SOREMA -それ、魔!- 4
SOREMA -それ、魔!- 4
「強き者」
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第29話 「勝利の塩水」
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《砧公園》
魔者が消えた後、そこには青い魔導書が現れた。
三太郎「すっげー!!!初めて見たぜ!!!」
三太郎が触れようとする。
ジャ「ダメだ、これは宝庫に保管する。なるべく傷をつけないように」
三太郎「どうせ燃やすのに?」
ジャ「これは、俺のポリシーだ」
三太郎「ちぇ」
ジャスティンは、ズボンのポケットから、長いシールを取り出して、巻き付けるように貼った。
一善「これは?」
ジャ「マヂカラを封じ込める封印の札さ。これで長時間保管しておいても、マヂカラは外に漏れない」
一善「なるほど」
三太郎「くそぅ!その魔導書、俺にくれても良かったのになぁー」
ジャ「現在魔法協会の規定では、エレメントが完成した事をきっかけに、今後の魔導書の履術を一切禁じている」
三太郎「正義のためにだとしても?」
ジャ「そうだ。マヂカラはエレメントと違って、暴走したり、マヂカラを放出したり、色々危ないんだ」
一善「...」
ジャ「エレメントが出来たのはここ数年。それまでは魔者に対抗するべく、適応できる能力がある者にのみ履術を許していたが、エレメントの完成でその必要も無くなったのさ」
一善「ジャスティンさんも、エレメント使いですもんね」
ジャ「”これ”は、どうだろうな」
一善「?」
ジャ「とりあえず、俺はこれを第1支部に届けるから、周りのマヂカラ反応に注意して、お前らも家に帰れ」
三太郎「マヂカラ反応?」
ジャ「魔導書の魔者が出た場所には、磁場のように一定のマヂカラが残ったままになる。だから、弱い魔者が出たり、外からやってきた魔者が強大化するかもしれないから、気をつけろってこと」
一善「土地から出るマヂカラの反応ってことですね」
三太郎「確かに、エレメントが使えるようになったおかげで少しマヂカラの気配がわかるぞ!」
ジャ「後、これを」
ジャスティンは2人に、瓢箪のような水筒を渡した。
ジャ「塩水だ。戦闘が終わったら、この水を撒いて帰るんだ。この水筒は常に持ち歩くこと」
一善「ありがとうございます」
ジャ「んじゃーねー」
三太郎「ジャスさんおつかれー」
ジャスティンは、背中を向けたまま手を振って帰った。
三太郎「久しぶりに家に帰るぞ!」
一善「ここの所ほとんど修行してたもんね」
三太郎「てか一善、お前、1人で家帰るのか?」
一善「...どうしよう」
三太郎「特に用がないならさ、うち来ないか?!」
一善「...!」
ーーーーー
プルルル プルルル プルルル
ジャ「もしもし。魔導書第九章、溶岩の書。収拾しました」
???「お疲れジャスティン。その後調子は?」
ジャ「新人2人は着実に成長しております」
???「それはよかったわ。今度会いたいわねぇ。どんな子達なのかしら」
ジャ「1人は黄色の原色持ち、もう1人は、操蟲の書の履術者です」
???「...!(なるほど、もう現れたのね、”あの子”の再来が)」
ジャ「...?もしもし、善能寺様?」
全日本魔法協会会長 善能寺 柳子
善能寺「わかったわ。面白くなりそうね」ド ン!
ガチャッ
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第30話 「第1支部」
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《善能寺の部屋》
善能寺「車を手配なさい」
部下「はっ!」
善能寺「新しい魔導書が手に入ったらしいわ」
部下「”追憶調査”...でしょうか?」
善能寺「そう。行くわよ。”サーフハウス”へ」
ーーーーー
《三太郎の家》
三太郎「ただいまー!」
三太郎母「コラ!!!どこほっつき歩いてたの!!!」
三太郎「あーわりぃわりぃ母ちゃん」
三太郎母「まったくね!!!あんたが全然帰ってこないから!家族みんなでずっと心配してたのよ?!?!ほんっっっと!!どこで何やってたの!!!!!」
三太郎「まぁまぁ!あ、あのさ、こいつ!家にあげていいか?」
三太郎母「あらお友達?初めまして、三太郎の母ですごめんなさいねいきなり怒鳴り散らかしちゃって笑」
一善「油木一善です。お邪魔します(勢いがすげえな...さすが親子汗)」
三太郎「ま、とりあえずあがれよ!な!」
一善「あ、ありがとう」
三太郎母「一郎くんどうぞあがって〜?あ、チー牛買ってきたけど食べる〜?」
一善「あ、今は大丈夫です〜(一善!一郎じゃなくて一善!)」
そして、三太郎は自室に案内した。
三太郎「ここが俺の部屋ね!」
一善「うわぁ」
三太郎の部屋は、アメコミや特撮ヒーローのフィギュアやポスターで溢れていた。
三太郎「どうだ!カッコイイだろ!」
一善「多すぎん?」
三太郎「いいんだよ!かっけえから!」
一善「三太郎のヒーロー好きは異常だよ」
三太郎「知ってるか?ヒーローは異常者の集まりなんだ!普通の人間じゃ、人を守るために戦うのなんて怖くてしたくないだろ?」
一善「ほ、ほぅ」
三太郎「だから、俺は異常でよし!」
一善「...汗」
すると、三太郎は少し呼吸を置いてから話し出す。
三太郎「俺...魔法が使えるようになって、嬉しい半分、少しだけ怖いんだ。死ぬのも、誰かを守れなくて後悔するのも」
一善「...!」
三太郎「だから、こうやって、たくさんのヒーローに励ましてもらってる。俺もいつか、誰かの為のヒーローになりたいなって、思うから」
一善「...」
三太郎「一善、お前ホントすごいよな」
一善「急だな?」
三太郎「俺もさ、まずは一善を目指すよ」
一善「はぁ?笑」
三太郎「よし!今日は、ヒーローとしての佐藤三太郎の誕生日だ。これからもっともっと強くなって...」
一善「...」
三太郎「世界最強のスーパーヒーローに俺はなる!!!!!!」
一善「いや、声でけえよ。笑」
三太郎母「(あのこったら、相変わらずなんだから...笑)」
ーーーーー
《魔裁組第1支部》
ジャスティンは、第1支部を訪れていた。第1支部は、第2支部とはうってかわって、和装をベースにした、格式高い空間である。
ジャ「誰も...迎えはいないか」
ジャスティンは辺りを見回し、奥へ向かった。
そして、少し歩くと、黄金の扉がある。ジャスティンはそれをノックした。
ジャ「いるんだろ?!姐さん」
ゴゴゴゴゴゴ....
黄金の扉が開き、何重にも閉ざされた襖が連続で空く。
畳の道を歩き、ジャスティンは最後の扉を開ける。
ジャ「久しぶりだなぁ。姐さん」
ド ン !
”魔法界人間国宝 鬼屋敷 蝶絵”
鬼屋敷「あら!ジャスティンじゃない!久しぶりねぇ〜」
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第31話 「人間国宝・鬼屋敷蝶絵」
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《魔裁組第1支部/鬼屋敷の部屋》
鬼屋敷「元気そうで何よりよ」
ジャ「はは!姐さんも、相変わらずピンピンしやがって」
鬼屋敷「当たり前よ。私を誰だと思ってるのさ」
ジャ「魔者よりも魔物だな」
鬼屋敷「ハッハッハッハッ!笑わせてくれるね」
鬼屋敷 蝶絵。73歳。超高齢にして、現在生存する魔法使いの中で最強と呼ばれている人物。通常、マヂカラのピークは26歳と言われている中、常識を遥かに逸脱したその肉体は、まさしく人間国宝。
鬼屋敷「んで、今日は何しに来たんだい?魔導書を持って来たってだけじゃないんだろう?」
ジャ「そうだな。姐さんがぽっくり行く前に面を拝みに来たのと...」
鬼屋敷「ほほう?」
ジャ「”宣戦布告”」
鬼屋敷「はぁ?ハッハッハッハッ。そこらのガキが、よく言うよ」
ジャ「あんたが好ましく思ってないエレメントだが、また2人適合者が出た。これで、ウチの駒は8人だ」
鬼屋敷「それで?」
ジャ「3ヶ月後、あんたらを”黒い森”で叩き潰す」
鬼屋敷「ハッハッハッハッ。言うじゃない。でも”紅白”に参加できるのは7人までよね」
ジャ「別にいいさ、俺が出ないハンデ付でも、ウチは勝つよ」
鬼屋敷「...?」
ジャ「あんたらが胡座かいてるのが心配で来たんだよ。こっちの新人、姐さんが想像するよりもかなりやり手だぜ?張合いのない'や'り'合'いをするくらいなら、後3ヶ月の間、そっちも本腰を入れてもらわないと」
鬼屋敷「ハッハッハッハッ。ここに来たばかりの時とは人が変わったように饒舌になったねぇジャスティン!まぁいいさ」
ジャ「高笑いしてられるのも今のうちさ。彼らはいずれ、”あの6人”を超える逸材になる」
鬼屋敷「ハッハッ!”皆藤(かいとう)”や”白鶯(はくおう)”を超えるようなレベルがポンポン出てきたら、この世も末よ。あんたも誰一人越えられてないのに?」
ジャ「...」
鬼屋敷「3ヶ月後が楽しみだねぇ!」
ジャ「フッ。黒い森で、待ってるよ」
ジャスティンは、そう言うと、鬼屋敷のデスクに魔導書を置き、背を向けて帰った。
鬼屋敷「ハッハッ。調子のいいガキねぇ」
鬼屋敷は、ジャスティンが置いていった魔導書を持ち上げた。すると、下にラスクの入った箱が置いてあった!
鬼屋敷「ラスク!!!ジャスティン大好き♥」
ーーーーー
数日後──
《魔裁組第2支部/一善の部屋》
コン コン!
一善「?どうぞ」
ジャ「お邪魔しまーす!」
五百旗頭「ちーっす」
一善「ジャスティンさん。五百旗頭さん」
五百旗頭「体の調子はどう?エレメントも大分板についてきてるみたいだけど」
一善「まぁ、最初よりかは」
五百旗頭「鍛錬も続けるといいわ。ただし、無理は禁物よ」
一善「ありがとうございます」
ジャ「この間のお手柄、お偉いさんも褒めてたよー!」
一善「あ、どうも」
ジャ「それで一善に提案なんだけど...」
一善「?」
ジャ「課外授業、受けてみないかい?」
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第32話 「課外授業のご案内」
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《魔裁組第2支部/一善の部屋》
一善「課外授業?」
ジャ「そう。もうある程度の基礎は教えたから、今度は君の”能力”にフォーカスした特訓をしようと思ってね」
一善「能力?」
ジャ「そう。君は履術者だ。実は第2支部には、魔導書の能力と、エレメントの能力をどちらも持っている人間は君しかいない。だから、君だけの能力を伸ばすべく特訓をしたいんだけど、俺は履術者では無いからあまり教えられない」
一善「はぁ」
ジャ「そこでだ、履術者兼エレメント使いの人間が第1支部にいるから、その人に課外授業をお願いしないか?」
一善「なるほど。お願いします」
ジャ「よし、連絡しておく」
~数時間後~
ジャ「ごめん!連絡したら、その人今海外にいるんだった!!つい失念していた!!だから無理。ごめんね☆」
一善「あ、はい(把握しとけし)」
ジャ「ま、姐さんにすれば”敵”に塩を送るみたいなもんだし後でネチネチネチネチネチネチ言われるのも面倒だしな」
一善「(敵?)」
ジャ「だが大丈夫だ一善!まだアテはある!もう1人、外部の人間だが、同条件の男を知ってる!」
一善「お!」
ジャ「今度の”定期面会”、君もついておいで」
一善「定期面会?」
ーーーーー
数日後
《とある御屋敷》
ドーーーーーン!
一善が案内されたそこは、和風のどデカい御屋敷だった。”岩田”という標識が飾られている。
一善「この立派なお屋敷に、その人が?」
ジャ「そう」
ピンポーーーン!!
使いの者がやってきて、2人を中に案内した。ジャスティンは、使いの者達とも顔見知りの様子。
2人は渡り廊下を歩く。
一善「定期面会ってなんですか?」
ジャ「ま、お茶を飲んで話すだけだよ」
一善「は、はぁ」
2人は一つの部屋に案内され、使いの者が襖を開けると、茶色い甚平に身を包んだ若めの男性が、硬い表情で正座をして待っていた。
ド ン !
十二代目岩田家当主 岩田拓郎
拓郎「お久しぶりで御座います!神野ジャスティン護殿!」
ジャ「お久しぶりですー。岩田さん」
拓郎「そして、初めまして、見知らぬ少年!」
一善「あ、油木一善です。よろしくお願いします(変わった人だな...)」
ジャスティンは座りながら、口を開いた。
ジャ「さっそくですが、例のものを」
拓郎「卓上に御座います。ご精査ください」
ジャ「ありがとうございます」
ジャスティンは、目の前の低い机に置かれた紫色の布に包まれた物体を手に取り、中身を確認した。
一善「これは...?」
ジャ「うん」
一善「赤い...魔導書?」ド ン!
────
第33話 「赫魔導書」
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《岩田家/客間》
拓郎「こちらで、お間違いないでしょうか」
拓郎は赤い魔導書を指して言った。
ジャ「うん。本物ですね。ご協力感謝します」
拓郎「いいえ。我々市民の生活が守られているのも、魔裁組の皆様の尽力あってのもの。心から感謝申し上げます!」
一善「(真面目な人だな...表情変わらないし)」
ジャ「いえいえ」
一善「ジャスティンさん。この赤い魔導書は何ですか?」
ジャ「これは赫魔導書だ」
一善「赫魔導書?」
ジャ「君が初めて手にしたのも、この間手に入れた溶岩の書も、全て青い魔導書だが、この第六章 岩の書は赤い。この違いについて説明するね」
一善「お願いします」
ジャ「51冊の魔導書の中で、章数に”六”のつく魔導書、全5冊は、赫魔導書と呼ばれる。これらは、1度誰かに履術されても、消えない。ずっとそのまま残るんだ。そして、履術者に子孫が産まれると、その能力が代々引き継がれる。普通の魔導書とは違い、特別な能力なんだよ」
拓郎「そして、この赫魔導書の一番特殊な点は、燃えたり、濡れたりしない点」
ジャ「代々、この第六章は岩田家の皆さんに保管しておいて貰ってるの。全部の魔導書が揃うまでね。魔導書を一点に集めるより安心だろ?何かあった時の為に」
一善「なるほど、、」
ジャ「もちろん、所有してる人との信頼関係あっての事だけどね」
拓郎「私たちは古の刻から、この第六章を守り継いでいる”魔法使いの家系”であり、魔裁組及び魔法協会と協力関係にあります。このように定期的に魔導書の現存を確認して頂き、情報を共有するというのが、定期面会の意義にございます」
ジャ「そゆこと」
一善「ということは、拓郎さんが、第六章の履術者ってことですか?」
拓郎「左様に御座います。生まれつき、マヂカラをこの身に宿しております」
一善「そうなんですね。でも、一般のお宅に魔導書を置いておいて危なくないんですか?マヂカラ反応が出て魔者に襲われるんじゃ?」
ジャ「大丈夫だよ。この御屋敷の外壁は全て、特殊な岩塩からなっている。マヂカラは封殺され、魔者はこの辺りには出ないんだ」
一善「なるほど」
ジャ「拓郎さん。話はもう一つあるんです。いいかな?」
拓郎「如何なることでも」
ジャ「こいつに、戦いを教えて欲しいんです」
一善「...!」ド キ!
拓郎「この少年に、私が?」
ジャ「一善、過去に拓郎さんは、エレメント実験の治験者になってくれてね。エレメント使いでもあるんだ」
一善「エレメントと魔導書の両立してる人って..」
ジャ「そう。拓郎さんなんだ。だから拓郎さん、少しだけでいいから、この一善を預かって貰えないだろうか...報酬は出しますので、このとおり!」
拓郎「...あなた方の頼みなら、断るわけもあるまい...」
ジャ「...」
一善「...」
拓郎「微力ながら、お力添えしようぞ!少年!」
一善「...よろしくお願い致します!!!!」
────
第34話 「秘密の修行場」
────
《岩田家》
──その後、一善は、翌日から岩田家のお節介となり、居候することとなった。
拓郎「一善少年!」
一善「はい!」
拓郎「これを」
一善「???」
拓郎は、拓郎が来ているのと同じような、黄土色の道着を1着渡した。
一善「これは?」
拓郎「着るといい。気分が引き締まりますぞ」
一善「は、ありがとうございます」
拓郎「学びはまず形からッ!!!!!(バカデカ)」
一善「!!(びっくりしたァ)」
《岩田家/地下》
ギィ... ギィ...
木製の階段を降りる。
一善「トイレの横にこんな隠し扉があるなんて」
拓郎「この家中何処にでも御座います」
一善「どこに繋がっているのですか?」
拓郎「ズバリ!我が道場にて御座います!」
一善「ど、道場?」
拓郎「この扉の向こうに御座いますのが、我が道場でございます」
階段を降りきると、小さな扉があった。拓郎は、その扉を押し開けた。
バタンッ!!!
一善「!!これは!!」
そこには、室内グラウンドのような道場が広がっていた。
拓郎「ここを使って、一善少年の修行を致します」
一善「は、はい」
拓郎「そして、ここはただの修行場ではありませんぞ!」
一善「というと?」
拓郎が、思いっきり胸の前で手を叩く。すると灯りが消え、道場の真ん中に赤いスポットライトが当たる。
ドロンッ!!
突然音がなり、スポットライトの下から煙がたった。
一善「...?」
一善が目を凝らし、煙が薄くなると、そこには、1匹の魔者が、片膝をついて座っていた。
一善「魔者?!」
拓郎「修行の相手は、あの魔者であります」
一善「何故ここに?」
拓郎「説明は後にしましょう。まず私が、少しお手本をお見せします」
スゥゥゥ...
拓郎は深呼吸をし、腕に力を込めた。
魔者は立ち上がり、こちらへ向かって走ってきた。
魔者「ギィエエエエエ!!!!」ダッダッダッ!
拓郎「第六章の真髄...厚 岩 無 血(こうがんむけつ)!!」
────
第35話 「RTA」
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《岩田家/地下道場》
拓郎「厚 岩 無 血!!!!」
拓郎がそう唱えると、拓郎の体中の筋肉が膨張し、岩のようになった。
一善「これが、岩の書の力...」
拓郎「緑のエレメント...」
拓郎は手をクロスし、猛スピードで中央に突進!
拓郎「粉 骨 砕 進(ふんこつさいしん)ッ!!!」
拓郎は、魔者に猛タックルし、そのまま魔者を粉砕した。
一善「...なんて迫力だ!」
すると、魔者はプロジェクションマッピングのように消え、真ん中の元の位置にまた片膝をついて座った状態で現れた。
一善「???魔者は倒したはず...?」
拓郎「この魔者はレプリカなのです。これはこの道場の天井にいくつも拵えておりますライトから作られた、言わば3D映像なのです」
一善「す、すごぃ...(この家の外観や、ここの人達の風貌からは全く想像できないハイテクぶりだ、失礼だけど!)」
拓郎「一善少年には、ここで私が考案した修行をしていただきます。名付けて...」
一善「名付けて?」
拓郎「3Dクリーチャー降臨!高速周回RTA!!」
一善「急にメッチャ現代的ィ!!!」
拓郎「とはいえ、ここでただ闇雲に戦ってもそれはお粗末。最初のうちは私が、魔導の力と、エレメントを駆使した戦法のいろはを伝授致します」
一善「よろしくお願いします」
拓郎「まず、相手を見極めること。魔導書の力を持った魔者や、我々履術者同士の間には見えない相性があるのです。火は水に弱く。木は火に弱い。などであります」
一善「なるほど」
拓郎「分かりやすく言うと、一善少年は、ポケットモンスターをやった事はおありで?」
一善「はい。昔ちょっt」
拓郎「なるほど!君もポケモントレーナーだったのだな!剣盾は?剣盾ハモッテルカナ?ソード?シールド?ランクマニハモグッテオルカナ?ワタシハイマ5万位ダイニオルガナカナカムズカシイゾ?ドラパルトノ努力値配分ハドノヨウニシテオル?地面枠ハドノポケモンヲツカッテオル?初手ダイマカバルドンハカナリオススメデアルゾ!ソレカラ──」
一善「オタク特有の早口!(粗品)」
拓郎「ゴホン。すまない。話を戻すことといたしましょう。ポケットモンスターのように、魔導書のマヂカラにも相性がございます。一件分かりにくい組み合わせもありますが、どの能力にも有利不利はある。それは戦ってみないと分からない。一善少年の能力は何の書でおありで?」
一善「操蟲の書。虫です」
拓郎「なるほど!虫タイプナラダイジェットニ弱イガフェローチェガオス──(以下略)」
一善「もういいわァ!」
────
第36話 「初陣」
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《岩田家/地下道場》
拓郎「虫となると、召喚系の術でありますな?」
一善「はい」
拓郎「”疎通”は会得しておりますか?」
一善「疎通?」
拓郎「はい。召喚系の魔法使いは、私もそれほど見たことはありませぬが、極めるとその魔獣と意思の疎通が出来ると聞いたことが御座います」
一善「俺はまだ、出来てないと思います」
拓郎「疎通については、私も教えかねるが、長く共に戦うと自ずと分かってくるとも言っていた気が致します。これに関しては、実践あるのみ。でありますな」
一善「わかりました」
拓郎「そして、一番この修行で私が教えたいこと。それは、エレメントは、魔法を強化するために使えるということであります」
一善「なるほど」
拓郎「エレメントは、どんな相手にも比較的刺さりやすい。が、魔導書の能力は得手不得手が激しい。そこにエレメントの力を加えることによって、得意な相手にはより強く、苦手な相手にはそれを補うことが可能となるのです」
一善「ほう」
拓郎「さっきお見せしたのは、魔導の力によって強化した肉体を更にエレメントでコーティングしたもの。一善少年、君の色は何色でありましょう?」
一善「拓郎さんと同じ緑です」
拓郎「緑ならば、どんな術式にも応用が効くはず。では、縛りを付けよう。この修行、エレメントを使うのは良いが、一善少年が直接魔者に攻撃してはならない。全て召喚された魔獣の攻撃で、魔者を仕留める、としよう」
一善「なる、ほど(難しそうだな。つのキング戦ったことないし)」
拓郎「よし、では始めよう。準備は良いか?」
一善「はい!」
拓郎「喝ッ!!!!!」
一善「よろしくお願いします!」
一善は魔者と対峙する。
魔者「ギュリュアハヤアリア!!!」
一善「三十七章 操蟲ノ一 三剣黄金蟲!!!」
ドロンッ!!
つのキング「ウォーーー!!」
一善「行くぞ、つのキング、俺たちの初陣だ─────!」
ーーーーー
《魔裁組第2支部》
一方、支部では。
ジャ「幸二♪」
幸二「ジャスティンさん、どうしましたか?」
ジャ「幸二に頼みたいことがあるんだ」
幸二「...何でしょうか?」
ジャスティンは、飲んでいたお茶の氷を指でくるくると回しながら答えた。
ジャ「次の任務。一善と三太郎を引率して欲しいんだ」
幸二「...?!」
────
第37話 「巣立ち」
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《岩田家/地下道場》
一善は、夜通しつのキングと共に、バーチャルの魔者との取っ組み合いを行った。
一善「ハァ...ハァ...」
拓郎「この魔者達は、私が魔導書図鑑を参考に作ったもの。再現率はそれほどだが、相性レベルはコンピューターで設定可能であります。相手の見かけや能力に囚われすぎず、感覚で能力の優劣を測るのです」
一善「ハァ...はい...!」
拓郎「(召喚系は常にマヂカラを消耗する故、長くは続きづらい。だがこの少年は夜通し戦闘してもまだマヂカラが途切れない。まだ拙くはあるが、魔獣にもエレメントが作用し始めている。これは育てがいがありますぞ。ジャスティン殿)」
その後も、数時間にわたって特訓を続けた──
一善「うぉぉぉぉぉぉ!!!」
魔者「ルリュゥゥァァァゥァ!!!」
つのキング「ウォーーーーー!!」
拓郎「そこ迄!」
ピタッ
スーーーッ
魔者の像が消えていく。
拓郎「そろそろ一善少年の魔獣が壊れる。今日は止めに致します」
一善「ハァ...ありがとうございました...お疲れ様、つのキング」
つのキング「ウォーーーー!」
つのキングは汗を流しながら笑顔で消えた。
ーーーーー
《魔裁組第2支部》
幸二「次の任務にですか?」
ジャ「そう。とある住宅街に、強めのマヂカラ反応が出ている。今研究班が原因を探ってる」
幸二「はい。それで?」
ジャ「マヂカラ反応に動きもなく、死者の報告等も無い。つまり?」
幸二「…魔導書が発現した?」
ジャ「そう。それも恐らく強力な魔導書が発現した可能性が高いと俺は見てる。それを回収してきて♥」
幸二「新入り2人とですか?」
ジャ「うん。そう」
幸二「...もしアイツらを死なせたら、俺のせいですよね」
ジャ「ふふっ幸二、まだアイツらのことトーシロだと思ってるの?確かに、強さはまだ幸二には及ばないけど、もう彼らは、立派な魔法使いの顔をしてるよ──」
ーーーーー
《とある廃校》
三太郎「えぃ!!!えぃ!!!えぃ!!!」
三太郎は、サンドバッグに向かって拳を打っていた。
三太郎「飛ぶパンチ。絶対に完成させるんだ!」ドン!
ーーーーー
《岩田家/縁側》
一善は、毎日朝から道場に籠っては修行を繰り返した。そして、約一ヶ月間の修行の最後の日を迎え、一善は縁側に座り、拓郎と会話を交わした。
拓郎「一善少年。君はお辛くないのか?今どきこんなに修行をされる方、あまりおりません故」
一善「ずっーと同じことをするの、苦じゃないんです。昔からずっと読書ばっかりしてたし。出かけてもずっと昆虫採集。だから多分、割とコツコツ積み上げるの向いてるんですよね」
拓郎「良き心構え。継続は力なり。私の目から見ても、一善少年は着実に成長しておる」
一善「ありがとうございます。でも、魔法使いには向いていません」
拓郎「?」
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第38話 「強き者」
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《岩田家/縁側》
一善「俺、戦うのが好きじゃありません」
拓郎「...」
一善「魔者は、俺の親の仇だけど、恨みよりも恐怖が勝る。死んだらどうしようって。傷つくのも嫌です。だから、目の前に魔者がいても、力を振りかざすことに躊躇があります。多分、これはもっと俺が強くなっても同じで、傷つくのと同じくらい、傷つけるのも、なんか嫌なんです。だから、戦いには不向きな人間です」
拓郎「成程」
一善「どう...思いますか?」
拓郎「一善少年。君はもう立派な魔法使いであります」
一善「え?」
拓郎「一善少年。力を振りかざす、と申したが、本来力というのは振りかざしたり、誰かを傷つけるためのものでは無い。己の大事な何かを護る為の物なのであります。力を持った者は、その力を清く、正しく使わねばならない。故、力を持って恐れる事は恥ではない。一善少年は”人のための魔法使い”として模範となるお考えをお持ちだ。心からの敬意を表する」
一善「あ、ありがとうございます」
拓郎「君はこれからもっと立派な魔法使いになる。そう信じております」
一善「...!」
拓郎「私から教えられることはもうありませぬ。これからもここの道場は好きに使って構わなく存じます。どうかご自愛を」
一善「拓郎さん。本当にありがとうございました」
拓郎「MISSION CLEAR!!!」
一善「突然の英語!!!」
ーーーーー
《魔裁組第2支部》
数日後、一善は修行を終え、支部へ戻る。
一善「失礼しまーす」
ジャ「お!一善〜!!久しぶりー!!」
一善「お久しぶりです」
ジャ「どうだった?!修行」
一善「なんとか」
幸二「エレメントは使えるようになったのか?」
一善「まだまだです。これからもっと、使いこなせるようになりたくて」
幸二「俺と君はタメだ。タメ語でいい」
一善「え、あっそうなの?」
幸二「天堂幸二。改めて、よろしく」
一善「よ、よろしk、」
幸二「魔法使いを目指すならばっ!!その'力'の'使'い'方を間違えないようにな」
一善「う、うん...(拓郎さんにも同じようなこと言われた。やっぱり大事なことなんだろうな)」
そこへ、三太郎が、狭い魔法陣から現れる。
三太郎「うわっ!これ、入りにくいんだよなぁ」
一善「あ、三太郎」
三太郎「あ!一善!幸二!」
幸二「(こっちは妙に馴れ馴れしいな...)」
一善「元気してた?」
三太郎「おうよ!ずーっと廃校で特訓してやったぜ!てかジャスさん!見てくれよ俺の新技!もうすぐ完成なんだよ!!」
ジャ「おーそかそか!了解」
三太郎「興味なしかヨ!!」
ジャ「よし、君たち3人が久々に揃った所で、一つ、聞いてくれ」
一善「...?」
三太郎「なんだ?」
ジャ「君たち3人に、次の任務を与える」
幸二「...」
SOREMA -それ、魔!- 5に続く
第29話 「勝利の塩水」
第30話 「第1支部」
第31話 「人間国宝・鬼屋敷蝶絵」
第32話 「課外授業のご案内」
第33話 「赫魔導書」
第34話 「秘密の修行場」
第35話 「RTA」
第36話 「初陣」
第37話 「巣立ち」
第38話 「強き者」