草も生やせない、恋をした。③「トラブルメーカー」

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第3話「トラブルメーカー」


《ツチツチバーガー2号店》


ソラ「こ、こんにちは!」

???「ん?こんにちは。誰?」


振り返ると、童顔で優しげな顔面がこちらを覗いた。その男性の暗いトーンの長めの髪は、緩く巻かれて真ん中で分けられている。

ソラ「今日からお世話になります。鈴木空です!よろしくお願いします!」

アサ「こんにちは。三ツ木朝です。よろしくお願いし桝太一

ソラ「???よろしくお願いします」

アサ「なんて呼べばいー?ソラちゃん?かわいい名前だね。見た目も可愛いし。いいね」


こんなにナチュラルに褒められるのは初めてである。少し動揺する。キラリン!とでも効果音の付きそうな作り笑顔でこちらを見つめながら続ける。

アサ「スカイちゃんって呼ばれたことある?」

ソラ「いやありません」

アサ「でもスカイぢゃん?」

ソラ「まぁそうですね、、」

アサ「いい名前」

ソラ「ちなみに鈴木もベルとツリーなんで、ベルツリースカイですよ?」


アサ「...!!!!」


その瞬間アサを目掛けて、強い風が吹いた。綺麗に降りていた髪は全て、後方に弾け飛んだ。アサは目を輝かせて、言葉をそっと置くように続けた。

 

アサ「ベルツリー・スカイ...?」

ソラ「ベルツリースカイ」

アサ「凄い!!凄すぎる!!俺も三ツ木朝だから、スリーツリー・モーニングなんだよ!凄くない?やば?これ運命だ!結婚しよ!!」

ソラ「いや、それは無理です」

アサ「草。初手フラれたンゴねぇ」

ソラ「彼女いないんですか?」

聞いた途端、アサは目にも止まらぬ早さで、私の後ろに回った。

アサ「それはひ・み・つ」

アサの言葉の語尾にはハートマークが付いている。

アサ「だって、ミステリアスな方が楽しくない?(ウィスパーボイス)」

全身の鳥肌を必死に隠す。一瞬硬直したが、平静になって続ける。

ソラ「もし彼女がいるのでしたら、結婚は出来ませんね」

アサ「ぴえん」

ソラ「もしかしてクズの方ですか?」

アサ「ま、とりあえず仕事しよっか」

ソラ「はい」

 

アサ「まずは、お皿の場所を覚えて欲しくて、ここに洗ったあとのお皿があるから、同じものを探しながら元の場所に戻してもらっていい?」

ソラ「はい!」

大量に積まれた、少し水気を含んだお皿を、布巾で拭いながら、元にあった場所に戻す。その間、アサは具材を手際よく包丁で切っている。

ソラ「すみません、、この皿どこですか?」

アサ「探せぇ!この世の全てをそこに置いてきた!!」

ソラ「???」

アサ「頑張って探して見つけた方が嬉しいでしょ?宝探しみたいで」

ソラ「すみません教えてください」

 

ーーーーー


そんなこんなで、1日目はほとんど厨房の中で過ごした。混雑具合はそうでもなかったが、やはりアサを初めとした周りの動きは早く、私も早く追いつかねばと思った。


田中「おつかれ!!!ソラちゃん仕事はやいね!!!」

ソラ「いえ、アサさんが全部やってくれたんですよ」

田中「いいコンビネーションだねぇ!!お似合いじゃない?」

アサ「たまにはいいこと言いますね店長」


どこからともなくアサが現れた。

田中「いやいつもだ!!」

アサ「そうですか?」

田中「俺は名言しか残さねぇぞ!!」

アサ「ナゲットのソースは?」

田中「バーベキューで!!!!」

ソラ「では、お疲れ様でした」

アサ「俺も行くーおぬかれでしたー!」

 

ーーーーー


《渋谷/宮下公園》


空は下弦の月が浮かび上がり、心地よい夜風が頬をなぞった。

アサ「ベルスカ彼氏いる?」

ソラ「まぁいます。あとその呼び方なんですか?」

アサ「いるのかー。。萎え」

ソラ「もしかして私の事狙ってます?」

私は少し含み笑いをして、斜め下から覗き込むようにしてアサを見る。


するとアサは鼻で笑い返した。


アサ「かわいいねーそういうの。生意気な小娘って感じで、、ほんと、おもしれ〜女」

ソラ「!」

アサ「どう?ドキッとした?」

ソラ「最後のとこが言いたかっただけですよね」

アサ「うるさ」

ソラ「じゃあお疲れ様でした」

アサ「待って。ちょっと飲まね?」

 

《渋谷/宮下公園》


アサ「ちょっと飲まね?」

ソラ「いや、彼氏いるんで、そういうのはあんまり、、」

アサ「いや、ガチでそういうのじゃなくてさ、職場の先輩と後輩のノミニュケーションってやつよ」

ソラ「それを言うならノミュニケーションですよ?アサさんコミュニケーションのことコミニュケーションって言う人ですか?」

アサ「どっちでもよきまるだわ!」

ソラ「は?」

アサ「それは卍ということで、ガッツリトリキとかじゃなくてさ、コンビニで1缶くらいならいいべ?」

ソラ「まぁそれくらいなら」


アサにつられる形で、コンビニで酒を選び、宮下公園で缶を開ける。軽やかな音を鳴らして乾杯をする。

アサ「はいKP」

ソラ「乾杯、、」

アサ「ベルスカは彼氏とどうなん?」

ソラ「初対面で踏み込みすぎですよ」

アサ「そうかな?でも先に彼女がいるか聞いてきたのはベルスカだよ?」

そうだったっけか。

ソラ「で?」

ソラ「まぁ、順調ですよ?」

アサ「それはよかった」

私は、奢ってもらったサワーを少し飲む。


アサ「人生は順調かい?」

アサは、急に遠くを見て深呼吸するように言葉を吐いた。

ソラ「ぼちぼちです」

アサ「ふーん。なんかつまんないけど、そんなもんよねー」

アサは横に座る私を下から覗き込むようにして言う。

ソラ「...」

アサ「俺は最近ね、ゲームに燃えてるのよ、もうね、1日ゲーム三昧過ぎて、夜しかねれねぇwwwマジでただ君に晴れwwwあ、これ#隙あらば自分語りね」

ソラ「アサさんって変わってますよね」

アサ「そうかな」

ソラ「はい」

アサ「変わってるってなんなんだろうな」

ソラ「?」

アサ「人間って、意思があるだけのただの物体じゃん。それだけ。それってみんなおんなじじゃん?」

ソラ「...?」

アサ「変わってると言われても、普通と同じことをしてるだけなのにな」

ソラ「はい...?」

アサ「ま、どーでもいいや。はい草」


急に変な角度から変な玉が飛んできた。

たしかに、変わってるってなんだろう。


アサの言うように、私たちは自分の意思に従って動くだけ、それによって行動や言動が決まるだけだ。それはどの人も変わらない。みんな同じことをしてるはずだ。


ならば意思ってなんだろう。確かにその場その場で、AかBかという選択肢があれば、それを選ぶ意思は私にもよく生まれる。


だけど、最初から私自身の意思でこうしたいと思ったことがあっただろうか?ヒカルと付き合ってるのは、告白されて選択を迫られたから?ツチツチバーガーで働いてるのは柴田さんに声をかけられたから?これらは意志と呼んでいいのだろうか?


呼んではいけないものならば、私に意思はあるのだろうか。私は少し分からなくなった。


ソラ「急に変に深めなとこ狙わないでくださいよ」

アサ「俺は百発百中のスナイパーだから。どこだって狙える。君の心もね」

ソラ「それは結構です」


私は、誤魔化すことしか出来なかった。

 

ーーーーー

 

《大学/学食》

 

ハナ「バイト始めたんだね!おめでとう!」

ソラ「なんかありがとう笑」

ハナ「私も食べに行って良き?」

ソラ「あ、別にいいよ。少し割引あるし!」

ハナ「マジ!じゃあ彼氏と行くわ!」

ソラ「え、ハナ、彼氏出来たの?」

ハナ「うっそーん。出来てません」

ソラ「草」

ハナ「ソラは?ヒカルくんとは順調?」

ソラ「うん。何も無いよ」

アサとのやり取りが脳裏を過る。


ハナ「へーいーなー、、私も好きな人と結ばれて、クリスマスデート!!とか言ってみたいなぁ、、それで、特大のクマのぬいぐるみのプレゼントあげてさ!喜んでる顔がみたいなー!!」

ソラ「それ嬉しいか、、?」


ハナはいい彼女になりそうだ。彼氏に尽くしてくれるし、喜ばせようと努力する。私はヒカルに何かしてあげたことがあっただろうか。


今までは、ヒカルが全て自分のことを自分で出来る人間だと言い聞かせていたし、なにか手助けをしようと思ったことはなく、ただ、誘いを受けたら付き合うという感じだった。自分からここに行きたいとか言ったこともそんなに無い。本当に行きたいところはハナや女友達と行くから。

ヒカルはどう思っているのだろうか?


ハナ「じゃあさ、今度の日曜日、1人だけど行くね!ツチツチバーガー!」

ソラ「り!」


《ツチツチバーガー2号店》


学校終わりシフトに入り、営業終了後、日曜日の予約表に、ハナの名前を書く。そして、ケータイに送られていたシフト表を確認する。

ソラ「うわぁ、、」

その日はヒビキと被る2日の内の1日目だった。忘れかけていた顔合わせの日の記憶が、クラウドから一斉ダウンロードされるかのように思い起こされた。

田中「今日もお疲れ様!!!そう言えば、来月のシフト!!!分かってるとこあったら教えて!!!」

ソラ「あ、了解です!」

田中「よろしくね!!!!」


はぁ、、大きなため息をつく。ヒビキになんて言おう。何かを言うべきか?また選択を余儀なくされる。ハナが来てくれると言うのに、憂鬱な気分なのも申し訳ないと思いながら、帰路に着いた。


《ツチツチバーガー2号店》


日曜日を迎えた。今日はハナが店に来る日かつ、ヒビキと再会する日だ。楽しみと憂鬱を両手にぶら下げながら、今日も店へと向かう。

ソラ「お疲れ様でーす」

田中「お疲れ様!!!」

仕事自体にはだいぶ慣れて、簡単な接客程度はできるようになっていた。

アサ「おぬかれ!!!!」

ソラ「あ、この間はごちそうさまでした」

アサ「ありがとう!」

ソラ「?」

アサ「お返し、奢ってくれるんだよね!ありがとう!」

ソラ「あ、、はーい」

田中「今日ソラちゃんはホールお願いしますー!!!」

ソラ「了解です」

アサ「(ちっ)」

ソラ「(笑)」


少し経つと、ヒビキが店に入ってきた。

田中「ヒビキおはよー!!!」

ヒビキ「うっす」

聞こえるか聞こえないかくらいの声で答えた。心臓の鼓動が少し早くなった。手汗も出てきた。触らぬ神に祟りなしなのか、はたまた雨降って地固まるか、、?すると次の瞬間、私の視界は1つの顔面に遮られた。

アサ「なんか、目で追ってるけど?好きなん?」

ソラ「違います」


タイムカードを切り、仕事を始める。ヒビキはアサの指導で厨房で野菜を切っていた。私はホールなので、最低限の仕事のやり取り以外はほぼ会話が出来ない状況にあった。


ピンポーン!!

ソラ「いらっしゃいませ!」

最初のお客さんは、すらっとした長身で、透明感のある、浮世離れしたルックスの可愛らしい女性だ。

田中「おー!!!ユメちゃん!!!」

 

ユメ「きちゃった笑」

 

彼女はユメと言うらしい。田中とは顔見知りのようだった。

ソラ「お知り合いですか?」

田中「1号店の常連でね、仕事が忙しかったらしいんだけど、ずっと来たいっていってくれててね!!」

ユメ「こんにちは。ユメです。」

ソラ「初めまして、ソラです。なんのお仕事をされてるんですか?」

ユメ「モデルです」

ソラ「えー!!すごーい!!!」

ユメの美貌に魅了されていたその時、

ピンポーン

田中「いらっしゃいませ!!!!」

ソラ「いらっしゃいませ!あ!」

 

ハナ「きちゃった!」

 

 

第4話に続く。

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