!?」

カフカ「あ゙ぁぁ」ガホッ


一善が背後からカフカの顔面を地面に叩き潰した!


一善「...」

百目鬼「うっわぁ...痛そ」

ドスッ!

一善は、カフカの背中に腰掛けた。


一善「お前さ、煩いよ」

 

一善の冷たい視線──────!

 

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第279話 「作業」

 

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《魔導結界・洞窟》

一善「...」

百目鬼「お、おい...油木?能力の話は聞いておいた方がいいんじゃ...?」

一善「どうだっていいよ。こいつ弱いし」

百目鬼「...?(弱い...?どう考えても頭おかしいだろ!)」

カフカ「ゴホッ...僕が弱いって...?」ギリギリ...!

一善は、カフカの頭を更に沈める!

カフカ「...!(上手く'液'状'化できない...!)」


一善「俺はさ、ずっとお前ら魔者を倒す訓練をして来たんだよ...そこらの野良の魔法使いと一緒にするな」

百目鬼「...!」

カフカ「...少し黙れよ...人間如きが...!」

カフカが、手足の指を上に伸ばして、一善を上から突き刺す...!

カフカ「ならお前だけでも殺させろ!!!!!」

百目鬼「...上!」

一善「...」


ジャッキーーーーーン!


つのキング「ウォーーーーー!!!」

つのキングは、一善の上を飛び、カフカの伸びた指を切り落とした!

一善「ありがとう。つのキング」

カフカ「?!(斬られた...?!)」

一善「どうやら、こっちに軍配があがったみたいだね」

カフカ「...?!(何故だ?!いくら紫の男にマヂカラを消費させられたとはいえ、ただの人間如きにこれ程簡単にやられるとは...?!)」

百目鬼「...(例え油木の能力が、奴の能力と相性が良かったとはいえ、こんな簡単に...?!)」


一善「勝利の道筋は見えてる...仕上げと行こうか」

カフカ「(なんだろう...体が...マヂカラがどんどん溶けていくような...)」

カフカは、力が抜けていく。


一善「終わりだ」

百目鬼「...!」

一善は、カフカの顔面を地面に押しつけながら、後頭部に手を当て力を入れる!

 

ガ     ァ      ン!!!!!

 

一善は、カフカの頭蓋骨を粉砕した...!

一善「緑のエレメント。破戒」ドン!!!


カフカ「゙゙゙゙〜!!!!!」


ビュシュゥゥゥゥゥァァァァァア...!!!!


カフカから黒い液体のようなものが勢いよく吹き出した!!!

そして、カフカは消滅した...!!!


一善「...ふぅ」


百目鬼「す、すごーい」パチパチパチパチ

一善「...」

百目鬼「コングラッチュレイション!'あ'の'時よりだいぶ強くなったみたいだねぇ...」

一善「は?」

 

 

バオォォォォォォォン!!!!

 

 

2人が辺りを見渡すと、結界にヒビが入っていくのが見えた。

百目鬼「結界が...!」

一善「壊れていく...!」


そして、2人は強い光に包まれた!


目を開けると、そこはスターバックスだった。外は暗くなっていた。

 

────


第280話 「契(ちぎり)」

 

────


《原宿 / スターバックス


百目鬼「戻ってきたな」

一善「本当だ」


客A「あれ?あんな所に男の2人座ってたっけ?今パッと現れた気がするわ...!」

客B「何言ってんだよぉ。疲れてるんじゃないの?」

客A「そ、そうよね...」


百目鬼「みただろう。あれがノベルさ。醜いだろう?」

一善「あいつ、強かったなぁ」

百目鬼「え?弱いって言ってなかったか?」

一善「それは百目鬼が追い込んだからだよ」

百目鬼「だとしても」

一善「それに、最初につのキングで刺した時、吸魔の札を仕込ませておいたから...勝てたのかも」

百目鬼「(なるほど...?胴を攻撃した時に、奴が吸収した吸魔の札に反応したのか...?ま、よくわからんけど)」


一善「ま、今回は百目鬼がいたから勝てた。それはありがとう」


百目鬼「...なんか、油木クン、つかめないねぇ」

一善「それは君も同じ」

百目鬼「ははっ。そりゃどうも」

一善「ていうか、魔導書は?」

百目鬼「あ」

一善「あれ?さっき魔者倒したよね?魔導書の魔者じゃないの?あいつ」

百目鬼「契りの指輪。これは、ノベルのメンバーが付けている魔具さ。俺もほら、つけてる」バッ


百目鬼は、手袋を外して、その下についた指輪を見せる。

一善「これが何なの?」

百目鬼「この指輪をしている者が死んだ場合、魔導書はある一定のスポットに送られるように契約されているのさ」

一善「ということは...さっきの魔者の魔導書もどこかに?」

百目鬼「そう。ノベルのボス、シェイクスピアの元へ渡った」

一善「...!!」

百目鬼「ノベルは、魔導書の適合者を探してる。人間だろうが魔者だろうがなんだっていい。同じ目的の為に動ける強力な駒を集めてるんだ。ま、そんなの簡単に見つからないから、下手に魔者になって自我も保てず、街に捨てられるんだけどね」

一善「それを俺たちが退治してたわけか...許せないな...!」

百目鬼「つまり、奴らの魔導書を全て回収するには、ノベルという組織そのものを崩壊させるしかないんだよ。一人一人倒しても、また新たな駒が生まれる。無駄だろう?こんないたちごっこ

一善「確かに」


百目鬼「だから俺に協力してくれ。俺もお前たち魔裁組に対して悪いことはしない。俺の目的はとある魔導師を倒すこと。でもそいつは俺一人で倒せる相手じゃないんだ」

一善「...」

百目鬼「油木」


一善「...いいよ」

百目鬼「...!?」

一善「いいよ」

百目鬼「本当か?!」

一善「どうせやることは変わらないからね。魔者を倒す。魔導師を倒す。これだけだから」


百目鬼「恩に着る...」

 

一善は、百目鬼という少年と共に、悪の組織の魔者を退けた。そして彼と契りを交わしたのだった。

 

 

同時刻、魔裁組を揺るがす大事件が起きていたことを知るのは、少し後の話だった────

 

────

 

第281話 「エミリー」

 

────


《第2支部 / 実働班ルーム》

午後6時半頃。


三太郎「(一善、帰ってこないなぁ...ジャスさんも今日はどっかに泊まるらしいし...女子はお泊まりか...)」


三太郎は、1人でアイスを食べていた。


三太郎「(あと1人は居ても喧嘩するだけだしな...実家に帰ってるんだっけ?ま、どうでもいいや。なぎちん達は最近ずっと忙しそうだし...暇だなぁ...パズドラでもやるか)」


三太郎はパズドラを始めた。


三太郎「(最近...一善が心配だ。なんか、心から笑えてないような気がする。一善は誰よりも仕事に打ち込むようになった。ジャスさんが言うように今年が大事な年なのは分かるけど、一善は仕事以外何も見えなくなっているような気がして、正直...怖い。確かに、今の一善は強いし、すごい頼りになるけど...」


三太郎「(なにか、”大切なこと”を忘れてしまっているような気がする)」

 

────

 

《魔導結界・荒野》


エミリー「抵抗しないの...?」バァン!

千巣「...!」バシューーーーーーン!

千巣は膝をついたまま、エミリーの弾を受ける。


エミリー「なんか、可哀想になってきたわ。やっぱり、可愛い先輩は攻撃出来ない...ってことねぇ。あなたも人間ね」

千巣「ハァ...でも、それと同時に魔法使いだぜ?」


ビュンッ!!!


千巣は、隠し持っていたナイフをエミリーの足元に投げつけた!

エミリーのふくらはぎから血が出る。


千巣「レディの武器に傷つけてすみませんね」

エミリー「心配いらないわ」


スッ...!


エミリーの傷が治った。

千巣「...?」

エミリー「回復魔法。それに私、魔者の細胞を移植してあるから、人間でありながら魔者の再生能力を持ってるの。オリジナルには劣るけどね」

千巣「もうそれは魔者だな」


エミリー「ほら、斬ってみなさいよ、私の喉元にナイフのひとつでも当ててみなさい」

カランカラン...!

エミリーは、転がったナイフを千巣に蹴って渡す。

エミリー「あとその眼、温存しているようだけど、なんでかしら」

千巣「こいつは切り札だからな...!」

エミリー「(この子、私の術に気がついている...)」

千巣「...(”虚”を発動するには相手を削りきれていないからリスクが大きい、もし術がかからなければ即アウトだ。五感それぞれにアプローチするだけでは一撃で殺せない。途中で使えなくなったら終わる...どうする...?!)」


エミリー「ふふっ。可愛いわね」

 

SOREMA -それ、魔!- 33に続く。

 

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第273話 「ワーカホリック

第274話 「追手」

第275話 「カフカ

第276話 「翻弄の洞窟」

第277話 「はじめまして」

第278話 「五月蝿(さばえ)」

第279話 「作業」

第280話 「契(ちぎり)

第281話 「エミリー」