草も生やせない、恋をした。⑩「何色の空」

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最終話「何色の空」


《お台場》


ヒカル「お台場久しぶりに来たなぁ」

ソラ「そうだね」


日曜日。冬の昼よろしく、真っ白な空。人気はそれなりに多く、まだ明かりのついていない装飾が、街の中を駆け巡っていた。見慣れた灰色のコートを羽織ったヒカルは、いつもと変わらない様子だった。


ヒカル「時間がないのに、ごめんね。今日どうしても会いたくて」

ソラ「大丈夫だよ。シフトまで暇だったし」

ヒカル「ちょっと買い物しようか」


ガンダムのいるショッピングモールに入り、少しウィンドウショッピングをした。スポーツショップや、ファストファッションのお店を回って、フードコートで軽食を済ませた。


そして、橋を渡った別のモールに移動しようと、ヒカルが提案し、私はそれにのった。


ヒカル「少し、あのベンチに座らない?」

ソラ「???いいけど」


ヒカルは、鳩が溜まったベンチを避けて、二人がけのベンチに腰かけた。


ヒカル「人が多くて、少し酔ったみたいだな笑」

ソラ「珍しいね」


ヒカルはペットボトルの水を取り出して、一口飲んだ。

ヒカル「クリスマス、もう決めた?」

ソラ「...」

ヒカル「?」


私の心はもう決まっていた。喉元には、もう言葉が出かけていた。吐きそうだが吐けないあの感じと同じ気持ち悪さを覚えつつ、沈黙でそれを少し流そうとした。


私は今、ヒカルとの関係を終わらせるつもりでここにいる。

 

ーーーーー

 

時を遡ること、数日前──


《ソラの自宅》

 

蘭「──なるほどね〜お姉ちゃんも大変だね」

ソラ「蘭はさ、どう思う?」

蘭「...お姉ちゃんがどうしたいか、じゃない?」

ソラ「...」

蘭「今お姉ちゃんが一番一緒にいたい人は誰?傍にいたい人は誰?」

ソラ「...!」

蘭「それが例えヒカルさんじゃないとしても、私は応援するよ?お姉ちゃんが自分で選んだ道なら──」


そうだ、私はいつも道に選ばれてきた。


だけど、ハナは?ヒビキは?ユメちゃんは?みんな、自分で自分の行きたい方向に進んでいる。その強さが皆にはあって、私には無い。


あぁ。私も、皆みたいになりたい。そんな思いが、私の中で強烈な渦を巻いて、体を支配していた──

 

ーーーーー


《お台場/ベンチ》


ソラ「...あのさ」

ヒカル「なに?」

ソラ「...ごめん。ヒカル」

ヒカル「...」

ソラ「他に、好きな人が出来た、かも」

ヒカル「...」


ヒカルは優しい表情をそのまま上に向けた。


ソラ「だから、」

ヒカル「知ってるよ」

ソラ「?」

ヒカル「なんとなくだけど、誰かもわかるよ」

ソラ「...」

ヒカル「ソラ、俺はさ、それでもいいかなって思ってるんだ」

ソラ「...?」


ヒカル「俺はさ、ソラ、君が好きだよ。世界中で、誰よりも」

ソラ「...」

ヒカル「誰のことよりもソラが好きだし、多分この世の誰よりもソラを愛してる。自信がある」

ソラ「...」


ヒカル「俺に甘えてよ」

ソラ「!」

ヒカル「俺のことは少し好きでいてくれたらそれでいい。今までとは態度が変わっても受け入れる。だって、どんなソラも、やっぱり好きだから」

ソラ「...」

ヒカル「だから、もう少しだけ一緒にいてくれないかな?俺、もっともっと頑張るし、誰よりもソラを幸せにする。絶対に泣かせないし、苦しめない。他に好きな人がいても、いいよ。今はただ居てくれるだけで、俺はすごく幸せなんだ」

ソラ「...」


ヒカルはこちらに体を向け、優しい口調で続けた。

ヒカル「だから、終わりだなんて言わないで。これからもっともっと、ソラのために頑張るから。俺に猶予をください」


ヒカルは、そう言うと、立ち上がって言った。

ヒカル「今日は、もう行こう。ごめんね、こんな話になっちゃって」


こんな話を切り出したのは私だ。


ヒカル「じゃあ次は、クリスマスだね。とりあえず、駅まで送るよ」

ソラ「ヒカルは帰らないの?」

ヒカル「せっかくお台場来たし、もう少しだけ見ていこうかな」


私はバイトで渋谷にいかないといけない。ヒカルは私を駅の入口まで送り、その後、引き返した。


元いた場所に帰ってきたヒカルは、私達がさっきまで座っていたベンチに腰かけた。さっきまでいなかった鳩たちが、ベンチを取り囲んでいた。


ヒカルは、大きなため息をついて、ペットボトルを取りだし、残っていた水を勢いに任せて全て飲んだ。


ヒカル「...」


ヒカルは、ペットボトルを勢い良く地面に叩きつけた。寄ってきていた鳩が、羽ばたいて逃げていった。

 

ーーーーー


《渋谷》


渋谷駅から、明治通りを通って、店へ向かう。電光掲示板のチャートでは、ヒゲダンのアイラブが流れてきた。


私は人の流れに沿って、店へ向かう。


何も変わらなかった。私は結局何も言えないまま、ここに来てしまった。ここに来ると、ハナやユメ、皆の色々な場面が思い浮かぶ。


また比べてしまう。


どうして、どうして私だけ、ここまで何も出来ないのだろうか。自分の意思を明らかにすることがどれほど困難で、エネルギーを使うことなのか、身に染みてわかる。


でも私は、何も出来ずに、かなりのエネルギーを消費してしまっていた。そんな自分に、私は嫌気がさしていた。


《ツチツチバーガー2号店》


田中「おー!!ソラちゃんー!!」

ソラ「...どうも」

田中「珍しいなー!!遅刻なんかして!!」

ソラ「...え、遅刻?」

田中「ま、5分くらいだけどな、大丈夫大丈夫!!次から気をつけろよー!!」

時計を見ると、出勤予定時間から5分程度が過ぎていた。

ソラ「うわっすみません」

かなりゆっくり歩いてきたようで、遅刻したことに全く気が付かなかった。


ヒビキ「...遅かったな」

ソラ「すみません」

ヒビキ「...心配したけど」

ソラ「なんかごめん」

ヒビキ「...あのさ」

アサ「へーい!!!!ベルスカー!!!!元気ー?!?!?!」

ソラ「まぁ」


アサはいつも以上にテンションが高かった。

アサ「ん?元気ないね」

ソラ「...」

アサ「んなるほど。了解」

アサは体でリズムを取り、空回りしたテンションを誤魔化すように厨房の奥に引っ込んだ。私はエプロンを付けて、フロアのテーブル拭きに回った。

ヒビキ「...」


ーーーーー


田中「今日は寂しかったな!!」

アサ「ですね」 

 

今日は客の入が悪く、少し早く店を閉めた。心ここに在らずな私にとって、今日の閑散具合は好都合だった。

ソラ「お疲れ様でしたー...」

アサ「おぬ!てかベルスカ体調悪い系?」

ソラ「体は平気です」

アサ「そか」

田中「ちょっと飲んでいかない?」

アサ「お!俺も賛成!!!」

ソラ「今日はそういう気分ではありません」

田中「...そっか」

アサ「...あ!ヒビキは?」

ヒビキ「俺も今日はいいっす」

ヒビキは、緑のマフラーを首に巻きながら答えた。

田中「マジか!!!じゃあお前とサシか!!たまにはありか!!!」

アサ「うわ」

ソラ「とりあえず、お疲れ様でした。今後は遅刻しないようにします。すみませんでした」

田中「...おう。気にしすぎるなよ?」

アサ「...?」

ヒビキ「俺も帰ります。お疲れ様でした」

アサ「気をつけてな」


私はヒビキと共に店を出た。外はかなり冷え込んでおり、本気で風邪をひきそうな寒さだった。


ヒビキ「寒いな」

ソラ「...うん」

ヒビキ「...あのさ」

ソラ「ん?」

ヒビキ「なんかあった?」

ソラ「いや、なにも?」

ヒビキ「...そっか」

ソラ「...」


ヒビキ「なんかあったら...言ってくれ」

ソラ「...?」


ヒビキの不器用さの中にちらついて見える優しさは、雲の中から顔を出しては隠す満月のように優しい光で私の心を照らした。


ソラ「...じゃあ、私はここで」

ヒビキ「...」

ソラ「ばいばい」

ヒビキ「...あのさ!少し待ってくれよ、いつもより早いから、少しだけ」

ソラ「...?」


そういうと、ヒビキは少しあたふたして、目の前にあった自動販売機でホットココアを二つ買い、一つを私に手渡した。


ソラ「...?」

ヒビキ「少しだけ、話していいか?」

 

ーーーーー


《渋谷/宮下公園》


ソラ「今日は、なんかごめんね、あんまりテンションが上がらなくて」

ヒビキ「いつもが高すぎるんだろ。そんなこともある」

ソラ「...」

ヒビキ「鈴木、、はさ、、凄いと思うよ」

ソラ「急に何笑」

ヒビキ「いや、なんていうか、そりゃ仕事が出来るとかもあるけどよ」

ソラ「...」

ヒビキ「人をちゃんと大事にしてるよな」

ソラ「え?笑」

ヒビキ「岡崎の時もさ、岡崎のことを思って咄嗟に俺の事殴ったろ?あれとか、普通に、すげえ良い奴じゃん?」

ソラ「あれは、、」

ヒビキ「俺もさ、鈴木に色々話した時さ、すげえちゃんと人の話聞いてくれるんだなぁって」

ソラ「...」

ヒビキ「人を大切にしてるからこそ、傷つけたくなくて、そのせいで自分が傷ついたり、苦しんだりしてないか?」

ソラ「...!!」


少し強い風が一瞬吹いた。つられて私は小さなくしゃみをした。

すると、ヒビキは、自分の首にかかっていた緑色のマフラーを、私に投げた。


ソラ「!」

ヒビキ「...」

ソラ「ありがとう」

私は貰った冷めかけのココアを一口すすった。ヒビキも一口すすった。


ヒビキ「風邪ひいたらよ...連れ出した俺のせいになっちまうしよ」

ソラ「...ありがと」

ヒビキ「鈴木...ソラ...」

ソラ「?!」


ヒビキ「ソラ...好きだ」


私は、口にしていたココアを吹き出した。そして、動揺を連れたまま、丸くなった目でヒビキを見た。

ソラ「...え?」

ヒビキ「ごめん...驚くよな普通...好きになった。その...鈴木のこと」

ソラ「ヒビキ?」

ヒビキ「困るのはわかってる。相手がいるのもわかってる。だけど、こんな気持ち、今までなった事がなくて。わからねぇけど、とにかく、何よりも今、伝えたいと思った」

ソラ「...」


ヒビキ「俺は鈴木の、、ソラの力になりたい。ソラの翼になりたい。ソラが困ったことがあれば、一緒に考えたい。そういう人生も悪くないなって...お前に出会って思った」

ソラ「...」

ヒビキ「お前は...どうなんだよ?その...」

ソラ「...」

ヒビキ「うん...まぁその、気持ちがさ...」

ソラ「...」

ヒビキ「俺とどうなって欲しいとかは...今は言いたくない。お前が決めてくれ。でも俺の答えは一つだ。準備は出来てる。絶対に裏切らない。だから...待っててもいいだろうか?」


私が一番欲しかった言葉が、今私に向けられた。喉から手が出るほど欲していたものだ。


でも私は、ヒカルに何も言えなかった。一番求めていたものに手が届きそうになっているのに、私はここで手に取っていいのだろうか?その資格が私にあるのだろうか?


・・・ダメだ。私にはできない。

 

もうわからなくなった。


ソラ「私には、彼がいるの」

 

ヒビキ「...」

 

ソラ「だから、ごめんなさい」

ヒビキ「...うん、だけどさ」


ソラ「ヒビキのこと、好きじゃない」


また嘘をついた。ヒビキは一瞬言葉を失い、その状況を飲み込んだ。


ヒビキ「そっか」

ソラ「...」


私はヒビキの顔を見れなかった。視界には握りしめたココアのペットボトルだけがぼんやりと映っている。


ソラ「もう、こういうのなしね、誤解させたなら、ごめん。私達も、仕事上の関係だけにしよう。私たちは職場の人間。プライベートでは、もう関わらない。会話も最低限にしよう?それがみんなのため。お互いのため。わかった?」


私は視界の中で歪んでいくペットボトルを見つめながら、言葉を吐いた。言葉と涙が地面に吸い寄せられていく。


ヒビキ「...お前」

ソラ「...?」

ヒビキ「それ、本当か...?」

ソラ「...」

ヒビキ「おい!」


私は思わず涙が抑えきれなくなり、ヒビキに背中を向けた。上をむくと、滲んだ照明が眩しく瞳を刺す。


ヒビキ「それが本心か?!なぁ...それでいいのかよ!!」

ソラ「...」


私の足は、ここから立ち去りたがっていた。逃げたい。置いていかれそうになる心を、必死に引きずりながら、私は懸命にヒビキから離れた。


ヒビキ「自分が納得できる答えなのかよ!!」

ヒビキの声は、掠れていき、小さくなっていく。

ソラ「...」

私は背を向けて、歩き続けた。

ヒビキ「待ってるから!!」

ソラ「...」


ヒビキ「自分に嘘つくなよ!!!!」


ソラ「...ばいばい」

ヒビキには聞こえない声で、私はそう呟いた。

 

ーーーーー


ヒビキはその場に立ちすくみ、しばらく呆然としていた。近くのベンチに腰かけ、明治通りを30分近く眺めた。


ヒビキ「...」


ヒビキは、右往左往する車のライトを無心で追いながら、ソラとのやり取りを反芻した。


ヒビキ「はぁ...」

ため息を吐き出した時だった。


ピチャ!


ヒビキの頬に、冷たい感触が走った。


アサ「なーにやってんだよ。ヒビキ」

ヒビキ「アサさん?」

それは、ビール缶を携えたアサだった。 

 

ーーーーー


アサは、ヒビキの隣に座った。

ヒビキ「...見てたんですか?」

アサ「まさか。俺よくここ来るから。田中さんから逃げて来たら、お前がいた」

ヒビキ「...なるほど」

アサ「ヒビキこそ、1人で何してるん?」

 

ーーーーー

 

ヒビキは事の顛末を話した。


アサ「なるほどねん。ま、大体想像した通りだわ。フラれたのは意外だけど」

ヒビキ「え?知ってたんですか?」

アサ「見ればわかるわ。ヒビキ、ベルs...ソラ見てる時の視線、ガチだもん」

ヒビキ「マジっすか」

アサ「うん」


ヒビキは、体の向きを180°回した。

ヒビキ「...なんか、モヤモヤします」

アサ「フラれたこと?」

ヒビキ「いや、俺は何をしたかったのか」

アサ「?」

ヒビキ「返事を待つって言ったけど、結局俺は、あいつに、自分のことを好きになって欲しいだけなのかなって、見返りが欲しいって心の底では思ってるのかなって。それってなんかクソですよね。なんか頭の中がぐしゃぐしゃでわかりません」


するとアサは、立ち上がり、ヒビキの目の前にしゃがみこんで言った。


アサ「その頭の中を単刀直入に話せ。浮かんだ言葉から。拙くていい」


ヒビキ「...俺はきっと間違えた。あいつは今、俺の知らない何かで苦しんでいるのに、俺の一方的な優しさの押し売りで、かえって苦しめて、全てを奪った。居場所も、俺みたいな存在も。今まで築き上げた信頼も」

アサ「...」

ヒビキ「...あいつの力になりたかった。でも、そういう人生じゃなかったから、人の力になってやれる人生じゃかったから...やり方が分からなかった。間違った人生を歩んできた俺が何かを与えても、結局また間違える。そんなことなら、しないほうがよかったのかな?

アサ「...」


ヒビキ「それがあいつの為だと思ってしまう...でも、本当にそれでいいのかな。逃げてるだけなんじゃないか。結局俺は、あいつに何もしてあげられないのだろうか」

ヒビキは、目頭を熱くして話した。


アサ「人は間違えるぞ」

ヒビキ「...!」

アサ「間違えたから今の出会いがある、だろ?ま、最終的にはこっちが正解なのかもしれないし、そんなこと、今考えたってわからんよ」

ヒビキ「...」

アサ「だから、間違えることを恐れるな。今まで、自分の人生間違ってるなんて思わなかったからこそ、今のヒビキが出来上がっちまったんだろ?だったら最後まで間違い抜け。そのくらいのつもりで、ソラのことだけを考えろ。間違いを恐れる隙を自分に与えるな」

ヒビキ「...でもあいつは」

アサ「あのお前が変わったんだ。優しさの押し売りなんかじゃないって、ソラもきっと分かってる。奪ってしまったなら返せばいい。これで終わりになんてさせるな」


ヒビキ「......」

ヒビキは、貯めていた涙を一気に流した。そして、肩を震わせて泣いた。

ヒビキ「ちくしょー....俺、貰ってばかりじゃねえか。周りの人達がくれる言葉が、今になって凄い刺さる。皆、俺とそんなに変わらない年月を生きてるはずなのに。何だよ...何も俺はあげられない。俺は今まで何を見て、何をして生きてきたんだよ。不甲斐ない、情けない.....こんな俺が.....誰かに出来ることが何かあるんだろうか」


アサ「もう立派にやってるだろ」

ヒビキ「...?」


アサは立ち上がって言った。

アサ「俺もエラソーなこと言ってるけど、ここぞと言う時に、何も出来なかった。無力だった。しない方が良かったことだってした。不本意に人を傷つけてしまったこともある」

ヒビキ「...」

アサ「あ、これ#隙あらば自分語りな?」

ヒビキ「...」

アサ「大丈夫だ。なるようになる」

ヒビキ「...」


閉園のチャイムが鳴り響いた。ヒビキは、ギリギリまでただ、手の中のココアを握りしめた。

 

ーーーーー


《ソラの最寄り駅周辺》


──失いたくなかった。


失いたくなかった。私は、大切な宝物を一つ、自分から手放してしまった。簡単には忘れられない。大好きな匂いが染み付いた、緑色のマフラーを私は外すことが出来ずに、ただ呆然と夜道を進んでいた。観覧車に見下ろされながら、どこへ向かうのか分からないような足取りで私は泣いていた。


ふつふつと浮かんできたのは、ヒビキとの思い出の日々だった。すごく短い日々だったけど、私の心に刻み込まれるには十分すぎるほど鋭かった。


初めて乾杯を酌み交わしたあの日、人前で叩いて恥をかかせてしまったあの日、彼について知ったあの日、暴漢から守ってくれたあの日、心の距離が近づいた気がしたあの夜、そして、今日。

これだけの日々を私は失った。


違う。違うんだ。私がしたかったことはこうじゃない。そんな思いが、夜が深くなるにつれて、強くなっていく。そうか、私は間違えたのだ。分岐点の選択を誤ってしまったのだ。


だったら、それを正すことは可能だろうか。まだ、彼は待っていてくれるだろうか。だめなのかな。答えは分からない...


だけど、もしもまだ待っていてくれるなら、

 

この道を正解の道にするために、

 

今度は、ちゃんと"始まりに続く答え"を選びたい。

 

ーーーーー


《大学/空き教室》


迎えたクリスマスイブ。

 

私はハナと二人で、誰もいない薄暗い教室にいる。電気は灯っていない。


時刻は18時30分。外は暗くなって、キャンパス内のイチョウの木が、赤青緑に光り輝いている。


ハナ「どうしたの?こんな所で」

ソラ「呼び出してごめんね。今日はね、大事な話があるの」

ハナ「うん...?」


ソラ「あのね、ヒビキのことを、好きになりました」

ハナ「...!?」

ソラ「ヒカルとは。今日で別れる」

ハナ「...」

ソラ「ハナには、ちゃんと言っておこうと思って」


ハナは驚きの表情をなんとか落ち着かせようとしながら、黙って真っ直ぐ視線を預けてきた。


ソラ「働いているうちに、ヒビキのことが分かってきて、仲良くなりたいって思って、何か力になりたいって思って、好きになった。実はこの間、ヒビキにも、告白されたの。その時は、まだ応えられなかった」

ハナ「!」


ソラ「ハナは一番の友達だから、それに...ね?」

ハナは黙って聞いていた。

ソラ「......だから、伝えさせてください。ヒビキが好きです」

ハナ「...そう、なんだ」

ソラ「これからヒカルと会ってくる。そしたら今度は、私もやりたいようにやろうと思う。ずるいよね。ごめん。でも、どうしても、そうしたい...って思う」

ハナは真っ直ぐ向けていた目線を、下に逸らして、言葉を紡いだ。


ハナ「...ソラはすごいね...私が辿り着けなかった場所に辿り着いたんだね」

ソラ「...」

ハナ「私、ヒビキくんのこと、別にもう好きじゃない...けど、正直少し羨ましい...ソラが」

ソラ「...」

ハナは鼻声になって、天井を仰いだ。


ハナ「でもやっぱ...悔しいなぁ...私も、ソラみたいになりたかった...」

ソラ「ハナ...」

ハナ「ソラは凄いね。周りの人に色んな影響を与えてて。いいなぁ...」


私は、ハナにつられてか、涙を流した。

ソラ「私だって...ハナみたいになりたかった...」

ハナ「ソラ?」

ソラ「私だって、ハナに憧れてるんだよ...ずっと...ずっと!私はすごい羨ましかった...!ハナみたいになりたくて、私も変わりたいって思ったんだよ?ハナはさ、真っ直ぐで...素直で...強い。自分の意思がしっかりとあって、自分の人生をしっかり歩いてて...そんなハナのこと」

ハナ「...強くないよ」

ソラ「...」

ハナ「私、ショックなんだよ...?フラれたことも、自分の好きだった人が、自分の1番の親友を好きになることも。自分、やっぱダメなんだなぁ...って思っちゃうもん。強いわけない」

ソラ「...」


ハナ「...でも私、ソラのこと大好き」

ソラ「...!」

ハナ「伝えてくれてありがとう。ソラが自分で決めたことなら、私は、ぜんっっりょくで応援する!他の誰にも、私が何も言わせない!これが、私の意思!私はソラの味方!ソラの一番の友達!だから、思いっきりぶつけてこい!」

頬から大粒の涙こぼれた。

ソラ「...ありがとう...!」


ハナ「私も、ソラの憧れる、強い私でいたいから」

ソラ「...ハナ!」

 

 ハナは、ぐしゃぐしゃな顔で満開の笑顔で笑った。


私たちは誰もいない教室の中、お互いに割れ物を扱うかの如く、優しく、抱き合った。

 

ーーーーー


《東京タワー付近》


結局、私はヒカルとクリスマスにやりたいことを決めるという宿題を提出出来なかった。


そして結局、ヒカルから「クリスマスは、やっぱり俺に任せてくれないかな?」とLINEが来たので、それに任せることにした。


ヒカルは仕事が長引くといけないからといって、集合時間を遅めた。12月24日、19時30分。私は芝公園でヒカルを待っていた。


ヒカル「ごめん!遅くなった!」

ソラ「待ってないよ」


ヒカル「メリークリスマス!!」

ソラ「メリークリスマス」

ヒカル「ソラとは3回目のクリスマスだね」

ソラ「...うん。今日は、どこに行くの?」

ヒカル「東京タワーに行こうかと思ったけど、混んでるね」

ソラ「...」

ヒカル「だから、少し散歩しよう」

ソラ「...うん」


二人で並んで、夜の公園を歩いた。吐く息が白く、電灯に照らされて消えていった。


私は言わなければいけない、やらなければいけない、ことがある。例え、見慣れた彼の笑顔を曇らせることになるとしても、進みたい道に進むためには、やらなければいけないのだ。


私はタイミングを伺いつつ、話を合わせた。


その間、いつものように手が交わることは、なかった。


ヒカル「あ、そうだ。これ、クリスマスプレゼント」

そう言って、ヒカルは歩きながら、クラッチバックから黄色い手紙のようなものを私に手渡した。


ソラ「これは?」

ヒカル「俺からのプレゼント。今はまだ開けないで」

ヒカルは足を止めない。ヒカルは前を向いている。

ソラ「...うん。ありがとう」


ヒカル「俺からの、最後のクリスマスプレゼント」


ソラ「...え?」


私は立ち止まった。ヒカルは立ち止まって、私を振り返って言った。

 

ヒカル「ソラ、俺たち、もう終わろう」


ソラ「...ヒカル?」

ヒカル「こんな日に言うなんて、どうかしてるよね。ごめん。でも、今日で終わりにしたいんだ」

ソラ「...!」

ヒカル「驚くよね」

ソラ「...」

 

ヒカル「少し聞いてくれるかな?」

私は黙ってヒカルの言葉に耳を傾ける。


ヒカル「俺は自分勝手だ。君を誰よりも幸せにしたいって思ってた。君を独り占めしたい、って思ってた...だから、いつも怖かった。痛かった。感情があっちに行ったり、こっちに行ったり、取り繕うのに必死だったんだ。それに...最初から分かってた。どこかソラが、自分と同じ気持ちじゃないってことを」

ソラ「そんなことない...!私はヒカルのことを大切に」

ヒカル「他の誰よりも?」

ソラ「......!」


言葉が出なかった。ヒカルは哀しく微笑んだ。


ヒカル「...いいんだ...大丈夫。あのね、人を好きになる感情って、綺麗なものじゃない。好きって気持ちの根底は、欲なんだ。その欲は相手を傷つけたり、縛ったりする。そして自分まで苦しめる。欲に溺れて人を好きになるとね、人は弱くなるんだ。ソラは俺と一緒にいてどうだった?俺は、君といると、もっともっともっと弱くなってしまうと思った。だから....取り返しのつかなくなる前に...ここで別れて欲しい」


私がここで泣くのはずるいと思った。しかし、涙を抑えきれなかった。ヒカルは、私の頭に大きな手を置いて言った。


ヒカル「俺がもっと大人で、欲深くない男だったら、君にもっと、沢山与えられたかも知れない。ごめんね。俺は彼氏失格だったね」

ソラ「そんなことない」

ヒカル「あるさ」

ソラ「そんなことない...!私、ヒカルから沢山貰ったよ?私の方がずっと貰ってばっかりだった。私はずっとヒカルに甘えてた」


ヒカル「ありがとう。甘えてくれて、俺は嬉しかった。一人の男として」

ソラ「...」


ヒカル「覚えてるかな、昔話した、ボクスイの話。あの時俺は、あの話はバッドエンドだって言ったけど、それは違った」

ソラ「...!」


付き合う前のことを思い出した。


ヒカル「もう一度見てみたんだ。この間、お台場でソラと別れてから。そしたら、俺思ったんだ。本当に幸せになって欲しい人が、他の誰かによってちゃんと幸せになるなら、それでいいのかなって。だから俺は、持ってる欲を全部捨てようと決めた。その結果、俺はこういう終わり方を選んだんだ。それにね、ソラはちゃんと幸せを見つけられる人だ。だから、一緒に幸せになりたい人と、しっかり幸せになって欲しい」


ヒカルは目に涙を貯めながら言った。


ヒカル「本当の俺は、ソラみたいに優しい人間じゃない。でも、ソラには人を変える力がある。俺はね、君の前では、少し優しくなれた」

ソラ「.......」

鼻をすする音が寒空の下でこだまする。私はピンクのハンカチで自分の涙を拭う。

ヒカル「ヒビキくんもそうだろう。きっと他にも、たくさん...」

ソラ「.......」


ヒカル「ソラ。これは誰にだって出来ることじゃない。月並みな表現だけど、君は凄いんだ」

ソラ「私なんかより、ヒカルの方が凄いよ...私なんか、ヒカルには相応しくなかった」


ヒカル「ありがとう」

そう言って、一呼吸おいて言った。


ヒカル「今までありがとう。いっぱい付き合わせちゃったね。君は沢山のことを人に与えられる人だ。だから今度は、今一番それを与えたい人に、めいいっぱい与えておいで」


表情が取り繕えないくらいの涙が、私の頬を流れ落ちた。ヒカルは、目を赤くしながらも、無理して見慣れた笑顔を、私に覗かせた。


ここでも私は、ヒカルに頼りきりになってしまった。引き金を引いたのは、私じゃない、ヒカルだった。


なら、最後に私がやるべきことは、ただ一つだ。


ソラ「ありがとう。ばいばい」


私は走った。


ただただ走った。


振り返るな。

振り返るな。


最後に見た、見慣れた彼の顔は滲んでいた。私の道は、もう見えている。あとは走るだけだ。今は他の何も考えるな。


ただ、心のままに動け。

 

ーーーーー


《渋谷/ツチツチバーガー2号店》


12月24日。時刻は22時を回っていた。

 

ソラ「ここで降ろしてください!」

運転手「はいよー」

この時の記憶はほとんど残っていない。本能で私は動いていた。


まだ間に合うだろうか。まだ待っていてくれるだろうか。いつも彼がいるあの場所で、彼は私を受け入れてくれるだろうか。白い息を吐きながら、少し走ると、TSUCHI×2 BURGERのネオンは消えていた。


ガチャ!

田中「ん??ソラちゃ??」

柴田「ぃやだー。どうしたの〜?顔真っ赤っかじゃない」

成田「...?」

ソラ「ヒビキは、、ヒビキはどこですか!!」

田中「ヒビキ?もう帰ったよ。ついさっきだけど」

柴田「もうすぐ駅に着く頃かしらねぇ〜」

ソラ「ありがとうございます!」


私は、店を後にし、駅へ走った。人波逆らって、ただ走った。この道は間違っているのかもしれない。幸せになれる保証はない。


だが、想いを伝えたいという本心だけが、私を揺り動かしていた。


田中「若ぇなぁ」

柴田「いいわねぇ〜」

成田「...笑」


人混みをかき分けて、交差点に着く。信号は、もう時期変わろうとしていた。その時私は、変わる信号を待つ、求めていた影を見つけた。


ソラ「ヒビキ!」

ヒビキ「...!」


ソラ「ヒビキ!ヒビキ!」

ヒビキ「...どうした?そんなボッサボサで」

ソラ「ヒビキ!私ヒビキが好き!」

ヒビキ「...?」


周りの人間の視線が、自分を中心に集まってきたが、そんなことはどうだってよかった。私は、喧騒に負けないように、強く声を上げた。


ソラ「この間はごめん!私、ヒビキのこと、大切に思ってたのに、嘘ついちゃった...ごめん......!私、本当は、仕事だけの関係なんて嫌...!私、ヒビキと出会って変われたの!今こうやって、自分で自分の気持ちを伝えることが出来るようになったよ!ヒビキのおかげで、自分の人生に責任持とうって決心がついたの!」

ヒビキは目を丸くして、聞いている。


ソラ「だから、私はヒビキの力になりたい!ヒビキに沢山あげたい!ヒビキの一番近くにいたい!私がヒビキといたいって決めたから!ヒビキの気持ちがまだ変わってないなら、私...あなたと一緒に居てもいいですか?」

ヒビキ「...!」


ソラ「...これが本心、私が決めた、答えです」

ヒビキ「...」

私は、肩で呼吸をし、ヒビキを真っ直ぐ見た。


ソラ「...?」

ヒビキ「...」

ヒビキは、俯いてから、星の光が届かない空に向かって視線を飛ばした。そして、私の目を真っ直ぐ見て、声を震わせて答えた。


ヒビキ「...それで本当にいいんだな?」

ソラ「うん」


ヒビキ「よろしくお願いします」

ソラ「...ヒビキ......ヒビキ!」


嬉しさと驚きからか、全身の細胞が奮い立った。目の前の光景の彩度が高まり、自然と笑みがこぼれた。私はヒビキに飛び込んでいった。


ヒビキ「ぐわぁ!やめろ!人前なんだから!」

ソラ「はははっごめん!もうやめるから」

数秒抱きしめた後、鞄から緑色のマフラーを取りだし、剥き出しになっていたヒビキの、青白い首元に巻いた。


ソラ「この間、借りたまんまだったから」

ヒビキ「おう」

ソラ「ありがとね」

ヒビキ「...俺も、色々借りてるもん返さないとなー」

ソラ「何それ笑」

ヒビキ「さぁな笑」


信号が青に変わった。私たちは、横並びに、同じ道のスタート地点に立っていた。上手くいくかは分からない。善し悪しも分からない。でも、私が望んだ道は、間違いなく、この道だった。


ヒビキ「行こう」

ソラ「うん」


一歩一歩噛み締めて、力強く歩いていく。

 

 

 

 

──あとがき──

 

 

 


《ツチツチバーガー2号店》


田中「あけおめー!!」パァン!

ソラ「あけおめー!!」パァン!

ヒビキ「...」パァン!


年が明けた。空は快晴。


田中「えー!!この度は!!新しい年の門出として皆さんにお...」

田中のいつものように長い挨拶で、新年会が始まった。

柴田「いや〜昼間っから飲むっていいわよねぇ〜」

夏子「はい!姐さんどうぞどうぞ!」

成田「...笑」

夏子が慣れた手つきで柴田のグラスにワインを注ぐ。成田は、店内のBGMを昨年のヒットチューンに設定した。


ソラ「カンパーイ!!!!」

ヒビキ「か、かんぱい!」

ハナ「カンパーイ!!!」

ヒビキ「ってか、なんでお前がいんだよ!」

ハナ「いーじゃんいーじゃん!新年なんだから、難しいことはあとまわしあとまわし」

ソラ「ほぼクルーみたいなもんだしね」

柴田「もうハナちゃんもウチで働かな〜い?」

夏子「やっちゃえやっちゃえ!」

ハナ「いや私、4つバイトしてるんで」

ソラ「増えている!(粗品)」


そんな様子を見ながら、ヒビキは笑った。ここ最近、ヒビキは笑うことがちょっと増えた。そんなヒビキを見ているのが、最近の私の楽しみだ。


ヒビキ「そういえば、アサさんは?」

田中「あいつは彼女と初詣に行ってから来るってさ」

ハナ「ユメちゃん...!」

私とハナは顔を合わせて微笑んだ。

 

ーーーーー


《とある神社》

 

ほぼ同時刻。


──パン! パン!

 

手のひらが鳴る音が重なる。

 

アサ「...」

ユメ「...」


参拝を終えた二人は、階段をおり、次に並ぶ人に順番を譲った。


アサ「ユメちゃんはさ、お願いごと何にしたの?」

ユメ「アサくんから言ってよ〜恥ずかしい」

アサ「俺は3つ」

ユメ「3つも?欲深っ」

アサ「どれも大事なんだよぉ!1つは、今年も世界が平和でありますように。ユメちゃんの夢が叶いますように」

ユメ「なんか照れる笑」

アサ「それからー」

ユメ「それから?」


アサ「...ずっとユメちゃんと一緒に居られますように...的な」


ユメ「ふふっ笑。アサくん可愛い」

アサ「やめろ!ちなみに、ユメちゃんは?」

ユメ「私はねー」


そこに、2人を呼ぶ聞き覚えのない男性の声がした。

男性「あ、あのー!」


ユメ「?」

アサ「?」

男性「財布...落としませんでしたか?」

ユメ「あ!これ私のです!さっきお賽銭出した時に、しまい損ねたのかも!すみませんありがとうございます!」

アサ「あぶな!良かったねユメちゃん。どうもありがとうございます」


ヒカル「いえいえ。なんかアツアツだったので、話しかけにくくて、、笑」


(ユメの財布を拾った男性は、ソラの元彼氏であることを、この2人は知らない...)


ユメ「聞こえてましたか?」

ヒカル「少しだけ、、」

アサ「恥ずかしすぎて草超えて粉だわ」

ユメ「その話し方の方が恥ずかしい...」

ヒカル「あはは」

ユメ「近所の方ですか?」

ヒカル「いえ、前...付き合ってた人に連れてきてもらって知ったんです」

ユメ「私達も、共通の友人から教えてもらったんです!」

アサ「生意気な小娘にね」

ヒカル「そうなんですね。こじんまりとしてて、いい神社ですよね」


アサ「願い事をしに来たんですか?」

ユメ「そりゃそうだよ!アサくん」

アサ「こんなイケメンが何をわざわざお願いしようものですか?」

ヒカル「あはは笑。僕を含めて、僕の周りの全ての人が、幸せであります様に。ってお願いしてきました」

アサ「わお。中身も立派ですね」

ユメ「素晴らしいです」

ヒカル「ありがとうございます。ではそろそろ。今年一年、お二人にも幸あれ」

ヒカルは手を振って、その場を去った。


ヒカル「ふぅー。俺も、頑張らなきゃな」

見上げたヒカルの表情には、眩しい陽の光が差していた。


ユメ「かっこいい人だったね」

アサ「俺より?」

ユメ「どうかな〜?」

アサ「そこは否定しろよ!w てかさ、ユメちゃんの願い事教えてよ!」

ユメ「う〜んと、え〜っと」

アサ「早く言ってよ〜ユメちゃ〜〜〜ん」

 

ーーーーー


《ツチツチバーガー2号店》


ヒビキ「ぷはー」

ソラ「おかわりいる?」

ヒビキ「あ、梅酒飲みたい」

ソラ「とってくるね」

ヒビキ「サンキュ」


ソラ「ほい」

トプトプトプトプ

無意識に肩と肩とがくっついていた。

柴田「ん?なんか二人いい感じじゃな〜い?」

夏子「もしかして、もしかする??」

ハナ「ヒューヒュー!!!」

ヒビキ「ばか!やめろよ!」

田中「なんか2人距離近くなーい?!?!」

柴田「照れちゃってんの!!ヒビキちゃん可愛い〜」

ソラ「ほら皆さんもっと飲みましょ飲みましょ!」

ハナ「ソラももっと飲んで飲んで!!」

ヒビキは顔を真っ赤にして、不貞腐れていた。


田中「らい!!!じゃあ今年の!!抱負を!!皆さんに行ってもらおかな!!!!」

柴田「私はリゾートに住むわ〜!!!」

夏子「私はいい人と結婚したいー!!!」

ハナ「私も運命の人を見つけたいです!!!」

田中「俺はこの店を全国展開してやるずぇい!!!」

ソラ「私は、なんだろう。就活、頑張る、とか?」

ハナ「私も就活やんなきゃーーーー」

柴田「ここに就職すればいいじゃないのよ」

ソラ「それは笑」

田中「ヒビキはどーなんだ!!!」

ヒビキ「俺は...」

田中「...」

ソラ「...」


ヒビキ「...人の役に立つ仕事がしたい。今まで、自分のやりたいように生きてこれたのは、周りのおかげだって、大事な人に会って気づいた」

夏子「ヒューヒュー!!」

ハナ「ヒューヒュー!!」

柴田「ぃや〜だ〜かわいい〜!」

ヒビキ「だから、今度は、俺が誰かの役に立てるように、誰かの支えとなれるような生き方をしたい。そう思いました」

田中「いよ!!」

ソラ「ヒビキ...」

ヒビキ「...なんか、辛気臭くてすみません...」

 

 

成田「...愛、だね」

 

 

田中「!!」

ソラ「!!」

ヒビキ「!!」

柴田「!!」

夏子「!!」

ハナ「トゥンク!!」


一同「喋ったぁー!!!!????」

 

ーーーーー


《ソラの自宅》


コンコンコン

蘭「ねぇーちゃーん?いないのー?あけるよー?」

ソラ母「何寝ぼけてるの蘭。ソラはもうとっくに出てったわよ?」

蘭「草。じゃあお邪魔しマース」

ガチャ


蘭「CD借りたいんだけど、どこにしまってあるんだろ...ん?」

蘭は、ソラのCDを探す途中、ソラの机の片隅に、封が切られた黄色い手紙の様なものがおいてあったのを見つけた。

蘭「何これ」

蘭は、その中身を開けた。


蘭「幸あれ...?これだけ?誰の字だろう?」

 

ーーーーー


《渋谷》


会は夕方前に終わり、夕暮れの中を2人は歩いた。

 

ソラ「楽しかったね」

ヒビキ「まぁ」

ソラ「まぁって何よ笑」

ヒビキ「まぁまぁ...楽しかった」

ソラ「ヒビキの中では、割と上の方の評価だよね、それ」

ヒビキ「いや、お前が俺の中の評価の表現方法とか勝手に妄想して決めんなし!てか、さっきの事だけど、お前が近づき過ぎるから周りにバレたんだからな?!岡崎にも口止めしとけよ!なんでもっと上手くやろうとしねぇんだよ?!」

ソラ「はぁ〜?!そっちこそ、アンタが勝手に動揺して挙動不審になったから誤魔化しきれなくなっちゃったんじゃん?!普通にアンタのせいだから!てかそもそも隠す必要あった?あとお前って呼ぶのマジでやめてくんない?」

ヒビキ「じゃあお前も、アンタって言うのやめろよ!」

ソラ「それはアンタがお前って言うからじゃん?」

ヒビキ「...」

ソラ「...」


ヒビキ「ははっ」

ソラ「ははっ」

ヒビキ「くだらね笑」

ソラ「おっかし笑」

ヒビキ「...ソラ」

ソラ「ん?」


ヒビキは歩きながらソラの片方の手を握った。

ヒビキ「...」

ソラ「...!」

ヒビキ「なぁ」

ソラ「...何?」

ヒビキ「俺、介護士の勉強をしようと思う」

ソラ「なかなか突然だね」

ヒビキ「なんか、別に周りにいないけど、人の力になりたくて、俺なりに色々調べたんだよ。その中で、少し興味あったというか、俺でも少しは役に立てるかな、って」

ソラ「いいんじゃない?応援するよ」

ヒビキ「おう...」

ソラ「お父さんにも言って見れば?きっと喜ぶよ」

ヒビキ「あぁ...でも、まずは一人でやってみたい。親父は手を貸してくれるかもしれないけど、自分の力で、どこまでやれるか試したい」

ソラ「...そっか」

ヒビキ「でも、もしもダメそうになったらさ...」

ソラ「なったら?」

ヒビキ「...助けてくれ」

ソラ「ふふ笑。当たり前でしょ。だって、、」

ヒビキ「?」


ソラ「私はヒビキのパートナーなんだから」


ヒビキ「ははっ笑。お互いに、だな」

ソラ「そうだね」

 

ーーーーー


この物語は、男女6人の物語であり、全ての人に贈る物語だ。

 


この物語を読んだ、全ての"あなた"に──

 


幸あれ。

 

草も生やせない、恋をした。【完】