其魔外伝 追憶の華 急

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其魔外伝 追憶の華 急

 

前回のあらすじ


謎の人物・Mから、理子の元に届いた写真と手紙。写真によると、北海道で魔者の被害が出たという。

真偽を調査するべく理子はルカと千巣を連れ、北の大地・北海道へと向かう。

空港で出会った青年・廻桜志郎に富良野まで案内されるも、魔導師からの襲撃を受ける。

そしてMの正体は廻であったことを知る。廻は父親の真実を知る為に魔裁組と共にイムカ率いる魔導師軍団を倒そうとしていたのだ。そして姿を表したイムカとその仲間。廻・シャックスvsイムカ軍団の戦いが幕を開ける!

 


 

 

《夜 / 花畑》

イムカは仲間に話しかける。

イムカ「殺しちゃダメよ。皆生け捕りにして。彼ら、能力が使えるみたいだから、僕のストックにするわ」

エラバリ「承知」

カエル「げろげろ」


理子「皆、準備できてる?」

粟生屋「いつでもどうぞ」

ルカ「もちろん」

唯「なんか緊張するぅ」

千巣「...」

廻「よし...!」


イムカ「では」


ヒュン!!!


イムカが廻に迫る...!!

イムカ「勝負だ。桜志郎」

廻は、鎖で応戦する!!


廻「こいつは僕がやるから!」

千巣「...いいんだな」

理子「大丈夫。私たちの相手はあいつらよ」


遠くのエラバリ達を見る。


理子「脇役は脇役らしく、とっとと終わらせましょう」

ルカ「ふん」

 


ヒュン!!!

 

────


《粟生屋 vs エラバリ》


エラバリ「...まさか、我々以外にも異能な人間がいるとはな」

粟生屋「東京にはもっといるよ。まぁでも僕達は、その中でも...」ゴゴゴゴ...!!

エラバリ「?」


轟音が辺りに響き渡る...!


粟生屋「上澄み中の上澄み、だけどね」


エラバリの頭上に巨大な隕石が降り注ぐ...!!!


エラバリ「...!は?!」

 

 

ドォォォォォンン!!!!

 

 

────

 

《ルカ・唯 vs ライ子・レフ子》


ライ子「氷つけ!!!」


キィィィン!!!


ライ子は、氷の塊をルカに放つ。

唯「氷...!ルカルカ!」

ルカは攻撃を手の甲で軽く払い除ける。


ライ子「...?不発?」

ルカ「不発じゃないわ。上手上手。ほら、もう1回やってみなさい」

レフ子「じゃあ私も!さっきイムカ様から貰った力を試す!!」

 

ボワッ!!!


レフ子は手に火の玉を作った。

レフ子「焦げろ!!!」

 


ドッカーーーーン!!!

 


ライ子「すごい威力...!レフ子!やったね!」

レフ子「うん!これでライ子に追いつける!」


ルカ達は煙に包まれている。

ライ子「あの人達、死んだかな?」

レフ子「多分ね」


煙が消えると、そこにルカが1人で立っていた。


ライ子「あれ...生きてる...?」

レフ子「そんな...でも、もう一人は?」

ライ子「な、なるほど、一人は死んだんだ!じゃあ次はアンタだけね!そうなのね!」

レフ子「ならもう一回...!」

 

 

ルカ「ぬるい」

 

 

バサァァッ...

ライ子「!」

レフ子「!」


その瞬間、羽を生やした唯がライ子とレフ子の裏側に回り込んでいた。


ライ子「...!」

レフ子「何が起きたの...?」

 

唯は、ライ子とレフ子の後頭部に手を添える。

唯「せっかく可愛いんだから、ついていく人、間違えたらダメだよ」

 

ドカッ

 

────

 

《千巣 vs カエル》


カエル「げろげろ。びよーーーん」

カエルは、体の一部を伸ばして、千巣と戦う。

千巣は、カエルの攻撃を避け続ける。

カエル「逃げてばっかじゃん!げろげろ」ビヨーン!

千巣「ちっ!舌伸ばすな!キモイから」

カエル「げろげろ!」ビヨーン!


千巣は、カエルから遠ざかりながら、攻撃を避け続ける。


カエル「なぁんだ。たいしたことねえな」ビヨーン!

千巣「...(こいつを倒して廻の所に行かねぇと...イムカだったか?あいつはオーラがちげえ。強そうだ...でも...)」

 

カエル「びよーーーん」

 

千巣「(子供を倒すのは何か心が痛む...!)」

 

────

 

《理子 vs ローズ》


ローズ「お手並み拝見といきましょうか」

理子「こちらこそ」


ローズは細い剣を振り回しながら、理子に斬り掛かる!!

理子は、それをスピーディーに躱す!

ローズ「中々やるわね!」

理子は剣を出し、ローズの背中を斬りつける!

理子「隙あり!」


キィィン!!!

 

理子が斬ったはずのローズの背中は、出血ひとつしなかった!

理子「...(硬い)」

ローズ「あなたこそ、隙あり!!」

ローズは理子の顔目掛けて突きを繰り出す!

理子は後ろに仰け反って避ける!

そのまま理子はしゃがみ、ローズの足首に剣を振る!


キィィン!

ローズの足首は斬れていない!


ローズ「ふふっ」

ドォン!

ローズは、理子を蹴り飛ばす!


理子は、受身を取る。


理子「...なるほど」

ローズ「イムカ様から授かった力で私はこの鋼鉄のボディを手に入れた。傷一つつけられやしないわ...!」

理子「...(硬化系の能力か...それならこちらが受ける攻撃に注意すれば問題ない...!)」

理子は笑みを浮かべる。


ローズ「?何かおかしいかしら?」

理子「いや、なんでも?」

ローズ「感じ悪。まぁいいわ。切り刻んであげる。この鋼の剣でね」

理子「かかってきなさいよ」

 

 

 

 

 

 

 


 


《廻 vs イムカ》


イムカは鎌をぶん回し、廻は鎖で繋がれたヌンチャク型の魔具で戦う。


2人は、素早く攻撃を仕掛け合う!


カァン!キィン!カァン!ドン!シュッ!キィン!


イムカ「面白い武器ね」

廻「面白がってる場合じゃないぞ」


ガァン!


廻が、ヌンチャクでイムカの顎をアッパーカットした!

その瞬間廻は、鎖でイムカを縛り付ける!


廻「蜷局縛・裁(とぐろしばり・さい)!!」

廻は、鎖を両方向に思い切り引き、摩擦でイムカを切り裂く!!


イムカ「...!!!」ブシャァ!!!

廻「うぉぉぉぉ!」

ドォン!!

廻は、イムカの腹部にドロップキックを食らわせる!!


イムカは吹き飛んだ!


廻「ハァ...ハァ...」

廻は肩で息をする。


すると、”音”の衝撃波が、廻を襲う!

廻「...!」

廻は、ヌンチャクで攻撃を弾いた。

廻が前方を確認すると、イムカと共に、魔者が一体立っていた。


イムカ「新しいオモチャ。どう?」

イムカは、一本の木に、かつてスキンが持っていた”鳴動の書”の能力を与え、魔者化したのだ。


イムカ「壊れるまで戦っておいで」

魔者「ボクボク...」

廻「...そうやって人々を襲わせて、一体何がしたいんだ!!」

イムカ「襲わせた?人聞きが悪いね。僕はただオモチャで遊んでただけさ。後のことはオモチャが”勝手に”したことだよ」

廻「...!」

イムカ「僕は寂しいんだよ。だから友達が欲しい。オモチャが欲しい。それだけ」

廻「貴様...!」


イムカ「馬鹿や弱者がそれによってどうなろうが、どうだっていい」

廻「...!」

イムカ「僕には、僕をわかってくれる人が居れば他に何も要らない。僕を理解しない存在はゴミ同然さ」

廻「許せない...!お前はここにいちゃいけない。僕が必ずここで倒す」

イムカ「やってみなよ。やれるもんならね」


ピクッ


その時、イムカの動きが一瞬止まる。

イムカ「...!」

 

────

 

《唯・ルカ vs ライ子・レフ子》


ライ子とレフ子は、頭にげんこつを作って気絶している。


唯「この子達も、普通に生きていたら、違う生き方が出来てたのかな。そう考えると、少し可哀想」

ルカ「人の命をなんとも思ってない連中にホイホイついて行く馬鹿女じゃない。ほっときな」

唯「でも...この子達の過去にどんなことがあったかとか、分からないじゃん。酷い目にあってたりしたら、責められないよ」


すると、ルカは諭すように唯に言う。


ルカ「私は、被害にあった周りの人の事を考えたら、そんなことは思えない」


唯「...!」

ルカ「どんな理由があっても、無関係の人の命を奪っていいはずがない。ま、やられた分にはやり返すのは私はいいと思うけど」

唯「ルカルカ...そうだね。ルカの言う通りだよ」

唯は肩を落とす。


ルカは唯の肩に手を置き目を見て話す。

ルカ「でも唯のその優しさは、唯のいい所。誰も味方をしない人の味方になってあげられる。そんな人、ほっとんどいないから」

唯「ルカルカ...」

ルカ「この子達はしばらく目を覚まさないだろうし、ほっといてとりあえず廻の所へいきましょ」

唯「...そうだね!」

 

────

 

《廻 vs イムカ》


イムカ「ライ子とレフ子がやられたか」

廻「...?」

イムカの身体に、ライ子とレフ子に与えていた能力が再ストックされる。


イムカ「厄介なことになる前に...ここはアレを使って...!」

廻「...?!」


するとイムカは、人差し指と中指を立てて、大きな声で唱える。

イムカ「”閉”!!!」

廻「...?」


ゴゴゴゴ...!!!


次の瞬間、イムカと廻の周りをドーム状の結界が包囲した!


廻「...?!これは?!」

イムカ「邪魔されないようにね。厄介な奴らが来る前に」

廻「結界術か...!」

イムカ「さぁ、2人きりで楽しみましょう!今度はもっと沢山のオモチャを使って...!」

ポンッ!ポンッ!


イムカは、炎と氷の魔者を繰り出した!

廻「...!(まずい...外からの侵入が出来なければ、僕一人でこいつらをまとめて相手しなければ..!)」

 

 

 


《千巣 vs カエル》


カエル「痛てぇ!痛てぇよぉ!げろげろ!」

千巣は、カエルを紐で縛りつけ、穴に埋めた。


千巣は、穴に落ちたカエルを見下ろしながら言う。

千巣「死にやしねえから勘弁しろ」

カエル「げろげろ!イムカ様!イムカさまぁ〜!」

千巣「ガキは大人しく家帰ってスマブラでもしてやがれ」


千巣は、廻の元へ急ぐ。


《粟生屋 vs エラバリ》


エラバリは、粟生屋の攻撃を受けて尚、白目を向いて戦っている。


エラバリ「フラ...フラ...!」ボォン!

粟生屋「こいつ...いつまで戦う気だよ!」

粟生屋はエラバリの攻撃を避ける。


エラバリは、手を龍の頭に変化させ、光線を放つ!


粟生屋は、攻撃を重力で逸らす!

粟生屋「その能力、やっぱ気に食わないねぇ!」

ドカッ!

粟生屋は、エラバリに蹴りを食らわす!何発も食らわせるが、エラバリは意識を失って尚立ち上がる!


粟生屋「ハァ...しつこい」

エラバリ「フラ...フラ...」

粟生屋「まぁいいよ。その根性は認めよう。だから少しだけ...」

エラバリ「...」

粟生屋「暴れさせて貰おうか...!」

エラバリは我を失って粟生屋に突進する...!


粟生屋は、右手首を左手で抑え、右手をエラバリに向けて捻る!


粟生屋「”狂渦(くるうず)”...!!!」


すると、エラバリが空間ごと反時計回りに捻れた!!!


エラバリ「...!!!」バキバキィ...!!!

粟生屋「残念ながら僕とお前とじゃあ」

エラバリ「!!!」バキバキバキィ...!!!

 


粟生屋「文字通り、格が違うんだよ」

 


エラバリ、KO。

 

────

 

《理子 vs ローズ》


ローズはひたすら攻める。理子は、ローズの攻撃を全て体をくねらせて受け流す!

ローズ「...(全然当たらない...!)」

理子「ふふっ」ヒュン!ヒュン!

ローズ「...あーもう!なんで当たらないのよ!」

ローズはやけくそになり、剣をがむしゃらにぶん回す!

理子はバク宙でローズの攻撃を躱す。


ローズ「ハァ...ハァ...ただのクソガキが...この私を舐めるなよ?私はイムカ様に力を認められた人間なんだ!私は、イムカ様の”友達”に選ばれた、類まれなる逸材なんだよ!」

理子「友達は選ばれてなるものじゃないよ」


ローズ「は?説教?さっきから避けてばっかりで、結局私の力に及ばないんでしょ?攻撃は私の鋼鉄のボディで弾かれるものね?」

理子「...」

ローズ「結局あんたは袋の鼠。いつまでも避けきれると思ったら大間違いよ。私の攻撃がヒットしたらゲームオーバー。あんたはもう詰んでる」

理子「...」

ローズ「とっとと逃げたら?イムカ様に謝るなら命くらいは見逃してやるわ」


理子「...はいはい」


ローズ「は?」

理子「あなた、こんな言葉があるの知ってる?」

ローズ「...?」

 

 


バ              シ             ュ            !

 

 


目にも見えない早さで、理子はローズを一刀両断した!!!

 


理子「”柔よく剛を制す”ってね」

 


ローズ、KO

 

────


《イムカの結界外》

 


ルカ、唯、千巣は、イムカが張った結界の外に集まっていた。

 


ルカ「...どうせこん中に廻達がいるんでしょ!ガンッ!とっととこじ開けて攻め込みましょ!ガンッ!」

ルカは、結界に攻撃を放つ。

唯と千巣も同時に攻撃を放つ。

 


千巣「息を合わせよう。せーのでこじ開けるぞ!」

唯「おっけー!」

ルカ「わかったわ」

千巣「せーの!」

 


ガァン!!!!

 


すると、結界が壊れた!

中ではイムカと廻が戦っていた。

 


廻「皆!」

唯「めぐりん!」

ルカ「行くわよ!」

イムカ「...ニヤッ」

ルカ達がイムカらに近づこうとした瞬間、イムカが召喚した魔者が数体、千巣らに襲いかかる!

そして、再び結界が降りてしまう。

 


千巣「魔者...!」

唯「めぐりーーん!!」

ルカ「ちっ!雑魚共は引っ込んでろ!!」

魔者「「「ギリヤァァォァ!!!」」」

 


千巣らと魔者らの戦闘が始まる!

 

 

 

 


《結界内》

 


廻「皆...!」

イムカ「よそ見はいけないね!」

ドォン!

廻はイムカに蹴り飛ばされ、魔者達が廻に追撃を食らわせる!

 


ドォォォン!

廻「...!!」グハッ!

 


廻は膝をつく。

 


イムカ「皆で僕の家族になってくれるなら、許してあげるけど。どうする?」

廻「...なるものか、お前のような奴の仲間になど!」

イムカ「何度でも言おう。私はお前の父親だ。お前を蔑ろにし、冷たく当たり、何の関心も寄せなかった、父だ」

廻「...!!」

イムカ「お前など興味もなかった。だが、ただの木偶の坊のお前を、私は今家族として迎えに来てやっているのだぞ?嬉しいだろう?嬉しいよね?」

廻「!!」

イムカ「独り身同士仲良くしよう。さぁ、桜志郎。君の力を貸してくれ」

 


廻「...お前は、父じゃない」

イムカ「...」

廻「お前のような外道が、僕の父親を語るな」

イムカ「...」

廻「僕の父は、少なくともお前が語るような人間では無い。いかなる理由があろうと、僕はお前を親だとは認めない...!」

イムカ「...!」


廻「僕が信じたいものは、僕が決める!!」

 

 

廻の四方から大量の鎖が廻を包囲する様に集まり、それらは大きな束になり、塊となった。その姿はまるで鉄人のように大きく、逞しい。

 


イムカ「これは...!なんという力...!やはりお前は僕の家族になるべきだ...!」

廻「お前に家族なんて居ない。一人で寂しく死んでいけ」

 


鎖の塊は、イムカに鉄槌を下す!

 


廻「うぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 


鎖の塊が、イムカを飲み込む!!!

廻「いっけぇぇぇぇ!!!!」

イムカ「...!!!」ドボッ!グハッ!ブシャッ!

 


ドォォォォォォォォォォォン!!!!!

 

〜〜〜

 

 

大きな地鳴りと共に、結界があがった。


廻「...」

廻は俯きながら立ち竦む。

 

 

 

 

廻が辺りを見渡すと、理子達5人が揃っていた。


廻は目の前に落ちている青い魔導書を拾い上げた。


理子「やったんだね」

廻「...うん」

唯「凄い!凄いよめぐりん!強そうなあいつを一人で!」

廻「...」


粟生屋「...(魔導書...あいつは魔導師ではなく、魔者だったということか?魔導師ならば、魔導書はどこか別の場所に現れる筈だからね)」


ルカ「...(人間の履術者が死んだ時、その場に死体が遺る場合と、魔者の様に消えてしまう場合がある。でも、どちらの場合でも、人間の履術者の魔導書は、思い入れが深い場所や人の元に消えていく。だからあのピンク髪は魔者であった可能性が高い」


千巣「...(もっとも、あのピンク髪がこの場所や、彼に思い入れがないことが大前提だが。ま、そうは思いたくないがな)」


廻「...皆、ありがとう」


理子「私達は、何も」

唯「うん!無事でよかった!」

廻「...じゃあ、皆で家に帰ろうか。夜も遅いし」

千巣「いいのか?最悪迎え呼べば東京にも帰れるし」

ルカ「もう用は済んだんだから、その魔導書だけ貰って帰るわよ」

唯「えー!せっかくめぐりんがいいって言ってくれてるんだよ?泊まろうよー!」

粟生屋「僕は何でも」

理子「まぁそうね。明日もあるけど、廻君さえ良ければ、泊めてもらおうかな」

廻「うん。大歓迎だよ」

 

6人は、花畑を通り、廻の小屋へ向かう。


すると、ラベンダー畑の横で、廻が立ち止まる。


廻「...お父さん」


廻は、夜の風に揺られた一面のラベンダーを見て呟く。


唯「...」

粟生屋「...」

千巣は、理子に耳打ちする。


千巣「...(万に一つ、あの魔者が、本当に父親だった可能性も)」

すると理子は千巣を遮って言う。

理子「言わなくていい」

千巣「...」

理子「言わなくていい。これが正しい選択かは分からないけど、言わなくていい」

理子の目は真っ直ぐ、夜を映していた。

千巣「...分かりました」


廻は、しゃがんで、ラベンダーの花に手を近づける。


すると、ルカが思い出したかのようにお尻側のポケットを探る。そして、廻の元へ。

ルカ「あ、そーいえばあんたこれ」

廻「!」


ルカは立ったまま、ヒビの入ったスマートフォンを廻に渡した。廻はそれを見つめる。

廻「あ、ありがとう」

ルカ「...大事にしなさいよ」

廻「...」

ルカ「...ふん」


ルカは廻に背を向けた。

 

廻は、スマートフォンの画面を見る。

 

 

すると、廻はしゃがんだまま泣き出した。


唯「めぐりん...」

千巣「...」

理子「...」


廻の嗚咽が響き渡る。


理子はその様子を見て、廻の肩に手を添える。

廻「...」

理子「大丈夫。大丈夫だから」

他のメンバーも、囲うようにして廻の元へ集まる。

廻は、腕で涙を拭った。


廻「...恥ずかしいね。何で泣いてるか、分からないだろうし、怖いよね。ごめんごめん。つい昔のことを、思い出しちゃって」グスン


理子らは、じっと廻の言葉に耳を傾ける。


廻「ごめん。そろそろ、行こっか」

廻は立ち上がり、理子らと共に歩き出す。


その時。


ラベンダー畑が強い光を放ち、廻らを包み込む!


廻「...!!!!」

 

 

回想─────

 


廻の父、廻笠十郎(めぐりりゅうじゅうろう)。


彼は、妻・峰(みね)と共に、東京で暮らしていた。


笠十郎は明るく、優しい男だった。峰は穏やかで献身的な女性だった。

とある年の7月15日。峰は、第一子を授かり、二人は名を桜志郎と名づける。


しかし、その翌年、峰は魔者の被害に遭い、桜志郎の記憶も残らない内に無くなってしまう。

その時に笠十郎を助けた、”高校生程の金色のカブトムシを操る魔法使い”の進言によって、笠十郎は幼い桜志郎を連れ、魔者の被害のない北海道へ転居。


しかし、峰の喪失は笠十郎に大きな影を落とし、笠十郎は冷酷な男になってしまった。


笠十郎は独自で、妻を奪った魔法についての調査を始め、桜志郎に構うことは殆どなかった。


笠十郎は、魔法について知り尽くしたかったのだろう。それは、好奇心か、はたまた妻を奪った魔法への復讐心からかは、本人にしか分からない。


ある日、笠十郎は東京で”鎖の書”を発見する。そして、鎖の書の履術者になる。


笠十郎は魔法使いとなったが、年齢柄、戦いの場に身を置くことは殆どなく、宿ったマヂカラを利用しての研究を始めた。


途中、北海道で出会った”睡蓮(すいれん)”という考古学者と共に共同での研究を進めるが、ある日東京にて、睡蓮が”模写の書”の魔者になってしまう。


睡蓮は魔者となって、どこかへ身をくらました。


笠十郎は責任を感じ、睡蓮を捕獲する旅に出ることにするが、毎月15日だけは、北海道の家へ戻っていた。


そして、ある年の、7月14日。笠十郎が帰って来なくなる1日前。


笠十郎は北海道までやってきていた。


ラベンダー畑の横を通り、我が子の眠る小屋まで帰ろうとしていたその時。

 

魔者化した睡蓮が現れたのだ。

きっと魔者になっても、帰属本能で命からがら帰ってきたのだろう。

 

笠十郎は不慣れながらも、睡蓮を抑え、満身創痍になりながら睡蓮を倒した。


しかし、笠十郎は足が潰れ、内蔵も潰され、もう長くは生きられないと、死を覚悟した。我が子の待つ小屋のすぐ側で。

 

睡蓮に対する償い、峰に対する愛。


彼は死の間際に何度も頭の中で呟いた。


そして、最後に浮かんだのは、愛する息子への後悔だった。群れる花の中に倒れ込んだ父は、最後の言葉を残した。

 

 

 


そして今、廻の目の前には、その時の光景が鮮明に蘇っている。


廻「父さん...?!父さん...!!」

 

 

 

 

光輝く夜のラベンダー畑。

血塗れで倒れる父と、その傍に座り込む子。


父は、星空を見て、最後の力を振り絞る様に、言葉を繋ぐ。

 

笠十郎「ハァ...寝てる...か......桜志郎」

桜志郎「!」

笠十郎「ハァ......悪いな...もう...お前の誕生日には...間に合いそうにない」

桜志郎「...!」

笠十郎「お前には...何一つ...何もしてやれなかった。父として...先を歩く人間として...何も...何も...」

桜志郎「...お父さん?」

笠十郎「いつかは...こうなると思った。でも...上手く...お前を守ってやれなかった...一人にしてしまう...すまない」

桜志郎「...」

 


笠十郎「一つだけ...最後に望みがあるとすれば...桜志郎...お前に会いたい」

 


桜志郎「...!!」

笠十郎「ただ抱きしめてやりたい...お前にしてやれなかったことが...したかったことが...今になって幾つも浮かぶ」

桜志郎「...お父さん!」

笠十郎「当たり前のことが...出来なかった。父親失格だ」

桜志郎「お父さん...お父さん...!」

笠十郎「俺のことは...全て忘れろ。どうせ大した事、してやれなかったんだ。思い出して悲しむ事もないだろう...」

桜志郎の目から涙がこぼれ落ちる。

笠十郎「幸せになってくれ...桜志郎...」

笠十郎の体は消え始める。


桜志郎「待って...お父さん!お父さん...!!」


笠十郎「ごめんな...桜志郎。誕生日...おめでとう」

 

 

サッ...

 


笠十郎は消えた。

桜志郎は、肩を揺らして泣く。


理子らはその様子をただじっと見つめる。

 

 

しばらく、桜志郎は泣いていた。

 


ヒビの入ったスマートフォンの画面の中で笑っている、桜志郎と笠十郎を握りしめながら。

 

 

 

──────

 

 

 

 


《千歳空港》


翌日。


唯「ここまでありがとう!めぐりん」

廻「こちらこそ。本当に本当にありがとう」

千巣「ま、色々とよかったな」

理子「こんど、東京にも遊びに来てね。案内するから」

廻「うん。ありがとう」

唯「うぇーん!やっぱり寂しいよー!めぐりんも一緒に行こうよー!」

ルカ「唯!いいのよこんなヨワミソ!北海道の田舎がお似合いよ!」

唯「ひどい!」

廻「あは。あはは」


粟生屋「じゃあね。北海道の魔法使い君」

千巣「達者でな」

唯「バイバイ!めぐりん!」

廻「うん。またいつか!」


理子達は背中を向け、搭乗ゲートへ向かう。


廻「あ!理子ちゃん!」

理子らは振り返る。


廻「僕、探ってみるよ。色々な可能性を。そしていつか見つけてみせる。自分が目指したい星をね」

理子「...うん!」


千巣ら4人はポカンとする。


千巣「星?」

唯「めぐりん、宇宙飛行士になりたいの?」

ルカ「そしたらANA入りなさいよ」

粟生屋「NASAな」


そして理子は、笑顔で頷く。

 


理子「じゃあ、またいつか!」

 

 

 

 

 

 

廻「...バイバイ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

其魔外伝 追憶の華

 

 

 

 

 

 

〜完〜

 

 

 


《飛行機の中》


唯「えーでも、やっぱりめぐりんも魔裁組に来て欲しかったよー」

理子「誘ったけど、彼はまだ北海道で色々とやりたいんだって。それに、魔導書返還の時には来てくれるって約束してくれたし、それでいいよ」

千巣「戦力も大事だが、履術者には魔者に魔導書を奪われるリスクもある。魔導書を守るって意味では、東京から離れた安全地帯に潜伏してくれることは何よりのメリットになるからな」

唯「でもーめぐりん強いし、ちょっと頑張れば私達みたいに特級になれたよ絶対!」

ルカ「でも、本人が望んでないなら仕方ないじゃない」

唯「そうだけどぉ」

粟生屋「zzz...」

 

理子は、飛行機の窓から外を見る。

 

 

 

理子「...またどこかで、会えたらいいな」

 

 

 

────

其魔外伝 追憶の華 破

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其魔外伝 追憶の華 破

 


ここまでのあらすじ

 


正体不明の人物・Mから、理子の元に届いた写真と手紙。写真によると、北海道で魔者の被害が出たという。

その真偽を調査するべく理子はルカと千巣を連れ、北の大地・北海道へと向かう。

迎えの来ない空港で立ち往生していた3人は、ひょんなことから出会った青年・廻桜志郎の案内で目的地である富良野へ向かう。

途中、魔者の襲撃に合うも、無事富良野に到着。調査を始めようとするやいなや、謎の魔導師が4人に接触してくる。すると廻は鎖のような魔法を操り、魔導師を捕縛した。唖然としている3人の元へ、東京から唯と粟生屋がやって来たのだった。

 


 

 

富良野 / 小屋》


理子、ルカ、千巣に加え、東京からやって来た唯と粟生屋は、廻が拠点にしているという小さな小屋に案内される。


廻は、部屋の灯油ランプをつけて、全員を座らせた。


唯「初めまして!私、東海林唯!唯ってよんでね!で、こっちはあおやん!」

粟生屋「あおやんです」

廻「ど、どうも。廻桜志郎です」

唯「めぐりんね!よろしく!」

廻「よろしく...」


千巣「てか、なんでお前ら来てんだよ」

粟生屋「白鶯が鬼屋敷さんに連れてかれたから、いいかなと」

唯「だって、楽しそーだったんだもん」

ルカ「別に遊びに来たわけじゃないけど」

理子「よくここが分かったね」

唯「理子さん魔裁組のスマホ持ってますよね?GPSですよ!」

理子「なるほどね」


粟生屋「てか君、廻君だっけ?誰?」

千巣「それ今全員が聞きたいこと」


廻「皆、騙しててごめん」


理子「...」

唯「え、え、えー?!突然なに!!ちょ、全然意味わからない〜」

ルカ「ちょっと!だまってて!」

唯「ぴえん」


理子「廻君はね、色々あって空港からここまで連れてきてくれたのよ」

ルカ「ここに来るまで、魔者も魔導師も見た」

唯「え、そうなの?」

粟生屋「表の木に縛り付けてる奴か」

 


4人を襲った魔導師・スキンは小屋の外の木に鎖で縛られている。

 


理子「騙してたってどういうこと?魔法が使えることを隠してたこと?」

唯「(魔法使えるんだ)」


廻「いや、全部だよ」

理子「?」

全員「?」


廻は、本棚から、写真を取り出した。


ルカ「この写真って!」

千巣「これ、俺らがMから貰ったやつじゃねえか」

唯「えむ?」

廻「僕、Mなんだ」


全員「!」

唯「...(突然のカミングアウト...!※この人は何も知らないのでMの意味を履き違えています)」


廻「ここに皆を誘き寄せたのは僕なんだ」


理子「なんで?」

廻「僕は魔法が使える。魔法のことは、ある程度調べたから分かる。知っての通り、北海道に魔法はない。でもここ最近、魔者や魔導師が悪さをしているみたいなんだ」

千巣「ほう」

廻「最近ローカル局のニュースで、変死体のニュースが多くて。ニュースから足取りを調べて、次に事件が起こりそうな場所を張ってたんだ。そしたら、案の定魔導師の仕業だった。変な髪型の奴が」


ルカ「それで、私たちに接触したわけね。てか、普通に連絡をよこせば良かったじゃない。何よ、Mって」

廻「ごめん。怖かったんだ。魔法協会や魔裁組のことは、”父親繋がり”で知ってはいたけど、どんな人達かはわからなくて、僕が魔法を使えるって知ったら、どんなことされるのかなって...」

理子「...なるほどね」

廻「空港で案内人の人と皆の接触を阻んだのも僕なんだ。案内人の人には少しの間身動きが取れない状態になってもらった」

千巣「...」

廻「コーヒーを零したのも、わざとなんだ。匂いとかで僕が魔法使いだって分かる人もいるって聞いたから。ギリギリまで魔法使いってことは明かしたくなかった」

唯「そうなんだ...」


廻は頭を下げる。


廻「ごめん。この通りだ」


全員「...」

唯「そんな...謝らないで」

理子「そうだよ。別に何もされてないし」

廻「...」


ルカ「てか、アンタさ、さっきからウジウジと言ってるけど、結局何が目的なの?」

唯「ちょっと...ルカルカ...!」

千巣「まぁでも、気になるな」

粟生屋「どうなんだい?M君」

廻「僕は...」


ルカ「...」

理子「...」


廻「真実を知りたいんだ」


ルカ「?」

粟生屋「?」

理子「真実?」


廻は話を続ける。


廻「僕の父親についての話をするね」

一同は黙って話を聞く。

 

 

 

 

廻「僕の父親は考古学者で、色々な学説や伝承を調べてた。父は忙しくて、日本中を飛び回ってたから、北海道の実家にはあまり帰ってこなかった。片親だった俺は、ずっと一人でいたんだ」

 


理子「...」

廻「僕は父が好きではなかった。父親は考古学者だったけど、何について調べているかは教えてくれなかった。父は厳格な人で、あまり構ってもくれなかった」

唯「寂しいね...」


廻「そんな父でも、1ヶ月に1日は必ず、家に帰ってきた」

粟生屋「1ヶ月に1日て」

ルカ「少な」


廻「毎月15日、父は必ず家に顔を出してたんだ。2年前までは」

唯「2年前まで?」

廻「うん。2年前の6月15日を最後に、父とは会ってない」

粟生屋「なんで?」

廻「分からないんだ。7月15日になっても父は帰ってこなかった。その後もずっと。ずっと」

千巣「...」

廻「でも、その7月15日に、父が来なかった代わりに、枕元に見覚えのない一冊の本があったんだ。その本は今、胸(ここ)に眠ってる。蒼魔導書第十章 鎖の書」

理子「!」

ルカ「!」


廻「読んで本が消えた時はびっくりしたよ。だって魔法のことなんて何も知らなかったから。でも、マヂカラが流れたおかげで、特殊なマヂカラで隠された家の隠し扉(魔法陣)を見つけることが出来たんだ。僕は初めてそこに入った」

理子「...」


廻「そこで魔法のことを色々と知ったんだ。最初は受け入れられなかったけどね。マヂカラのこと、魔裁組のこと、魔者のこと。恐らく父は魔法の研究をずっとしていたんだと思う。東京にもよく行ってたみたいだし」

理子「なるほど」

廻「2年前の15日。父は僕にこの本を託したんだと思う。でも、いなくなるタイミングで何で渡したんだろうって」

理子「...」


廻「父の残した研究ノートによると、魔法は北海道にはなかった。だから東京に行ったりしてたんだと思うけど、最近は違う。何故か北海道に魔法や魔導師がいる。そしたら父も帰ってくる筈だろう?でも帰って来ない。どんなに忙しくても同じ日に帰って来ていたような几帳面な父がだよ。それって、変だなと思って」

理子「...」

廻「父に何かあったのかもしれない。だから魔導師を倒して、真実を聞きたい。何か知ってることがないか。父について」


粟生屋「敵側が父について知ってるとは限らなくない?」

廻「でも色々と知りたい。それに...」

理子「?」

 

 

廻「いや、なんでもない」

 

 

理子「...そう」


廻「でも、もういいよ、こんなに迷惑かけたし、魔裁組が悪い人たちじゃないって事もわかった。後は一人でやるから」


ルカ「は?あんた何言ってんの?」

廻「ごめん。だから、もうここからはまた一人で」

唯「なんで?」

廻「魔導師は何をしてくるか分からないから、もう巻き込めないよ」

廻は震える手を握りしめる。


ルカ「巻き込むだぁ?」

粟生屋「手、震えてるよ、本当は一人じゃ怖いんでしょ」

廻「...うん、でも」


千巣「となったら、まずは外で寝てるハゲ起こすか。聞き込み調査開始だな」

粟生屋「確かに、丁度いいのがいたわ」

廻「でも...」


すると、唯が廻の小さくなった肩に思いっきり手を置く。


バンッ!!


廻「...!」ビクッ!


唯「巻き込み上等!!!!一度乗りたかった船よ!!」

千巣「”乗りかかった”な」

廻「...!」


理子「廻君の気持ち。よく分かった。私達がサポートします」

廻「でも...」

理子「それに、安心してくれていいわ。こう見えて私達、」

廻「?」

 

 

理子「最強だから」

 

 

廻「皆...」

唯「ホントだよ!私達結構やる時はやるのよ!」

粟生屋「東京の平和は僕たちが守ってると言っても過言ではないからね」

ルカ「田舎の魔導師なんて小指でピン!よピン!」

千巣「ま、そういうこった。後は任せな」


廻「本当に...ありがとう...!でも、僕も一緒に戦うよ...!いや、最前線で戦わせてくれ!」

理子「確かに、さっきのツルテカ倒した時の動きも凄かったからね」

唯「めぐりん強いんだ!」

廻「皆より強いかは、分からないけど...」

千巣「後はハートだな。気持ちで負けてたら、可能なことも不可能になっちまうからな」

廻「...うん!」


粟生屋「とりあえず、シバキに行きますか〜外の人」

千巣「そだな」

 

6人が話している頃、外のスキンは寝静まっていた。

しかし、ズボンのポケット付近に、怪しい”耳”の様な物が、異様な光を放っている。

 

────

 

《謎の場所》


イムカは謎の洞窟で、岩に腰かけている。


イムカ「...鎖の書...父親を探す少年...考古学者...魔法使い...最強...なるほどねぇ...」


イムカは、スキンについていた謎の耳を伝って、会話を全て聞いていた。


イムカ「面白くなって来たんじゃない...?!」ゴゴゴ...!

 


 

 

富良野/廻の小屋》


理子らは、スキンへの尋問を進めていた、


スキン「知らねぇよ!これ以上はマジで!なんも知らねぇ!」

粟生屋「嘘は良くないねぇ」

スキン「俺が知っちゃってることは全部話しただろう?!」


理子「まとめると、あなたは、”イムカ”という名前の魔導師に、お友達になろうと誘われ、体をタッチされた途端、能力が使えるようになったと?」

スキン「そうだ!音がバンバンでるやつな!ついでに才能あるって褒められちゃったぞ!」

ルカ「聞いてねーーわ!!」ドーン!

スキン「チーン!!」


理子「なんで私たちの所へ来れたの?」

スキン「イムカから連絡が来てな、アンタらの車を追わされたんだよ。イムカからは一方的に連絡が来ちゃう!こっちからは連絡出来ねぇ!」

唯「そのイムカってやつは、何を企んでるの?」

スキン「わからねぇよ!ただ、友達を増やしちゃってるだけだ!半分くらいはオモチャになっちゃうけどな!」

理子「なるほど」

 

 

スキンは、魔法協会の警備員に身柄を引き渡された。

 

 

その日の深夜。

 

全員が寝静まった後、廻は1人で小屋の屋根に寝そべり星を見上げていた。


廻「...」


理子「やあ」

音もせず隣に理子が、同じように寝そべっていた。


廻「!!びっくりした」

理子「ふふ。ずっと居たよ?」

廻「...そうなんだ」


2人は横並びで空を見ながら話す。


理子「星、綺麗だね」

廻「うん」

理子「東京じゃこんなに星が見えること、ないから」

廻「...そうだね」

 


...

 


理子「廻君」

廻「何?」

理子「私はね、廻君を信頼してるよ」

廻「...ありがとう」

理子「だから、私の事、私達のこと、信頼してよ」

廻「...信頼してるよ?もちろん」

すると、理子が廻に覆い被さるように、廻に迫る。


廻「...!!」ドキッ

理子「嘘。まだ廻君、私に隠し事してる」

廻「...!」

理子は数秒、廻の目を見つめる。

廻「...!」


理子は元の位置に戻って、空を見上げる。


理子「隠し事には2種類ある。隠しておいた方が良いことと、話した方がいいこと」

廻「...」

理子「廻君の隠し事は、どっち?」

廻「...」


理子「まぁどっちでもいいよ。でも私は、どうしても言わせたい」

廻「...!」

理子「言って」

廻「...強引過ぎないかな」


理子「でも言って?」

廻「...実は」

理子「...(言うんだ)」


廻「父が、魔者になってるんじゃないかって」


理子「...!」

廻「人間って、魔導書に触れると魔者になったり、死の間際に魔者になったりするって、父のノートに書いてあったから...」

理子「...」

廻「それで僕、初めてピエロの魔導師...イムカを見た時に、イムカが父の癖と同じ、首を捻る仕草をしててさ」

理子「...!」


廻「だから、父は帰って来なくなったのかなって、思ってて」

理子「...」

廻「父を止めたい。けど、父だって分かったら、多分僕は父を殺すことが出来ない。だから、魔裁組に手紙を出したんだ」

理子「...なるほど」


廻「でも僕がやらないとだよね...僕が...父を止めないと」

理子は廻の横顔見つめる。


理子「廻君。空を見て」

廻「?」


廻は、星を見た。


理子「今、廻君が見てるのは、最初に目に付いた大きな星。廻君は、その星が自分のゴールだと信じて進んでるの。今」

廻「...」

理子「大きな星は眩しい。だから人は、自分の目指すものはそこなんだって、目を奪われやすい。でも本当は、視界の端っこで、小さく輝いている目立たない星こそ、自分にとっての本当のゴールだったりするの」

廻「...!」


理子「どんな人だってそう。私だって、自分一人で完璧になるっていうゴールだけを信じて、今まで生きてきたの。”一人で完璧な私”こそが、空に浮かんでる沢山の私の未来像の中で、一番強く光って見えたから。それが正しい道筋だって思ってた」

廻「...」

理子「でも違った。光って見えたその星は、本当はとても遠かった。私にとって本当に行くべきだったのは、隅っこの小さな星。”皆で完璧になる”って言う事だった」

廻「...」


理子「眩しい星は、他の星の輝きを奪ってしまう。そうやって周りが見えなくなって、気づいたら自分が辛くなってる。だから、自分の目で、しっかりと色々な星を見つめて考えないといけない。一等星じゃなくても、好きな星を見ていれば、私達はそれでいいんだよ」

廻「理子さん...」


理子「理子でいいよ。タメでしょ?私達」

廻「...うん」


理子「要するに、必ずしも、一番正しく見えるものが、本当に正しいとは限らないってこと。もっとたくさんの可能性を見てみなよ。お父さんが魔者になったって、決めつけるにはまだ早いと思う。色々な可能性があるからね」

廻「...」

理子「それにさ、暗い妄想で頭いっぱいにしてたら勿体ないじゃん?ね?」

廻「...そうだね」


理子「廻君は、本当にお父さんに会いたいんだね」


廻「...そうじゃない。知りたいだけだよ。お父さんとの思い出なんて殆どないし。好きじゃないし」

理子「...」

廻「それにお父さんは、僕より研究の方が大事だったんだから」

理子「...」


廻「1ヶ月に一度の帰宅だって、義務的に僕が何してるか見に来てただけだし、来ても殆ど話したりしなかったから。それにお父さんの秘密の研究室にも、僕の写真なんて1つもなかった」

理子「...」

廻「でも一応家族だ。家族が殺人鬼になってたり、知らない所で死んでるなら、知りたいだろ?それだけなんだよ」

理子「...」

廻「僕は真実が知りたい。知れればそれで十分」


理子「そっか。ごめん。暗い話させちゃったね。私達も出来ることをするから、廻君も一緒に頑張ろ!」

廻「...うん!」

 

────

 

次の日、6人は、3手に別れて富良野近辺を捜索する。

 

《粟生屋・理子ペア》


粟生屋「そんなに運良く出てきますかねぇ」

理子「分からないけど、根気よく探すしかないわね」


《千巣・唯ペア》


唯「あ!アイスクリームだ!ちょっと食べていいかな!」

千巣「旅行やん」


《ルカ・廻ペア》


ルカ「...」

廻「...」

ルカ「...あーもう!なんでそんな辛気臭い顔してんのよ!」

廻「!ごめん...」

ルカ「ごめんじゃっ!パンッ!ないのよ!」

廻の背中を思いっきり叩く!

廻「...!(内臓が出る...!)」

ルカ「肝心のアンタがそんなじゃ、勝てるやつにも勝てないでしょうが!アンタ強いんでしょ?ちょっとは胸張りなさいよ!」


廻は昨日の理子との会話を思い出す。


廻「(そうだった...暗い顔ばっかしてちゃダメだ!)」

ルカ「ちょっとトイレ、そこら辺で待ってて」

廻「うん」


ルカはトイレに向かう。


廻「...」


その時だった。


イムカ「久しぶりだね。桜志郎」

廻「...!!お前は!!」

 

 

 

 

廻は、イムカと遭遇した。

廻「(間違いない...!イムカだ!ルカちゃんと皆に連絡しないと...!)」

廻がスマホを出そうとするが、イムカはスマホを破壊する。


廻「...!(速い!)」

イムカ「野暮なこと辞めなよ。桜志郎。僕は2人で話したいんだよ」

廻「...!お前、なんで俺の名前を知ってるんだよ...!」

イムカ「まぁ、立ち話もなんだから、少し森へ入ろうか」


ガッ!!


廻はイムカに連れ去られた。


そこへルカが戻ってくる。


ルカ「あれ、あいつ居ないじゃない」

そして、ルカは廻の破壊されたスマホを見つける。

ルカ「これってもしかして?」

ルカはヒビの入ったスマホの待ち受けを見る。

 

ルカ「...!」

 

ルカはスマホをポケットにしまう。

ルカ「(間違いない!あいつのだ!)」


ルカは全員に連絡する。

 

ルカ「廻が消えた!小屋の近くの森付近よ!位置情報送ったから早く来て!」

 

《千巣・唯ペア》

唯「めぐりんがいなくなったって...!」

千巣「何が起きてんだ...!とりあえず行くぞ!」


《粟生屋・ルカペア》

粟生屋「嫌な予感がするな」

理子「...!」

 

《森の中》

イムカ「桜志郎。僕は今日、お話に来ただけなんだ。その鎖を解いておくれ」

イムカは、廻の手に巻きついた鎖を見ながら言った。

廻「お前は...なんなんだ!」

イムカ「先程、何故僕が桜志郎の名前を知っているか、尋ねたね?」

廻「...」


イムカ「それは簡単。僕は君の父親だからだよ」


廻「...!!!」


イムカ「残念ながら、完全な人間だった時の記憶は殆どない。もう魔者化が進んでいるからね。朧な記憶の中で君の顔を見て思い出したんだ。君は僕の息子だということを」


ゴキッ


イムカは、首を鳴らした。


廻「...!(父さんと同じ癖だ...!)」

イムカ「だから桜志郎。今日から友達...いや、また、親子としてやり直そう」

イムカは廻に手を差し伸べる。

廻「本当に...お父さんなのか...?」

イムカ「そうだった。というのが正しい。だからまた、親子に戻ろう。新しい形で」

廻「断る...!お前が本当にお父さんなら、なんで街の人を傷つけるんだ!そんなお父さんと、親子になんて戻りたくない!」


すると、イムカは廻に寄り添う。

廻「...!」

イムカ「悪かったな。桜志郎。本当は僕にとって大事な人を探していただけなんだ。薄れていく記憶の中、僕の友達に、僕にとって大事なものを探させた。友達はやり方が不器用だから、人を傷つけてしまったかもしれない。でも、僕は見つけた。僕にとっての宝は、桜志郎、君だったんだよ。これからはもう誰も傷つけないと誓おう。だから、僕と共に来てくれないか」

廻「...」

廻は、恐怖と混乱でその場に座り込んでしまう。


イムカ「また、僕と家族になろう」


廻「...!」


すると、遠くから、ルカの声が聞こえる。


ルカ「おーーーい!!廻!!!いたら返事しなさい!!!」


それに気がついたイムカは、怯える廻に、お金を渡す。

イムカ「ケータイ。悪かったね。これで新しいものを買うといい。今は分が悪いから、僕は帰るね」

廻「...!」

イムカ「今日の夜9時、いつものお花畑で待ってる。そこで改めて、家族になろう」

イムカは、廻の手を握る。そして、その場から去った。


廻「ハァ...ハァ...ハァ...!!」


ルカ「廻!!!ねぇ!!!廻!!!」


廻は気が動転し、その場気を失った。

 

 

 

バタッ

 

────

 

《謎の洞窟》


イムカ「...少し周りくどかったかしら」

イムカは、廻との会話を思い出す。


イムカ「まぁいいわ。苦労して手に入れた方が楽しいものね。家族も、”力”も、何もかも...!」


ポチャン。


水滴が落ちる。


イムカ「家族愛に飢えた子ってのはね、いざとなるとコントロールが効かなくなるものよ。彼はきっと来る。そして...また...力を手に入れられる...!」


イムカの高笑いが、洞窟に響く。


イムカ「さてと。念の為友達集めておこうかな。彼が来なかった時に、力づくで奪わないと行けないからネ!」

 

────

 

《廻の小屋》


気を失っていた廻が、ベットで目を覚ます。


理子「あ、廻くん!」

唯「めぐりん!!」


廻「...!」


廻が目を開けると、唯と理子が顔を覗き込んでいた。


廻「理子ちゃん...唯ちゃん...」

唯「起きたぁ...良かったぁ」

理子「とりあえず一安心ね」

廻「ごめん。また迷惑かけちゃったみたいだね」

理子「そんな事ないよ」

唯「軽い目眩だったみたいだから、じきに良くなっていくと思うよ」


廻「...ありがとう。みんなは?」

廻は体を起こす。

唯「無理しないでね...めぐりん」

理子「3人はまだ探索中」

廻「皆を集めてくれないかな」

理子「?」


廻「話したいことがある...!」

 


 

 

《花畑》

 

それから時間は少し進んで、夜21時。

 

体力が回復した廻は、一人で、花畑にいる。


そこには、イムカが出迎えて待っていた。

 

イムカ「やっぱり来てくれた。嬉しいよ。桜志郎」

廻「...」

イムカ「では儀式を始めようか。家族になる儀式を」


廻「...僕は」

廻は、イムカに向かって歩き出す。

イムカ「?」


そして廻は、イムカに攻撃を仕掛ける!

廻「お前の息子じゃない!!!」

 

 

 

ドガーーーーーーーーーン!!!!!

 

 

 

辺りに煙が立ち上る!!!

廻は、イムカと共にいる謎のエラが張った男に攻撃を跳ね返され、花畑を挟んで遠くへ吹き飛ばされた!!


エラバリ「気安く触るな」

イムカ「やりすぎだ。これから僕の息子になるんだから。感動の再会だったのに」

廻は、花畑の向こう側で立ち上がる。

イムカは花畑を”横切って”、廻の元へ向かう。


廻「!!」


イムカは手を差し伸べながら、話しかける。

イムカ「悪かったね。怪我はないかい?さっきのことは忘れてやるから、家族になろうか」

廻「...!!違う!!」

廻は、空中に飛び、空から鎖を伸ばしてイムカに攻撃を仕掛ける!


イムカはそれを受止め、鎖ごと廻を地面に叩きつけた!!


イムカ「言うことが聞けないなら、少し躾が必要みたいね。桜志郎」

廻は、地面に手をついたまま叫ぶ。

廻「僕の名前を呼ぶな...!!お前は僕の父親なんかじゃない!!!」

イムカ「?」


廻「僕の父は、花を踏みつけにしたりしない!僕の本能が、お前を否定してるんだよ!!!」

イムカ「...そうか」


イムカは指を鳴らす。すると、バラを挿した謎の女剣士が1人、双子の女子2人、カエルのような少年が1人、現れた。


イムカ「せっかく孤独なお前を家族にしてやろうと思ったのに。残念だ」

廻「...!」

エラバリ「貧弱な子供だな」

カエル「ゲロゲロ。かわいそ」

ローズ「切り刻んじゃおうかしら」

ライ子「やっちゃお」

レフ子「うん。やっちゃお」

イムカ「お前はお友達にもしないよ。力だけ奪って、一人で寂しく死ぬがいいさ」

イムカが廻を見下ろす。


廻「...一人じゃない...!」

イムカ「...」


ゾォォォォォ...!


カエル「ん?」

エラバリ「何だ?」


イムカを囲うようにして現れたのは、待機していた理子達だった...!


ヒュン!ヒュン!


全員は、廻の元に集まる。


廻「僕は一人じゃない」


イムカ「お仲間達も来てたんだね」


理子「あなたがイムカね。あなた達の目的は何?」

イムカ「目的?そんなものはないの。ただ楽しくお友達を増やしたいだけさ」

理子「”蒼魔導書第二十五章 模写の書”。あなたの能力はきっとそれよね」


第二十五章、模写の書。

履術した者は、他の履術者に接触することで、接触した履術者の能力をストック出来る。

自分で使うことは出来ず、他人や物に付与する形で使うことが出来る。

履術者が変わってもストックされた能力が消えることは無い。つまり、古の時代から能力は雪だるま式に受け継がれていく。

また、能力を渡した対象者が一定のダメージを負うと、能力は履術者に変換され、使い回すことが出来る。


イムカ「そうかもしれないし、違うかもしれないねぇ。たまたま拾った本にそんなことが書いてあったような、無かったような」

理子「あなたの能力で生まれた魔者や魔導師が、たくさんの人を傷つけてる。許す訳にはいかない」

イムカ「...手厳しいねぇ」

理子「覚悟しなさい」


イムカ「まぁ、私達だってガキンチョにタダでやられる程ヤワじゃない。やってやろうじゃないの」

理子「...」

イムカ「(あの子たち...美味しそうな匂いがプンプンする...新しい力がっぽり稼いじゃおう...!)」


廻「お前は俺が倒す...!イムカ!」

 

追憶の華 急に続く

其魔外伝 追憶の華 序

其魔外伝 追憶の華 序

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追憶の華。

 


それは、虹色に輝く、道端の一輪の花。

 


あるいは、視界一面に咲き誇る、虹色の花。

 


人の想いと想いが交差する時、古の記憶が呼び起こされる──────

 

 

 

時を遡って、2014年。


《第一支部 / 部員寮》


氷室季彩は、深夜、暗くなった第一支部の廊下を歩く。

コツ コツ...

氷室「(遅くなってしまった。明日は任務だし、早く寝ないとな)」


すると、奥の部屋から漏れた仄明るい光が見える。


氷室「(...あの部屋は?)」


氷室が部屋を覗くと、理子が机に向かっていた。


氷室「何してるの?」

理子「!」ビクッ

理子は、咄嗟の声掛けに驚いた。

理子「季彩さん!驚かさないでくださいよ!」

氷室「悪かった悪かった。で、何してんの?こんな遅くまで」


理子「今日久々に魔法協会の図書館に行ったら、面白い本を見つけて」

理子の机には、1冊の図鑑が置いてあった。


氷室「ほう」

理子「追憶の華って、聞いた事ありますか?」

氷室「ない」

理子「これが凄い興味深いんですよ!」

氷室は、理子が開きかけにしていた図鑑を覗き込む。

氷室「はぁ。相変わらず勤勉ね」

理子「興味がでるとつい...」


氷室は、理子に背中を向ける。

氷室「もう遅いんだから、ほどほどにしなね」

理子「ありがとうございます」

氷室「じゃあ私は寝るわ。おやすみ」

理子「おやすみなさい」


ガチャッ

 

────

 

其魔外伝 追憶の華

 

────

 

翌日。


《第一支部 / 大会議室》

理子は、ルカと千巣を呼び出す。


大きな円卓の隅っこには封筒と遺体の写真が並んでいる。


ルカ「なんですか?この写真」

千巣「...」

理子「何日か前に届いたの。見ればわかると思うけど、これは全て、魔法によって亡くなった方の写真よ。皆マヂカラ痕が残ってる」

ルカ「それで?よくあることではないですか。こんな写真わざわざ見せて、なんの意味が?」

理子「この写真の送り主、どうやら北海道に居るみたいなの?」

ルカ「は?」

千巣「?」


理子は同封されていた手紙を差し出す。そして、机に散らばった写真を重ねながら話を続ける。


理子「送り主はMという人物で、彼が言うには、彼は今も北海道に住んでいるそうよ。そしてこれらの写真も全て、彼らが北海道で撮ったらしい」

ルカ「つまり」

千巣「魔者が北海道にいるとな?」

理子「魔者、もしくは魔導師が、北海道にいるかもしれない。でも、このMという人物に関しても、敵か味方かは分からない。そこでね」

ルカ「はい」


理子「3人で、北海道に調査に行きます」

ルカ「なっ」

千巣「ほう」

理子「今から」

千巣「今から?」

ルカ「はぁ?!」


理子「飛行機は手配してもらったので、宿泊セットだけ用意よろしく。1時間後には飛び立つので!」

ルカ「ちょ、ちょっと急すぎませんか?それに7月の北海道って気温どんな感じなんですか?」

千巣「割と暖かいみたいだぞ」(スマホを片手に)

ルカ「調べんのはやっ!」


千巣「でも、なんで俺とこいつ?」

理子「!」

理子は少し動揺する。

ルカ「(こいつだと...!!)」

理子「き、気になることがあってね。これ」


理子は手に持っていた写真から一つを再び机に置く。


理子「これ、白鶯君の残すマヂカラ痕に似てるのよ」

ルカ「...!ってことは?白鶯が?」

千巣「単純に似てるだけでは?」

理子「結論から言うと白鶯君はシロ。北海道への渡航履歴が無いわ。ま、写真が本当に北海道で撮られたものならだけど」


千巣「じゃあやはり、無関係では?」

理子「でも、龍の書の鱗状のマヂカラ痕は特殊だから、他のものとは考えられない。だから今回は念の為白鶯君はお留守番。粟生屋君にお目付けしてもらって、唯と白鶯君は仲良くお留守番って訳」


ルカ「...?」

千巣「...?」

理子「...」


ルカ「なるほど(よく分からん)」

千巣「ほう(よく分からん)」

理子「(”お前ら”に気使ったんだよ!分かれや!)」

 

《北海道 / 小樽運河


数週間前──────


建物の隙間の路地裏で、ピンク頭の男が、一人の男性を追い込んでいる。

ピンク頭の男は、異様な雰囲気を放っている。


男性「わわ...やめてくれ...なにをする...」

ピンク「何もしないさ...僕はただ君とお友達になりたいだけ。私はイムカ。君を導いてあげる」

男性「友達...?わわわ...わかった...なんでもする...欲しいのは金か...?」

イムカ「違うね。僕は何も要らない。君がお友達になってくれさえすれば」

男性「わかった...!なる、なるよ...!だから...命だけは!」

イムカ「ははっ。よく言った」


イムカは、男性の胸に手を当てた。


ドクン!


イムカ「君に力を与えよう。そうしたら、僕とお友達になれるから」

男性「あわわわわ...!うわぁぁぁギリャァァァァ...!」


男性は、魔者になった。


魔者「グゥゥゥゥ...!」

イムカ「あーあ。魔者になっちゃった。友達にはなれなかったね。はい。おしまい。もういっていいよ」

イムカは、魔者を放って去ろうとする。


すると、魔者が我を忘れてイムカの背中に襲いかかる。

すると、イムカは、鎌で魔者を一刀両断した!


グシャッ!!!


イムカ「想像以上にお馬鹿さんだったみたいね」


地面に、魔者の残骸がぐしゃりと音を立てて落ちる。そして、消える。


イムカ「馬鹿と弱者には手を出すな。はぁ。またやっちゃったなぁ。失念失念」


イムカはその場を去る。

 


 

 

《北海道 / 新千歳空港


理子らは、北海道に到着。

空港で合流する筈の、魔法協会の案内役を1時間以上待っている。


ルカ「おっそい!どこで何してんのよ!」

千巣「まぁまぁ。来てくれないと、目的地にいけないわけだし」

理子「...」


3人は空港内で周りを見渡す。


理子「本当ならここで案内の人と合流してMの言う観測スポット(遺体の写真が取られた場所)に行かないとなんだけどなぁ。連絡もつかないし。どうしたことか」

理子は2台のスマホを見る。

理子「着いたらこっちの魔法関係者専用のスマホに電話がかかってくる筈なんだけどなぁ」


千巣「ちなみに、調査する場所って分かってるんですか?」

理子「なんとなくね」


理子は北海道の地図を広げる。いくつか理子によって赤い印が付けられている。

理子「Mの言う通りなら、恐らくこの辺が怪しいって」

千巣「成程。小樽の方から富良野の方まで。手広いな」

理子「でも、魔導師だとしてもそんなに山を超えての右往左往は出来ないはず。それに東に行くにつれ写真が新しくなっている」

千巣「じゃあ、この、富良野に行って見れば良いのでは?最後にMが現れたっぽいのがここなら」

理子「論理的に考えるならそうね」


ルカ「わかったわ。もうタクってそこ行きましょうよ。これ以上待ってても埒が明かないわよ」

千巣「...まぁ、無くはないな」

理子「そうする?」


プルプル   プルプル


すると、理子の魔法関係者専用スマホの元に電話がかかってくる。


理子「ん?誰からだ?」

千巣「案内の人じゃ?」

理子「そうかも」


理子は電話に出る。


理子「もしもし。魔裁組第一支部皆藤です」


ガチャッ。


電話はワン切りされた。


理子「え?」

千巣「?切られた?」

理子「うん。非通知だからこっちからかけられない」

千巣「なんだったんだ?」


ルカは痺れを切らす。

ルカ「もうタクシー乗りましょ!!とっとといくわよ!富良野富良野!!」プンスカ!

千巣「まぁそうだな」

理子「流石に1時間待ってるし、もう自分達で行こっか」


3人は話しながら、タクシー乗り場に向かう。

その時、横を向いて歩いていた理子に一人の青年がぶつかる。


理子「うわっ!!」

青年「あっ!!」


ビシャッ!!!


なんと、青年が持っていたコーヒーが、理子の靴にかかってしまった!


青年「あっ!すみません!!!」

理子「ふわぁ!」


辺りにはコーヒーの匂いがほのかに香る。

ルカ「うわ!理子さん大丈夫ですか?」

千巣「派手にやったな」

青年「すみません!本当にすみません!」

理子「いえ、こちらが前を見ていなかったのが悪いので、全然気にしないでください」

千巣「(あんなに強い理子さんでも、こういうドジするんだな)」

ルカは理子の靴をティッシュで拭いている。


青年「すみません。なんとお詫びしたらよいか...」

理子「いやほんとに気にしないでください。こちらこそ、コーヒーを無駄にしてしまってすみません」

青年「そんなことはいいんです...何かお詫びが出来ればと思うのですが...」

理子「いや本当に...」


青年「ちなみに...皆さんは観光客ですか?」

ルカ「違うわ。私たちはまほ、」

ルカが本当のことを言おうとすると、千巣が慌てて口封じをする。

千巣「(ばかか!魔法のことは一般人には口にしないのがお決まりだろ!)」


理子が青年に答える。

理子「観光客です!」

青年「そうなんですね。ちなみにどちらに向かわれるんですか?」

理子「富良野に!」

青年「富良野!それは偶然!」

理子「?」

青年「僕もこれから富良野に行くんですよ!よろしかったら、一緒にどうですか?」

千巣「な?」

ルカ「ぬ?」

理子「一緒にって...?」


青年「レンタカーとか借りられてます?そうならそれでいいのですが、タクシーとかで移動する場合、かなりかかりますよ?」

理子「は、はぁ...」

青年「コーヒーのお詫びと言ってはなんですが、僕の車で、富良野まで乗っていきませんか?」

理子「(なんと願ったり叶ったりな!)」

千巣「いいんですか?」

青年「はい。お詫びさせてください!」

ルカ「決まりね、案内しなさい」

理子「ちょっとルカ!初対面の人にエラソー過ぎ!」

千巣「じゃあ、お言葉に甘えて...」


青年「では皆さんこちらへどうぞ!車まで案内します」


こうして、青年の車で富良野へ向かうこととなった。

 

────

 

その頃、空港では。

 

スーツ姿の魔法協会の案内人が倉庫の裏で”鎖のようなもの”に繋がれ、監禁されていた。


案内人「んー!んー!」ガシャンガシャン!

 


 


ブーーーン(エンジンの音)

 

《東京 / 第一支部

 

唯と粟生屋は部屋でマリカをしている。


唯「また負けたーあおやんうますぎー!」

粟生屋「君はもう少し勝つ努力したまえ。レインボーロードでパワフルキノコを使うのは自殺行為だよ」

唯「えーそーなのー!?先言ってよー!」

粟生屋「もしかして、マリカやったことない?」

唯「そんなことないもん!次あそこやろ!モーモーカントリー!」

粟生屋「いや疲れた。一旦休憩」


粟生屋は席を立つ。


唯「てかさー。北海道いいなー私も行きたいよ」

粟生屋「行ってらっしゃい」

唯「え!いいの?」

粟生屋「冗談だ」

唯「わかった!行ってくる!」

粟生屋「話聞いてたかい?」

唯「じゃあさ、あおやんも行こうよ!」

粟生屋「いや、僕はここで白鶯見てないとだし(とは言われたが、僕がやる必要あるか...?)」

唯「白鶯君も一緒に行けばいいよ!声掛けてくるね!」

ドタバタ!

粟生屋「ちょ!待て!」


唯は走って行ってしまった。そして、すぐに帰ってきた。


唯「行くわけないって...」ションボリ

粟生屋「そりゃそうだろ。アイツは」


すると、そこへ鬼屋敷が現れる。


鬼屋敷「あら、絵になる2人ねぇ」

唯「あ!鬼屋敷さん!」

粟生屋「どうも」

鬼屋敷「白鶯ちゃんいる?」

唯「白鶯君なら向こうにいますけど...」

鬼屋敷「ちょっと力仕事を頼みたくてね、今日1日借りてもいいかしらねぇ」

唯「え、まぁ、いいの、かな?」

粟生屋「どーぞどーぞ」

鬼屋敷「ありがとう♡」


鬼屋敷は白鶯の元へ行った。すると鬼屋敷の馬鹿でかい声が聞こえる。


鬼屋敷「白鶯ちゃん借りてくからああぁぁ〜」


鬼屋敷は白鶯を連れて出ていった。


唯「行っちゃった」

粟生屋「アイツ。鬼屋敷さんにだけはほいほい付いてくよね」

唯「流石に逆らえないでしょ。あの人には」

粟生屋「まぁね」


唯「!」


すると唯は、急にスマホをいじり出す。

粟生屋「(?)」

唯は素早い指裁きでスマホをタップする。


シュパパパパ...


粟生屋「ほら、マリカやるんでしょ?次どうする?4レース?8レース?」


すると、唯はスマホの画面を粟生屋に見せる。


唯「予約完了!いざ、新千歳空港!」

粟生屋「がち?」

 

────

 

《北海道 / 車》


車は富良野へ向かっている。かれこれ1時間半走行中。


青年は名を廻桜志郎(めぐりおうしろう)と言った。歳は理子とタメ。18歳。


廻「この間誕生日を迎えたばっかりで、運転もあまり慣れてなくて...」

ルカ「よく人を乗せようと思ったわね」

理子「こら!」


千巣「ずっと北海道に住んでいるんですか?」

廻「そうだよ。後、堅苦しいから君も敬語じゃなくていいよ」

ルカ「あとどれ位で着くのよ」

廻の後ろに座るルカが言う。


廻「30分くらいかな」

ルカ「遅い。もっと早く走れないの?若葉だからってひよってんじゃないわよ」

理子「こらルカ!運転してくれてるんだから、感謝しなさい!」

助手席の理子が後ろを振り返って言う。


理子「ほんと、ごめんね」

廻「いいよいいよ。こちらこそ、コーヒーの件謝らないとだし」

理子「全然いいよその事は。もう後ろの人達は気にしないで!」

千巣「俺も!?」

廻「あは。あははは」


理子「廻君はさ、富良野に何しに行くの?」

廻「ちょっと、花を見に行こうかなって」

理子「確かに、富良野の花畑人気だよね。今見どきだし」

廻「富良野には昔、思い出があってね。花を見ると、時々思い出すんだ」

理子「そうなんだ...」


すると、車はジェットコースターの様な道にさしかかる。


千巣「すげー。マジでジェットコースターみたいじゃん」

ルカはスマホの画面下を長押ししながらカメラを窓の外に向ける。

理子「開けてていい景色だね」

廻「そうだね」


すると、廻が車を止める。


理子「ん?」

ルカ「何?熊出た?」

千巣「いやまさか。どうした?」


その時だった。ほぼ同時に、ルカが窓の外の異変に気がついた。


遠くで魔者が現れたのだ。


ルカ「...!」

車の左座席に座る理子と千巣からは見えていない。

ルカは、千巣に耳打ちする。理子は2人を振り返る。

千巣「...!?」

理子「2人とも?どした?」

千巣「※壱です」

※魔裁組では、一般人がその場にいる時に魔者が現れると、「壱」と言う隠語を使って魔者の存在を共有する。

理子「!」

千巣「恐らく低級ですが、※場所柄を考えて2人で行ってきます」

※標高の高い場所や、水辺に近い場所に出る魔者には注意を払う。それを克服出来る程の力があると判断する為。


ルカ「ごめん。ちょっと写真撮ってくるわ」

廻「え、あ、うん!」

千巣とルカは車を降り、広大な草原に降り立つ。


富良野 / 西11線(ジェットコースターの路)》


理子は、廻を説得する。

廻「あの二人、降りちゃったけど大丈夫かな?」

理子「ごめんね!なんか写真撮りたいみたいで!ほら、普段都会に住んでるから、美味しい空気も吸いたいだろうし...ね!ごめん!」


千巣とルカは、魔者と対峙する。


千巣「おいお前なんでこんな所にいるんだ?」

ルカ「Mが言ってたのは本当みたいね」

魔者「ギリヤァァァァァ!!!」

千巣「まあでも、弱そうだな」


すると、魔者は炎を辺りに発生させ、千巣らに襲いかかる!

千巣「火?!」

ボワァァァァ!

2人は攻撃を避ける!


ルカ「喰らいなさい!!!」

ルカは銛をぶん投げる。


グサッ!!!!


魔者は滅んだ。


ルカ「しょぼいわね。田舎は魔者のレベルも低いのかしら」

千巣「田舎に居ないのが魔者なんだけどな。あと色々と失礼だぞ」

ルカは服についた草を払いながら、千巣と共に車に向かって歩く。


千巣「...なぁ」

ルカ「?」

千巣「色々おかしいと思わないか?」

ルカ「何が?」

千巣「今の魔者、火を吹いたよな」

ルカ「それが?」

千巣「普通の魔者なら火は吹かない。火を吹くのは火の魔導書の魔者だけだ」

ルカ「そうとも限らないんじゃない?白鶯とか、龍の魔導書だし、火吹きそうじゃん(知らんけど)」


千巣「だとしてもだ。魔導書の魔者でも無い低級の魔者があそこまで火を器用に扱うなんてありえない」

ルカ「じゃあ火の魔導書の魔者だったんじゃない?(鼻ほじ)」

千巣「だとしたら魔導書がドロップされるはずだ。それに火の魔導書なら、魔導書第一章 炎の書はもう魔裁組の保管庫に保管されている。同じ能力の魔導書は原則2つない」

ルカ「...」


千巣「加えてだ。写真で見た白鶯がつける痕と同じ痕のついた遺体...色々と重複してるものが多すぎる」

ルカ「つまり何よ?」


千巣「同じ魔導書が、2つ以上存在してることはないか?」


ルカ「...流石にないっしょ。だって、それがそうなら、さっきの魔者だって、魔導書吐き出さないとおかしいじゃない」

千巣「...たしかに」


2人は車に向かって歩き続ける。


千巣「(そしておかしな点はもう1つ...”彼”だ。何も無いところで急に車を止めた。まるで”魔者が見えたかのように”...ま、たまたまかもしれんが...)」


2人は車に戻る。


理子「あ、帰ってきた!」

廻「いい写真取れた?」

千巣「悪かった。撮れたよ。バッチリな」

ルカ「車出していいわよ」

廻「それじゃ、行くよ〜」


廻は車を走らせる。


理子「(北海道に魔者がいるなんて...どうして?ということは...)」

千巣「(魔者が自然発生するには魔導書の存在が必要不可欠)」

ルカ「(さっきの魔者に写真の人たちを殺れる程の器用さはない)」

理子「(この大自然の中で魔者が暴れ回れるのも常識的に考えて線が薄い)」

千巣「(全てのことから導き出される結論はほぼ一つ...)」

 

北海道には、強力な魔導師がいる...!

 

────

 

イムカは、一行の車が去った後、草原に現れる。


イムカ「殺られちゃった」

イムカは走っていく車を遠目に見る。


イムカ「お友達になりたいな♡」

 

────


そして、一行は花畑に到着。


廻「一応富良野についたけど、観光するなら、少し案内しようか?」

理子「観光...そうねぇ...」

ルカ「そんな時間あるかしら?」

千巣「まぁでもいいんじゃね?(偵察にもなるし、彼についても気になるしな)」

理子「じゃあ少し、案内してもらっていい?」

廻「わかった!じゃあ、いこう!花畑!」

 

4人は、カラフルな花畑を散策する。

花の独特の香りに包まれながら、一行は足を進める。


理子「本当に綺麗...!」

廻「これが今が最盛期のラベンダー。綺麗だよね。この季節はこれを見に沢山の人がここを訪れるんだ」

ルカ「これは綺麗ね。納得だわ」

千巣「花に感動できる感性はあるんだな」

ルカ「あるわ。なんだと思ってるの」

千巣「はいはい」

ルカ「そういうアンタこそ、どーせなんとも思ってないんでしょ、目が萎れてるわよ」

千巣「いや?心が洗われるような心地だぞ?」

ルカ「なーにいってるかわかんね」

千巣「おい」ピキッ


2人から離れたいた場所にいる廻に理子は話しかける。

理子「廻君はよくここに来るの?」

廻「何回か来たことはあるよ。何回みても綺麗だし」

理子「そうだよね。やっぱり、自然っていいな。心を軽くしてくれる」

廻「そうだね」

理子「そう言えばさ、さっき言ってた、花畑の思い出って、どんな思い出なの?」

廻「え、あ、あぁ、大したことの無い話だよ。子供の頃を思い出すって言うかさ」

理子「?」


廻「花の色、香り、この景色全て。ここに来ると、昔の思い出がフラッシュバックする様に思い出されるんだ。花には、不思議な力があると思うんだ」

すると理子は、ふと、追憶の華のことが頭によぎる。

理子「そうかもね。きっとそうだよ」

廻「うん」

理子「きっと、素敵な思い出なんだろうな」

廻「...」

 


その時!!

 

 

ボワァァァァァン!!!!!

 

 

謎の衝撃波が4人を襲う!

”4人”はその衝撃波を間一髪で避ける!!


ルカ「何よ?!」

理子「また敵襲...?!」


そこに現れたのは、謎のスキンヘッドの男。


スキン「イムカの遊び道具壊しちゃったのお前らだな」

ルカ「は?何言ってんのよ。日本語話しなさいよ」

スキン「分かっちゃってねぇな。さっきのバケモンだよ。あれは俺っち達の大事なオモチャなんだよ!」

ルカ「あらそう。ごめんなさい。出来が悪すぎてね」

スキン「ふざけちゃってんな。殺しちゃおうかな。それか、お前を俺のオモチャにしちゃおうか?」

ルカ「きっしょ」

理子「あなた、魔導師ね。聞きたいことが沢山あるから、観念しなさい」

スキン「やれるもんならやっちゃってみな」


千巣「(なるほどな。魔導師の集団が巣食ってるって訳か。さっきの魔者もこいつらの仕業って訳だ。色々見えてきた。それに...)」


千巣は、廻に目をやる。


千巣「(あいつ、攻撃を避けた...!魔法を感知できるってことだ。それにあの反応速度...これでハッキリした。あの男、廻桜志郎は、普通の人間じゃない...!)」

 


 


富良野 / 花畑》


ルカと千巣は、上手く人を誘導し、捌けさせる。


理子「廻君。この人危ないから、逃げて」

廻「...」

理子「廻君?」


廻「理子さん。ごめん」

理子「?」


すると、理子の目にも追えないスピードで、廻はスキンへ向かっていく!

理子「危ない!その人はただのチンピラじゃ!」


すると、廻は手から鎖のような物を出して、スキンに攻撃した!!

 


バシュッ!!!!

 


理子「!!」


スキン「ぐわぁぁぁ!!」

スキンは、飛ばされる。

廻は、スキンを鎖で掴んで、花畑から遠くの地面に叩きつける。

廻「土足で花畑に踏み入るな」

スキン「痛てぇなぁ...お前も魔法を使えちゃうのか...!」


そこへ、千巣とルカが戻ってくる。

ルカ「は?あの人魔法使いなの?」

千巣「...!」


スキンは立ち上がる。

スキン「でも俺も魔法なら使えちゃうんだよなだぁ!!!」


スキンが手を叩くと、”音の衝撃波”が4人を襲う!!


千巣「(音?!)」

ルカ「(これって...?!)」

スキン「爆音爆音!!俺のシャウトを聴いちゃいな!!」ドォン!ドォン!

理子「この能力って!」

千巣「麗美の能力です!空見家の長女の!」

ルカ「何で?!こいつが同じ能力持ってんのよ?!」


理子「(どうなってんの!色々)」ヒュンッ!

音の攻撃を切り裂いて理子がスキンに斬り掛かる!


理子「天叢雲!!!!」


ジャキーーーーン!


スキン「ぐぇぇぇ!痛てぇ!!!」


理子「魔鳥獣戯画 烏!!!」

理子は能力で描いた多数のカラスをスキンにぶつける!!

スキン「ぐわぁぁぁぁ!!」


そこへ廻が鎖をグルグルと巻き付け、電気ショックを食らわせる!

廻「”蜷局縛・迅(とぐろしばり・じん)”!!!」


ビリビリビリビリィ!!!!


スキン「ギャッハーーーーーー!」


スキンは失神した。


廻「ハァ...ハァ...」


ルカ「あぁぁ!なんか、頭がおかしくなりそう。こいつ(スキン)は誰!!で、アンタ(廻)は何!!」

千巣「ま、このハゲは目が覚めたらきっちり聞かせてもらうからいいとして、」

千巣は、廻を見る。


千巣「色々説明してもらおうかな。廻桜志郎君」

廻「...」


理子「君は...何者なの?」

廻「僕は...」


すると、遠くから声が聞こえる。


???「おーーーーーーーい!」

ルカ「?!この声って?!」ピン!

 

唯「おーーーーーーーーい!!みんなーーーー!!!」

ルカ「唯?!なんでここに?!」

後ろからも粟生屋やってくる

理子「唯?粟生屋君?!」

 

追憶の華 破に続く。

其魔外伝 追憶の華 イントロダクション

シャックス編も佳境を迎えていますが、ここで、2つ目の其魔外伝「追憶の華」を公開致します。

 

追憶の華 序・破・急

 

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北海道を舞台に、シャックスと謎の青年・廻桜志郎の出会い・戦いを描いた短編。

 

廻という青年は何者なのか、”追憶の華”とは何なのか。

 

ラベンダーが織り成す、悲哀と愛情の交錯するオリジナルストーリー。

 

乞うご期待。

 

廻桜志郎

f:id:btc21:20220831165122p:image

 

イムカ
f:id:btc21:20220831165119j:image

 

皆藤理子

千巣万之助

京金ルカ

東海林唯

粟生屋昴

 

 

ブログ

gmやん

 

f:id:btc21:20220829015913p:image

 

https://my-me.jp/diagnoses/14/results/8?utm_campaign=14_sh_1&utm_medium=social&utm_source=link_copy

 

もう少しいいこと書けや。

 

でも

 

自己中心的→わかる

競争心→勝ってるのが好き

浮気性→そんなことないともう

ドライ→フラワー

服従ガンジー

あまのじゃく→ちがう

クール→ありがとう

ナルシズム→わかる

排他的→経済水域

反骨心→まぁ

 

って感じで割と納得してしまうワイ。

 

※ちなみにこれは、悪口を言われる診断ではなく、あなたの性格を表すキーワードを教えてくれる診断です。

夏と宴と魔法使い~SOREMA 夏の特別読切~

SOREMA特別読切

 


”夏と宴と魔法使い”

 

 

 

※この物語はフィクションです。時代背景上ありえない描写や現実世界の時間軸と錯誤した設定が多々ございますが、細かいことは気にせず娯楽として楽しんでください。

 

 

 

少し時を遡ること、とある年の夏。

 


これは、最強の魔法使い達の数少ない青春の物語である。

 

 

 

《第1支部 / 実働班ルーム》

 

 

 

唯「じゃじゃーん!!!みんな!みてこれ!」

 


唯は、部屋に集まったルカ、粟生屋、千巣に、1枚の張り紙を見せた。

 


粟生屋「なんだこれ?」

ルカ「魔裁祭?」

千巣「in東京スカイツリー?」

粟生屋「なんだいそれは」

 


唯の持っているチラシは、魔裁組が主催するイベント、通称・魔裁祭(まざいさい)の告知チラシだ。

 


唯「魔裁祭!皆で集まってショーをするの!」

千巣「へぇ」

ルカ「それで?」

 


そこへ、理子がやってくる。

 


理子「そこではね、有志による発表が出来るの」

ルカ「あ、理子さん」

千巣「お疲れっす」

理子は唯の隣にやってくる。

 


唯「それでそれでね!!」

唯は理子と目を合わせる。

理子「私達も、参加することになりました!!」

 

 

 

・・・

 

 

 

千巣ルカ粟生屋「はぁ?!?!」

 


唯「いやぁ〜楽しみだなぁ!何する?劇とか?!」

理子「何にしよっか。まず皆が出来ることを、」

ルカ「ちょっと待ちなさいよ!何で私達もやることになってんのよ」

千巣「俺なんも出来ねぇぞ」

唯「練習すれば出来るよ!」

ルカ「そういう問題じゃない!!」

粟生屋「僕はまぁパスで」

唯「あおやんもやるんだよ!」

粟生屋「なんで笑」

ルカ「てか、白鶯は?」

 


理子「あぁ。白鶯君は断られた」

唯「あんなにしつこく誘ったのにぃ!」

粟生屋「だからでは」

ルカ「じゃあ私もパスで」

千巣「誰もやんないなら俺もいいわ」

 


唯「ストップストーーーップ!!!これね、凄いんだよ!!優勝したチームには、何と賞金10万円!!」

粟生屋「ふーん」

ルカ「別にお金はいいわよ」

千巣「すげぇ冷めてる」

唯「えーー!!10万円だよ?!10・万・円!!」

理子「それに、各種チケットがついてくるの。例えば、焼肉食べ放題」

ルカ「太る」

理子「エジプトの遺跡展のチケット」

ルカ「誰が行くのよ」

粟生屋「...!!!」ビビッ...!!

唯「あとぉ、沖縄旅行と北海道旅行が選べるチケットとぉ」

ルカ「旅行...?日帰りならまだしも、私達にそんな暇ないわよ」

粟生屋「...(エジプトの遺跡展チケット...?あの予約困難かつサイトが朝からサーバー落ちするほど人気のあのエジプトの遺跡展のチケットだと...?!どうやって手に入れた...?間違いなく裏では善能寺さんが噛んでる。恐るべし...善能寺財閥...!)」

 


唯「あっ...あとぉ」

ルカ「...?」

唯「ふふっ」

ルカ「は?」

唯はルカの耳元で囁く。

 


千巣「...(チラチラ見られてる...?)」

 


唯は千巣をチラ見しながらルカに耳打ちする。

 


ルカ「...!!!///」

唯「んね!」

ルカ「ばっ...バッカじゃないの...!!私...別にそういうの興味ないからっ!あぁ!うざ。コーラ買ってくるわ」プンプン

ルカは背を向けて歩き去ってしまった。

唯「ルカルカっ...!」

理子「ルカ、怒っちゃった?」

千巣「?」

 


するとルカは立ち止まり、少し悶絶した後、帰ってきた。

 


ルカ「あのさぁ!人に何か頼む時はさぁ!!何?そういう態度?ってもんがあるでしょ?!手伝って欲しいなら態度で示しなさいよぉ!!」

 


理子「(顔が真っ赤だ)」

唯「(本当はやりたいんだ)」

 


すると、粟生屋が言う。

 


粟生屋「ま、まぁ、そこまで言うなら?僕の力が必要だろう...?合唱くらいなら手伝ってやろう...!(エジプト展のチケットが手に入るなら...こんな茶番などなんのその...!)」

唯「あおやん!!」

理子「粟生屋君!!ありがとう!!」

千巣「ま、皆やるなら、別に俺も嫌じゃねえよ」

唯「千ちゃん!」

ルカ「...!!///」プクプク...!

 

 

 

 


結局、この5人で、出し物をする事になった。

 

 

 

 

 

 

《魔法協会 / 楽器室》

 


楽器室にて、出し物の会議中。

 


理子「さてと、まずは何をやるかだけど...」

唯「皆ぁ!何したい?」

粟生屋「合唱とか?」

千巣「俺はまぁ何でも」

ルカ「でもこれ、1位取らないとダメなのよね?」

唯「ダメってことは無いけど、前に言った賞品が出るのは1位のチームだけだね」

理子「研究班と実働班のメンバー、それと協会の偉い人達が投票するの」

唯「そゆこと!」

 


ルカ「やるなら1位取らないと意味ないわよ」

千巣「ダンスとか?」

唯「私ダンス苦手だなぁ...」

理子「演劇とかどうだろう」

ルカ「私演技とか無理です」

粟生屋「合唱は?」

千巣「何なんだその謎の合唱推し」

唯「合唱は...5人じゃ無理だよぉ...」

粟生屋「そりゃ残念」

 


粟生屋はその場から立ち上がり、音楽室の楽器を触り始めた。

粟生屋「このギター、いいね」

 


ギュリィィィィィン!!!

 


心地よい弦を弾く音がスペースの余る部屋に響く。

 


唯「え、粟生屋君!ギター弾けるの?!」

粟生屋は夢中でピックを振る。

千巣「わりとすげえな」

粟生屋は演奏をやめた。

粟生屋「昔少しやってたんだ」

唯「へぇー!!実は私もピアノ弾けるの!!」

唯はグランドピアノの前に座り、ピアノを弾き始めた。

千巣「皆すげぇな」

ルカ「はぁん?!私だって楽器くらい出来るわよ」

 


ルカはドラムセットに腰をかけ、半狂乱で叩く。

 


ズッツッ タァン ズッツッ タァン...♪

 


理子「ドラム弾けるんだ」

ルカ「ドラム型魔具の練習で触りだけは。まぁくそ雑魚なんですけど」

理子「ふぅん。凄いじゃん!」

千巣「(どんな魔具だよ)」

唯はピアノの前から走ってくる。

 


唯「理子さん理子さん!この5人でバンドやらない?!」

理子「バンド...その手があったね!」

唯「うんうん!凄くいい!!やろうよ!!バンド!!」

粟生屋「ギターなら、僕は別にいいよそれで」

ルカ「でもベースとかどうするのよ」

理子「私が練習するわ。楽器とか弾けたらかっこいいなって思ってたから」

唯「よぉし!ギターはあおやん!ドラムはルカルカ!ベースが理子さんで、私キーボードやります!!」

理子「よし!それで行こう」

千巣「俺は見物と」

ルカ「はぁ?!ダメに決まってんじゃない」

 


ルカが千巣の胸ぐらを掴む。

 


千巣「だって俺楽器弾けないぞ?ついでにセンスもない」

唯「あ!じゃあ歌ってよ!」

理子「千巣君は、ボーカル担当!」

千巣「えぇ...嫌だァ...」

ルカ「ダメよ。アンタが歌いなさい」

千巣「俺別にそんな歌とか...」

粟生屋「ボーカルはバンドの顔だからねぇ」

理子「難しいかぁ...」

唯「千ちゃんDAMの採点で95点取ってました!いけます!」

理子「上手いんかい!」

 

 

 

そんなこんなで、5人はバンドを組むことに。

 

 

 

 


《渋谷 / とあるスタジオ》

 


5人は、スタジオにやってきた。

 


粟生屋「リーダーが借りたスタジオってここ?」

理子「のはずなんだけど...」

 


5人は不気味なステッカーが沢山貼られた入口を潜り、地下へ潜る。

 


千巣「なんだここ。けっむ」

理子「悪かったわね」

千巣「アッさーせん(絶対喫煙可能なスタジオで検索かけたわこの人)」

 


※理子は喫煙者である。お巡りさんには内緒です。

 


唯「なんか新鮮〜だけど少し怖いかも...」

ルカ「私は結構好みね」

千巣「お前ん家みたいだもんな」

ルカ「殺すわよ?来たことないくせに」

千巣「確かに」

 


5人は広めの部屋に荷物を置き、各々楽器を触る。

 


理子「じゃじゃーん!ベースを買いました!」

唯「一緒に選んだんだー!どう?」

ルカ「オシャレですね」

千巣「高そー」

粟生屋「センスはまぁまぁだね」

理子「早く弾けるようになりたいなぁ...」

ベンベケベンベケベンベケベンベケベンベケベンベケ...♪

 


理子はスラップし始めた。

 


粟生屋「(クソうめぇ)」

ルカ「(何だこの人)」

千巣「(人間じゃねえ)」

 

 

 

唯「まずは曲を決めよう!」

理子「持ち時間は1曲分って所ね」

ルカ「私何でもいけるわ」

粟生屋「僕も」

唯「ほぉ〜頼もしいなぁ〜」

 


唯と理子はイヤホンを半分に分けてYouTubeを漁る。

理子「これとかいいんじゃない?盛り上がりそう」

唯「いいかも!千ちゃんどう?」

千巣「いやWANIMAは無理だわ」

 


ギュイイイィィィィン!!!!

 


粟生屋はギターを弾く。

 


ツッタッ ツツタッ ツッタッ ツツタッ

 


ルカはドラムを叩く。

 


唯「あ!私sumika好き〜!」

理子「私あまり流行りの曲知らないからなぁ...教えて欲しいな」

唯「sumikaこれとかいいですよ!」

千巣「確かに、ラバーズは鉄板だな」

唯「あとぉ、ファンファーレ!これも聴いてください!」

理子「ラバーズ...ファンファーレ...っと」

 


ルカ「決まった?曲」

唯「ううん。盛り上がりそうな曲がいいんだけど、ルカルカなんか知らない?」

ルカ「爪爪爪とか?」

千巣「無理だわ」

粟生屋「僕あれがいいなぁ。パプリカ」

千巣「絶対に違う」

粟生屋「あ、米津バージョンの方ね」

千巣「もっと違う」

ルカ「米津ならアイネクライネが好きよ」

粟生屋「米津は僕はハチ時代の曲が好きだなぁ」

千巣「1回米津から離れよ?」

 


唯「あ、ピースサインは?あれなら盛り上がりそうだし!私マラカスやるよ!」

千巣「ん〜確かになしでは無いが、折角ならキーボードが活きる曲の方が良くないか?編成的に」

唯「確かに...」

 


理子「ひげだん?とかは」

唯「あぁ!凄くいい!」

粟生屋「ルネッサンス?」

千巣「それ髭男爵

ルカ「私樋口の顔どうも苦手なのよね」

千巣「髭男爵の話いいから」

理子「私プリテンダーは知ってる!」

唯「いいですよね!」

ルカ「でもやるならアイラブとかじゃない?」

粟生屋「最近ならスパイファミリーのやつとか」

千巣「悪い俺の喉がもたん」

理子「そっか...」

ルカ「チッ」

千巣「ん?」

 


唯「いっそアイドルの曲とかアレンジするのはどう?!」

千巣「関ジャニとかならスコアありそうだしな」

ルカ「関ジャニ5私あんま知らないわ」

粟生屋「僕も関ジャニ5は知らないなぁ」

千巣「なんで5人なのは知ってんだよ。後その呼び方やめれ」

理子「最近アイドルって何流行ってるの?」

唯「やっぱNiziUじゃない?!可愛いし!」

理子「にじゅう?」

ルカ「NiziUはミイヒしか勝たん!!!」

唯「後はスノストとか?」

理子「スノスト?」

唯「スノーマンと、ストーンズ!」

理子「2グループなのね」

ルカ「NiziUはミイヒしか勝たん!!!」

千巣「静かにしようか」

 


唯「そう言えばカラオケであれ歌ってたよね!サウシー!」

千巣「いやあれは...」

理子「さうしー?」

粟生屋「最近流行りの恋愛系のバンドさ」

唯「私千ちゃんの結好きだなぁ!私の名前と同じ!」

 


理子「...なるほど。盛り上がるわけじゃないけど、いい歌ね」

粟生屋「千巣次第では化けるな」

唯「え、上手いよね!ルカ!」

ルカ「ダメよ!!!!」

唯「え?」

千巣「...?」

 


ルカ「こいつのサウシーは雑音よ!」

 


理子「...え?」

粟生屋「www」

千巣「ざつ...おん...だと?」

 


ルカ「とにかく!ダメなのよ!もっとポップな曲にしなさい!!」

理子「...あ、うん、そうだね」

粟生屋「はいはい」

唯「(察し)」

ルカ「ぐぬぬぬぬ...」

 

 

 

粟生屋「で、結局どうするの」

理子「うーん...じゃあ、1人ずつやりたい曲言って、その中から決めよっか」

唯「はい!私も賛成!!!」

 


ルカ「私は決まってるわ」

粟生屋「僕も」

千巣「(絶対やべえ選曲だわ)」

 


唯「私は、flumpool君に届け!」

理子「それ知ってる!めっちゃいい!」

唯「どう?みんな!」

千巣「これ最適解では?」

ルカ「いや、それもダメよ」

粟生屋「僕からも、それはダメだ」

唯「どうしてぇ?」

 


ルカは千巣の頬をつねる。

ルカ「そんな曲歌ったらコイツ、調子にのるじゃない」

粟生屋「これアメリカのハーバード大学の研究結果なんですけど、君に届けをかっこよく歌える男子は、通常の男子と比べて30パーセント以上も魅力的に見えてパートナーをゲットできる確率が上がると言われているんですよ」(早口)

千巣「(なんか粟生屋の後ろに本棚見えたぞ)」

ルカ「こんな萎れた死んだ目男が、ワーキャー言われるの見たい?私は見たくないわ」

千巣「酷くない?」

粟生屋「そうそう」

唯「(なんて最悪な理由...!)」

 


千巣「じゃあ代わりに案出せや」

ルカ「「F」」

千巣「ホルモン攻めやめろし」

ルカ「ホルモンならモテないから」

千巣「すげえ風評被害

粟生屋「僕はあれだな、千の風になって」

千巣「もうあなたは帰ってください」

理子「私は...あまり詳しくないけど...YOASOBIとかどうかな?」

千巣「あ、あの、理子リーダー?歌う人のキモチ考えて?」

理子「ごめん...あんまり知らなくて...Adoとかならいける?」

千巣「凄くいけない」

 


ルカ「だいたい、アンタ何も案出してないじゃない」

唯「そうだよ!千ちゃんが歌うんだから、何がいいとかないの...?」

理子「うんうん」

粟生屋「...?」

 


千巣「そうだな......俺は──────」

 

 

 

 

 

 

そして、本番を迎えた。

 

 

 

 


《魔法教会 / 大会議場》

 


暗くなった会場にて、ステージにのみ明かりが点る。

 


犬飼「いよいよ始まりしたァ!!!!この夏のビッグイベントォ!!!魔裁組プレゼンツ!!!魔裁祭!!!」

観客「イェーーーーーーーーイ!!!」

犬飼「お前らぁ!!盛り上がる準備は出来るかァ?!?!?!」

観客「イェーーーーーーーーイ!!!」

 


理子らは、後方の席でその様子を見る。

 


ルカ「誰?アイツ」

千巣「犬飼って言ったか?研究班の人」

唯「元気だね」

粟生屋「なんか眠くなってきた...」

唯「どういう情緒!」

 


理子「...ドキドキ」

唯「理子さん?緊張してる?」

理子「...ちょっとね」

唯「大丈夫ですよ!ちょっと練習しただけであんなにベース弾けるようになったんですから!」

ルカ「本当よね。理子さんマジで天才ですよ?」

理子「でも...失敗したらどうしよう...」

粟生屋「ベース失敗してもバレないっしょ」

唯「コラ!あおやん!そんな事言わない!」

ルカ「これで粟生屋の手元狂ったら笑えるわね」

粟生屋「まさか僕が本番やらかすとでも?」

ルカ「せいぜいピック落とさないように気をつけなさい」

粟生屋「君こそ変に走ったりしないようにね」

唯「ちょっと皆!プレッシャーのかけあいしない!」

 


理子「ププッ」

唯「リーダー?」

理子「なんか、皆見てたら緊張も解けちゃった!楽しもう!みんな!」

唯「はい!」

千巣「そうですな」

 


唯「...本当は白鶯君とも一緒にやりたかったな...」

理子「...そうだね」

唯「白鶯君今どこで何してるんだろう...」

理子「...」

 

 

 

そして、各有志のショーケースが始まる。

 

 

 

 


歌やダンス、様々な出し物が代わる代わる披露された。

 

 

 

♪〜〜

 

 

 

ルカはパンフレットを開く。

ルカ「てか、私たちの出番って」

唯「そう、トリ!」

ルカ「ははぁん。なるほどね」

粟生屋「まぁ、満を持してステージに上がるってことだね。僕達スターだからさ」

唯「すごい調子乗ってる...」

千巣「プレッシャーだな」

ルカ「バシッと決めましょ。そして景品全部掻っ攫うわよ」

唯「うん!そして誰よりも楽しもう!!!」

理子「もうすぐ出番ね...」

 

 

 

幾つかのショーケースを終えると、5人の座席へ腕章を巻いた幸二が現れる。

 


幸二「千巣先輩...袖待機お願いします」

千巣「うわもうそんな番か」

幸二「はい。裏を通ってご移動お願いします」

千巣「てか幸二、なんで運営やってんだ?」

幸二「人が足りてないからって、氷室さんに頼まれたんですよ」

千巣「(あの人、自分がやりたくないだけでは)」

粟生屋「実働班のメンバーも運営しないといけないの?」

幸二「今年は魔者の被害が限りなくゼロに近いからって、仕事のない僕達実働班のメンバーも委員に駆り出されてるんですよ!本当、貴方達のせいですよ!強すぎるから!」

ルカ「いや感謝せえや街は平和なんだから」

千巣「まぁまぁ」

幸二「とにかく、皆さんご移動お願いします!」

 

 

 

5人は、舞台の裏側へ回った。

 

 

 

そして前のショーケースが終わり、舞台転換が行われる。

 


犬飼「さぁ...いよいよ、本日!!最後の!!演目となってしまいました!!!」

 


5人は袖でその様子を見る。

 


理子「うわぁ...また緊張してきた...」

ルカ「大丈夫ですよ理子さん」

ルカが理子の手を握る。

理子「ありがとう...うぅぅ...ミスったらどうしようミスったらどうしようミスった(ry」

ルカ「大丈夫ですよ!理子さん上手いから!」

理子「うぅぅ...終わったらすぐ喫煙所行こうね」

ルカ「私まだ17の代です!」

 


粟生屋「でもさぁ...君の手も震えてるね」

ルカ「はぁ?アンタだってさっきからぴょんぴょんぴょんぴょん鬱陶しいのよ!」

粟生屋「これは武者震いってやつk...だ」

ルカ「分かりやすく噛んでるじゃない。もしかしてひよってる?」

粟生屋「ひよってるやついるぅ?!いねぇよなァ!」

ルカ「メビウス潰すぞ!!!」

理子「ん?MEVIUS?」

ルカ「それ多分違うメビウス

 


唯「千ちゃん?緊張してる?」

千巣「別に」

唯「へぇ!凄いね!私緊張してきちゃった...」

千巣「ま、なんとかなるっしょ」

唯「ていうか、なんで髪下ろしたの?いつも結んでるじゃん」

千巣「下ろしたほうがバンドマンっぽくね?」

唯「あっ...うん」

千巣「なんだそのクソ微妙なリアクション」

 

 

 

 


そして、舞台は整った。

 

 

 

犬飼「さぁ!!!この祭のトリを飾るのはァ!!こいつらだぁ!!!!実働班より、最強の魔法使い達がこの宴を狂乱の渦に巻き込む!!!その名も!!!!ShAKKS!!!!!!」

 


観客「うぉーーーーーーーー!!!!!」

 


5人は舞台に上がる。

観客のボルテージは最高潮だ。

 


幸二は舞台の袖でスポットを浴びる5人を見る。

幸二「...頑張ってください」

 


観客「うぉー!!シャックス!シャックス!シャックス!」

 

 

 

千巣「こりゃ、半端な演奏出来ねぇな」

 


粟生屋「ま、なんとかなるっしょ」

 


唯「楽しもう!みんな!」

 


ルカ「やってやるわよ」

 


理子「よし、練習の成果を見せよう!」

 

 

 

唯「みなさーーーーん!!こーんばーんわーー!!!」

観客「こんばんわー!!!!!」

唯「盛り上がってるかぁ!!!!」

観客「イェーーーーーーーーイ!!!!」

唯「(ほら、千ちゃんも!)」

千巣「(お、おう)」

 


千巣「えー。今日ここに居るみんなが、最高の夏を感じられる様に、歌います。準備はいいかぁー?!!!!!」

観客「イェーーーーーーーーイ!!!!!」

 

 

 

千巣「それじゃ、」

 

 

 

 


5人はお互いに顔を見合わせる。

 

 

 

「”青と夏”」

 

 

 

♪~~

 

 

 

 

 

 

魔裁祭は、大熱狂の中、幕を閉じた。

 

 

 

一夜限りのバンド”ShAKKS”は、見事グランプリで優勝。

後日賞品はメンバーで山分けとなった。

 

 

 

焼肉屋

 


唯「いただきまーす!!!」

理子「いただきまーす!!!」

 


モグモグモグモグモグモグ

 


2人は、焼肉の食べ放題にやって来ていた。

 


唯「しかし凄いですね、理子さん、皆を引きずり出す為に善能寺さんに”あんなお願い”するなんて」

理子「まぁ、まさかあそこまで上手くいくと思ってなかったけど笑」

唯「でもルカルカもあおやんも釣れて良かったですね!」

理子「白鶯君も、次は落としてみせる!」

唯「そうですよ!またやりましょう!」

理子「うん!」

 


唯「ところでエジプト展?どうやってチケット取ったんですかね」

理子「さぁ」

唯「あおやん楽しんでるかな...エジプト展」

理子「何がいいんだかさっぱり」

唯「(めっちゃストレートに毒吐いた)」

 

 

 

 


《エジプト展》

 


粟生屋「素晴らしい...!これはアコリスにて出土した牛形土偶...末期王朝時代の物だ...!そしてこれはメンフィスで発見されたとされる騎馬土偶...!これが日本で見られるなんて...なんて素晴らしいんだ...!!!」

客「あの人...ずっと独り言言ってる...」

客「しかもずっと土偶コーナーにいるし」

客「こわいね」

 

 

 

焼肉屋

 


唯「そして明日からはとうとう...♡」

理子「あの二人がねぇ。唯に聞いておいてよかった。ルカって何が好きとか分からなくって」

唯「ルカルカって、あぁみえて結構ちょろいんで」

理子「最高の餌だったってわけね」

唯「楽しんでるかなー!2人とも!」

 

 

 

 


《スターリーランド》

 


ルカ「...」

千巣「...」

 


2人はスターリーランドへやって来ていた。

1日遊び通して夜になる。

 


ルカ「てか、なんで私なのよ。あくえりちゃんとかと来れば良かったじゃない」

千巣「一応魔裁祭の景品だしな。ここで来ないと意味ないだろ」

ルカ「そうだけど...(そういうことじゃ...)」

千巣「ま、とりあえずランドは遊び尽くしたし、明日はシーだな」

ルカ「ま、まって?!ほんとに泊まるの?ミニラコスタに?」

千巣「だってついてるだろ?券に」

ルカ「そ、そうだけど...///」

千巣「ま、理子さんもいいって言ってくれたし、明日もいいんじゃないか?貰えるものは貰っとくスタンスなんでな」

ルカ「...あっそう」

 


千巣「まだなんか乗るか?」

ルカ「いや...もうランドはいいわ」

千巣「よしじゃあ出よう」

ルカ「...」

 


千巣「あのさ、ずっと気になってたこと言っていい?」

ルカ「!!!...何?///」

 


千巣「その...」

ルカ「!!!」ドキッドキッ...

 

 

 

 


千巣「そのミーニーの耳、絶望的に似合わないな。笑」

 

 

 

 


ルカ「!!!はぁ?!?!?!」

千巣「あ、悪い。怒った?」

ルカ「...怒ったもなにも...!!失礼だろーが!!!!私だって女の子だぞ!!!!」

千巣「悪い悪い。似合ってる似合ってるー」

ルカ「おせぇわ!!!!」

 

 

 

焼肉屋

 


唯「なんか、楽しそうでいいなぁ...」

理子「めっちゃ喧嘩して修羅場になってたりして」

唯「うわぁ...ちょっとありそう」

理子「ま、何とかなるでしょ」

唯「なんか、あおやんみたいなこと言ってますね」

理子「ほんと?ウケるね」

唯「はい笑。あ!すみません!カルビお代わり!!」

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 


これは、最強の魔法使い達の数少ない青春の物語である。