SOREMA -それ、魔!- 40
SOREMA -それ、魔!- 40
「夢にまで見た日常」
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第338話 「可愛いだけじゃいられない」
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《クラブ・トロピウス》
一善は、マヂカラを纏ってバーに潜入する。
バーの内部は、煌びやかなキャバクラの様になっていて、ヤクザの男たちが、女性らを侍らせて騒いでいる。
頭上でミラーボールが回り、ピアニストが洒落た空間を演出、ベネチアンマスクを付けたディーラー達が、落ち着いた足取りでテーブルを行き交っている。
一善「...!(なんだここ...カジノ?キャバクラ?煙と香水の匂いが充満しててキツい...!)」
一善は、前へ進む。
一善「(よかった。まだ誰にもバレては無さそうだ...でもドイル本人にはマヂカラがあるから見つかってしまう...!こっちが先に見つけないと...!)」
ヒメは、クラブの入口にやってくる。
ヒメ「(一善、こんな店に興味あるの...?んなわけないか...きっとなにか訳があるんだわ...!)」
ヒメは一善に続いて店に入る。
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《蔓蛮楼裏 / ごみ捨て場》
百目鬼は、一善達がいるクラブの場所を、一善からのLINEで知る。
百目鬼「くっ...(もう動けそうだ...軽い脳震盪か?とりあえず...近くに行かないと...!)」
パッ!
百目鬼はその場から消えた。
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《クラブ・トロピウス》
一善は、ドイルと場所を探る。
一善「(ドイルはマヂカラを隠してるな...気配がない。ここに入っていったのは間違いないが...もっと奥か...?)」
ヒメはその後をつける。
ヒメ「...(この空間なに...?なんか怖いわ...)」
すると、ヤクザの1人がヒメに話しかける。
組員「んー?見ねぇ顔だなぁ姉ちゃん。俺と遊ばねぇか?!」
ヒメ「え!あ!いやぁ...」
組員「ノリ悪いなぁ、ここに来たならそういうつもりで来たんだろぅ?!なぁ!」
ヤクザは、ヒメの方を強く掴む。
ヒメ「ちょっ、やめてください!」
ヒメは、ヤクザの手を払う!
ヤクザは、酔いのせいか、大袈裟に倒れ込む!
組員「ってぇーー。おいあんちゃん、なめとんかワレェ!!!」
ペシィン!!
ヤクザはヒメをビンタする。ヒメは倒れ込み、変装用メガネが飛んでいく。
ヒメ「!!!」
店員「きゃっ」
その場の全員からの注目が集まる!
一善「(え?!?!あれ、ヒメ?!?!)」
組員「手だしたらカタギもスジモンもかんけぇねぇ
!それがこっちのルールじゃ!落とし前付けてもらおうか」ポキポキ...!
ヒメ「...!(やばい...!)」
一善「(やっぱりヒメだ?!なんでここに?!)」
ヤクザは、倒れ込んだヒメを掴み上げる。
組員「なァ...おい...」
ヒメ「!!!」
ヒメは、護身術でヤクザの手をひねりあげる!
組員「いててててて!!!」
ヒメ「私だって、可愛いだけの女の子じゃないわよ!」
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第339話 「恋人」
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《クラブ・トロピウス》
組員「てめぇ...!!」
ヒメは、捻った'手'を'持'っ'たまま、ヤクザに話しかける。
ヒメ「あなた、昨日コンビニの店員と揉めたでしょう。それで警察の人と一悶着あったわね。それを何故か上の人に内緒にしてる。何で?」
組員「そ、それは...!!」
組員B「おいお前、まさかカタギに手ぇ出したんじゃねえだろうな?」
組員C「騒ぎ起こして寺杣さんに土つける気か?!」
組員「くっ...!何故それを、お前が知ってる!!」
ヒメ「別に?何だっていいじゃない」
ドカッ!!
ヒメは、ヤクザを蹴り飛ばす!
組員B「な、なんなんだ、この女!!」
組員C「とにかくやっちまえ!!」
ヤクザらは、ヒメに殴りかかる!
ヒメ「...!(流石に大男何人も相手出来ない...!どこかで上手く逃げないと!!)」
一善「!!!(ヒメ!!くそっ!!人が多すぎてそっちに行けない!!!一般人に魔法で応戦したら違反だ!!どうする...!!!)」
組員B「うりゃぁぁ!!」
ヒメ「!!!」
ヤクザが、ヒメに殴りかかる!!その時!!
パッ!!
組員C「ぐはっっっ!!!」ドカッ!!
組員B「?!?!」
ヤクザに殴られたのは、ヒメではなく、別のヤクザだった!!
組員B「な、なんで...?!」
ヒメ「(場所が入れ替わった...?!)」
組員D「なんだ?!とにかくこの女をやれ!!」
組員E「おう!!!」
パッ! パッ! パッ!
すると、ヤクザやヒメの立ち位置が、何度も入れ替わり、その場は混乱する...!!
ヒメ「(何...?!これ...?!)」
組ズ「おいおい!!」「何が起こってるんだ?!?!」
ガヤガヤガヤガヤ...!!
一善「(こんなことが出来るのは...!)」
百目鬼「フッ。お待たせ」
百目鬼が現れた!
一善「(百目鬼!)」
ヒメ「(この人、一善のお友達...?!)」
組員D「おいおい、お前はなんだ?!今取り込み中なんでね!」
百目鬼「取り込み中?レディを袋にするのは感心しないよ?」
組員D「んだとゴルァ!!」
百目鬼「”スイッチ”」
パッ!
すると、ヤクザと百目鬼の場所が入れ替わった。
組員D「!!」
百目鬼「悪いけど君たち下っ端に用はないんだよ。俺は昔から追い求めていた恋人(宿敵)に会いに来たんでね」
組員E「は?!」
組員F「やっちまえ!!!」
???「何をしている!!!」
組員ズ「!!!!」
百目鬼「...!」
一善「...!」
ヒメ「...?」
寺杣「何か騒がしいと思えば、虫か。酒が不味くなる。つまみ出せ」
組員「は、はい!!!」
組員「すんません!!!」
百目鬼「(ドイル...!!!)」
一善「(こいつ...!!)」
ヒメ「(何?あの人。少し普通の人と違うような...)」
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第340話 「男の勲章」
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《クラブ・トロピウス》
寺杣「...(このガキ、魔法使いだな。それにどこかで見た顔だ...そしてあの女も、何かしらの魔法使いだろうか。妙にマヂカラの気配がするな)」
組員「おいコラ!お頭に失礼だ!出ていけ!」
百目鬼「...」
百目鬼は、寺杣を睨みつけた。
組員「おいコラ、なに見てんだ?!コラ!!」
すると百目鬼は、ヒメの肩に手を置き、ヒメに話した。
百目鬼「また会おう。勇敢なお嬢さん...!」
ヒメ「?!」
パッ!
ヒメは姿を消した。
一善「ヒメ!!(逃がした...?!)」
そして、百目鬼は、寺杣の目前へと瞬間移動した。
一善「...!」
組員「(こいつ...?!何をしてるんだ?!人間業じゃねぇ!!)」
寺杣「...ほほぅ...」
百目鬼「さっきはどうも。かなり効いたぜ?」
寺杣「...」
百目鬼「覚えているか?俺の顔、俺の能力」
寺杣「あぁ。思い出した。さっきの中華屋のガキだな。何の用だ?」
百目鬼「いや、'も'っ'と'前'だ。お前とは縁があるんだよ」
寺杣「...?何の話だ?」
百目鬼「まぁ、嫌でも思い出させてやるよ。悪の魔導師さん」
寺杣「魔導師?なんだそれは?」
百目鬼「とぼけるなよ?お前の正体はもう暴かれてる。あとは始末するだけなんだよ」
寺杣「何の話か、絵空事か?」
百目鬼「今日まで良く長生きしてくれたな。この手で葬れることを光栄に思うよ...!」
寺杣「ガキの分際で良くここまで詭弁を述べられるな。死にたがりが」
百目鬼「ガキだからって、舐めるなよ?」
百目鬼は目配せをした。
スウゥゥ...!!!
バコォォォォォォン!!!
一善が、横から寺杣の顔面を殴りつけた!!!
寺杣「...?!(なんだ...!!別の人間が忍んでいたのか...!!マヂカラの気配が散漫していて気が付かなかった...!!)」
一善「...!!」
組員「(寺杣さんが?!?!勝手に吹っ飛んだ?!?!)」
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《クラブ・トロピウス / 入口》
パッ!
ヒメ「!!!ここは、入口?!戻ってきたの?なんなの、あのお友達!!」
ヒメは呆然と立ちつくした。
ヒメ「一善は、大丈夫なのかしら...!!」
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《クラブ・トロピウス》
寺杣は、服の埃を払いながら立ち上がる。
組員「あの巨漢を...あの紫のガキが吹き飛ばしのか...?」
組員「分からねぇ...!あのガキ...やべぇぞ!」
百目鬼「(俺じゃねえんだけどな)」
寺杣「(俺を殴ったガキの方は魔者狩りか?素人じゃない。まぁいいさ)」
一善「...」
一善は、マヂカラを纏って寺杣を睨む。
百目鬼「結構派手にやったな。一応ヤクザだぞ?肝が据わってるというか、イカれてるよ。油木クン」
一善「確かに、あんまり関わりたくないけどさ...」
百目鬼「?」
一善「やる時はやるよ。男だし」
百目鬼「ふふっ…」
戦闘開始────!!
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第341話 「古城」
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《バー・トロピウス》
寺杣「ふぅ...少し、場所を移そうか...」
百目鬼「...!」
一善「百目鬼、ヒメは?さっきどこへやった?」
百目鬼「少し遠くに逃がした。ずっとつけて来てたぞ?」
一善「そうなの?」
百目鬼「あぁ」
一善「そっか。わかった。逃がしてくれてありがとう」
百目鬼「おう」
一善「こいつを倒そう!」
百目鬼「あぁ...!」
寺杣「作戦会議は済んだかな...?」カチャッ
寺杣は銃を手にした。
百目鬼「かかってこいよ...!」
一善「...!」
バァン!! バァン!!
一善「!!」
百目鬼「!!」
寺杣は、天井に向かって数発銃弾を放った。ライトは全て消え、真っ暗になった。
組員「何も見えねぇ!!」
女「きゃーーー怖いわぁ!」
組員「お頭は無事か?!」
一善「来る...!」
百目鬼「...!」
寺杣「魔導結界展開...!!!!!」
ゴォォォォォォォ...!!!!
《魔導結界・古城》
一善と百目鬼は、寺杣=ドイルの魔導結界に引きずり込まれた!
一善「魔導結界...!」
百目鬼「すげぇ見た目だな...!」
魔導結界・古城。月夜の下で紅く輝く中華風の古城を模した結界。
ドイル「(これが魔導結界か...中々いい。円陣内のマヂカラを持つ者を引きずり込む結界...凡人は凡人の意思がないと結界に入れないと聞いていたが、もはや結界内に入れる必要などないだろう。ここでこの2人を始末してやる...!)」
一善「お前、ノベルのメンバーだな?」
ドイル「なるほど。そこまで知っているのか。まぁいい、どうせ殺す、それにここには俺達しかいない。今更何も隠す必要は無い」
一善「...」
ドイル「そうだ。俺のコードネームはドイル。ノベルには片足を突っ込んでいる程度だがな」
一善「何が目的だ...!」
ドイル「金だよ。俺は今、凡人を相手にして下らん小銭稼ぎをしている。だが、それもうんざりでな。このオカルトじみた力で、力を持たない凡人を支配すれば、俺達がベーシックになる。ノベルに協力し、魔導書を全て集めれば、俺は一生困らない財産と住みやすい環境、そして、”不死の命”を与えられる契約でな...!」
一善「不死の命...!?」
百目鬼「...!」
ドイル「ノベルのトップとの契約さ。その契約さえ済めば、俺は1人で静かに豪遊生活でもするつもりさ。奴らのように、世界の覇権なんかには俺は興味が無い」
百目鬼「ほう...」
一善「...」
ドイル「お前達とここで会えたことはある意味幸運だな。生け捕りにし、連れて帰ろう。魔導書を手に入れる必要があるのでな。お前達の体(そこ)に眠っている」
一善「させるわけないだろ」
ドイル「なら俺に勝てるとでも?面白い」
百目鬼「...!」
ドイル「二人まとめて、砕いてやる」ゴゴゴゴ...!
ドイルは、地面に手を置いた。
一善「...?」
百目鬼「来るぞ...!飛べ!」
一善「!!」
ドイル「蒼魔導書第四十三章 強震の書...!!」
ズズズズズ...!!!
一善「地面が揺れる...?!」
百目鬼「亀裂が...!挟まれるぞ...!」
一善「つのキング!」 ボワァン!
つのキング「ウォーーーーー!!」
つのキングは、一善と百目鬼を乗せて空に飛んだ!
ドイル「空か...」
一善「緑のエレメント!!蜘蛛の糸!!」
一善は上から攻撃する...!!
カチャッ!
ドイルは、銃を片手に一善の放ったエレメントを迎撃する!!
バァン!! バァン!!
一善「...!!(防がれた?!ただの銃弾なのに?!)」
百目鬼「あれはただのチャカじゃねぇ!恐らくあいつの魔導書の能力用にカスタマイズされた銃だ!」
一善「...?!」
ドイル「今度はこっちから行くぞ」
一善「!!」
百目鬼「!!」
ドイルは、右腕を大きく払った!すると、空に飛んでいたつのキングが、大きく右側へ揺れ、地面に落下した!!
ドガァァァァァァン!!!
一善「!!!!」
百目鬼「!!!!」
ドイル「...」ニヤッ
────
第342話 「青春の落し物」
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《魔導結界・古城》
ヒメ「...!(何これ...?急に店の外に行ったと思ったら、今度はお城?遠くから音が聞こえる気がするけど、誰もいないの...?なんなのよ!)」
ヒメは、魔導結界に迷い込んでいた!
そして、ヒメは城の中を彷徨って歩く。
────
一善はドイルの一撃で吹き飛ばされていた。
百目鬼とドイルは交戦中。
ドイル「おい小僧。俺をどうしたい?ちょこまかと画策していたようだが...?」
百目鬼「ハァ...出来たら死んでもらいたいねぇ...」
ドイル「ならやってみるがいい」
百目鬼「言われなくてもな...!」チャキッ!
「”運”!」
百目鬼「妖鋏 加具土命!!」
百目鬼は、加具土命(鋏型の魔具)を出した。
ドイル「ハサミねぇ。小僧。これはガキの遊びじゃないんだよ...!」
バァン!!
ドイルは、拳銃を放つ!
キィンッッッ!!
百目鬼はそれを加具土命で弾く...!
百目鬼「分かってるよ...ドイル...!」
ドイル「...」
百目鬼「俺も、ノベルだ...!」
ドイル「...?!ほう...?」
百目鬼「俺のコードネームはアラン」
ドイル「アラン...か。当てつけか?」
百目鬼「偶然さ...だが、運命とも捉えられるな」
ドイル「フッ。寒いな。ならば問おう...アラン君。お前は何故、ノベルに所属した?そして、なぜ味方であるはずの俺を殺そうとしている...?」
百目鬼「逆だよ...」
ドイル「?」
百目鬼「お前を殺す為に...俺は”アラン”になったんだ...!」
ドイル「...!」
百目鬼「いや...それも少し違うなあ...」チャキッ!
ドイル「...!」
百目鬼は、ドイルに迫る!!!
百目鬼「お前を殺す為に!!俺は今日まで生きて来たんだよ!!!!5年前の”あの日”から...!!」ゾォォォォ...!!!
ドイル「...?!?!」
シュゥゥゥゥゥゥ...!!!!!
〜〜〜
回想────
《横浜 / とある高校》
キーンコーン カーンコーン
???「藤〜!おい藤〜!!!」
百目鬼「...?」ムニャムニャ
紅(ごう)。
元サッカー部のキャプテン。運動神経抜群。
紅「藤〜!いつまで寝てんだよぉ!もう授業終わったぞ...?」
浅葱(あさぎ)。
元テニス部。イケメン。
浅葱「寝かせてやれよ。昨日バイト夜勤だったんだろ?」
山吹(やまぶき)。
元サッカー部。お調子者。
山吹「えぇ!高校生が夜勤っていいの?」
墨(すみ)。
元科学部部長。成績学年トップ。
墨「18超えればいいんだよ。そんなことも知らないのか?」
山吹「うるさいなぁ!」
松葉(まつば)。
元軽音部。趣味は作詞作曲。
松葉「また始まったよ、山吹の天然ボケw」
山吹「俺は大真面目だよ!」
紅「てか、こんなに話してるのに起きないってヤバいなこいつ」
松葉「おいー藤ー起きろー!」
墨「時間も無くなるし、先行っとくか?」
浅葱「まぁ、それでもいいけどさ」
山吹「いや!起こそう!」
紅「だな!」
藤(百目鬼)「zzz...」
紅「おい!藤!お前が居ないと始まんねぇんだよ!起きろ!」
百目鬼藤の隠されし過去────!!
────
第343話 「夕陽」
────
《とある高校》
藤「...!」
松葉「あ、起きた」
紅「やっと起きたか!ほら、もう授業終わったぞ?」
墨「...」
山吹「はやくしないと!また待たされるよ!」
浅葱「確かに」
藤「ん...あぁ、そっか」
百目鬼藤(18)
帰宅部。普段はバイトに明け暮れ、寝不足の日々を過ごしていた。グループの中では、ムードメーカー的存在。蒼魔導書第二十三章 転送の書の履術者。
────
高校三年の冬、俺達6人は、それぞれ卒業を目前に、最後の高校生生活を謳歌せんとしていた。
この日、俺達は、隣駅のカラオケへ向かっていた。
山吹「てかさ、隣の駅まで走らね?」
浅葱「嫌だよ。汗かくし」
墨「待たされるのが嫌だって言ったのはお前だろ?」
山吹「そうだけどさ!」
紅「俺は走ってもいいぜ?!」
松葉「流石、元サッカー部は走るのが好きだねぇ」
俺は昔から、魔法が使えた。物心つく前に、魔導書を拾った記憶がうっすらある。
走らずとも、近い距離は移動できた。人目につくと怪しまれるから、いつも誰にも見られないように使っていた。
この能力のせいで、俺は運動したりするのが楽しめなかった。走る意味が俺には見いだせなかったからだ。
山吹「じゃあさ、藤のアレで移動しようぜ?」
藤「おいおい、流石に6人飛ばすのは疲れるわ!」
松葉「ホント、不思議だよな〜藤って」
藤「俺だって、マジで分からねぇんだよ!」
紅「俺は走りたい!あの夕陽に向かってな!」
墨「はぁ...」
山吹「じゃあ皆は電車で、俺達は走るわ!」
浅葱「おいおい!お金の問題とかあるんだから!同時に入らないとめんどくさいだろ」
紅「気にしない気にしない!」
藤「んじゃ、俺もたまには走ってみるかな」
山吹「藤!そう来なくっちゃ!」
松葉「なんか、みんな走るなら俺も走ろうかな?」
浅葱「はぁ...」
墨「全く」
俺はこの6人にだけは自分の能力の事を話した。最初は疑っていたが、何度か試すうちに信じてくれた。そして、誰にも口外しないと約束してくれた。この秘密を話して2年ほど経つが、多分この6人以外、俺の能力に関しては本当に誰も知らない。
──────
《とあるサイゼリア》
この日は、卒業式前日。
俺達はいつものように話し込んでいた。
紅「もう明日卒業だぜ?時間の流れ早くね?」
山吹「夢のDKももう明日で終わりか〜」
藤「ドンキーコング?」
山吹「男子 高校生 !」
浅葱「それ、JKにしかブランド力ないからね?」
墨「確かに」
松葉「じゃあもうすぐ俺達はDDになる訳ね」
藤「ココココココ...」シー \/
紅「何してんの?」
藤「いや、なんでもw」
山吹「ダンシンダイナマイ!」
松葉「そのDDじゃねえわ」
墨「てか、お前ら大学行ったら何すんの?」
俺達は、もうすぐ始まるキャンパスライフについて語った。
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第344話 「夢にまで見た日常」
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《とあるサイゼリア》
山吹「確かに、俺達バラバラだもんなー進路」
紅「墨は理系だからキツそうだよな」
松葉「てか、慶央よく受かったよね」
墨「和稲田は落ちたけどな。ま、俺はそれなりに勉強して理系就職するかな」
藤「すげえな」
山吹「俺は大学入ったら遊ぶぜえ!渋谷原宿表参道!そして夢だった可愛い彼女とのキャンパスライフを送るんだぁ...!!」
墨「典型的なバカ大学生だな」
浅葱「ま、彼女が出来ればの話だけどな」
山吹「ぴえん」
紅「俺は大学入ったら体育会に入りたいな。サッカー部でもいいけど、アメフトもやってみたい!」
藤「ええやん」
松葉「アメフトなら1年後超ガタイ良くなってたりしてw」
山吹「確かにw」
紅「ムッキムキになってやる!!」
浅葱「俺と松葉は予備校通いだな」
松葉「そうだねぇ。俺はちょくちょくライブ活動もしたいけど」
山吹「てか松葉は頭いいんだし、普通に入学すれば良かったのに」
松葉「第1志望落ちたからなぁ。来年は受かってみせるよ」
墨「浅葱は?お前も大学選びに困るタイプでは無いだろ」
浅葱「まぁそうなんだけど、もう1年やればもっと上狙えそうだったし」
山吹「うっそー。本当は彼女とおんなじ学校行きたいだけでしょー」
浅葱「は?!や、山吹うるさいぞ!」
墨「お前、彼女いるのか?」
藤「一個上だよな」
浅葱「おい藤!ばらすな!」
紅「俺知らなかったぞ!」
松葉「俺も聞いてなーい」
浅葱「藤にしか言ってなかった。山吹は、たまたまデートで会っちまったんだよ!」
紅「水臭いなー言ってくれたら良かったのに」
浅葱「男同志で恋バナしても仕方ねぇだろ」
藤「浅葱のマネ「ミナ先輩ドウオモッテルカナードウカナードウカナー」」クロミチャン!
浅葱「やめろ!」
一同「www」
紅「藤、お前は?」
松葉「大学で何すんの?」
藤「んーバイト?」
浅葱「お前だけ何も変わらなそうw」
山吹「一緒にダンスサークルとか入ろうよー」
藤「なんでだよ...しかもダンスって」
墨「ま、大学生になれば、色々変わるだろ。俺たちがそれぞれ変わろうと、こうやって集まり続けられればそれでいい。この関係に終わりはないからな」
山吹「お!wwwいいこと言うやん...!」
紅「くせぇー!」
藤「墨、キャラじゃないぞ?どうしたw」
墨「う、うるせぇ!こ、高校生としては、今日が最後だしよ」
松葉「ま、墨の言う通りじゃない?大学に行こうと社会人になろうと変わらないから」
浅葱「そうだな」
紅「そうだ、明日卒業式の後暇か?なんかしようぜ?」
山吹「俺1日暇ー!」
松葉「俺もいいよ」
墨「全員行くなら」
浅葱「俺もそんな感じ」
紅「藤は?」
藤「するっきゃないっしよ?!」
紅「決まりだな!」
山吹「スポッチャ行きたい!」
松葉「あ、あり〜カラオケしたい」
浅葱「バスケしたいな」
墨「...」
藤「墨、いいか?」
墨「ま、運動嫌いだが、最後だしな!」
紅「ゲーセンとかもあるし、大丈夫っしょ!」
山吹「でさ、終わったら夜、いつもの神社行こうぜ?」
浅葱「あ、ありだな」
紅「高校最後の缶蹴りしようぜ!」
藤「ありすぎる!」
墨「じゃあ、そういうことで」
松葉「あ、皆!3年間のスライド作ったから見てくれね?」
山吹「マジ?すげえ!」
松葉「BGMは俺が作りました」
浅葱「すげえな。その才能何かに活かせよ」
藤「早く見ようぜ!」
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俺達は明日、卒業を迎える。
俺達の日常は、一つの区切りを迎える。ただ、本質的には同じような、当たり障りのない平凡が続くものだと、どこかで皆思っていた。
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第345話 「桜舞い散る」
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卒業式当日。
桜が舞い散る中で、俺達は卒業した。
笑う者、涙する者、抱擁する者。
一つの大きな思い出に別れを告げ、俺達は巣立った。
そして、もう着ることの無い制服に身を包んだ俺達は、最後に絞り出すように、はたまたそれは、ぎっしりと書き込まれた青春のノートの余白を全て埋め尽くすくらいの勢いで、遊んだ。
────
《とある神社》
────
日は落ち、青白い電灯に照らされた神社の境内に俺たちはいた。
この神社は、俺達の青春と言っていいほどに通いつめた場所で、よく缶蹴りをして遊んでいた。
普段はよく、境内まで続く長い階段をくだらない話をしながら登った。
紅「よし、最初の鬼ジャンケンで決めようぜ」
山吹「おう!」
一同「ジャンケンポン!!!!」
俺は、時間を忘れて缶蹴りをして遊んだ。それは今までよりもずっと長い時間遊んだ。
楽しんでいたというのもあるが、今考えたら、全員怖かったのかもしれない。誰かが帰ろうと言い出せば、そこで俺達の高校生活が終わってしまう。そんな一抹の寂しさを抱きながら、俺達は缶を蹴っていたのかもしれない。
そして、事件は起きた。
藤「よし、じゃあ次、山吹鬼なー」
山吹「くそー!」
墨「お前見るなよ?数えるとき」
山吹「分かってるよ!」
紅「60秒だぞ!」
山吹「おけい!」
浅葱「なんかだいたいもう隠れる場所パターン化してきたな」
墨「何回ここで缶蹴りしてるんだか」
松葉「もう少し奥に隠れようかな」
山吹「行くよー。いーち、にー、さーん...」
他のメンバーは、一目散に散る。
────
その頃。
《神社の裏側》
怪しげな男が二人、物陰に隠れて会話をしていた。一人は灰色のスーツの男。もう一人はアロハシャツの小太りな男だ。
スーツの男の名は、寺杣定といった。
寺杣「例のブツ、持ってきてくれたんですよね?」
男A「当たり前やろ。アンタとウチの仲やん?」
寺杣「渡してください」
男A「寺杣はん。そこはナマが先やろ?常識や」
寺杣「...」
寺杣は、アタッシュケースを取りだした。
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《境内》
山吹「ごじゅーきゅー、ろくじゅー!!」
シーン
山吹「全員残らず見つけてやるぜ?どこだどこだ〜?」
山吹は、缶の位置を気にしながら、辺りを詮索した。
山吹「全員見つからないな。もっと奥か?」
墨「...」
紅「...」
浅葱「...」
松葉「...」
藤「...」
全員、草陰に息を潜めて山吹の様子を見ていた。
山吹「建物の裏とかはどうだ...?でも缶が...」
山吹は缶に目をやる。
山吹「大丈夫だ!一瞬で!!」
山吹は、走って神社の裏側へ!
山吹「見つけた...ぞ!!!」チラッ!
山吹は、建物の裏を見た!
すると、怪しげな灰色のスーツの男が、アロハシャツの男を銃殺している光景が飛び込んできた!!
山吹「!!!!」ゾクッ!!!
寺杣「...何だ?」
山吹「...!?!?」ガタガタガタ...
松葉、浅葱はそれぞれ別の場所から山吹を見ていた!
松葉「...(山吹が止まった...?)」
浅葱「...(チャンス...?でもなんか様子が...?)」
バァァァン!!!
松葉・浅葱「!!!!!」
山吹はその場に撃たれ、血飛沫を上げて倒れた。
SOREMA -それ、魔!- 41へ続く。