SOREMA 外伝 The Parallel ⑤

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SOREMA外伝 The Parallel 5

 

 

 

俺は油木一善。魔法使いをやっている…

 

 

 

はずだった。

 

 

 

《一善の家》

 


真理「ちょっと一善!いつまで寝てるの?」

一善「ごめんお母さん、まだ早起きに慣れなくて」

真理「何言ってるのよ!ヒメはもうとっくに起きてるわよ!」

一善「あいつと一緒にするなよ〜」

 


母の呼び掛けで目を覚ます。

 


眠たい顔でベッドから起きて、階段を下りる。テーブルでは母の作ったカレーライスが良い香りを漂わせていた。

 


一善「朝からカレーか…」

真理「カレーの翌日はカレー!仕方ないでしょ、早く食べなさい」

一善「はーい」

 


そして目の前では父が、そのカレーにがっついている。

 


和義「うまい!うまい!うまい!うまい!うまい!!!」

一善「ちょ、父さん、朝からうるさいよ…」

和義「お前は朝なのに元気が足りないな!俺の息子の癖にな!あっはっは!」

一善「はぁ…」

 


和義「やっぱ真理の作るカレーは最高だ!ごちそうさん!」ガタッ

真理「ちょ、ちょっと!皿くらい片付けなさい!」

 


すまんすまんといいながら、父はネクタイを握り洗面所へ消えていく。

 


真理「もう、全く」

 


母はそれを見て呆れて笑う。綺麗に完食された皿を見てどこか嬉しそうだ。

 


そして父と入れ替わりでリビングに現れたのは…

 


ヒメ「ちょっと一善、まだ食べてるの?また学校遅刻するよ?」

 


ヒメ。俺の双子の妹だ。俺よりしっかりしていて、面倒見がいい。

 


一善「大丈夫だよ。俺にはつの…」

ヒメ「つの?」

一善「…いや、何でもない」

ヒメ「とにかく、あと10分でバス来るから急いでよね!間に合わなかったら置いていくから!」

一善「ちょ、急ぐから待ってよ〜」

 


何気ない日常。普通に朝起きて、ご飯を食べて、家族の顔を見て、学校に行く。

そんな単調な日々を繰り替えして大人になって、そんなことを頭にうかべる日々。

父さんと母さんと、ヒメ。4人で過ごす、平坦だけど暖かくて、平和な日々。

 


ずっとこんな日々がつづいてくれればいいのに、俺はそう思ってここにいる。

 

 

 

 


でもここが、”俺がいるべき世界じゃない”ことも、本当は、分かってる。

 

 

 

────

 


《学校》

 


キーン  コーン  カーン  コーン

 


男教員「じゃあ、次の箇所、”久品”!読んでみなさい」

一善「あ、はい!「別れるのは、ただ一瞬の苦しみだと思ったのは迷いであった──」

 


俺はこの世界では、どうやら久品一善らしい。

 


キーン  コーン  カーン  コーン

 


軽快なチャイムの音。廊下に響く生徒達の話し声。窓を抜けて聞こえる、グラウンドのホイッスルの音。

 


生ぬるい風が、開けた第二ボタンの裏を通って肌を乾かす。

 


生徒A「おい久品!!!」

一善「…なに?」

生徒A「2組の鈴木がお前に用あるって!」

 


一善「?…うん」

 


鈴木?聞き慣れない名前だ。最も、正直誰のことも分からないのだけれど。友達が少なくて助かったな。

 


一善「はい」

 


廊下に行くと、鈴木という女の子が俺の前に現れた。

 


鈴木「ちょっと」

 


彼女は俺の手を引いて、廊下を抜け、階段を掛け昇った。

 


ヒメ「あぁ!ちょ!一善?!」

友人A「ちょ、ヒメ今の見た?」

友人B「一善君にもとうとう彼女?」

ヒメ「いや、聞いたことないんだけど…ちょっと追っかけてくる!」

 


────

 


一善「何の用ですか?」

空「私、空。あなたに、大事な話がしたいの」

一善「なんですか?」

 


空「あなた、いつまでこの世界の住人のフリをするつもり?」

 


一善「…え?」

 


空「とぼけたって無駄よ。私も特別な存在。あなたが持ってる、前の世界の記憶を知ってる」

 


一善「…」

 


空「あなたは魔法使い、そうよね?」

 


一善「…!」

 


スカイ「私はスカイ。空っていうのは、この世界での仮の姿。私はパラドックスエージェントっていう存在なのよ」

一善「ちょ、何が何だかよく分からないよ…」

スカイ「簡単に言うと私達は、世界の管理者。あなたは、ここでは無い”魔法のある世界”から、ここにとばされてきた」

一善「…」

 


そう、俺はあの日──

 


買い物から第2支部に戻ろうとした時、突然降ってきた雷で意識を失って…それで…

 


目が覚めたら、お母さんの声がして…俺はベッドの上にいた。

 


何度も頬を抓ったりした。

 


でも、全ては本物だった。

 


俺が望んでいた暖かい世界が、目の前に広がっていたのだ。

 


スカイ「あなたは元の世界に戻るべきなのよ」

 


一善「…」

 


スカイ「本当は私だって、こんな事をしてはいけない。でも、向こうの世界で、あなたは沢山の人に求められてる。だからいるべき世界に戻るべきなのよ」

一善「そんなことが…出来るの?」

スカイ「それはこれから分かること」

一善「え…?」

スカイ「それに、君を求めている存在は、この世界にもいる」

一善「この世界にも?」

 


そこに現れたのは、水色の髪の男だった。

 


ジャ「呼んできたよ〜ん。スカイちゃん」

スカイ「馴れ馴れしく呼ばないで」

一善「ジャ、ジャスティンさん?!」

ジャ「あ、俺はジャスティンじゃないよ?ジャね」

一善「ジャ?」

スカイ「何言ってんのジャスティス。もっと真剣に…」

 


そして、ジャ?さんに連れられて現れたのは…

 


幸二「よう…一善」

葉月「あ、一善くんだ!」

榊「彼が…油木一善」

 


幸二、そして第1支部の葉月さん、そして、何故か榊だった。

 


一善「え、3人が、何でここに?」

 


幸二「それはこっちのセリフだ。一善、魔法の記憶があるんだな?」

一善「…まぁ」

幸二「てか、その制服、あんまり似合ってないぞ」

一善「幸二こそ、その制服…」

幸二「…!いや、この人が学校に行くから、制服に着替えろって!」

ジャ「うっしっし」

 


一善「ていうか、何で榊が?」

榊「少年!やはり私が分かるんだな!!私は?!どんな人間だったんだ?!」

一善「外道」

榊「何〜?!?!?!?!?!」

幸二「ま、それは置いておいて、一善、俺達に協力してくれないか?」

一善「協力…?」

 


幸二「あぁ。元の世界に戻るんだ」

一善「…」

葉月「…」

ジャ「…」

スカイ「…」

 


ヒメ「一善!」

一善「ヒメ!」

 


そこへヒメがやってくる。

 


葉月「あれは確か…」

幸二「久品ヒメ。この世界でも、一善の妹なのか」

ヒメ「一善どうしたの?ていうかこの人たちは?なにかやらかしたの?」

一善「い、いや、俺は何も…」

 


幸二「久品ヒメだな」

ヒメ「…!あなた、どうして私の名前を?」

幸二「…まぁいい」

スカイ「天堂幸二ね。私はスカイ。パラドックスエージェントの1人よ」

幸二「…!」

葉月「この人が…!」

 


スカイ「私は油木一善の監視役としてここに来ている。そして私は、彼を元の世界に送り届けたいと思っている…!」

幸二「…!」

葉月「…!てことは!」

榊「!!」

 


スカイ「油木一善、これを」

一善「…」

 


スカイはパラドックスキーを俺の前に差し出す。

 


スカイ「受け取って。あなた達が元の世界に帰るのに必要なものよ」

 


ヒメ「元の世界?何の話?そもそも私達の苗字は久品だし…」

 


幸二「一善…一緒に帰ろう。三太郎達も待ってる!」

一善「…」

葉月「つのキングはいいの?一善君の親友じゃん!」

一善「…ごめん」

 


パシッ!

 


スカイの手を払ってしまった。

 


スカイ「…!」

 


幸二「…!」

榊「少年…」

 


俺は膝から崩れ落ちた。体が言うことを聞かない気がした。

 


一善「ごめん…皆…」

幸二「…」

葉月「…」

 


一善「俺…ここに居たい…!」

 


幸二「…」

葉月「…」

スカイ「…」

ジャ「あらあら」

 


一善「ごめん…本当に…ごめん…!!」

 


葉月「こっちの世界の一善君が向こうで苦しんでるんだよ!!いいの?!」

幸二「いや、葉月、少し様子を見よう」

葉月「…でも、あまり時間がないって…」

 


幸二「俺達には分からない。奪われたものが存在する世界。望んでもどうしても手に入らないと思ってたものが、目の前に当たり前に存在する世界、そこに手が届いてしまった時のこと。戻ったらそこは喪失感しかない絶望の世界。そう捉えてしまっても仕方がないことだ」

葉月「…」

 


幸二「少し、2人で話をさせて欲しい」

葉月「…」

榊「…」

スカイ「…分かったわ。一善君。いいわね」

一善「…はい」

 


────

 


俺は幸二と2人で、屋上へ向かった。

 


幸二「最初に言ってしまうが、ここに残ったとしても、俺達の命は短い」

一善「…!どういうこと?」

幸二「話すと長くなるが、簡単に言うと、向こうの世界の俺達が死にかけてる。魔法によってな。そいつらが死んだら、俺達も存在できなくなるっつう話だ」

一善「…そんな」

幸二「だから、それを打破するために、このパラドックスキーを使って、向こうに帰ろうとしてる。葉月や榊はそれに同調してくれた仲間達だ。お前の知る榊とは少し違うが」

一善「…そうなんだ」

 


幸二「俺達は今日までこっちの世界で、こっちの世界の皆に会ってきた。ほんっと皆やりたい放題やってたよ」

一善「…」

 


幸二「俺は…兄貴にも会ってきた」

一善「…!」

 


幸二「兄貴には全て話した。そして、向こうで言えなかったことも全部話した。もちろん、魔法の記憶なんて、残ってないんだろうけどな」

一善「…」

 


幸二「正直ここに居ることが出来れば、俺は兄貴と一緒に居られる。戦いのない平和な世界で、別の人生を歩むことが出来る。だから俺も正直、このままがいいっていうお前の気持ちも少しわかるよ」

一善「…」

 


幸二「でも俺のした罪は消えることがない」

一善「…!」

幸二「俺の中から魔法の記憶が消え去ってくれるなんて事はないんだよ。だから俺は今もどこかで戦ってる仲間達や、魔法の惨禍に目を瞑りながら、こっちで生きていかないといけない。それって、辛くないか」

一善「…」

幸二「一善、お前言ったよな。あれは初めて魔裁組に来た時だったか。”誰かが泣くって考えたら、俺に出来ることがあるなら、逃げられるわけない”…と」

一善「…」

幸二「魔法という未知の恐怖を前にして、涙を流して尚そう言ったお前は、逞しく見えた」

一善「…」

 


幸二「今では後輩というより、仲間っていう意識の方が強い。それは技術だけではない、精神面でもそうだ」

一善「…」

幸二「俺はお前の精神面の弱さも理解しているつもりだ…ただ同時に、それを乗り越えられる強さがあることも、分かってる」

一善「…!!」

幸二「もう時間が無い。キーを受け取ってくれ。6つのキーを集めれば、元の世界に戻れる。俺はそう信じている。だから…」

 


幸二は、真っ直ぐな瞳でそう言った。

 


あぁ…そうだ。

 


俺は目を背けていた。

 


こうしている今でも…仲間は戦っているんだ。

 


俺は確かに望んだ。

 


家族と過ごす、平和な日々を。

 


魔法のない、戦いのない、日々を。

 


でも俺は、それを失ってしまった。

 


今目の前にある平和は、魔法を知ってしまった俺にとっては、平和ではないんだ。

 


でも、未来はきっと変えられる。

 


平和を作ることは出来る。

 


そう思って、俺は命を削って、魔法使いをやってたんだ。

 


一善「…一つだけ」

幸二「…?」

一善「こっちの世界でやりたいことがある」

幸二「…わかった」

 


ガチャ。

 


階段の扉を開け、階を降りると、さっきの人達が全員待っていた。

 


ヒメ「一善!」

葉月「コージ君!」

ジャ「話はまとまったかな?」

榊「…」

スカイ「…」

 


一善「空…さん」

スカイ「?」

一善「さっきはごめんなさい。覚悟が出来ました」

スカイ「…あなたに必要なもの、預けていいのね?」

一善「はい!」

 


幸二「…」笑

葉月「何笑ってんの気持ち悪」

幸二「別に良くない?酷くない?」

 


僕はスカイからキーを受け取った。

 


幸二「これでキーは残り一つ…」

スカイ「最後の鍵を持っているのは…!!うっ…!!!」

一善「そ、空さん?!」

ヒメ「大丈夫ですか?!」

スカイ「うっ……頑張ってね…油木…一善」

 


バタンッ

 


スカイは気を失った。

 


ヒメ「大丈夫かな?救急車!」

幸二「あー多分大丈夫このパターンその内目が覚めるから」

ヒメ「へ?」

 


スカイを保健室に運び、俺達は学校を後にする。

 


一善「じゃあ帰ろっか、ヒメ」

ヒメ「そうだね」

 


葉月「え、いいの?」

榊「同行させなくて良いのか?」

幸二「いいんだ」

葉月「?」

 


幸二「きっと最後の”家族”だからな」

 


────

 


《一善の家》

 


ヒメ「ただいま!!!」

真理「あら、おかえり!」

 


当たり前のように母の声が俺達を迎える。

 


一善「…ただいま」

和義「おう!おかえり!」

一善「…!お父さん?」

ヒメ「あれ、パパ早いね今日!」

和義「今日はプレミアムフライデーだからな!」

ヒメ「そんなのまだあったんだ…」

 


真理「久しぶりなんじゃない?皆でご飯食べるの?」

ヒメ「確かに塾とか部活で最近忙しかったから…」

和義「今日は久々におでんを作ったぜ!!」

ヒメ「お!パパの料理久々!」

和義「だろだろ!!」

 


────

 


一同「いただきまーす!!!」

 


和義「うまい!うまい!うまい!うまい!うまい!!!!」

真理「もう少し静かに食べてよねぇ」

和義「熱い!」

真理「はいはい」

 


ヒメ「一善、なんか元気ない?」

一善「…そんなことないよ?」

ヒメ「食べないの?ソーセージ取ってあげよっか?」

一善「…大丈夫、自分で取るから」

 


真理「何かあったの?学校で」

一善「いや、何も」

ヒメ「でも一善に他校の友達がいたなんて驚きだなーどういう繋がり?」

真理「他校の友達?変な繋がりじゃないでしょうね?」

一善「ち、ちがうよ」

和義「友人がいることは良いことだ!」

 


ヒメ「幸二君だっけ?屋上で何話してたの?」

一善「いや…別に」

ヒメ「もしかして、お金せびられてたとかじゃないよね?!」

一善「んなわけ!」

ヒメ「…それならいいけど」

一善「…大事な仲間だから…幸二は…」

ヒメ「そっか…ごめん」

 


和義「ソーセージ食わねぇのか?じゃ俺が食うぞ」

一善「あ!ちょ!父さん!」

和義「あはは!冗談冗談!」

 


お父さんの顔をしっかり見るのは初めてだけど、何故か昔から一緒にいたような懐かしさがある。

 


和義「そうだ、真理!」

真理「ん?あ、あぁ、アレね」

一善「ん?」

 


お母さんは席を立つと、奥の棚をなにやらゴソゴソして、白い小包を持ってきた。

 


一善「それは?」

和義「ミサンガだ。お前にやる」

一善「え?」

和義「もうすぐ県大会だろ」

一善「…あ、あぁ、うん」

 


この世界線の俺は剣道部に所属しているらしい。

 


和義「だからお守りだ。お前が勝てるように」

真理「2人で選んできたのよ」

一善「…!ありがとう」

 


和義「ほら早速つけてみろよ!」

真理「ちょっと!すぐ切れちゃったらどうするのよ!」

和義「それはそれで願いが叶うって言うだろ!」

真理「そうだけど…」

ヒメ「いいなぁ!一善だけずるいよぉ」

真理「ヒメはコンクールの時にまたあげるから」

ヒメ「本当?!」

 


包を開けると、赤と黄色の糸で結ばれたミサンガが出てきた。

そしてそれを手首に巻いてみた。

 


和義「似合うじゃねぇか。それ、なくすなよ」

一善「うん」

和義「どんなに離れていても俺達がお前を守ってるってこと、それを見て思い出せ」

一善「ありがとう…」

 


何故だろうか。不意に涙が溢れてくる。

涙と湯気で、視界が滲んでしまう。

 


真理「一善何泣いてるのよぉ」

ヒメ「感動しちゃった?」

和義「だっはっは!俺の息子何だからもっと、バシッとカッコつけろよなぁ!」

一善「あはは…ごめんごめん」

 


和義「ま、県大会頑張れよ、お前ならやれる」

一善「…はい!」

 


和義「よし、食え食え!!」

一善「うん!」

 


その晩は死ぬほどおでんを頬張った。

 


────

 


夜中。

 


家族の寝息が各部屋から聞こえる。

 


俺は、旅立つ。

 


すぐに帰ると置き手紙を残し、俺は家を出る。

 


大丈夫、俺は大丈夫。

 


ありがとう、俺の愛しい家族達。

 


戻ってきた俺は、いい息子で居てくれるだろうか。

 


どうか、家族の幸せを考える、優しい俺でいて欲しい。

 


じゃあね、父さん。

 


じゃあね、お母さん。

 


靴を履いてドアに手をかける、その時。

 


ガチャ

 


ヒメ「どこ行くの〜」

 


目を擦って殆ど意識のないヒメが声をかけてきた。

 

 

 

一善「…ちょっと散歩」

 

 

 

ガチャッ

 


────

 

 

 

《国立競技場》

 


夜。

 


満月の下、人気のない、灯りのない国立競技場に、一つの影。

 


???「ふふふ。もう少しで、世界が終わる」

 


────

 


《とある病院》

 


301号室

 


三太郎「幸二!おい幸二!!!」

はるか「目は開いてるのに」

南波「意識は…ない」

 


302号室

 


伊藤「葉月さん!!」

千巣「おい葉月!起きてるのか?」

村松「…!」

 


葉月も幸二と同じように、目を開けたまま、昏睡状態となっていた。

 


小町「…誰が…葉月をこんな目に…」

 


303号室

 


ジャ「どうなってんだ?こりゃ」

 


同じく一善も開眼昏睡状態。

 


麗美「生きてはいるんですよね…?皆」

莉茉「むしろバイタルは安定してるのが不気味ね」

ヒメ「一善…戻ってきて…兄妹になったばかりなのに…」

 


────

 


《国立競技場》

 


影は高らかに笑う。

 


???「ふふふ…ふっはっはっ…はっはっはっはっ…!!!!」

 


その正体は…!

 


モーニング「世界よ…滅びよ…!!」

 


そう、謎の男、モーニングであった。

 


そしてそこへ現れたのは!

 


幸二「そうはさせない!」

モーニング「おや、こんな遅くに来客ですか」

 


葉月「あんたが黒幕なのね」

榊「お前の野望はここで砕く」

一善「俺達は元の世界へ帰るんだ…!」

 


モーニング「ふふふっ。そう上手く行くかな」

 


ジャ「お前は世界を滅ぼす為に、天堂幸二ら特異点3人が現れたこの状況を利用した。そうだな、モーニング…いや、ナイト!!」

 


モーニング「ふふっ。そこまでお見通しですか、誰かは知りませんが、お喋りがすぎますよ?」

葉月「ナイト?」

幸二「朝じゃなくて夜ってことか?」

 


ジャ「お前はパラドックスエージェントの1人、モーニングを乗っとり現れた存在、闇の化身・ナイト。お前は世界の破壊を性とする悪しき存在」

 


ナイト「ふふっ」

 


ジャ「まずお前は世界を破滅に導く為に、遠ざかっていく世界を近づけようとした。その為に”駒”を追加したんだ。無理やりもう1つの世界から榊を呼んだんだ」

 


榊「私を?何故!」

 


ジャ「榊天慈は天堂幸二らにとっても光の巨人の世界にとっても大きな存在。天堂らを上手く動かすカードとしても、巨人の世界の大きなピースを欠くという意味でも、多大な役割を持つ」

 


榊「よく分からんが、重要人物という事だな!」

 


ジャ「そして彼ら4人を使って、彼らを元の世界に戻れるようけしかけることで、世界の距離を縮めようとした。1人は”彼女”の妨害で上手くいかなかったが、他の3人は、途中までは上手くいった」

 


ナイト「…」

 


ジャ「計算外だったのは片方の世界の天堂幸二らが命の危機に陥ったこと。特異点がどちらかの世界で消えればもう片方の世界でも存在できなくなる。そうすれば世界は再び離れていく。そうなると世界の破滅は訪れない。そこでお前は元の世界の天堂幸二らを延命させることで、天堂幸二らを2つの世界に存在させ続けた」

 


幸二「延命?」

ジャ「今向こうの世界の君達は、ナイトによって生かされてるんだ。そのおかげでほら、宙を見て」

幸二「ん?」

葉月「…!」

榊「…あれは!!」

一善「地球の空に…地球…?」

 


夜の宙にうっすらと巨大な地球が2つ浮かんでいた!

 


ジャ「君達が存在する限り、あの二つの世界はさらに大きくなって、世界はドカンだ」

 


幸二「…!」

葉月「そんな…!」

 


ナイト「ふふふっ…ご名答だよ。でも1つ疑問がある…」

ジャ「?」

 


ナイト「君は何者なんだい?ジャスティス」

ジャ「…」

ナイト「君は元々パラドックスエージェントではなかった存在だ。魔法の世界の人間でもない。この世界の人間であれば全てを知りすぎている。君はどこの次元に存在する存在なのだ?」

ジャ「…僕は君から生まれたんだよ」

ナイト「はい?」

 


ジャ「君が榊を呼んだ時、僕は榊を監視する存在としてこの世界に産まれ落ちた。この魔法のない世界の住人”神野ジャスティン護”の体を借りる形でね」

ナイト「ふふっ成程」

ジャ「本来生まれる筈のなかった”高次”の存在、それが僕さ」

葉月「こうじ?」

幸二「あー話をややこしくすな」

 


ナイト「まぁなんでもいいです。もうすぐこの世界と魔法の世界が衝突します。そして光の巨人の世界もその後を次ぐようにして衝突。この世界は全て無に還る…!それこそ、僕の望み!そしてその瞬間を見届けられることが、至福の喜びなのです…!!!」

一善「こいつ…!」

幸二「あぁ…狂ってる…!」

 


ナイト「恨まないでくださいよ。君達がこの世界に来たのは本当の偶然。そして元の世界に戻りたいと、世界を近づけたのは君達の意識。僕はそれを傍観してただけなんですから。ふははは!楽しかったですよ。見てる分にはね」

幸二「ちっ…!」

葉月「こいつ、ウザい…!」

幸二「この期に及んで語彙力!」

 


ナイト「じゃあ最後にもう1つ、ゲームをしましょうか」

幸二「ゲーム?!」

ナイト「はい。ゲームです」

幸二「お前の遊びにはもう付き合ってられねぇよ!」

ナイト「あれれー君達、欲しくないんですか?最後のパラドックスキー」

 


ナイトは胸元にぶら下げた妖しい光を放つパラドックスキーを揺らした。

 


葉月「あれは!」

一善「最後のパラドックスキー!」

 


ナイト「君達が僕に勝てたなら、このパラドックスキーを使って元の世界に返してあげます。もちろん、榊君もね」

榊「!」

 


ナイト「でも僕に勝てなかったら、この世界ごと消えます」

 


幸二「…!負けた時のリスクがデカすぎる…!」

 


ナイト「ふふふっ。やりますよね?」

幸二「…何で戦う?」

ナイト「君たちに合わせましょうか。そう。”魔法”で」

幸二「魔法?!」

 


ナイト「魔法世界はすぐそこまで来ている。一流の魔法使いならもう、魔法が使える筈だ」

幸二「は?」

葉月「マジ?」

一善「…!」

 


ボワッ!

 


俺達の体にはマヂカラが僅かながら戻ってきていた!

 


幸二「魔法が…!」

葉月「帰ってきてる!」

榊「え!!魔法の話って本当だったの?!?!」

幸二「今の今まで疑ってたんかい!!!」

 


ナイト「制限時間は世界が終わるまで。僕と戦う人間は1人だけ。さぁ。勝負を始めよう。世界をかけた勝負を…!!」

 

 

 

ギュァァァァァァァ…!!!!

 

 

 

ナイトは幸二を宇宙空間に引きずり込んだ!!

 


一善「…幸二!!!」

榊「天堂幸二!!」

 


葉月「…!!」

 


ジャ「…!」

 


────

 


《宇宙空間》

 


俺達は今、3つの地球の真ん中にいる。

 


足場はないが立つことはできる。摩訶不思議な空間だ。

 


ナイト「どうだい、先程より更に、魔法の力が増しただろう?」

 


確かに、体に宿るマヂカラは、さっきよりも強い。

 


幸二「何故俺なんだ」

 


ナイト「ふふふっ。君なんだろう、この物語の主人公は」

 


幸二「ふっ…あんまメタ的な発言すんじゃねぇよ、冷めるから。ま、なら返してやる、お前がラスボスなんだろ!!ナイトォ!!!!」

 


ボワッッッッ!!!

 


身体中にマヂカラが宿る…!体の細部まで、魔法使いだった時の記憶が迸る…!!

 


幸二「青のエレメント…!!ハート・THE・トリガー!!!」

 


バシューーーーーン!!!!

 


ナイト「ふっ。”守護”」

 


カキーーーーーン!

 


幸二「ちっ…お前も魔法が使えるってのか」

ナイト「嫌だなー僕は魔法初めましてだよ。お手柔らかに…」

 


ゴゴゴゴゴ…!

 


ナイト「お願いしますね?”黒”のエレメント…!!星滅裂斬!!!!」

 


禍々しい刃が俺へ向かって飛び交う!!!

 


幸二「ぐっ…!!”走”!!」

 


ナイト「逃れられますか?”黒”のエレメント…!!爆宙黒炎!!!」

幸二「うわぁぁぁぁ!!!」

ナイト「黒き炎で焼き尽くせ…!ふっはっはっはっは!!!!」

幸二「ちっ…!操天!!豪雨!!!」

ナイト「成程、無重力空間で雨を降らせるなんて、やりますね」

幸二「驚くのはまだ早いぜ…!操天!!快晴!!!」

 


ゴゴゴゴゴゴゴ…!!!!

 


なんと、太陽が現れ、ナイトにフレアを浴びせる…!!

 


ナイト「ぐわぁぁぁぁ!!」

 


────

 


一善らは空を見上げる。

 


一善「…!」

榊「頼むぞ…魔法使い…!」

 


葉月「負けないで…コージ君…!」

 


────

 


ナイト「はぁ…はぁ…何でもアリなんですね…」

幸二「ここに居られる時点で、何でもアリだろ」

ナイト「まぁいい…なら次で終わりにします。君を星屑にして、ゆっくりと世界の終わりを眺めることとします」

幸二「やれるもんならやってみるがいいさ」

 


ナイト「”黒”のエレメント…!!無限混沌…!!!!!」

 


ポポポポポポポ…!!!

 


ナイトはエレメントを溜め込む…!!

 


ナイト「どんな光をも飲み込む漆黒の闇…!この宙の塵と化すのです…!!!」

 


幸二「なってたまるかよ…!蒼き青のエレメント…!!蒼星魂撃…!!!」

 

 

 

ナイト「ぬぉぉぉぉぉ!!!!!」

 

 

 

幸二「はぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

 

一善「幸二!!!」

榊「天堂幸二!!」

 


葉月「コージ君!!!勝って!!!!!」

 

 

 

幸二「絶対に負けねぇ…!俺は…!俺達は…!!!魔法使いだぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

ドッカーーーーーーーーーーン!!!!!!

 

 

 

 

 

 

────

 


────

 

 

 

幸二「はっ!」

 


俺は飛び起きた。

 


そこは、病院の一室だった!

 


三太郎「…!こ、幸二!」

はるか「うぉぇぇ!!幸二!!!」

南波「幸二君が!!起きた!!!」

 

 

 

ガラガラガラガラ…!!!

 

 

 

ジャ「こっちも一善起きたぞ!!!」

小町「葉月も起きた!!!!」

 


幸二「ん?お前らなんでここに?」

 


俺は、なんでここにいる?

 


三太郎「は?お前が急に意識無くなっちまったから、びっくりしてたんだぞ!!一善も!!」

幸二「意識?」

はるか「ところで幸二、体は大丈夫なのか?そんなに飛び起きて」

幸二「あ、はるる」

はるか「はるる?」

幸二「あ、いや、な、なんでもない」

南波「何言ってるんだろうね」

 


本当だ、俺は何を言ってるんだろうか。

 


そこへ五百旗頭さん達がやってくる。

 


五百旗頭「目覚めたのね、どう?調子は」

安西「よかったぁぁ3人とも無事で!!頭痛くない?吐き気ない?大丈夫?」

幸二「あれ、五百旗頭さん達こそ、ロスト・フロンティアにいたんじゃ」

五百旗頭「え、それは随分前の話じゃないかしら」

幸二「…そうですよね」

犬飼「おいドーベルマン。過去を掘り返すな。失礼な」

幸二「あ、いぬきゃい」

犬飼「いぬきゃい?!なんかそれいいな気に入った!」

幸二「いやダサすぎだろ」

 


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《第2支部

 


三太郎「マジでビビったわ。2人とも突然倒れるんだもんなぁ」

ジャ「俺も流石に、何かあったんじゃないかって…」

一善「…すみません」

幸二「一善、倒れてる間…なんか変な夢、見てないか?」

一善「変な夢…?」

幸二「…そうだよな、悪い、聞かなかったことにしてくれ」

一善「…?」

 


南波「そうだ麗美ちゃん、友達がキスプリのチケット余っちゃったって言ってたらしいんだけど、要らない…よね」

麗美「誰も居ないなら、任務じゃなかったら買おうか?」

幸二「キスプリって確か、莉茉さん好きじゃなかったでしたっけ」

莉茉「え…私そんなにアイドル興味ないかな…」

幸二「そうでしたか、勘違いでした、すみません」

莉茉「?」

はるか「なんか幸二、変だぞ?」

麗美「倒れた時頭でも打った?」

幸二「そ、そんなはずは…」

 


三太郎「はぁ…ひえりちゃんとデートしたいひえりちゃんとデートしたいひえりちゃんとデートしたい」

一善「そういえば明日千巣さんの家行くけど行く?」

三太郎「え、いいの?」

一善「あ、でも、ひえりちゃんから出禁食らってたっけ、三太郎」

三太郎「え、は?そうなの?それ本人に言っちゃう?」

一善「あははごめんごめん」

 


一善は頭をかく。

 


ヒメ「あれ、そんなミサンガしてたっけ」

一善「…?あれ、これ、なんだろう」

 


麗美「お!ぎこちない双子の登場だ!」

南波「でも前よりは兄妹っぽくなったよね!」

莉茉「2人とも可愛い」

 


一善「ちょ、皆、からかわないでくださいよ!」

ヒメ「これでも頑張って名前で呼んでるんですからね!」

はるか「あっはっは。ウケるウケるー」

 


ヒメ「ま、でもいいんじゃない?可愛いミサンガだし、つけておけば?」

一善「…うん。そうだね」

 


ジャ「よ!英雄カップル!」

ヒメ「か、カップルじゃなくて兄妹です!んもう!」

 


笑顔溢れる空間。これもまた、一つの平和、なのだろう。

 

 

 

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《光の巨人の世界》

 


榊「私は何をしているんだ…ゼクシーザとの戦いは今日も激しさを増しているというのに…!だが私は!人々の小さな平和の為に今日も戦う…!!」

 


ギュリュァァァ!!!

 


遠くに巨大怪獣が現れる!

 


榊「来たなゼクシーザ…!お前の好きにはさせない…!!

 


そんな時、幾多の”存在しなかった筈の関わりの記憶”が、榊の脳を駆け巡る…!

 


榊「私は…色々な人に応援されているのかもしれない…だが誰にも知られてなくても構わない…皆が笑えているなら…それでいい!変身!!!!!」

 

 

 

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《第1支部

 


俺は廊下で虎走葉月とすれ違う。

 


葉月「…あ、ども」

幸二「…お、おう」

 


会釈をして通り過ぎようとしたが、どうにも俺の体が許してくれなかった。

 


俺は振り返った。

 


幸二・葉月「「あのさ!!」」

 


幸二「!」

葉月「!」

 


葉月「なんですか?」

幸二「そ、そっちから言えよ」

葉月「あれあれ〜妙に馴れ馴れしいですねぇ、そんなキャラでしたっけ」

幸二「君の方こそ?少し他人行儀が過ぎるんじゃないか?」

葉月「ふふっ」

幸二「…ま、いい」

葉月「あっそ」

 


幸二「じゃあな、葉月」

 


咄嗟にその名前が出てしまった。

 


振り返らず俺は、その場を去った。

 

 

 

 


葉月「…夢の中だけにしとけし」