草も生やせない、恋をした。①「空から射し込む陽の光」
第1話「空から射し込む陽の光」
《原宿駅前》
正午。天気は晴れ。原宿駅の駅舎は新しく新調され、目の前には新しいビルが建てられていた。
ハナ「ごめーーーーーん」
ソラ「遅い」
ハナ「いや、マジでごめん。違うのよ、家出たときに鍵閉めてなかったの忘れて、1回帰ったら、鍵しまっててさ」
ソラ「草」
ハナ「マジごめんなんか奢る!」
11時半の待ち合わせから大幅に遅れて登場した彼女は私の唯一無二の親友である。1年前まで同じサークルに属していたが、今では2人とも辞め、ハナはバイト三昧の生活を送っている。
ハナ「今日さ、ここ行きたいんだけど」
ソラ「なにこれ?ハンバーガー?」
ハナ「ツチツチバーガー知らん?」
ソラ「知らん」
ハナ「インスタに乗っててさ、結構人気らしいよ」
ソラ「へぇー」
ハナ「興味無いん?」
ソラ「いや、口開けるのだるくね」
ハナ「ヤバw」
ソラ「まぁ行ってみよ」
表参道を通り抜け、神宮前の交差点に着く。人の流れは四方八方に散っており、さすがに都会と言った感じだ。
ハナ「あ!この服可愛い!」
ソラ「え、やば」
ハナ「え、あのかき氷美味しそうじゃない?」
ソラ「てかあの店かわいー」
こういう寄り道はつきものだ。
《骨董通り》
そうこうしているあいだに、お目当てのハンバーガー屋に着いた。ツチツチバーガーという名前の、最近はそれなりに人気を集めているお店らしい。
入ると60歳くらい、メガネをして、すこしふくよかな女性店員が座席に案内してくれた。ハンバーガー屋とはいえ、ファストフード店とは違い普通のレストランスタイルのようだった。テイクアウトもやってるらしい。
《ツチツチバーガー1号店》
「バーベキューで!!!!」
座った途端近くの先からクソデカボイスが聞こえた。見ると、家族連れと思われる客が注文していた。机にはボタンが置いてあり、これを押すと店員さんが来てくれるという仕組みらしい。
ハナ「私ビッグマックがいいな」
ソラ「あるわけないでしょ」
オシャレな黒い革のメニューから、それぞれ選び、ボタンを押した。
案内してくれた店員がテーブルにやってきた。
店員「はい」
ハナ「このスパイシーチキンバーガーのセットで」
店員「はい」
ソラ「私はこのトリプルチーズバーガーで」
店員「はい。スープいります?」
ソラ「??スープ?」
店員「セットにスープがつきますのよ」
ハナ「あ、じゃあ私スープつけてください!」
店員「はい」
一風変わった店員だった。
注文を終えると、ハナはスマートフォンを取りだし、TikTokのくだらん動画を見せ始めた。私は空腹に耐えつつ、ハナの動画に付き合った。
ーーーーー
15分ほど待つと、別の店員がメニューを運んできた
店員「こちらスパイシーチキンバーガーのセットでーす!」
ハナ「私です!」
ハナは机の上のメニューを避けた。
店員「どーもでーす!」
そして私の前に注文したセットを置いた。
店員「ご注文は以上でよろしいでしょうか!」
ソラ「はい」
店員「どーもでーす!」
ハナ「わー美味しそ!」パシャパシャパシャパシャパシャパシャ
ソラ「すごいね」パシャ
ハナ「ねー食べよ!いただきます!」
ソラ「いただきまーす」
分厚いバンズに肉厚なミート、フレッシュな野菜にこだわり抜かれたソースが絡まっていて、絶妙に美味だ。
ハナ「おいしーい!」
ソラ「ね!うま!」
ハナは美味しいご飯を食べている時が1番幸せそうだ。ハナの彼氏になる人はとても幸せだなと思う。
雑談をしながらゆっくり食べていると、最初の店員が席にやってきた。
店員「あなたたち何歳なの〜?」
口に付いたソースを布巾で拭きながら答える。
ハナ「えーっと、21歳です」
ソラ「私もです」
店員「大学生なのね〜?バイトとかしてないの?」
ハナ「私は3つしてます!」
店員「3つも?!へぇ〜すごいわねぇ〜」
ソラ「私はしてないです」
私はバイトをしていない。理由はないが半年前にカフェでバイトをしていた以来、貯金を切り崩して生活をしていた。
店員「あら!うちで働かない〜?」
ソラ「ここでですか?」
店員「ここっていうか、今度渋谷にもう1店舗出来るのよ〜そこで働かないかしら?時給1200円よ〜!」
ソラ「はぁ、、」
ハナ「え!やりなよ!1200円ってめちゃ高よ!」
ソラ「まぁたしかに貯金は無くなりそうだけど」
店員「ここはめちゃくちゃゆるいです!(キリッ)もうほんとに!しかも仕事も簡単だし。どう〜!あなたかわいいじゃない〜?」
ソラ「え、じゃあちょっと真剣に考えますね」
店員「い〜い〜?じゃあここに連絡してください」
そう言って店員は連絡先のかかれた紙切れを渡してきた。
柴田「私柴田と言います。あなたお名前は?」
ソラ「鈴木空です」
柴田「ソラちゃん!かわいい名前ねぇ〜では、連絡お待ちしております〜」
私はその紙をカバンにしまい、2人は会計を済ませたのだった。
ーーーーー
《ソラの大学/学食》
翌日、大学の学食で昨日の話になった。
ハナ「昨日のとこでホントにバイトするん?」
私は昨日貰った紙きれを取り出して見つめた。
ソラ「まぁ、ナシではないかな」
ハナ「あそこオシャレだし、新店舗も絶対キレイだよ!受けるだけ受けてみれば?面接」
ソラ「まぁね、、働くかァ私も」
ハナ「ありあり!私も食べいくよ?」
そして、私は書かれていた連絡先に連絡した。2日後に新店舗にて面接が行われることになった。
《渋谷/ツチツチバーガー2号店予定地》
2日後、午後4時、渋谷。
雨予報だったので、傘を持っていたが、さしている人はいなかった。渋谷駅から明治通り方面に進み、映画館の入ったビルの近くに、その新店舗はあった。ネオンやプロジェクションマッピング的なものがキラキラしており、ビル自体が最新鋭といった感じだった。パッと見じゃハンバーガー屋とは分からないような風貌の空間に、よく見ると「TSUCHI×2 BURGER」と書いてあった。
ソラ「すみませーん」
???「はーい!!!!」
チャラそうな男性の大きな声で返事がした。少し待つと、1人の男性が目の前に現れて、奥の控え室まで案内してくれた。
???「君が鈴木空ちゃん?」
ソラ「あ、はい」
部屋の暖房はかなり効いていた。足が若干震えている。
田中「初めまして!オーナーの田中です!!」
この声、どこかで聞いたことある気が?
あ、思い出した。
初めましてではない。この人は以前原宿店で「バーベキューで!!!」とクソデカ注文をしていた人だ。店の人だったのか。
ソラ「初めまして、、」
田中「柴田さんから話は聞いたよ!!アルバイトしてくれるんだよね!!よろしく!!」
ソラ「え、もう採用ですか?」
田中「うん!!!あ!一応!履歴書みせて!!」
若干戸惑いつつ、履歴書を見せる。
田中「はい!!採用!!!」
ソラ「あ、、どうも、、」
あっという間に採用されて草だった。
田中「1週間後ここで顔合わせあるんだけど来れそう?」
ソラ「火曜日ですよね?はい。空いてます!」
田中「じゃあ夜6時に来て!!簡単にご飯も出すから!!」
ソラ「分かりました。よろしくお願いします」
めちゃくちゃスムーズに面接は終わった。とはいえ何も聞かれずに終わった。若干不安要素が残ったが、まぁなんとかなるだろう。雨はまだ降っていない。私は家に帰ろうとした。その時だった。
ポポポンポンポンポンポン ポッ ポッポポポッポポンポンポン
ヒカルからの着信だ。
ーーーーー
ヒカルは2個上(年齢的には3個上)の私の彼氏である。
ソラ「もしもしー」
ヒカル「もしもしソラ?今から新宿で会えない?ちょうど仕事終わったんだけど」
ソラ「あー、、まぁいいよ?」
ヒカル「ほんと!やった!じゃあ店予約しておくから店のリンク送っておくね!待ってるねー」
ヒカルは口早に電話を切った。ヒカルはいつも店を予約してくれる。優しくて、デキるまさに理想の彼氏である。私は人の流れに沿って駅に向かい、新宿方面に向かうことにした。
ビッグカメラ前で信号を待つ。電光掲示板には邦楽のヒットチャート上位の曲が映し出されていた。あまり流行の曲には詳しくない私だが、たまたま流れていたヒゲダンのプリテンダーは聞いたことがあった。信号が青になり、駅へ向かった。
山手線に乗り込むと、若いカップルらしき2人が大喧嘩をしていた。そういえば、私達は喧嘩をしたことが無いな。そんなことをふと思いながら、山手線の車窓を眺める。車窓から見える、暗くなり出した街には、雨が降り注ぎ始めた。
ーーーーー
《新宿/とある居酒屋》
ヒカル「おー」
ソラ「ごめーん!」
ヒカル「少し服が濡れてるね、もしかして雨降ってきた?」
ソラ「うんーちょっとね」
ヒカル「そっか、ごめんね呼び出して」
ソラ「全然!待ったよねごめん」
ヒカル「いや、俺もたった今来たところだよ」
店員がやって来て、梅酒の水割りが運ばれてくる。
ヒカル「はい、いつもの」
ソラ「頼んでてくれたんだ、ありがとう」
ヒカル「うん。じゃあ乾杯」
少し重いグラスを傾けた。
ヒカル「今日はなにしてたの?」
ソラ「今日はね、新しいバイトの面接」
ヒカル「え、バイトするの?」
ソラ「うん」
ヒカル「どうして?」
ソラ「え、いや、お金も必要だしさ」
ヒカル「言ってくれれば、少しは俺がなんとかするけど?何か困ってるの?」
ソラ「いや、自分のお買い物とか?貯金ももうすぐ無くなるし」
ヒカル「そっか。。なんのバイト?」
ソラ「ハンバーガー屋さん」
ヒカル「へぇ!マクドナルド?」
ソラ「いや、もっとオシャレな感じ」
ヒカル「そうなんだ!なんてとこ?」
ソラ「ツチツチバーガー」
ヒカル「ツチツチ...バーガー...ここか?」
iPhone11proをタップしながら、画面を見せられる。
ソラ「そう!ここの新店舗が出来て、そこで働くの!もう決まったし」
ヒカル「そうなんだ、、ふーん。そっか!頑張ってね」
ソラ「うん、ありがと」
ヒカル「...」
その後、少しお酒を飲みつつ、他愛もない話を繰り返した。終電を待たずに、その日は解散した。
第2話に続く。