SOREMA 其魔外伝 久品和義英雄譚・前編
其魔外伝 久品和義英雄譚・前編
《第2支部》
ロスト・フロンティアでの激闘から少し経ったある日。
一善「例えば、生きたまま、人間から魔導書だけ取り出すことって出来ないんですか?」
ジャ「ある。”魔導放棄”。これは、履術者本人の意思で、魔導書の能力、マヂカラ、そして本人の”全ての記憶”を引き換えに、魔導書を復元することが出来るものだ」
一善「なるほど。実際に魔導放棄した人っているんですか?」
ジャ「昔居た。ま、俺が魔法使いになる前だけどね」
一善「魔裁組の人ですか?」
ジャ「あぁ」
一善「どんな人だったんですかね」
ジャ「それは、かの英雄、”久品和義”の”妻”となった人物だ」
一善「英雄...久品...」
ジャ「どうした?」
一善「いえ、なんでもないです(久品…ヒメちゃんと同じ苗字だ…なんか関係があるのかな…)」
ジャ「?」
一善「そういえば、前にジャスティンさん言ってましたよね?”青木葉事件”?でしたっけ」
ジャ「あ、あぁ」
一善「その話、興味あります。どんな事件だったんですか?教えてくれませんか?」
ジャ「グッドクエスチョン!歴史を知ることは己の成長に繋がる!いいだろう。俺が知っていることを全て話そう!!」
一善「お、お願いします...」
ジャスティンは一呼吸置いてから、話を始める。
ジャ「今から20年くらい前の話さ...とある2人の魔法使いがいた。名前を、久品和義(くしなかずよし)、日暮真理(ひぐらしまり)────」
────
これは、伝説の魔法使い、久品和義と日暮真理の物語である。
20年前────
《東京某所》
魔者「グゥエェェェ!!」
和義「大業魔具 滅魔の剣(つるぎ) ”海舟”!くらえ!久品流!!!冴斬火(さざんか)!!!」
和義は日本刀のような魔具を魔者に振りかざす!
ジャキーーーーーーーン!!!
真理「トドメよ!!観念しなさい!!!」
真理はピストル型の魔具から弾を発射した。
バキューーーーーーーーーン!!!!
魔者「グゥェァァァァァァァァア!!!!」ドッカーーーーン!!
魔者は、消えていった。
和義「ハァ…ナイス!真理!」
真理「ナイス!和義!」
2人は、腕タッチした。
和義「真理は凄いな!真理と'あ'い'つがいないとキツかった」
真理「私だって、一人じゃ無理だわ。皆で掴んだ勝利ね」
和義は微笑んだ。
和義「最近、魔導書の魔者でなくてもとても強力だ」
真理「そうね。多分奴らの影響で、街のマヂカラが増大してるんだわ」
和義「”ギンガ”だな」
真理「えぇ」
異能魔導師集団 ”ギンガ”。悪の大魔導師、”青木葉閻魔”を名乗る人物を中心に暗躍する闇の組織。彼らは非人道的な事件を繰り返し引き起こしていた。
《ギンガのアジト》
閻魔「………!」ドン!
青木葉閻魔は、玉座に肩肘をついて、集まった幹部の前に座っていた。
閻魔「最近、厄介な魔法使いが街で動いていると聞いているが…その後調査の進捗はどうだ」
幹部達「……」
閻魔「何も言えんのか。何のためのお前たちだ」
バン!
閻魔は、玉座を叩いた。
幹部達「!!」ビクッ!
???「閻魔様。一つ宜しいでしょうか」
閻魔「何だ?爾茶(にちゃ)」
爾茶「その魔法使いとやらの情報を掴みました」
閻魔「ほほう。言ってみろ」
────
閻魔「成程。久品和義、そして日暮真理か」
爾茶「…」
閻魔「ならば、この二人はお前に任せる。爾茶。始末してその2人の首をここへ持ってこい」
爾茶「…はっ!」
閻魔「(長髪の男と、目の下に結晶のような痣を持つ女…覚えたぞ)」
すると閻魔は一呼吸おいて部下たちに語りかける。
閻魔「お前達。我々ギンガの目的は何だ」
幹部達「「「魔導の力と人間の共存!」」」
閻魔「その為に必要なことは何だ」
幹部達「「「魔導書の回収と、魔裁組(悪の魔法使い)の殲滅!」」」
閻魔「くくくっ。久品和義…日暮真理…旧世界の亡霊は全て排除する…そして、魔法と共にある新世界を我々の手で構築するのだ!!」
《埼玉 / 川越》
魔裁組のレーダーがマヂカラ反応を川越にて確認。和義と真理は、川越へ任務に向かう。目標地にて、両名はギンガの幹部”爾茶”を名乗る魔導師と戦闘になる。
和義「…!(こいつ、強い…!)」
真理「…!(あの能力、厄介ね!)」
爾茶「二十四章…陰影ノ一…!影縛り!」
爾茶は、和義の影に自らの伸ばした影を結びつけて、和義の動きを封じた。
和義「くっ…!」
真理「これなら!!」バキュン!
真理は、ピストルを放った。
爾茶「陰影ノ二、投影!」
爾茶は、ピストルの影の起動をずらし、真理の放った弾の弾道をずらした、
真理「!!」
爾茶「ふっ。ピストルの弾一つ如き、影を乗っ取るには容易い」
真理「!!!」
和義「どうする!」
真理「影が何よ!!これでどう!!」バァン!
真理は、爾茶から離れた方向に弾を発射した。
和義「?!」
爾茶「はっはっは!どこを狙ってる!」
真理「今だ!弾けろ!」
バァン!
ピッカーーーーーーーーーー!!!!!
真理の放った弾は、強力な照明弾。空中で激しく光を放って辺りを照らす。
爾茶「!!眩しい!!!」
真理「今よ!!」
和義「(そうか!!強烈な光を発生させることで、影の角度を変えた!これなら影の縛りが解ける!)」
爾茶「くっ!!!」
和義「うぉーーーー!!!」
和義は、刀を握り、爾茶へ迫る!!
爾茶「照明弾がどうした!影が伸びたところで繋がってはいる!!おりゃ!!」
爾茶は、長くなった和義の影を影で引っ張り和義の体制を崩す!
和義「くっ!!(だが全く動けない訳では無い!今なら!!)」
真理「!!!」
和義「”操蟲ノ一”!”三剣黄金蟲”!!行け!”ギラファ”!!!」
ギラファ「ウォーーーーーーー!!」
和義は、”黄金色で三本の角を持ったカブトムシのような巨大な魔獣”ギラファを召喚!
和義「ギラファ!!!!」
ギラファ「ウォーーーーーーー!!!」
ギラファは、爾茶の体を強く掴み、空中に飛んだ!!
爾茶「くっ!!!影が切れる!!」
ブチィッ!!
和義「真理!サポート頼む!」
真理「うん!」
ギラファは、爾茶を掴んだまま、急降下する!
そして、和義は、剣を構える!
真理「(ギラファが落ちてくるスピードと、弾丸の飛ぶ速度を計算すると…!)」
真理は銃を構える…!
真理「今だ!!魔飛スタンガン!!!」バキューーーン!!
真理は、体を痺れさせる弾丸を放つ!
真理の放った弾丸は、落下する爾茶の右腕にクリティカルヒットした。
爾茶「くそっ!身動きが取れない!」ビリビリィ!
ギラファ「ウォーーーーーーー!!」
そして、和義は、ギラファの落下予測地点に立った。
和義「大業魔具 滅魔の剣 海舟…久品流…!!」
爾茶「!!!!!」
そして、和義は、上へ向かって、刀を180度振り抜いた!!
和義「緋扇(ひおうぎ)!!!!!!」
ズ バ ン ッッッッッ!!!!!
爾茶「ぐはっ!!!!」バシューーーーーン!!
和義が爾茶を斬った瞬間、ギラファは光の粒となって消えた。
爾茶、死亡。
爾茶の屍は、地面に横たわる。
真理「…やった、わね」
和義「魔導師とは言え、やはり人間を斬るのは、あまり気持ちのいいものでは無いな」
真理「そうね」
和義「そうだ。魔導書の場所を調べないと。真理、出来るか?」
真理「うん」
────
《魔裁組第1支部》
和義らは、爾茶の遺留品を持ち帰った。遺体は研究班が回収した。
真理は、爾茶の遺留品に宿った記憶から、魔導書の顕在する場所を特定する。
真理は、蒼魔導書第四十七章 追憶の書の履術者である。
真理は、遺留品に触れて、目を瞑る。
鬼屋敷「わかった?真理ちゃん」
真理「いくつか強く結びついている場所はありますね。でも、一つには絞れないです」
鬼屋敷「ほんっと、魔導師ってそこが厄介よね〜。魔者ならすぐに魔導書が手に入るのに」
真理「ですね」
和義「無理するなよ?かなりマヂカラを消費しているように見えるが」
真理「もう少し見てみる。まだ大丈夫よ」
和義「…」
真理「後、こいつがギンガの一員というのは本当みたい…彼らの拠点となる場所の記憶もあるわ」
和義「本当か!場所は分かるか?!」
真理「もう少し…見れば…わか…」バタッ!
真理は、マヂカラを多く消費し、その場に倒れ込んだ!
和義「真理!」
鬼屋敷「大丈夫?!」
真理「大丈夫よ…少し休めば、問題ないわ…」
真理の膝には、戦闘によって大きな痣が出来ていた。
和義「…そうか」
真理は病室で休養をとった。
鬼屋敷「和ちゃん〜最近はどうなのよ〜真理ちゃんとは!」
和義「ど、どうって?」
鬼屋敷「とぼけんじゃないわよ!もう”5年も付き合ってる”んだから、そろそろ結婚とか考えてるんじゃないの?」
和義「いや、まだ早いっすよ!まだ俺たち21っすよ?」
鬼屋敷「いいじゃないの〜お似合いなんだし、お互い他の相手との恋愛なんて、もう考えてないんじゃないの〜?」
和義「俺はまぁ。結婚したいなとは思ってますけど、真理はどうかな」
鬼屋敷「聞いてあげようか〜?」
和義「大丈夫です!!」
《大阪 / 海遊館》
数日後──
この日、和義と真理は、久々の旅行へやってきた。
真理「久々に来た海遊館!出来たくらいの時に来て、それ以来かも!」
和義「そうなのか!俺は初めてだ!」
二人は、華麗に泳ぐ海の生き物たちをゆっくり見て進んだ。
真理「大阪(こっち)はいいよねぇ。魔者も出ないし、平和だし」
和義「そうだな」
真理「うわー!ねえ見て!ジンベエザメ!おっきい!!」
和義「だな!」
真理「この水族館も、今年で10年経つんだって!私達の2倍ね!」
和義「うん」
真理「5年後、この水族館は15年目だね」
和義「そうだなあ」
真理「”私達”は…10年目、迎えられるかな…?」
和義「…!!」
真理「…」
和義「…」
真理は、和義の目を潤んだ目で見つめた。
和義は、震える手を握りしめ、跳ね上がりそうな心臓の鼓動を抑えて答えた。
和義「迎えられるさ」
真理「?」
和義「いや、迎えよう。一緒にいよう」
真理「…!」
和義「15年目も、20年目も、何年だって、ずっと一緒に迎えよう。時間の流れに負けないように、死ぬまで一緒にいよう。俺が君を守る、幸せにする!」
真理「…!!!」
和義「だから…」
真理「…?」
和義「俺と結婚してくれませんか」
真理「!!!」
和義「…!」
真理の頬に一筋の涙が輝く。
真理「喜んで…!」
二人は婚約した。
────
そしてその後も、二人は魔裁組としての任務をこなす日々を過ごす。二人の指にはお揃いのリングが嵌められていた。
《東京タワー》
和義「なぁ。真理」
真理「何?」
和義「結婚したらさ、魔法使い、やめてもいいんだぞ?」
真理「え、急になんで?」
和義「俺は、この街に住むたくさんの人の命を背負ってる。魔法を無くす戦いに身を投じることは怖くない。俺の生きがいだ。でも」
真理「?」
和義「一番守りたいのは、誰よりも……真理、君なんだ」
真理「…!」
和義「俺が真理を守るからさ、真理は魔法使いなんてやめて、平和に暮らして欲しいんだ」
真理「…」
和義「真理はたくさんの人を救った。でも俺にとってはさ、真理がいなくなったら、なんの意味もない。一番大事なんだ、君が」
真理「和義…」
和義は、真理の体に日に日に増えていく傷を見る度に心が傷んだ。和義にとって、真理は自分の命よりも大事な存在だったのだ。和義は、魔法の戦いの中では誰もが命を落とす可能性があるという非情な現実を、身をもって知っていた。いつ誰が死んでもおかしくはない。明日は我が身。そんな環境から、真理を遠ざけたかったのだった。
真理「...大丈夫よ!」
和義「...!」
真理「私が戦ってる時、いつも和義が守ってくれるじゃない。和義は強いもの」
和義「…」
真理「これからも、私の事守ってくれるよね…?」
和義「もちろんだ…!」
────
《魔法協会病院》
和義と真理は、魔法協会直営の病院に、羽田(はねだ)という医者を訪れていた。
羽田「なるほどね、二人の間に子供がねぇ」
真理「そうなんです。この間見てみたら…」
和義「そういう感じで…」
羽田「ほほぅ…」
和義「羽田さん的に、どう思いますか?」
羽田「そうね…私も長い間魔法使いの子の出産に立ち会ってきたけど…正直に言うと」
和義「…」
真理「…」
羽田「履術者同士の子供には死産が多いわ」
和義「!!」
真理「そ、そんな…!」
羽田「お互いのマヂカラが強すぎてね。産まれてくる子供にかなり強力なマヂカラの影響が出るのよ。そして耐えきれなくなった子供は死んでしまうことが多い…生きていても、何かしらの障害を抱えたりで、問題なく産まれてくる可能性はかなり低いのよ」
和義「…は、はぁ」
真理「羽田さん。私はこの子を無事に産みたいんです!何か手はありませんか!」
和義「俺からも!お願いします!」
羽田「私がどうこう出来る問題じゃないわよ。まぁでも、強いて言うならそうね…魔導放棄…とか?」
和義「!!でもそれでは!」
羽田「そうね。放棄した方は魔法使いとしては活動できなくなる。記憶もなくなるわね。でも、それくらいしか、私が安心だって言える方法はないもの」
真理「そんな…!」
和義「他に、何か方法は?!」
羽田「私だって出来たら無事に産ませてあげたいけど…今の技術じゃ、何もできないわよ。残念だけれど…」
その日は、ひとまず帰宅した。
────
そして後日、二人は”とある海辺の森”へデートへやってくる。
《とある海辺の森》
真理「女の子なら冬美がいいなぁ」
和義「冬美?どうして?」
真理「私、冬が一番好きな季節なの。クリスマスとか!なんかワクワクしない?他にもいっぱいイベントあるし!美しい季節だもの」
和義「ほう」
真理「私女の子の名前で一番冬美が好きだなぁ」
和義「まぁ…いいけど、なんか演歌歌手みたいだな」
真理「別にいいじゃん!それか姫ちゃん」
和義「ひめ?」
真理「うん。これは二番目に好きな女の子の名前」
和義「ふーん。男なら俺が決めていいか?」
真理「いい名前ならね」
和義「俺の息子に相応しい名前にしないとな!」
真理「ふふっ。そうね」
二人は笑いあった。
真理「もしも魔者がいない世界になったら、貴方と、この子と、こういう所で平和に暮らしたい」
和義「澄んだ森に綺麗な海。魔者が襲ってくる心配もないな!」
真理「だから、魔者なんていなくなった後のことを言ってるんだよ〜!」
和義「あはは。そうか!」
真理「だから、私”達”の力で、早く魔法を無くさないとね」
和義「…そう、だな」
────
───
──
そして、数週間後。二人の子供は双子であるということが発覚する。
そして、男女の双子であるということも…
《魔法協会病院》
和義と真理は、羽田の元を訪れた。
羽田「男の子と女の子だね。さて、どうするか決めたかい?」
和義「…」
真理「はい。二人で決めました…私」
羽田「?」
真理「魔導放棄…します!」
羽田「ほう」
真理「和義と話し合って決めました。記憶はなくなっても、また和義が思い出させてくれる」
羽田「なるほどね。真理ちゃんのマヂカラはなくなる、それはつまり、魔法使いではなくなるってことだけど」
和義「…」
真理「魔法使いはやめません!」
羽田「?」
真理「正確には、また魔法使いを始めます!マヂカラが無くても、魔具を使った戦闘は出来ますし、一度乗りかかった船なんで、最後までやり遂げたいんです!体は簡単に忘れないと思うので」
羽田「そう簡単に行けばいいがね」
真理「和義がサポートしてくれます!それに、記憶を無くす前にビデオメッセージを取っておこうと思うんです。私が混乱しないために。そうだよね?和義!」
和義「あ、あぁ」
羽田「…?」
真理「だから私、魔導放棄して、この子達を産みます!」
そして、真理と和義は、羽田の元を後にした。
真理「じゃ、帰ろっか」
和義「あ、そういえば、この間受けた腕の傷のことで、羽田さんに話があるから、先に帰っててくれないか?」
真理「?私も聞くよ?心配だし」
和義「いや、長くなりそうだし、真理は休んだ方がいいだろう。タクシーまで送るから、な!」
真理「う、うん」
和義は、真理をタクシーまで送り届け、羽田の元へ戻った。
────
ガラガラガラ…
一人の男が、羽田の診療室の戸を開く。
羽田「…やっぱりねぇ。戻ってくると思ったわよ」
和義「羽田さん。話があって…」
羽田「何となく予想はできるわよ。善能寺さんも呼ぶかい?」
和義「いえ、善能寺さんには話しました。羽田さんにも協力して欲しいんです」
羽田「うむ。要件を言ってご覧なさい?」
────
───
──
そして、月日は経ち、和義と真理が23の歳のある日。真理は出産予定日を迎えた。
ベッドに横たわる真理の横で、和義は手を握っている。周りには羽田、善能寺、鬼屋敷を始め、魔裁組の仲間たちが駆けつけた。
真理「…和義…」
和義「どうした…?」
真理「私、全部…忘れちゃうの。和義との、楽しかった思い出も、魔法使いとしての、日々も…」
和義「…あぁ」
善能寺「…」
鬼屋敷「…」
羽田「…」
真理「だから…思い出させてね。また和義と…いっぱい笑いたい…!」
和義「…あぁ…!」
和義の目からは大粒の涙がこぼれ落ちる。
真理「…ふふっ…何で…和義が泣くの…?」
和義「…何でだろうな…」
和義は、涙を流しながら、笑った顔を作った。
鬼屋敷「…!」
鬼屋敷は、口元に手を抑えて外へ出た。
その場にいた他の皆は、目に力を入れながら、黙ってその様子を見守っていた。
真理「私…死なないからね…」
和義「そんな心配はしてないさ」
真理「…そうよね」
和義「真理…俺は…真理を絶対に守る…!真理の望む…魔法のない世界に、君を連れていく…!絶対だ!」
真理「ふふっ…!ありがとう…」
和義「あぁ…!」
真理「私を…一人にしないでね…!」
和義「…」
真理「和義…!」
和義「あぁ…約束だ…!」ポロポロッ
真理「絶対…だよ…!」
和義「絶対だ…!」
真理は手術室へ運ばれた。
真理は、双子の赤ちゃんを元気な姿で産んだ。
和義は、その姿を見て大泣きして喜んだ。
そして、真理はしばらく目を覚まさなかった。
────
数週間後────
《魔法協会病院一室》
少し経ち、真理は目を覚ました。記憶を失った状態で。
和義は真理が目覚めた事を電話で聞いて、病院に駆けつけた。
そして、泣いていた。
部屋の外で。
《魔法協会病院一室》
真理「私は…?」
羽田「目を覚ましたのね。おめでとう」
真理「……」
羽田「自分のこと、わかる?」
真理「…何も分かりません」
羽田「あなたの名前は、”油木冬美”。この子が貴方の子供。男の子よ」
真理「油木…冬美…」
羽田「あなたは、子供を産んだのよ。立派にね。そう、この男の子を、”一人”。名前は”一善”」
真理「一善?」
羽田「”あなたが愛した男”が付けた名前よ」
真理「……?」
和義「!!!」
和義は、会話を部屋の外で聞いていたが、羽田の一言に驚いた。
羽田「(ごめんなさい。だって、あんなに幸せそうだった二人の愛を、私には”嘘”になんてできない…)」
────
真理が羽田に、魔導放棄の意思を伝えたあの日、引き換えした和義は、羽田にこう告げていた。
”一善の名付け親は、真理本人ってことにしておいてくれ。俺の存在は無かったことにして、父について聞かれたら、「ろくでなしだった」とでも伝えておいてくれ────”
────
羽田「…!」
真理「どうして…泣いてるんですか?」
羽田「…う、嬉しいのよ。無事でいてくれて…」
和義は、背中をついて、廊下で泣き喚いた。
和義「…!ごめんな…真理。君には自由に生きて欲しいんだ…!もう、”久品”真理は死んだんだ…!君が一番好きな名前で、誰よりも幸せになって欲しい…今は、君と一緒にはいられない…!」
────
───
──
羽田 ”一善ねぇ。どうして、この名前なんだい??”
和義 ”真理が俺のことを忘れても、”俺”が側にいてやれるように、なんて”
羽田は少し考えた。
羽田 ”あー。成程ねぇ────”
そして、和義は娘にヒメと名付け、和義自身が引き取った。和義は、真理が魔導放棄した魔導書を、善能寺に渡す。いつか相応しい人間に渡して欲しい、と。
────
《和義の家》
悠里「え?!この子を私が?」
和義「頼めないだろうか…!」
久品悠里、19歳。和義の従兄弟にあたる人物だ。和義は、ヒメを悠里に預けて、魔者狩りに専念しようと考えていた。
悠里「ちょ、ちょっと待ってよ!なんで私が?他にも親戚沢山いるじゃん!」
和義「悠里は一人暮らしがしたいと聞いてな。リゾートは嫌いか?」
悠里「何言ってんの?そりゃ最近家族とそんな上手くいってないし、実家出たいなとは思うし、リゾートで一人で暮らすのは夢だったけど、それが何?」
和義「この子を預かってくれることを条件に、一人暮らししないか?もちろん、リゾート地の物件は用意してある!」
悠里「いや、和義の娘でしょ?子供は嫌いじゃないけど、和義が育てなよー!育児放棄ですか?」
和義「いや違うんだ。本当は一緒にいたいが、この子を魔法と関わらせたくないんだ…!」
悠里「…!」
和義は、拳を握りしめた。
悠里「ちょっと、話が急で理解できない!」
和義「この子の世話は、魔法協会のベビーシッターも手伝ってくれる。だからどうだ?」
悠里「…」
和義「頼む!」
悠里「少し…考えさせて」
────
結局、悠里はヒメを預かって、サーフハウスで暮らすことになった。それから和義は、時折魔裁組に顔を出しながらも、3年もの間、単独で魔導書集めに励んだ。
この頃、和義は、異能魔導師集団”ギンガ”に目をつけられていた。ギンガの幹部は、爾茶含め6人居たが、全て和義が倒した。
そして、3年後、ギンガは青木葉閻魔ただ1人となり、崩壊を迎えようとしていた。
そんなある日のこと…
《魔法協会本部》
協会員「善能寺さん!!」
善能寺「何事かしら。そんなに声を荒らげて」
協会員「浅草で!原因不明の不審死が数百件も報告されています!」
善能寺「数百件…?!なんですって?いつ?」
協会員「今!まさにです!」
善能寺「!!!」
《浅草》
ビュゥゥゥゥゥ!!!!
グシャァァァァァ!!!
ビュゥゥゥゥゥ!!!
グシャァァァァァ!!!
浅草では、”一人の男”が、長い鞭の様な魔具を振り回して、人々を襲っていた。
通行人A「ぎゃぁぁぁ!!!なんだこいつ!!!ぐわぁ!!」ブシャアーー!!
通行人B「たすけてぇ!!ぎゃあ!!」ブシャアーー!!
通行人C「け、警察を呼んでくれ!!あぁぁぁ!!!」ブシャアーー!!
何人もの警察官が現れ、その男の周囲を囲んだ。
警察官「おい!!大人しくしろ!!撃つぞ!!」
閻魔「くくくっ。撃てよ」ビュンビュン!!!
そう、その男こそ、ギンガの首魁、青木葉閻魔だった。
警察官「止まれ!!!」バァン!!!
ブシャアーー!!
一人の警察官の弾が閻魔の胸部を貫いた。
警察官「(…急所!即死だ!)」
閻魔「…くっ…くくくくっ!」
警察官「な?!?!」
閻魔「普通は死ぬよな。普通”は”!」ビュゥゥゥゥゥ!
グシャァァァァァ!!!!!!
閻魔の攻撃で、その場の警察官は一網打尽にされた。
閻魔「久品和義と、日暮真理はどこだ!」ドン!
後編に続く。